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2008年7月29日

ライス国務長官の過去と現在

アメリカの次期政権の外交政策は好むと好まざるとにかかわらずブッシュ政権が残したものに基づくことになる。初期のブッシュ外交がどのように変化してきたかを理解することは重要である。イラク戦争への世界的な批判とロシア、中国、インドの台頭によってアメリカの優位は揺らぎつつあると議論するものも少なからずいる。最近のイランと北朝鮮への宥和は多極化衰弱論者の間では象徴的に受け止められている。

以前の記事で述べたように、イランと北朝鮮に対するアメリカの政策の変化は懸念すべきものである(を参照)。しかし衰弱論者の見解に同意できない私は、コンドリーザ・ライス氏がワシントンに乗り込んでからの政策ニュアンスの大きな変化に注意を払うことは重要である。

ライス国務長官がフォーリン・アフェアーズに寄稿した二つの論文を検証したい。一つはジョージ・W・ブッシュ大統領の就任以前の選挙運動の期間中に書かれたものである(“Campaign 2000: Promoting the National Interest”; January/February 2000)。もう一つはブッシュ大統領が人気を全うしようとしている最近になって書かれた(“Rethinking the National Interest: American Realism for a New World”; July/August 2008)。両論文で最も重要な違いは、ライス長官がメッテルニヒ的なリアリストからウィルソン的な理想主義者に変わったことである。また、世界の安全保障をめぐる状況もクリントン政権の末期から変わった。アメリカは冷戦の脅威が去った歴史からの休暇より戻ってきた。今やアメリカは911事件を経験し、権威主義的な資本主義国の台頭にも直面している。

こうした違いに留意したうえで、私は過去のライス氏と現在のライス氏を比較してみたい。全体的な政策ガイドラインを見ると、過去のライス氏はアメリカの国益を明確にし、その優先順位に従って行動せよと強調している。また、過去のライス氏は「単独行動主義者」で、多国間の合意や機関への固執を批判している。ライス氏は京都議定書と包括的核実験禁止条約について中国やならず者国家に対する拘束力がない合意などアメリカの国益を損ねるだけだと主張している。人道的介入に関してライス氏は、人道的問題は人道を超えた政治的あるいは戦略的な考慮に基づかないと介入への最終決断はできないと主張する。

他方で現在のライス氏はアメリカ特有のリアリズムを強調し、リアリズムと理想主義の融合に基づいた人権と民主主義の拡大を力説している。過去のライス氏は冷徹なリアリズムによるアメリカの国益追求を重視していたが、現在のライス氏は先進民主主義国による共通の価値観と責任に基づいた連携を訴えている。イラク戦争への批判にもかかわらず、現在のライス氏は過去のライス氏よりもアメリカの理念を高らかに主張している。

また、現在のライス氏はアメリカの特別な役割を以下のように強調している。

おそらくより懸念すべきは、アメリカが国際政治でリーダーシップを発揮する能力を欠くことではなく、その意志を欠くことである。

ライス氏はネオコンに転向したのだろうか?そうとも言えない。ライス長官は理念と現実主義のバランスを理解している。

当然のことながら、我々の国益と理念は短期的には矛盾することもある。アメリカはNGOではなく、多くの国との複雑な関係を考慮に入れなければならない。しかし長期的には我々の安全保障は、我々の理念である自由、人権、開かれた市場、民主主義、法の支配の普及によって達成される。

コンドリーザ・ライス氏が説くアメリカ特有のリアリズムとネオコン思想の顕著な違いは、ロシアと中国に代表される権威主義的な資本主義国に対する政策に見られる。過去のライス氏も現在のライス氏もロシアと中国をアメリカ主導のグローバル経済に組み込もうとしている。過去のライス氏が東ヨーロッパや台湾海峡をめぐる中露との戦略的対立関係に言及したのに対し、現在のライス氏は両大国を国連安全保障理事会で特別な責任と影響力を分かち合う常任理事国の盟友と見なしている。これは自由な民主主義諸国と権威的な資本主義国との対立が不可避だと説くネオコンとは全く異なる。

