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2008年5月17日

新世紀の大西洋同盟に向けた英仏関係

D1308br1_23月26日から27日にロンドンで行なわれた英仏首脳会議は、大西洋同盟の将来に向けて歴史的な一歩となるであろう。米仏関係でも見られたように、フランスのニコラ・サルコジ大統領はアングロ・サクソン両大国との戦略協調の発展に熱心であることを印象づけた。

戦後を通じてイギリスとフランスは世界の安全保障、大西洋外交、ヨーロッパ統合など多くの問題で対立してきた。他方でドイツとフランスは世界大戦の敵意を劇的に払拭した。イギリスとフランスの戦略協調によって、大西洋の四大国である米英仏独の相互関係が変わるであろう。イギリス保守党のデービッド・キャメロン党首が王立国際問題研究所で述べたように、大西洋同盟のさらなる発展にはヨーロッパの積極関与が必要だが、それにはヨーロッパの数ヶ国だけの努力では足りない。しかし防衛に関する英仏のイニシアチブによって地球規模の安全保障でヨーロッパの積極関与が刺激されるであろう。ルーマニアのブカレストで開催されたNATO首脳会議では、フランスがNATO軍事機構に復帰した。

イギリスとフランスの友好を象徴するために、ゴードン・ブラウン首相とニコラ・サルコジ大統領はイングランド・プレミア・リーグのサッカー・チーム、アーセナルFCのホームグラウンドであるエミレーツ・スタジアムを訪れた(ビデオはこちら)。サルコジ氏のロンドン訪問を前に、英エコノミスト誌は英仏関係の新しい時代について記している。サルコジ氏がアフガニスタン追加派兵を宣言したことはイギリスの指導者達の歓心をかった。歴代のゴーリスト大統領と違い、サルコジ氏はヨーロッパと微妙な距離をとろうとしているイギリスにNATOよりもESDP(the European Security and Defence Policyへの関与を強めるように無理押しはしなかった(“Anglo-French Relations: An Entente in London”; March 19, 2008)。

ドイツ・マーシャル基金のジョン・K・グレン外交政策部長は自らの調査についてアメリカとヨーロッパは何につけても、特に自分達が直面する脅威については共通の認識を抱くようになってきている。ヨーロッパがイスラム原理主義の脅威をこれまで以上に深刻に受け止めているのに対し、アメリカも地球温暖化を重大な脅威と見なすようになっている。また武力行使の必要性についてフランスの世論はアメリカやイギリスと同様に肯定的になりつつあると結論づけている(“Britain and America: Anglo-Saxon Attitudes”; Economist; March 27, 2008)。

新しい大西洋主義は本国で社会党の攻撃を受けている(“France and Defence: Gaullist No More?”; Economist; April 3, 2008)が、サルコジ大統領はただアメリカ、イギリス、カナダ、オランダの圧力に応じているわけではない。

ヨーロッパ改革センターのチャールズ・グラント所長とトマス・バラセク外交防衛部長は、ニコラ・サルコジ氏の親米、英、NATO政策の裏に潜む現実的な側面を指摘している。NATOへの完全復帰とアフガニスタン派兵によってフランスは象徴的で地政学的な成功を収められる。フランスはヨーロッパの防衛でEUの役割を拡大しようとし続けているが、ヨーロッパ各国の政府は人員と設備が充分にそろってはいないので、NATOとEUの協調は不可欠である。シラク政権のフランスはそうした協調関係を妨害していたが、今やそれが奨励されているという状況である。イギリスとアメリカはサルコジ氏の決断を歓迎している(“Sarkozy's bold European defence initiative”; Financial Times; 24 March, 2008)。

記者会見に臨んだゴードン・ブラウン首相は今回の首脳会談を以下のように締め括っている。

サルコジ大統領と私はこの新しいグローバル化の時代の課題を挙げておく。両国は共に世界のためにそうした課題に対処してゆく立場にある。両国は共に望んでいる世界に積極関与してゆくグローバル化時代のヨーロッパの中心である。英仏両国はアメリカとの強固な関係を望んでいる。両国が一致団結してこそ、テロ、気候変動、貧困、疫病、統治に失敗した国家といった難題に対処できる。サルコジ大統領と私は両国の協調関係をこれまで以上に深く強固なものにしてゆくことで合意した。両国関係は将来に向けて協調してゆくことで「親愛の協商(entente cordiale)」から「友情の協商(entente amicale)」に発展するであろう。

