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2008年4月30日

ブラウン首相の米英首脳会談を振り返る

アメリカとイギリスの特別関係はグローバル・アメリカン政論では重要な論点である。この4月にはローマ教皇ベネディクト16世と韓国のイ・ミョンバク大統領をはじめ外国の首脳がジョージ・W・ブッシュ大統領を訪問した。その中でもイギリスのゴードン・ブラウン首相ほど重要な人物はいないであろう。ホワイトハウスのローズ・ガーデンで行なわれた共同記者会見でジョージ・W・ブッシュ大統領が述べたように、英米同盟は世界への自由と民主主義の普及で最も成功を収めてきた同盟である(スカイ・ニュース、4月18日)。

両国の特別関係を象徴するかのように、イギリス首相は世界の安全保障とアメリカ外交の重要課題を協議した。そこで話し合われたのは、イラク、イラン、第三世界の開発、保健衛生、食料危機、経済、そしてジンバブエの問題である。前任者のトニー・ブレア氏と違い、ゴードン・ブラウン氏は内向きだと見られていた。しかし、ブラウン氏は前任者とは違ったスタイルで世界に伍してゆける指導者であることを見せてくれた。

ブラウン首相は4月16日から19日にかけてアメリカを訪問し、ホワイトハウスと国連で重要な地球規模の問題を協議した。今回の訪米に先立ち、内閣府から“The National Security Strategy of the United Kingdom: Security in an Interdependent World”というレポートが公開された3月19日を機に首相は下院で新しい安全保障戦略に関する演説を行なっている。首相は冷戦後の脅威は冷戦期の敵に比べてはるかに想定しにくいいえに多様化していると述べた。ブラウン首相はテロ集団と圧制国家の緩やかなネットワーク、気候変動、疫病、そして貧困といった新しい脅威について言及した。こうした難題に対処するために、首相はアメリカ、NATO、EU、英連邦、そして国際機関との緊密な協調関係の重要性を強調した。ゴードン・ブラウン氏はイギリス政府が貧困、社会的不平等、統治の失敗といった問題に取り組むための支出を増やして途上国の安定化に寄与するとともに、究極的にはテロと組織犯罪を弱体化してゆくべきだと主張した。

16日にブラウン首相はニューヨークに到着し、ABCニュースの「グッドモーニング・アメリカ」に出演した。首相はEUとアメリカの緊密な関係によって気候変動、アフリカ、グローバル化の諸問題に対処すべきだと主張した。ブラウン氏はイギリスがイラクへの関与を継続するとともにイランへの制裁強化の可能性も示唆した。

また、首相は国連安全保障理事会でジンバブエに関する演説を行なった。この国の民主化はチベットの自由化に劣らず重要である。私は南アフリカが着実に民主化への途を歩んでいるのに対し、ジンバブエがこれほどまでに腐敗してしまったのはなぜだろうかと疑問に思っている。フリーダム・ハウスの2007年版の指標によると、南アフリカは政治の自由と市民の自由の両方で2という評価である。これに対しジンバブエはそれぞれが7と6という世界でも最悪の部類に入る評価である。アパルトヘイト後の両国がここまで違ってしまったのはどういうことだろうか?ブラウン首相が国連とアメリカに訴えかけたことは、ロバート・ムガベ氏を政権の座から引きずり降ろしてジンバブエを民主化するために重要な一歩となろう。

17日にブラウン首相はジョージ・W・ブッシュ大統領との会談に臨み、次期大統領候補となる共和党のジョン・マケイン上院議員、民主党のバラク・オバマ上院議員、ヒラリー・ロッダム・クリントン上院議員の全員と会見した。現時点で、ゴードン・ブラウン首相は次期大統領候補の全員と会見した唯一の外国首脳となる。すなわち、イギリスは他のどの国よりもブッシュ政権後のアメリカに対する準備が整ったことになる。

ブッシュ大統領とブラウン首相は二国間関係、イラク、イラン、食料と経済、開発と疫病、そしてダルフールとジンバブエについて協議した。ブラウン首相がイラクでのテロリスト打倒のために対米協力を続けると約束したのに対し、ブッシュ大統領もジンバブエの民主化でイギリスを後押しすると宣言した。(ホワイトハウスでの共同記者会見の全文とビデオはこちら。)食料価格の高騰は7月の洞爺湖サミットで死活的な議題となる。ブッシュ大統領とブラウン首相はアフリカでの世界食糧計画の活動を支援することで合意した。

