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2008年5月28日

NATOと太平洋諸国の戦略提携:日米同盟のグローバル化と多国間同盟への発展

Natojapan

9・11後の世界でNATOはヨーロッパ大西洋地域を超えて地球規模の安全保障協力を模索している。太平洋地域では日本オーストラリアニュージーランド韓国の4ヶ国が戦略パートナーに挙げられている。上記の国の中でもヨーロッパ人は日本に最も高い期待を寄せている。私の友人たる日本国民は右であれ左であれ、この重要な事実を銘記すべきである。

現在、NATOのニュース・リリースに掲載されたこれらの国との高官レベル(閣僚級を含む)の会談は、日本が7回、オーストラリアが5回、ニュージーランドが4回、韓国はまだ無しとなっている。太平洋諸国との安全保障での協調について、NATOはヤープ・デ・フープ・シェファー事務局長の基調演説とスウェーデンのストックホルム大学の池上雅子教授がNATO機関誌に寄稿した論文をとりあげている。さらに、日本に関する記述量は他の太平洋諸国に関するものを大幅に上回っている。

ヨーロッパ人からそれほど高い期待と他の追随を許さぬ信頼を得ているのは、強固な日米同盟があるからである。日米同盟は二国間の安全保障協定をはるかに超えたものである。これは戦後のレジーム・チェンジの礎であり、ハワイからスエズにいたる自由と民主主義の普及に重大不可欠なものである。憲法上の制約にもかかわらず、日本はアジア太平洋地域でアメリカの最も重要な同盟国となっており、特に最大かつ最先端設備の基地を米軍に提供している。

麻生太郎外相(当時)が2006年5月4日にブリュッセルのNATO本部を訪問した際に、日本とNATOは共通の価値観と理念を有していると述べた(麻生外相の演説文書の日本語訳はこちら)。安倍晋三首相(当時)も2007年1月12日にブリュッセル本部を訪問し、同様のことを述べた(ビデオ)。福田康夫現首相は洞爺湖サミットの準備のために来月初頭にヨーロッパに向かい、イギリス、ドイツ、フランス、イタリアの首脳達と会談する。ここでも日欧の指導者達が共通の戦略と理念を訴えられることが望まれる。

NATOと日本の関係を理解するために、いくつかの参考資料に言及したい。ストックホルム大学太平洋アジア研究センター所長の池上雅子教授は、東アジアでの重要な脅威が世界の安全保障にかつてない難題を突きつけている現状でNATOと日本の協調関係の発展が必要だと主張する。池上氏はさらに、上海協力機構に懸念を示している(“NATO and Japan: Strengthening Asian Stability”; NATO Review; Summer 2007)。池上教授は2007年1月に安倍晋三首相が日本の首相として始めてNATO本部を訪問したことを歴史的な一歩だと評している。

池上氏は9・11以降の日本がインド洋とアラビア海で日本が非戦闘作戦に従事し始めたことに言及している。NATOと日本は対テロ戦争、大量破壊兵器不拡散、そして中国とロシアに代表される権威主義勢力の台頭という共通の安全保障上の課題に直面している。

NATOはヨーロッパ大西洋地域を超えた作戦に向けて組織再編成を進めているので、日本は大西洋同盟との協力を進める必要がある。池上氏はヨーロッパでは冷戦が過ぎ去ったのに対し、東アジアでは朝鮮半島と台湾海峡のような冷戦の最前線の遺物が残っていると指摘する。NATOと日本の提携によってカーン・ネットワークを通じた北朝鮮への大量破壊兵器の不拡散にも一役かうことができる。台湾問題について池上氏は、NATOに支援によって中国の膨張主義に対する日米の立場を強化できると主張する。

池上雅子氏はさらに、上海協力機構(SCO)は日本とNATOの双方に対する主要な敵対勢力となる可能性があると警告する。9・11以降、中国とロシアはSCO(現在の加盟国は中国、ロシア、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、ウズベキスタン)の強化によって中央アジアに自分達の影響力を拡大し、我々の自由な世界秩序に対抗しようとしている。

池上氏は地球規模と太平洋地域の脅威に対処するために日本とNATOに以下の提言を行なっている。

日本がとるべき途:

1・日米同盟の強化

2・NATOとの協調関係の強化による抑止力の信頼性の向上

3・平和維持活動への支援強化による国際安全保障環境の改善

4・経済および人道支援による平和維持活動への貢献

5・国際的な軍備管理と軍縮に今後も引き続き強く関与

NATOがとるべき途:

1・ヨーロッパ大西洋諸国と基本的な理念を共有する国々との提携強化による地球規模の「安全保障の形成」

2・大西洋同盟とは理念や価値観を共有はしないが、国際あるいは地域の安全保障に重要な国々との対話と信頼醸成を目的とした協力関係の構築

この基準に従えば、日本は1に、そしてロシア(あるいは将来的には中国も)は2に属する。こうしてNATOは外部の国々と信頼醸成を進められる一方で、ヨーロッパ大西洋同盟の理念と世界政策を共有する国々とは紛争防止のための協力関係を強化できる。

この目的を達するために、ヤープ・デ・フープ・シェファー事務局長は昨年12月の13日と14日に日本を訪れた。フープ・シェファー事務局長は記者会見でNATOが冷戦後の安全保障のためにウクライナ、カフカス諸国、中央アジア、そして中東との関係を強化していると述べた。

NATOと日本の関係について事務局長は、バルカンでの作戦に日本が行なった支援はNATOに多いに役立ったと指摘した。また、G8の加盟国で世界2位の経済大国である日本への高い期待を述べた。日本とNATOの間で最も重要な問題はアフガニスタンである。以前のブカレスト首脳会議に関する記事で言及した通り、アフガニスタンでの成功はNATOがヨーロッパ大西洋圏外で活動してゆくために重要な一歩である。

