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2008年4月13日

NATOブカレスト首脳会議から新時代の大西洋同盟へ

ルーマニアのブカレストで開催されたNATO首脳会議はブッシュ政権最後の年を飾る外交行事の一つであった。ジョージ・W・ブッシュ大統領はコンドリーザ・ライス国務長官を伴って4月2日から4日にかけて開催された首脳会議に乗り込んだ。現政権が誕生してから大西洋同盟の再構築はアメリカ外交で重要課題の一つであった。ヨーロッパ諸国も冷戦後の政治情勢に対処し、テロリストを打倒するためにもアメリカとの協調関係をアップグレードする必要がある。ブカレスト首脳会議はアメリカの次期大統領に引き継がれるバトンなのである。

今回の首脳会談では加盟国の拡大、ミサイル防衛、アフガニスタンでの作戦行動が議題となった。ミサイル計画は承認され、アフガニスタンではフランスが新たに派兵することになったが、ウクライナとグルジアのNATO加盟は見送られた。首脳会議を前にNATOの将来について専門家が行なった議論を検証してみたい。

今年の初めにドイツ・マーシャル基金のロナルド・アスムス理事はNATO拡大、そしてロシアと欧米の関係について述べている(“Europe’s Eastern Promise: Rethinking NATO and EU Enlargement”; Foreign Affairs; January/February 2008)。NATOとEUの拡大による自由と民主主義の拡大を主張する一方で、アスムス氏は欧米が安全保障でのロシアの懸念を刺激しないよう充分に注意深く振る舞うべきだと言っている。アスムス氏はNATOとEUの拡大はロシアの民主化と並行して行なわれるべきで、そのことによってロシアは欧米のパートナーどころか実質的な同盟国にもなれると主張している。またアスムス氏はNATOとEUの拡大によって東ヨーロッパの民主化と安定がもたらされたが、ロシアの指導者達の懸念を深めることになっていると指摘する。

民主主義の拡大はブッシュ政権の専売特許ではないことを銘記すべきである。アスムス氏はクリントン政権でヨーロッパ担当国務次官補であった。そのアスムス氏が現政権の政策をアメリカの理念として主張しているのである。もちろん、アスムス氏のロシア観がブッシュ政権よりハト派なのは、将来はロシアを実質的な同盟国にしようという考え方からもわかる。

ロナルド・アスムス氏は3月に、NATOは近隣諸国とEAPC(欧州・大西洋パートナーシップ理事会:Euro-Atlantic Partnership Council地中海対話を通じての協力関係を強化する一方で、戦略目的が不明確になった冷戦後の世界で岐路に立っていると述べている(“Rethinking NATO Partnerships for the 21st Century”; NATO Review; March 2008)。

オランダ軍士官学校のジュリアン・リンドレー=フレンチ教授と全米大西洋審議会のジェームス・タウンゼント部長は、今世紀の脅威に対処するための組織と実戦部隊の刷新のための戦略上の共通認識を持つ必要があると指摘する。また大西洋地域外からもオーストラリア、インド、日本、そして韓国がより大きな西側同盟の意思決定に参加するべきであると述べている(“Bucharest: Planning and Partnership for security effect in the 21st Century”; NATO Review; March 2008)。

ヨーロッパ側でNATOの再構築をどのように考えているかに言及する必要がある。ブカレスト首脳会議の前日に、イギリスのデービッド・キャメロン保守党党首は王立国際問題研究所で講演を行なっている(“Crossroads for NATO - How the Atlantic Alliance Should Work in the 21st Century”; 1 April, 2008)。[ビデオへのリンクはこちら。]キャメロン氏はNATOが状況反応の同盟から平和強制執行力のある同盟に変化したと主張する。NATOはバルカン半島に平和と安定をもたらすうえで重要な貢献を果たした。9・11によって世界は新たな脅威に目覚めさせられた。デービッド・キャメロン氏はNATOが新時代の脅威に対処するうえで以下の4つの点を議論している。

1・大西洋同盟の強化による民主化促進

2・ヨーロッパでのアメリカの関与の強化

3・アメリカの政策形成へのヨーロッパ諸国の関与

4・ヨーロッパ諸国の役割分担増大

アフガニスタンに関してキャメロン氏はアフガンでの作戦が失敗に帰せばアメリカがNATOを信用しなくなり、究極的にヨーロッパの利益を損なうと警告する。キャメロン氏はフランスのニコラ・サルコジ大統領が「ヨーロッパの安全保障を3~4ヶ国でまかなうわけにはゆかない」と述べたことを引用し、ヨーロッパの全加盟国が世界の平和執行強制のために国防力を強化するように訴えている。

私はキャメロン氏の講演は傾聴に値すると信じているのは、その中から世界の市民達が新時代に向けたアメリカとの同盟関係について学ぶことが多いにあるからである。同氏の視点と分析は国内政治の党利党略が一切関わっていない。ヨーロッパと日本の左翼国粋主義者達はこのことをしっかりと銘記すべきである!