18日にブラウン首相はボストンのジョン・F・ケネディ記念図書館でイギリス外交の基本姿勢について演説を行なった。この行事を主催したのはエドワード・ケネディ上院議員である。新戦略のレポートで述べているように、ブラウン首相はアメリカとヨーロッパという「最も偉大な両大陸」による政策協調の強化によって冷戦後の安全保障の課題に対処すべきだと強調した。また中国とインドのような新興経済諸国がG8など国際的な政策形成の場で役割を拡大すべきだとも訴えた。さらにブラウン首相は「改革され刷新された」国連が世界の政策形成で重要な役割を果たすべきだとも述べた。最も重要なことに、ゴードン・ブラウン首相は相互依存を深めてゆく世界でアメリカのリーダーシップが不可欠だと断言した。

首相は翌日にロンドンへ戻った。イラクとジンバブエだけがこの首脳会談の議題ではなかった。今回の会談は洞爺湖サミットへの準備とも言える。食料、疫病、アフリカといった課題は主要先進民主主義国の会議で重要なものとなる。イギリスはこうした問題にアメリカの注意を向けさせるうえで重要な役割を果たしている。アメリカとの同盟関係をより良くしてゆくために学ぶべきことは多い。

米英首脳会談の写真はこちら。

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2008年4月20日

ようこそ日本へ!イ・ミョンバク韓国大統領

韓国のイ・ミョンバク大統領が4月20日から21日にかけて来日する。グローバル・アメリカン政論が開設されてから、韓国について投稿するのは初めてである。当ブログの「中国・朝鮮半島&アジア太平洋」のカテゴリーでは中国と北朝鮮を中心に投稿をしてきたが、それは両国が我々の自由主義世界秩序に重大な挑戦を突きつけているからである。また、日本にとって両国の脅威は非常に大きなものなので、当ブログでは東アジアのどの国よりも頻繁に登場することになった。

しかし東アジアで最も危険な問題の一つである朝鮮半島の安全保障で、韓国が積極的に関わることは必要不可欠である。昨年の大統領選挙でイ・ミョンバク氏は親北派のチョン・ドンヨン氏を破った。イ氏は前任者のノ・ムヒョン氏の対北宥和政策を一掃したばかりか、日米両国との関係改善を模索している。これは極東の安全保障と悪の枢軸に対する戦いを格段に進展させるものである。だからこそ、今回の記事に「ようこそ日本へ!」と題名をつけたのである。

ノ・ムヒョン政権期にはバラク・オバマ氏がフォーリン・アフェアーズの論文で朝鮮半島の安全保障で韓国の役割の拡大を主張した際に、私は懸念を感じた。よく知られているように、ノ大統領の下で韓国はアメリカと日本との関係を悪化させた。しかし今や新しい大統領の韓国が役割を拡大することに懸念材料はない。

現在、イ大統領はアメリカと日本を訪問して東アジアの安全保障のために3ヶ国の関係を強化しようとしている。4月19日のキャンプ・デービッドでの共同記者会見で、ジョージ・W・ブッシュ大統領とイ・ミョンバク大統領はアジア太平洋地域での自由の拡大に両国が協力し合うことを表明した。また両首脳は北朝鮮の人権侵害に懸念を述べた。

朝鮮日報(イ・ミョンバク大統領、日米へ出発;4月15日)AFP通信(イ・ミョンバク韓国大統領が来日;4月20日)の報道によると、イ大統領と日本の福田康夫首相は二国間と世界規模の問題で以下のことを話し合う。北朝鮮、気候変動、そして自由貿易協定である。

きわめて重要なことに、イ・ミョンバク氏は韓国が植民地統治に関して日本の謝罪を求めないことを宣言した。戦後の歴史を通じて、日本と韓国の関係は非常に「特異」であった。二国間の歴史と靖国神社をめぐって日韓関係は感情剥き出しの諍いに阻まれていた。以前の記事でも述べたように、私は靖国神社遊就館の国粋主義には賛同していない。しかし韓国と日本のナショナリスト達は、北朝鮮の脅威に直面している現状では歴史認識と靖国は優先度の低い問題だと理解しなくてはならない。日本の右翼が何をのたまおうとも、日本はレジーム・チェンジをとっくに経ており、何者もこの国をファシズムに戻すことはできない。

韓国と日本は共通の敵と共通の同盟国を有している。核兵器ばかりか、北の赤い悪魔は拉致によって両国に恐るべき脅威を突きつけている。「拉致被害者を救う会」によると、日本人が100人以上、韓国人は80,000人以上がピョンヤンのショッカーに拉致されている。残虐でならず者の北朝鮮は日本人以上に多くの韓国人を閉じ込めているのである。

共通の同盟国も冷戦後の危険に対処するうえで重要である。ブッシュ大統領が世界規模の民主化で両国の積極関与を支持しているように、NATOも日本韓国との戦略提携を模索している。両国はワシントンとブリュッセルの期待に応えねばならない。

私は日韓両国の愛情に満ちた友好関係という絵空事は期待していない。しかし両国は二国間関係に過剰にとらわれるべきではない。日本と韓国が普通の関係となることは西側同盟全体に多大な利益なる。両国にとって真の脅威は北方の暴虎である。これは絶対に忘れてはならない!