過去のライス氏と現在のライス氏では重要視する政策課題にも違いが見られる。過去のライス氏はならず者体制について多くを語ったが、現在のライス氏は中東和平とイラクの安定について多くを語っている。ブッシュ政権がイランと北朝鮮に宥和的になったのは、これが理由かどうかは知る由はない。ライス長官はホッブス的な単独行動主義者からカント的な多国間主義者へと変貌を遂げた。しかしイラク戦争の正当性については一貫して肯定している。カント主義者への変身はイラク攻撃に対する謝罪の念からではない。左翼達はこの点をよく認識するとともに、開戦前の情報の誤りを過剰に喧伝するのは止めるべきである。

忘れてはならない!2000年の論文に記されているように、ブッシュ政権の外交政策はクリントン政権が残したものを引き継いだ。コンドリーザ・ライス氏は冷戦後の不確実性の時代に問題ごとの解決をしてきた外交政策をどのように改善すべきかを主張している。同様に、次期政権もブッシュ政権が残したものを引き継ぐ。メディアは不屈の海軍パイロットと中味空っぽなロック・スターの選挙戦に注目している。しかし、ブッシュ政権の下でアメリカ外交がどのように進展したかを理解することは重要である。よって、私はライス国務長官の二つの論文を精読して比べてみることを推奨する。読めば読むほどアメリカ外交とその将来に関する理解が深まるであろう。

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2008年7月22日

インターネットは日本の選挙と政治を変えるか?

去る7月20日に東京八重洲ホールで開催された「ネット選挙シンポジウム」に参加した。これはにほんブログ村というブロガーの人気ランキングや相互交流の推進を行なう組織からの招待であった。

インターネットによる民主主義ということで、今や世界規模で行なわれている市民のアドボカシー(政策理念追求)活動もあるのかと、私は期待していたが、内容はずっと日本の国内政治に関するものであった。とは言え政治ブログを発行しているうえに、これまでに活字メディアへの投稿も行なった者としては民主政治の根幹の一つである選挙の問題は、専門外とは言え重要な問題である。

このシンポジウムは小規模なもので、講演者とイベント運営スタッフを除けば参加者の人数は全体で100人には届かなかったであろう。議題となったのは、現行の日本の選挙法では候補者が有権者に政策理念を訴えようにも紙面などの規制に阻まれているが、インターネットの活用でこうした制約がどれだけ突破できるかであった。

最初に演壇に立ったのは投資顧問会社の株式会社フィナンシャルの木村剛社長であった。木村氏は選挙法が古い時代のままなのは、旧来の政官財の三角構造によって政治的な地位を保っている政治家にとって有権者に政策理念を訴えられる新しいタイプの政治家の台頭が歓迎できないからだと述べた。そして、インターネットによる選挙運動の緩和によって、旧来の日本政治が打破できると訴えた。

中でも注目すべきは、既存の政治家達が選挙制度の変革に及び腰なのは「民は愚かに保て」という封建時代の支配者の発想から、自分達に不都合な情報を有権者に与えたがらないためだと述べたことである。木村氏の講演内容は日本政治の専門家として名高いオランダのカレル・バン・ウォルフレン氏が「日本の権力の謎(The Enigma of Power)」で説くことにそっくりである。だが実際に金融業界で官僚の規制に直面する木村氏の議論は、ウォルフレン氏よりも改革への切迫感に満ちていた。

次いで神奈川県の福田紀彦県議会議員が自らの選挙体験から、インターネットにより候補者は有権者にどれだけ多くのメッセージが送れるかを訴えた。

その後はパネル・ディスカッションであった。司会はネット・メディア社長の平野日出木氏、パネラーにはネット企業社長の竹内謙氏と徳力基彦氏、政治インターン支援NPO代表の佐藤大吾氏であった。

講演とパネル・ディスカッションは有意義であったが、インターネットと選挙を議論するうえで候補者から有権者への一方通行の情報発信(one way communication)ばかりがとりあげられたことは残念であった。本当に候補者と有権者の情報の流れを考えるなら両者の相互情報交流(two way communication)を考えて欲しかった。

