インターネットは日本の選挙と政治を変えるか?
去る7月20日に東京八重洲ホールで開催された「ネット選挙シンポジウム」に参加した。これはにほんブログ村というブロガーの人気ランキングや相互交流の推進を行なう組織からの招待であった。
インターネットによる民主主義ということで、今や世界規模で行なわれている市民のアドボカシー(政策理念追求)活動もあるのかと、私は期待していたが、内容はずっと日本の国内政治に関するものであった。とは言え政治ブログを発行しているうえに、これまでに活字メディアへの投稿も行なった者としては民主政治の根幹の一つである選挙の問題は、専門外とは言え重要な問題である。
このシンポジウムは小規模なもので、講演者とイベント運営スタッフを除けば参加者の人数は全体で100人には届かなかったであろう。議題となったのは、現行の日本の選挙法では候補者が有権者に政策理念を訴えようにも紙面などの規制に阻まれているが、インターネットの活用でこうした制約がどれだけ突破できるかであった。
最初に演壇に立ったのは投資顧問会社の株式会社フィナンシャルの木村剛社長であった。木村氏は選挙法が古い時代のままなのは、旧来の政官財の三角構造によって政治的な地位を保っている政治家にとって有権者に政策理念を訴えられる新しいタイプの政治家の台頭が歓迎できないからだと述べた。そして、インターネットによる選挙運動の緩和によって、旧来の日本政治が打破できると訴えた。
中でも注目すべきは、既存の政治家達が選挙制度の変革に及び腰なのは「民は愚かに保て」という封建時代の支配者の発想から、自分達に不都合な情報を有権者に与えたがらないためだと述べたことである。木村氏の講演内容は日本政治の専門家として名高いオランダのカレル・バン・ウォルフレン氏が「日本の権力の謎(The Enigma of Power)」で説くことにそっくりである。だが実際に金融業界で官僚の規制に直面する木村氏の議論は、ウォルフレン氏よりも改革への切迫感に満ちていた。
次いで神奈川県の福田紀彦県議会議員が自らの選挙体験から、インターネットにより候補者は有権者にどれだけ多くのメッセージが送れるかを訴えた。
その後はパネル・ディスカッションであった。司会はネット・メディア社長の平野日出木氏、パネラーにはネット企業社長の竹内謙氏と徳力基彦氏、政治インターン支援NPO代表の佐藤大吾氏であった。
講演とパネル・ディスカッションは有意義であったが、インターネットと選挙を議論するうえで候補者から有権者への一方通行の情報発信(one way communication)ばかりがとりあげられたことは残念であった。本当に候補者と有権者の情報の流れを考えるなら両者の相互情報交流(two way communication)を考えて欲しかった。
というのも、私のような一ブロガーからでも政策理念の情報発信がなされているからである。こうした質問をしようと挙手したのだが、他の参加者が指名されてしまった。
小規模なシンポジウムであったので、参加者相互の交流の場が持てればよかったと思う。一方的に講演やパネル・ディスカッションを聞くだけでは、折角の良い機会も価値が半減してしまう。
ただ、このようなイベントは今後も盛んに行なわれると良いと思う。
追記:こちらも参照を。
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Shahさん、
木村剛氏が講演なさったのですか…一体、あの人はいつ休んでいるのでしょうか?と言うくらいハードワーカーですね。彼の言には常に賛否両論があるかと思いますが、自分の「志」に真摯でいらっしゃることは確かで、私は常々その点を尊敬している一人です。
さて、わが国において「ネット選挙」は未だに公選法の問題なんですね。もうとっくに「投票におけるネット活用実現」のための「テクニカルな問題」解決段階に入っているのかと思ってました。そして私自身、この「テクニカルな問題」がどう解決されるのか大変興味を持っています。
このテクニカルな点について、今回の米大統領選ではどこまで進むのでしょうか。
投稿: kaku | 2008年7月24日 20:32
kakuさんが常々尊敬の意を表する木村剛氏ですが、確かに強いエネルギーを感じさせる人物です。氏が日本人のお上依存体質を「水戸黄門待望論」と批判したのは印象に残りました。
それにしても、21世紀になってもウォルフレン的な日本が変わっていないのも驚きです。郵政民営化をやった、外資が参入した、などなど表面的には変わっているようですが。だからこそ、オオニシ・ノリミツのような人物が「活躍」しているのかも知れません。
アメリカのネット選挙はテクニカルでは問題ないようです。ただ、間違って最高司令官ではなくロック・スターが出てくるのは由々しきことです。もうオバハンは引っ込んでしまいましたが。
投稿: Shah亜歴 | 2008年7月29日 12:21