ブカレスト首脳会議ではアメリカとヨーロッパは強硬路線を強めるロシアへの対応の違いが主な理由で、ウクライナとグルジアの加盟で合意に至らなかった。ドイツとフランスはNATOの拡大よりもロシアとの勢力均衡を気にかけている。ドイツの高官はロシアに戦略上の難題を突きつける前に、欧米はドミトリー・メドベージェフ次期大統領をもっと静観する必要があると言う(“The NATO Summit: With Allies like These”; The Economist; April 3, 2008)。

東方拡大についての見解の相違をよそにミサイル計画は承認された。さらにフランスがNATOに完全復帰し、アフガニスタンへの追加派兵を決定した。

今回の首脳会議は成功なのか、それとも失敗なのか?ジョージタウン大学教授のチャールズ・カプチャン外交問題評議会上級フェローは、冷戦後の不明確な政治情勢では同盟国同士で問題の共通認識に至ることがいかに難しいかをブカレスト首脳会議は示していると述べている。加盟国の拡大で合意に至らなかったことについて、カプチャン氏は「まさに異常である。これほど重要な問題でアメリカの主張が退けられた例は私の記憶にはない」と述べている(“Kupchan: NATO Summit Shows Growing Difficulties in Reaching Solidarity in Western Alliance”; CFR Interview; April 7, 2008)。

メディアはNATOでのアメリカの指導力の低下に注目しがちであるが、フランスがゴーリストの伝統を捨ててアフガニスタンでアメリカ、イギリス、カナダの軍隊を支援し、NATO軍事機構に復帰する決定をしたことは見落としてはならない(“The Perils of Atlanticism”; Certain Ideas of Europe; April 7, 2008)。イラク戦争勃発時にアメリカ主導の多国籍軍の攻撃を激しく批判したドミニク・ドビルパン元外相は、サルコジ大統領の決定を非難している。しかし、ゴーリズムは時代遅れとなったこのご時勢ではドビルパン氏は再び敗北するであろう。

ともかくウクライナとグルジアの加盟の途が完全に閉ざされたというわけではなく、将来に加入できる余地はある。ジョージ・W・ブッシュ政権は古いヨーロッパと戦略上の不協和音で始まったが、今では大西洋同盟を将来に向けて再構築して任期を終えようとしている。

さらに深く研究するための参照資料:

“Is NATO up to the Afghan Challenge? Expectations for the BucharestMeeting”; Event at the Carnegie Endowment for International Peace; March 24, 2008

“NATO Summit: Fears for the Future” by Robin Shepherd; World Today; April 2008

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コメント

小林よしのり氏等のナショナリストがアメリカとの同盟を棄てて日本だけで防衛力を整備すべきだと主張しますが、世界の流れにまったく逆行していると思います。
どの国でも一国だけで安全保障を考えることなど最早、無理です。
今回のフランスのNATOの軍事機構への完全復帰は何よりの証拠です。
フランスだげてなくスウェーデンもNATOとの連携を強化しているでしょう。
決して国連ではなくてね。
日本の政治家は特に民主党はよく考えてほしいです。

投稿: アラメイン伯 | 2008年4月15日 21:25

 突然の書き込み、失礼致します。
 政治ブログ『熊川ビジョン』管理人のくまがわ直貴と申します。
 
私のブログに『北朝鮮拉致関与疑惑』に関する詳細レポートを再度アップ致しました。

 精査の結果、一部情報はかなりの確度が高いと考えられますので、是非皆様方にご一読頂きたいと願います。
 未だ回復していない国民の生命と安全に関する問題ですので、どうかご関心を持って頂きます様お願い致します。
 大変失礼致しました。

 

投稿: くまがわ直貴 | 2008年4月17日 21:48

アラメイン伯さん、

小林よしのりは漫画家に過ぎません。大衆の間にあるナショナリズム感情にうまく訴えているだけでは?

NHK「日本のこれから」に「有識者」として招かれていたので、彼の著作は必読かと尋ねたら、堀越さんに全くそんな必要はないと言われたくらいです。

日本の民主党の対米政策はいつか記事にしたいです。それにはキャメロン演説をしっかり引用したいです。

自民党も「郵政民営化に賛成か反対か」の政党なので、対米政策はまちまちです。これが民主党ともなると親米の前原誠司、ナショナリストの西村真吾、そして旧社会党系など、完全にバラバラです。

投稿: Shah亜歴 | 2008年4月18日 12:53

くまがわさん、

コメントありがとうございます。

このブログではかなり前の記事へのコメントやTBでも「最近のコメント(TB)」として表示されます。

それなので、朝鮮半島問題やアジア関係のカテゴリー記事にこのコメントをしていただければ良かったです。

今後のコメントとTBはそのようにお願いします。尚、ここのコメント欄はHTMLタグが使用できるので、そのだけ編集し直しました。文章はそのままです。

これからも宜しくお願いします。

投稿: Shah亜歴 | 2008年4月18日 20:47

>小林よしのりは漫画家に過ぎません

同感です。しかも表現方法が汚いというか品がないというか・・・
自分の考えを主張をしたいのなら普通の言葉でそれを漫画にすればいいのにと思います。
にもかからず日本の伝統が大切とか品格が大事とか言うのだから・・

投稿: アラメイン伯 | 2008年4月18日 23:31

最近は日本の伝統とか品格とかがやたらに叫ばれていますが、日本人の本来の良さは新しい時代に向けて過去の亡霊を果断に切れることだと思います。

そうした時代――例を挙げれば南蛮文化と天下布武の織田・豊臣時代、西洋文明と近代化の明治時代、そして民主化とレジーム・チェンジに邁進した戦後――に日本の経済も文化も飛躍的に発展しました。

日本とNATOの関係もこうした歴史スペクタクルで構築されるのが望ましいです。

投稿: Shah亜歴 | 2008年4月19日 12:42

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