というのも、私のような一ブロガーからでも政策理念の情報発信がなされているからである。こうした質問をしようと挙手したのだが、他の参加者が指名されてしまった。

小規模なシンポジウムであったので、参加者相互の交流の場が持てればよかったと思う。一方的に講演やパネル・ディスカッションを聞くだけでは、折角の良い機会も価値が半減してしまう。

ただ、このようなイベントは今後も盛んに行なわれると良いと思う。

追記:こちらも参照を。

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2008年7月21日

イランとアメリカの微妙な経済関係

ヨーロッパ連合のハビエル・ソラーナ氏とイランのサイード・ジャリリ氏が交渉の最中にあるので、私はアメリカの対イラン輸出がブッシュ政権期に10倍に上昇したという議論を呼びそうな報道について言及したい。「悪の枢軸」という激しい非難、核不拡散とテロをめぐる対立、経済制裁といった両国関係からすれば予想外の事実である(“Despite tough talk, Iran still buys American”; AP; July 8, 2008)。

主な輸出品はタバコ、毛皮製衣類、彫刻、香水、楽器、ミリタリー・ファッションである。経済制裁の目的はイランの軍事力強化の阻止である。イラン人がアメリカの高級文化やポップ・カルチャーに関わる商品を買ったからといって特に懸念することは何もない。

問題はブッシュ政権期に小火器や航空機部品の輸出も伸びていることである。2004年には軍用ライフルが$106,635、ライフルの部品は$8,760がイランに輸出された。

より深刻なのは、イランがアメリカの軍事技術の入手に熱心なことである。イランはF14戦闘機と攻撃ヘリコプターの余剰部品を入手しようと手を尽くしている。実際にイラン・イラク戦争で深刻な航空兵力の不足に直面したのは、アメリカが戦闘用航空機の部品輸出を止めたからである。

グローバル経済は我々の自由民主主義から出てきたにもかかわらず、恩を仇で返すとは皮肉である。私はそれでも自由貿易と人的交流の拡大によって強く結びついた世界を信じている。しかし敵を打倒するためには強い規制も必要である。こうして我々の自由な世界秩序は守られるべきである。

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2008年7月19日

イランのミサイル挑発にアメリカとイスラエルはどう対応すべきか

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イランは7月9日にシャハブⅢミサイルを発射した。地図で示されているように、このミサイルの射程距離2,000kmで、ギリシアやエジプトまでカバーしている。まるでイランがアケメネス朝の領土への影響力を誇示しているかのようである。何がイランの挑発政策を動機づけているのだろうか?アメリカとイスラエルはイランを攻撃するのだろうか?

英米安全保障審議会のスティーブン・ハーゾグ氏はイランのミサイル危機について今年の7月11日付けのイラン・アップデートで全体像を記している。ミサイル実験はイスラエル空軍がギリシアと東地中海の上空で、アメリカ海軍がペルシア湾で大規模な演習を行なった直後であった。また、アメリカ国務省は核拡散に関わったイランの企業と市民への金融制裁を発表していた。

緊張の高まりにも関わらず、イランのマフムード・アフマディネジャド大統領は、アメリカとイスラエルによる攻撃はないと述べている。コンドリーザ・ライス国務長官は、アメリカは同盟国をイランの脅威から守ると断言した。一方でEUのハビエル・ソラーナ外交安全保障上級代表は、7月19日にイラン側と交渉を行なう。 

国際社会はイランにどう対処すべきだろうか?カーネギー国際平和財団のカリム・サドジャプール研究員はフォーリン・ポリシー誌とのインタビューでイランの意図について答えている(“Seven Questions: What Iran wants”; July 2008)。サドジャプール氏はイラン政治に関して第一線の専門家で、欧米メディアに定期的に寄稿している。イラン人という立場から、サドジャプール氏はイランの政府高官、宗教関係者、知識人、反体制派、学生からグラスルーツにいたる幅広い人的交流がある。