現在、日本ではテロ特措法の議論が延期となっている。フープ・シェファー氏は日本の与野党間での憲法論争を刺激しないように充分な注意を払っていた。私が残念に思うのは、双方とも重箱の隅をつつくような法律解釈と「国際協力」という曖昧な単語の定義をめぐって無意味な議論に時間を費やしていることである。政策論争はもっと具体的であるべきである。NATOがアフガニスタンで成功を収めることは日本の国益に重要なことである。

孤立主義者達は帝国主義的なアメリカとヨーロッパと対照的にイスラム諸国民より良い印象を持たれている日本は、欧米とは一線を画すべきだと主張する。私はこうした主張を否定する。以前の「イスラム過激派に関する5つの問題点」という記事を読めば、こうした議論が間違いだとわかる。

明らかに日本は西側同盟の中枢であるべきである。好むと好まざるとにかかわらず、日米同盟のお陰で日本人は名誉白人の特権を享受し続けている。日米同盟のグローバル化の時代にこのことは決して忘れてはならない。

写真(NATO):石破茂防衛相と会見するNATO軍事委員会議長のレイモンド・ハノール空軍大将(カナダ)本年1月16日に日本防衛省にて。

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コメント

僕も日本はNATOとの連携を強化し将来は加盟するべきだと思います。
NATOは現在アフガンに展開してるわけですが軍事行動だけでなく災害派遣のようなことも求められると思います。

NATOの一部有志国およびNATOと協力体制を構築しているスウェーデンやフィンランドなどは、共同でC-17を購入し、各国から要員を派遣して共同運用を行うことで合意したようです。


日本も手始めにこのような共同運用もアメリカ、オーストラリア、シンガポール等と構築すべきだと思います。

Shahさん、

TB頂き有難うございました。

私は以前も言ったとおり、安全保障も少子高齢化国家としての視点で眺めています。

戦略提携や軍事同盟においては、主義・価値観の共有も大事なのですが、その国の持つ「事情」によって決められるべきではないかと思っています。その点からしてNATOはどうですか?

「消費可能な」兵隊も「実動する」兵隊も持たぬ日本が、どうやって安全保障を行ってゆくか。少なくとも「徒手空拳」だけはごめんです。栗林中将らの硫黄島戦闘からいい加減学びたいと思います。

アラメイン伯さん、

もちろん、災害援助も重要です。今のアフガニスタンではテロ掃討ばかりでなく、麻薬栽培の撲滅や住民のエンパワーメント(自立支援しか訳語が思い浮かびません。アカウンタビリティを説明責任と訳していますが、最近の市民運動の用語には翻訳困難なものが多いです)も重要です。

こうしたソフト政策にはいわゆる市民社会との連携も必要です。それにしても日本の国会でしばしば口にされる「国際貢献」という語はもっと具体的にならないのかと思います。

「日本のこれから:憲法9条」で大阪の左翼のオバちゃん(だったと思う)が「国際貢献なら別にアメリカ軍に協力するばかりじゃなくても、軍事に関わらずにできる」とのたまってましたが、確かにその単語の意味を素朴に解しただけの範囲ではこれも正論です。

日本の与野党ともNATOと日米同盟のグローバル化を国民にもっと話すべきです。永田町の御偉方はそれも理解できないと国民を見下しているのでしょうか?こうした議論になれば、件のオバちゃんの発言は幼稚でとるに足らぬものとはっきりします。

日本とNATOの関係はマケイン陣営を中心に高まっているLeague of Democraciesとも多いに関わってきます。

kakuさん、

現在のNATOではアメリカとヨーロッパ諸国の装備と政策の「格差」は大きな課題です。冷戦後も多くのヨーロッパ諸国はアメリカに自国の安全保障を依存してきました。9-11後の混乱を契機にヨーロッパ諸国も自らの周辺(ロシア、中央アジア、中東)ばかりか地球規模の脅威(中国、核拡散、テロなど非国家アクター)への対処でアメリカとの差を埋めつつあるようです。

ヨーロッパ自身による防衛力強化は先の記事でも述べました。

>>「消費可能な」兵隊も「実動する」兵隊も持たぬ日本が、どうやって安全保障を行ってゆくか?

これについては日本が今後、どのようにそうした兵力装備を備えるかが重要だと思います。そのためにはまず政策をどうするか。そうしたビジョンに応じて兵力は充実されるものと考えています。

そう言えば最近は、栗林中将や戦艦大和の悲劇をもたらした戦時日本の戦略ビジョンの欠如を議論する記事や書物を書店などでよく見かけます。

国情に応ぜよということは間違っていません。北欧諸国に「福祉国家をやめて並み居る大国と同等にせよ」は無理です。しかし制約の中からもデンマークのラスムッセン政権のようにイラク派兵に協力することもできます。

>>安全保障も少子高齢化国家としての視点で眺めています。

そうです!少子化対策となる男女の出会いを阻むものが何か知ってますか?じつは「ショッカーの特定の誤り」なのです。

最近は江東区の一件のような凄惨な事件が後を断ちません。となると、男性がうっかり女性に声をかけようものなら誤ってショッカーと特定されかねません。

これはストーカーと特定されるよりもっと深刻です。

この話はkakuさんとrobitaさんの間では格好の話題と思います。

結局、私とkakuさんは同じテーマだったのですね。くれぐれも、ショッカーの特定でマサカナ~というような誤りは犯さぬようにしましょう。

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