ヨーロッパ改革センターのトマス・バラセク氏は、最近のレポートでサルコジ大統領が対英米関係改善に乗り出している背景を分析している(“France, NATO, and European Defence”; Centre for European Reform; 12 May 2008)。1998年のサン・マロ島でのジャック・シラク大統領とトニー・ブレア首相の会談でESDPが発足したのを機に、フランスはヨーロッパの安全保障でのEUの役割拡大を求め続けてきた。しかしイギリスもアメリカも安全保障に関する限りNATOがEUに優越すべきだと考えている。

しかしサルコジ政権はNATOとEUの競合を刺激するようなやり方を改めた。バラセク氏は以下のように述べている。

サルコジ氏はシラク氏のようにアメリカと張り合おうとは考えず、新政権の閣僚達もヨーロッパ周辺の不安定な状況を前政権より良く理解している。そのため、NATOに対してはフランスが防衛問題で政治的な駆け引きはしないと明言し、EUとNATOは加盟国共同軍の設立に向けて協調すべきだと訴えた

バラセク氏はサルコジ氏の狙いはフランスをアメリカ主導の大西洋地域の安全保障機関の部外者ではなく、NATOの中核に据えることだと指摘する。こうした理由からロンドンを訪問してイギリスとの関係を前進させ、ブカレストでの大西洋同盟の首脳会談ではNATO軍事機構への復帰とアフガニスタン派兵を宣言したのである。言い換えれば、サルコジ大統領は大西洋同盟でのフランスの影響力の拡大を模索しているのであって、イギリスやアメリカに従属しようとしているのではない。反アングロ・サクソンの政治家達はこのことを銘記すべきである!

バラセク氏はイギリスがフランスへの見返りとしてEUの防衛政策強化に同意するように提言している。

大西洋同盟での指揮系統がどうあろうとも、イギリスとフランスは次世代の空母(英CVFまたは Future Aircraft Carriers、仏PA2またはPorte-Avions No2)を共同で開発している。このプロジェクトは21世紀のコンコルドとも言える。詳細はイギリス国防省のリンク()で確認できる。また全英国防協会と関係のあるNavy Mattersというサイトでは、両国の次世代空母についてさらに詳しく述べている。このサイトはフランス語の有益な情報サイトにもリンクしている。

ブラウン・サルコジ会談は大西洋地域の安全保障の将来に向けた重要なステップである。ヨーロッパはポスト・モダンの白昼夢より抜け出し、我々の自由な世界秩序に対する重大な脅威に対抗できるであろう。新しい英仏協商によってヨーロッパは次の時代に導かれるであろう。

挿絵:Sarkozy se joindra à la ligue d’Anglo-Saxon? “Britain and America: Anglo-Saxon Attitudes”; Economist; March 27, 2008

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コメント

最近「女王陛下の外交戦略」というエリザベス女王の外交の本を読みました。
そのなかで英仏協商100周年の女王陛下の演説が紹介されてました。曰く「かつてイギリスとフランスは何回も戦争したけれど20世紀に入って民主主義を守るために共に戦った」
と。
フランスがミッテランやシラクの時代と異なり英米と共に、自由と民主主義、基本的人権という人類普遍の価値のために英米と行動を共にすることが世界の利益になることでしょう。

CVF。今やクイーン・エリザベス級というべきですが。この艦載機はF35Bです。
PA2はラファールですね。
アメリカが英仏で新型空母を共同開発するならF35の技術がフランスに流れるのではないかと危惧したという話がありましたが解決されたのでしょうか?

投稿: アラメイン伯 | 2008年5月20日 22:46

実はすでにシラク時代からCVFとPA2の共同プロジェクト化は進められていたようです。今の世界でアメリカほど巨額の軍事予算を投じられる国はありません。しかもステルスだ、情報機器だなど、技術は高度になる一方。どうしてもヨーロッパで一国だけが新たな脅威に対処できる兵器の開発をするには無理があります。

PA2に関して、サルコジ政権と良好な関係からアメリカの技術漏洩の懸念は和らいだと軍事情報誌「世界の艦船」(4月か5月)に記してありました。

英仏接近によって、これまでの独仏枢軸はどうなるのかも目が離せぬところです。NATOがグローバル化し、ヨーロッパ諸国も域外で行動するとなれば、ドイツの関与は重要です。

投稿: Shah亜歴 | 2008年5月25日 13:34

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