サドジャプール氏はイランが強硬なのは、最高指導者アリ・ハメネイ師が外圧に屈するとさらなる外圧を招くと信じているうえに、マフムード・アフマディネジャド大統領が2006年の中間選挙の結果からアメリカの開戦意志が弱いと踏んでいるためであると述べている。また、アメリカはイランへの攻撃も外交上の擦り寄りも、どちらもすべきでないと提言している。アフマディネジャド氏が国内での政治的指導力を高めるだけになるからというのが理由である。

イスラエルの攻撃について、サドジャプール氏は可能性が低いと見ている。イラクとシリアには奇襲攻撃を仕掛けたことがあるイスラエルだが、今回は沈黙を守っているわけではない。 

きわめて重要なことに、サドジャプール氏はイラン国民の80%が政府の統制下にあるメディアから情報を得ており、リベラルなエリートは国民全体から乖離していると指摘する。よって、アメリカかイスラエルが攻撃を行なえばアフマディネジャド氏の国内政治での基盤が強化されるだけであると主張する。

他方で同氏はアメリカとイランはイラクの統一安定を望むという点で共通の利害があると言及している。アル・カイダが跋扈するイラクは両国にとって深刻な脅威となるとサドジャプール氏は言う。

ジョン・ボルトン元国連大使(現アメリカン・エンタープライズ研究所上級フェロー)は、イランとの交渉継続を批判し、イスラエルとの強調を深めるよう主張している(”Israel, Iran and the Bomb”; Wall Street Journal; July 15, 2008)。ボルトン氏はミサイル実験を5年にわたる交渉の失敗を象徴するものと述べている。同氏は交渉が進展しない間にイランが核攻撃能力をさらに発展させたと警告する。

ボルトン氏は死活的に重要な点を述べている。しかしサドジャプール氏が述べているようにアメリカとイスラエルは攻撃に慎重である必要がある。アフマディネジャド氏を政治的に利するべきではない。ジョン・マケイン上院議員は北朝鮮やイランに代表されるならず者国家に対するミサイル防衛システムの信頼性を高める必要性が差し迫っていると強調する。私はマケイン氏の意見に賛成である。ジョン・ボルトン氏はさらに踏み込んで、アメリカはイスラエルがイランの脅威に対処するために必要な行動に出るなら何であれ妨害すべきでないと主張する。ボルトン氏は行動をためらうコストは行動から生ずるリスクよりはるかに大きいと見ている。

イランへの攻撃に関してワシントン近東政策研究所のパトリック・クローソン次長とマイケル・アイゼンスタッド上級フェローはミサイル実験より前に“The Last Resort: Consequences of Preventive Military Action against Iran”というレポートを出している。 

両氏とも外交交渉のカードとして先制攻撃は保っておくべきだと主張する。最も重要なことにクローソン氏とアイゼンスタッド氏はイランが本当に核兵器関連施設の再建を決定したのか正確に検証する必要があると強調している。今回、イランはミサイルを発射したが爆弾の実験は行なっていない。これはイランが核兵器保有の野心があるかないかを決めるボーダーライン上だと私は考える。

イランが核兵器を持てば他の中東諸国にも核保有の動きが広まることは認めながら、アイゼンスタッド氏は先制攻撃によってイランの核計画を遅らせることはできても中断させることはできないと主張する。これはアメリカがイランに擦り寄れということではない。以前の記事ではパトリック・クローソン氏がイランに対して軍事的な威嚇を活用するよう主張したことを述べた。クローソン氏は先制攻撃を行なうなら出所不明の情報よりもIAEAの査察に基づいて行なうべきだと主張している。

イラン攻撃に対する賛否に関わらず、アメリカのアプローチは転換しつつある。ガーディアン紙は、アメリカが1979年から途絶えていたテヘランの外交代表部を復活させるという議論の的になりかねない報道をしている(“Report: U.S. to Establish First Diplomatic Presence in Iran Since 1979”; FOX News; July 17, 2008)。