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2008年4月13日

NATOブカレスト首脳会議から新時代の大西洋同盟へ

ルーマニアのブカレストで開催されたNATO首脳会議はブッシュ政権最後の年を飾る外交行事の一つであった。ジョージ・W・ブッシュ大統領はコンドリーザ・ライス国務長官を伴って4月2日から4日にかけて開催された首脳会議に乗り込んだ。現政権が誕生してから大西洋同盟の再構築はアメリカ外交で重要課題の一つであった。ヨーロッパ諸国も冷戦後の政治情勢に対処し、テロリストを打倒するためにもアメリカとの協調関係をアップグレードする必要がある。ブカレスト首脳会議はアメリカの次期大統領に引き継がれるバトンなのである。

今回の首脳会談では加盟国の拡大、ミサイル防衛、アフガニスタンでの作戦行動が議題となった。ミサイル計画は承認され、アフガニスタンではフランスが新たに派兵することになったが、ウクライナとグルジアのNATO加盟は見送られた。首脳会議を前にNATOの将来について専門家が行なった議論を検証してみたい。

今年の初めにドイツ・マーシャル基金のロナルド・アスムス理事はNATO拡大、そしてロシアと欧米の関係について述べている(“Europe’s Eastern Promise: Rethinking NATO and EU Enlargement”; Foreign Affairs; January/February 2008)。NATOとEUの拡大による自由と民主主義の拡大を主張する一方で、アスムス氏は欧米が安全保障でのロシアの懸念を刺激しないよう充分に注意深く振る舞うべきだと言っている。アスムス氏はNATOとEUの拡大はロシアの民主化と並行して行なわれるべきで、そのことによってロシアは欧米のパートナーどころか実質的な同盟国にもなれると主張している。またアスムス氏はNATOとEUの拡大によって東ヨーロッパの民主化と安定がもたらされたが、ロシアの指導者達の懸念を深めることになっていると指摘する。

民主主義の拡大はブッシュ政権の専売特許ではないことを銘記すべきである。アスムス氏はクリントン政権でヨーロッパ担当国務次官補であった。そのアスムス氏が現政権の政策をアメリカの理念として主張しているのである。もちろん、アスムス氏のロシア観がブッシュ政権よりハト派なのは、将来はロシアを実質的な同盟国にしようという考え方からもわかる。

ロナルド・アスムス氏は3月に、NATOは近隣諸国とEAPC(欧州・大西洋パートナーシップ理事会:Euro-Atlantic Partnership Council地中海対話を通じての協力関係を強化する一方で、戦略目的が不明確になった冷戦後の世界で岐路に立っていると述べている(“Rethinking NATO Partnerships for the 21st Century”; NATO Review; March 2008)。

オランダ軍士官学校のジュリアン・リンドレー=フレンチ教授と全米大西洋審議会のジェームス・タウンゼント部長は、今世紀の脅威に対処するための組織と実戦部隊の刷新のための戦略上の共通認識を持つ必要があると指摘する。また大西洋地域外からもオーストラリア、インド、日本、そして韓国がより大きな西側同盟の意思決定に参加するべきであると述べている(“Bucharest: Planning and Partnership for security effect in the 21st Century”; NATO Review; March 2008)。

ヨーロッパ側でNATOの再構築をどのように考えているかに言及する必要がある。ブカレスト首脳会議の前日に、イギリスのデービッド・キャメロン保守党党首は王立国際問題研究所で講演を行なっている(“Crossroads for NATO - How the Atlantic Alliance Should Work in the 21st Century”; 1 April, 2008)。[ビデオへのリンクはこちら。]キャメロン氏はNATOが状況反応の同盟から平和強制執行力のある同盟に変化したと主張する。NATOはバルカン半島に平和と安定をもたらすうえで重要な貢献を果たした。9・11によって世界は新たな脅威に目覚めさせられた。デービッド・キャメロン氏はNATOが新時代の脅威に対処するうえで以下の4つの点を議論している。

1・大西洋同盟の強化による民主化促進

2・ヨーロッパでのアメリカの関与の強化

3・アメリカの政策形成へのヨーロッパ諸国の関与

4・ヨーロッパ諸国の役割分担増大

アフガニスタンに関してキャメロン氏はアフガンでの作戦が失敗に帰せばアメリカがNATOを信用しなくなり、究極的にヨーロッパの利益を損なうと警告する。キャメロン氏はフランスのニコラ・サルコジ大統領が「ヨーロッパの安全保障を3~4ヶ国でまかなうわけにはゆかない」と述べたことを引用し、ヨーロッパの全加盟国が世界の平和執行強制のために国防力を強化するように訴えている。

私はキャメロン氏の講演は傾聴に値すると信じているのは、その中から世界の市民達が新時代に向けたアメリカとの同盟関係について学ぶことが多いにあるからである。同氏の視点と分析は国内政治の党利党略が一切関わっていない。ヨーロッパと日本の左翼国粋主義者達はこのことをしっかりと銘記すべきである!