数週間前にはブッシュ政権は北朝鮮のテロ支援国家指定解除に踏み切った。EUのハビエル・ソラーナ外交最高責任者がイランの核交渉最高責任者のサイード・ジャリリ氏と会談を行なうに及んで、現政権はウィリアム・バーンス政務担当国務次官を会談の場に送っている(“Policy Shift Seen in U.S. Decision on Iran Talks”; New York Times; July 17, 2008)。

私は交渉そのものには反対しない。しかしイランと北朝鮮に対する最近の政策転換は誤ったメッセージを国際社会に送るのではと私は懸念している。ブッシュ大統領はならず者を相手に棍棒も持たずに穏やかに話しかけているのである。同盟国でも日本のようにこうしたチェンバレン的外交を懸念するところもある。アメリカは覇権国家の責務に基づいて行動すべきである。危険な独裁者達との対話に気安く応じることに眉をひそめるのはイスラエルだけではない。

地図:”Real or not, Iranian missile fire must stop: US”; AFP; July 10, 2008

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2008年7月12日

問い:サミットでは確固たる行動計画をまとめる義務があるのか?

洞爺湖サミットが7月7から9日にかけて北海道の洞爺湖半で開催された。亜寒帯林リゾートの麗しき夏の日々は喧騒に満ちたものとなった。反グローバル活動家はサミットを厳しく批判するが、私は以下の問いかけを発するとともに、それらに答えてゆきたい。

1・サミットでは何が何でも確固とした行動計画を出さねばならないのか?

まずサミットの歴史を振り返りたい。1970年代のニクソン・ショックと石油危機を背景に、フランスのバレリー・ジスカールデスタン大統領(当時)が主要国の指導者達による会議を開催して世界経済の運営を話し合おうと提唱したことで、1975年11月にパリ郊外のランブイエ城で初のサミットが開催された。

サミットの本来の目的は主要先進民主主義国同士のアットホームな雰囲気でグローバルな政策を率直に議論することである。よって、世界のトップを集めているこの会議は結果志向ではない。この点ではサミットは英連邦首脳会議に似ている。

ソ連のアフガニスタン侵攻の直後にイギリスのマーガレット・サッチャー首相(当時)とインドのインディラ・ガンジー首相(当時)はソ連の脅威について互いに真っ向から異なる見解を述べたが、議論は友好的に行なわれた。

反グローバル運動家や環境活動家達は最終宣言が大国間の妥協の産物だと批判する。しかし私は結果にこだわり過ぎると率直な議論を鈍らせてしまうと言いたい。むしろ、異なる意見をぶつけ合いながらも友好的に行なわれたマーガレット・サッチャー氏とインディラ・ガンジー氏の議論を思い出して欲しい。

サミットは率直な議論の場であり、条約を「生産」するための会議ではない。このことはこちらのリンクを参照すればよくわかる。

2・参加国の拡大は必要か?

絶対に不要である!サミットの基本理念は主要国の首脳が官僚機構の介入と日々の喧騒を離れて率直な議論を行なうことである。これはほとんどのサミットが首都や大都市を離れて小さな村で行なわれている理由の一つである。

問い1でも述べたように、アット・ホームな雰囲気での率直な話し合いは共通の理念や立場の国々の間で行なわれるべきである。

また多くの場合、人里離れたリゾート地では全世界から膨大な人数の客を収容しきれない。さらに参加国が拡大すれば、会議にかける準備も膨大なものとなる。こうなるともはや率直でアット・ホームな話し合いの場ではなくなる。

3・反グローバル派が言うようにサミットとは陰謀のクラブなのだろうか?

問い1と2をしっかりと検証すれば、こんなことは明らかに間違いである。彼らの執拗な主張とは異なり、サミットは意思決定の場ではなく理念と立場を共有する参加国の率直な話し合いの場である。実際に反グローバル派は政府間の会議なら何でも非難したがる。1999年のWTOシアトル会議を思い出して欲しい。反グローバル派の左翼達はシアトル会議が先進国と多国籍企業による「陰謀」の会議だとして街を破壊した。

しかし左翼連中よ忘れてはならない!サミットではいかなる条約も「生産」されてはいない。全ての宣言に拘束力があるわけではない。

結論として、サミットは理念と立場を共有する国々の会議であるべきである。この考え方で間違いはない。結果への固執と参加国の拡大は開催地に負担を強いるとともに、官僚機構の大幅な介入を招きかねない。

ともかく、サミットの真の開催目的を再確認することは重要である。それは先進民主主義国が世界の問題を議論し合う小規模で建設的な話し合いの場であるべきである。必要なら世界の指導者達は不定期で途上国を含めた会議を開催できる。本来の目的を逸脱すればサミットは荒廃してしまう。

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2008年7月 7日

北朝鮮へのテロ支援国家の指定解除に対する日本国民のショックに一言

ブッシュ政権が北朝鮮のテロ指定国家を解除すると決断したことは日本国民に大きなショックを与えた。日本と北朝鮮は拉致問題をめぐって衝突している。日本のナショナリストは晴天のへきれきに怒り、アメリカがこれほど重要な人道問題を無視してアジア太平洋地域で最も信頼できる同盟国を裏切ったと非難している。

彼らの怒りは理解できるが、日本国民は拉致で他の問題が見えなくなってはいけない。私は日本国民が北朝鮮について「拉致問題に拉致られている」と発言した民主党の岩国哲人衆議院議員のように冷酷非情であれとは言わない。日本が国際社会との強い結束によって平壌の独裁者に圧力をかけるべきだと強く信じている。また、北朝鮮のテロ支援国家指定解除が早すぎると懸念している。

現時点で国際社会は北朝鮮の核兵器を全て廃棄させたわけではない。また、この国は非合法の麻薬の輸出や通貨の偽造といった非合法の経済活動にも従事している。こうしたことから私は北朝鮮へのテロ支援国家指定解除は早すぎると認識している。

他方で日本国民は六ヶ国協議の第一目的は北朝鮮の非核化で、様々な安全保障上の問題が絡み合っていることを忘れてはならない。よって以下のことを考慮に入れるべきである。

1・北朝鮮の非核化:

究極的に日本はアメリカと共通の国益を有している。選択を迫られれば、日本国民はキム・ジョンイルに拉致された数百人の被害者よりも日本国内にいる1億2000万の住民を守るであろう。核兵器は拉致よりもはるかに深刻な脅威を日本に与えている。日本国民にはノー・モア・ヒロシマ、ナガサキなのである。アメリカの現政権は北朝鮮をテロ支援国家から外そうとしているが、この国が全ての核兵器を廃棄したわけではない。 

2・中国との地政学的競合::

歴史的に、朝鮮半島はロシアと中国のような大陸の大国に対する防壁である。イギリスとアメリカが20世紀初頭に日本による朝鮮の植民地化を認めたのは、まさにこのためである。今回の取り決めでは中国が非常に大きな役割を担ったので、北朝鮮に対する早期のテロ指定解除で朝鮮半島での中国の影響力は強まるのだろうか?

まずコンドリーザ・ライス国務長官の論文(“Diplomacy is Working on North Korea”; Wall Street Journal; June 26, 2008)から検証したい。この論文は核不拡散の問題を中心に述べており、日本人の拉致問題や中国との地政学的な競合については言及していない。

こうした問題はあるものの、六ヶ国協議に代わる解決策はないというライス長官の主張には同意する。また、長官は北朝鮮との交渉で重要な点を主張している。

北朝鮮が国際法を犯し、核兵器に固執し、周辺地域に脅威を及ぼして対決を選択するなら、アメリカだけでなく日本も韓国も中国もロシアも黙ってはいないのは2006年の核実験の時と同じである。

北朝鮮が20059月の共同宣言に記された「全ての核兵器と現行の核開発計画を破棄する」という内容を遵守して協調を選択するなら、国際社会とは望み通りの良好で安全な関係を築けるであろう。これにはアメリカも含まれる。我々には永久の敵は存在しない。