ブカレスト首脳会議ではアメリカとヨーロッパは強硬路線を強めるロシアへの対応の違いが主な理由で、ウクライナとグルジアの加盟で合意に至らなかった。ドイツとフランスはNATOの拡大よりもロシアとの勢力均衡を気にかけている。ドイツの高官はロシアに戦略上の難題を突きつける前に、欧米はドミトリー・メドベージェフ次期大統領をもっと静観する必要があると言う(“The NATO Summit: With Allies like These”; The Economist; April 3, 2008)。

東方拡大についての見解の相違をよそにミサイル計画は承認された。さらにフランスがNATOに完全復帰し、アフガニスタンへの追加派兵を決定した。

今回の首脳会議は成功なのか、それとも失敗なのか?ジョージタウン大学教授のチャールズ・カプチャン外交問題評議会上級フェローは、冷戦後の不明確な政治情勢では同盟国同士で問題の共通認識に至ることがいかに難しいかをブカレスト首脳会議は示していると述べている。加盟国の拡大で合意に至らなかったことについて、カプチャン氏は「まさに異常である。これほど重要な問題でアメリカの主張が退けられた例は私の記憶にはない」と述べている(“Kupchan: NATO Summit Shows Growing Difficulties in Reaching Solidarity in Western Alliance”; CFR Interview; April 7, 2008)。

メディアはNATOでのアメリカの指導力の低下に注目しがちであるが、フランスがゴーリストの伝統を捨ててアフガニスタンでアメリカ、イギリス、カナダの軍隊を支援し、NATO軍事機構に復帰する決定をしたことは見落としてはならない(“The Perils of Atlanticism”; Certain Ideas of Europe; April 7, 2008)。イラク戦争勃発時にアメリカ主導の多国籍軍の攻撃を激しく批判したドミニク・ドビルパン元外相は、サルコジ大統領の決定を非難している。しかし、ゴーリズムは時代遅れとなったこのご時勢ではドビルパン氏は再び敗北するであろう。

ともかくウクライナとグルジアの加盟の途が完全に閉ざされたというわけではなく、将来に加入できる余地はある。ジョージ・W・ブッシュ政権は古いヨーロッパと戦略上の不協和音で始まったが、今では大西洋同盟を将来に向けて再構築して任期を終えようとしている。

さらに深く研究するための参照資料:

“Is NATO up to the Afghan Challenge? Expectations for the BucharestMeeting”; Event at the Carnegie Endowment for International Peace; March 24, 2008

“NATO Summit: Fears for the Future” by Robin Shepherd; World Today; April 2008

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2008年4月 5日

「日米永久同盟」著者の長尾秀美氏が新著出版

当ブログの以前の記事「書評:日米永久同盟」で言及した長尾秀美さんが先の3月末に新しい著書を出版しました。今回は日米同盟についてではなく、「原発が日本を救う」(ERC出版、電話03-3479-2151)と題するもので、日本のエネルギー政策について語っています。

序論では6月の洞爺湖サミットで重要な議題となる気候変動への対策として温室効果ガスの排出抑制のためにも、日本にとって原子力発電所の建設が重要なことが力説されています。

また、エネルギー資源の自立という観点からも原子力発電の建設が訴えられています。石油と天然ガスの価格高騰、バイオエタノールの生産による食糧供給の逼迫を考えれば、原子力の利用は必要不可欠だと主張しています。

きわめて重要なことに、石油と天然ガスの輸入先は中東やロシアのように政治的なリスクを抱えていることを指摘しています。

長尾さんは原子力発電所の安全性に関する懸念を払拭するために議論を展開しています。何よりも注目すべきは、建設用地の獲得や地震対策のためにメガ・フロートの建設を訴えていることです。沿岸での海洋環境や漁業への影響を少なくするためにも、この案は研究を進める価値があると私は思います。

ともかく、エネルギー資源供給の多角化は必要です。長尾さんは新刊で日本がエネルギー資源の獲得で自立できないと真の国際協力はできないということを力説しています。

エネルギーと安全保障の関わりを考えてゆくうえで、「原発が日本を救う」は重要な提言をしています。なお、この新書はまだアマゾンなどネット販売では入手できません。ERC出版(電話03-3479-2151)へ問い合わせるしかありません。

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