しかしライス氏が言うように北朝鮮が本当に核兵器を放棄する意志があるか見守るべきなのだろうか?この札付きのワルは国際社会に嘘をつき騙し続けてきた。リビアと違い、北朝鮮はアメリカに対して敗北を経験していない。それどころか、以前の記事で私が述べたように1968年のプエブロ号事件でのアメリカに対する勝利を誇らしげに宣伝するような国である。

ニュー・アメリカ基金でアメリカ外交戦略部長を務めるスティーブ・クレモンス上級フェローは、北朝鮮政策の軟化の背後には政治的な抗争があると指摘する(BREAKING: Bush Administration to Ask Congress on Thursday to REMOVE North Korea from TERROR WATCH LIST”; June 24, 2008 および “Chris Hill BEATS John Bolton: Bush Declares New Track for US-North Korea Relations”; June 26, 2008。どちらもthe Washington Noteに掲載)。クレモンス氏はブッシュ政権が北朝鮮とは対話をしながらイランには圧力をかけていることに疑問を呈している。また、今回の取り決めの背後には多国間主義のハト派を代表するクリストファー・ヒル氏とネオコンのタカ派を代表するジョン・ボルトン氏の抗争があると言う。

テロ支援国家指定解除に関わる問題点を理解するために、元国連大使で現在はアメリカン・エンタープライズ研究所に所属するジョン・ボルトン上級フェローの論文2点に言及したい。ウォールストリート・ジャーナルへの寄稿(“The Tragic End of Bush's North Korea Policy”; June 30, 2008で、ボルトン氏は北朝鮮が建国以来ずっとアメリカとの重要な合意を破り続けていることに警鐘を鳴らしている。

ボルトン氏は北朝鮮のテロ指定解除がもたらす甚大な悪影響を指摘している。キム・ジョンイルが権力の座に居座り、政治的にも経済的にも最大限の利益を得るようになる。さらにボルトン氏は北朝鮮がシリアとイランというテロ支援国家の核開発計画を支援したことにも言及している。そのうえ、アメリカの同盟国で北朝鮮に自国民を拉致された日本と韓国との関係にも良からぬ影響を与えていると言う。

デイリー・テレグラフへの投稿(“North Korea Nuclear Deal with U.S. ‘Like Police Truce with Mafia’”; July 1, 2008ではボルトン氏の語調はさらに強まっている。 

北朝鮮の非核化で唯一の前進は、昨年9月6日にユーフラテス河畔で完成間近だったヨンビョンに酷似したシリアの施設をイスラエル空軍が破壊した時だけである。 

気鋭の専門家が言うように、イランや北朝鮮と交渉を行なうのは警察官がマフィアと一緒にテーブルについて法の遵守という共通の利益の追求に向けて話し合おうというようなものである。ブッシュ大統領が北朝鮮と話し合いをやろうと言っているのは政権が末期症状にあることを白日の下にさらしている。

私はジョン・ボルトン氏に賛成で、あの札付きの悪者に対するテロ支援国家指定解除は早すぎると懸念している。

他方でブッシュ政権への一方的な批判はあまり有益ではない。考えてみれば、日朝平壌宣言に基づく国交正常化を決断したのは小泉政権である。しかし小泉純一郎氏はキム・ジョンイルとの外交関係の樹立がどうして必要なのか日本国民に充分な説明をしていない。その後の政権も説明はしていないし、平壌宣言は破棄されていないのである。

技術的に言えば、日本政府はホワイトハウスよりも北朝鮮に対してハト派外交なのである。ブッシュ政権は非核化に向けた交渉をしているに過ぎない。日本の右翼達はこのことを忘れてはならない!

ともかく、核問題の交渉で北朝鮮に虚偽と欺瞞を許してはならない。核で嘘がなければ、拉致でも非合法経済活動でも嘘がなくなることにつながる。アメリカと日本の北朝鮮へのアプローチはこうした観点から批判的に検証されるべきである。

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2008年7月 1日

イスラム穏健派宗教勢力の政治参加と真の中東民主化

中東の民主化はアメリカ外交の主要課題の一つである。ヨーロッパの指導者達もこの問題に取り組んでいる。しかし真の民主化はアメリカとヨーロッパの関与だけで達成できるものではない。イラクでもそうであったように、現地の市民が安定した民主国家の建設に果たす役割りはきわめて大きい。よって、アラブの視点を理解することが中東の民主化の成功につながる。

今回はカーネギー国際平和財団のアムル・ハムザウィ上級研究員がイスラム穏健派宗教勢力の役割について述べた論文に言及したい。ハムザウィ氏はアメリカに来る前はカイロ大学とベルリン自由大学で教鞭を執っていたエジプトの政治学者である。研究対象はアラブ世界の政治参加とイスラム宗教勢力の運動である。

そこでエジプトのアル・アーラム・ウィークリーへのハザウィ氏の寄稿を検証したい(“Where are now for Islamists?”; 5-11 June, 2008 中東で真の政治改革を進めるために、ハザウィ氏はイスラム宗教勢力の穏健派にもっと政治参加が認められるべきだと主張している。そうした穏健派としてモロッコ正義開発党エジプトとヨルダンのムスリム同胞団クウェート・イスラム憲政運動バーレーン・ウェルファク国民イスラム協会の名を挙げている。

ハムザウィ氏は穏健派宗教勢力の政治参加によって政治的な多元性がもたらされ、体制派と反体制派の間で政治的な力の再分配ができると主張する。ハムザウィ氏は上記のイスラム宗教勢力の穏健派はグラスルーツから広範な支持を受けていると指摘する。

思い出して欲しいのは、アメリカン・エンタープライズ研究所のフレデリック・ケーガン上級研究員がイラクの兵員増派計画を草案した際に、グラスルーツの自立支援(エンパワーメント)の重要性に言及していたことである。このことは、対テロ戦争に勝つための真の政治改革には軍事介入と並行して政治参加の拡大も必要なことを示している。ハムザウィ氏の指摘は欧米でのイデオロギー的立場がどうあれ非常に重要である。

他方でハムザウィ氏はイスラム宗教界穏健派が自分達の影響力を高めようとあまりに多くの変化を要求していることを批判する。宗教勢力は公共政策での宗教の影響力拡大を望み、社会のイスラム化と政治参加を関連づけようとしている。ハムザウィ氏はそのような要求によって穏健派が非宗教的な反体制派と柔軟な協力関係を築けずにいると言う。

そこでアムル・ハムザウィ氏は以下の提言を行なっている。

1・イスラム宗教勢力は自分達の支持基盤である大衆に対して政府と何らかの妥協をしてでも政治参加の実現を優先すべきだと説得しなければならない。穏健派を支持するグラスルーツは、自分達の社会経済的な要求は一歩一歩で達成されることを理解するべきである。

2・イスラム宗教勢力は政治参加と宗教教義の間で適性かつ現実的なバランスをとるべきである。言わば、現実主義とイデオロギーのバランスが必要である。

3・イスラム宗教勢力は宗教勧誘と政治活動を区別すべきである。政治的要求を組織化するために政党や団体を設立するなら、これは重要である。

提言3に関して、私はイスラム宗教勢力の穏健派はヨーロッパのキリスト教民主主義政党(ドイツのキリスト教民主連合イタリアのキリスト教中道民主連合など)や日本の公明党から多くを学べると考えている。

ハムザウィ氏の提言はアラブ世界を超えて通用する。例えばトルコでは近年になってイスラム復古勢力が台頭している。これはトルコ国民がEU加盟をブリュッセルから拒まれ続けること幻滅を感じているのも一因である。ケマル主義体制は何としても守られるべきだが、イスラム派を力で抑えつけることはトルコの国益に反する。

イスラム過激派を孤立させて対テロ戦争に勝つためにも、宗教勢力穏健派との対話の成功は必要不可欠である。国際社会はアラブ・イスラム世界の論客の見解にもっと注目すべきである。アムル・ハムザウィ氏は中東諸国の政府と欧米の指導者達に貴重な提言を行なっている。

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