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2008年8月24日

ロシア・グルジア紛争の理解へ推薦サイト

グルジア情勢は日々刻々と変化している。ワシントンの新設シンクタンク、軍事研究所はロシア・グルジア紛争についての特集レポートをインターネットで公開している。この“Situation Report, Russo-Georgian Conflict”は、ロシア、グルジア、アメリカ、NATO諸国、そして近隣諸国の間での政治的あるいは軍事的な駆け引きについての分析と総括を日々更新している。

旧ソ連諸国でのロシアと欧米の抗争だけでなく、最近のレポートではポーランドのミサイル防衛もとりあげている。東ヨーロッパでのアメリカの弾道弾迎撃ミサイル配備によってロシアと欧米の駆け引きはさらに複雑になる。

このレポートを書いているのはアメリカン・エンタープライズ研究所のフレデリック・ケーガン常任研究員である。同氏はジャック・キーン陸軍大将とイラク増派計画を草案したことで余りにも有名である。ケーガン氏の経歴でも述べられているように、同氏はロシア東欧研究で学士から博士までの学位をイェール大学で取得した。実兄のロバート・ケーガン氏は軍事戦略専門家としてのフレデリック氏の能力を高く評価している。イラクでの増派が成功したのは何ら不思議ではない。このレポートでフレデリック氏が死活的に重要な分析を公表することは疑いない。

フレデリック・ケーガン氏は参照リストにロシア語の情報源を多く含めている。これはロシア語がわかる者にとって貴重である。ロシア語がわからなくても(私もそうだが)、ロシアの視点をかなり学べる。

そうしたことから、このサイトを推薦している。

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2008年8月21日

ロシアの野望はグルジアにとどまらず

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図1 (出典: "Situation Report, Russo-Georgian Conflict", Institute for the Study of War)

ロシア・グルジア紛争はユーラシア一帯にさらなる影響を及ぼすであろう。これは南オセティアをめぐる小競り合いでは収まらず、地政学、民主化促進、エネルギー資源をめぐるロシアと欧米の対決へと発展するであろう。

英国エコノミスト誌は西側がロシアの拡張主義と権威主義を受け容れないと明確に訴えるようにと主張している(“The War in Georgia: Russia Resurgent”; Economist; August 14, 2008)。スウェーデンのカール・ビルト外相は自国民保護のためというロシアの主張をヒトラーによるナチスの侵略正当化と同様だと非難している。英エコノミスト誌は南オセティア紛争を引き起こしたのはロシアに他ならないと記している。イラクとは異なり、グルジアのミケイル・サーカシュビリ大統領が地域の脅威と見なされたことは全くなかった。

そうした容認されざる行為に対し、西側はOECD、WTO、G8といった国際機関へのロシアの接触を制限してロシアに圧力をかけよと言う。さらに重要なことに、英エコノミスト誌はグルジアとウクライナのNATO加盟を遅らせるべきでないと主張している。私は冷戦後の東ヨーロッパでの民主化拡大にこの点は重要だと言いたい。

この観点から、アメリカン・エンタープライズ研究所でロシア研究部長のレオン・アロン氏はロシアの拡大志向の脅威について述べている(“What Russia's War Reveals”; USA Today; August 13, 2008)。アロン氏は最近までのロシアはプーチン氏の下で権威主語的な傾向を強めていたにも関わらず、バルト三国、ウクライナ、グルジアの親欧米政権への懲罰には慎重であったと指摘する。しかしクレムリンは一線を越えてしまい、グルジアへの攻撃は旧ソ連諸国に大きな影響を及ぼすことになる。

アロン氏はウクライナがロシアの次の攻撃目標だと警告する。同氏はプーチン氏が今年の4月に開催されたブカレスト首脳会議で「ジョージ(ブッシュ米大統領)、ウクライナは国家の体をなしていないんだ!」と言ったことに言及している。このことはプーチン首相がウクライナの主権を尊重する気が毛頭もないことを意味している。グルジアのバラ革命とウクライナのオレンジ革命は欧米による民主化の成功例なので、これはアメリカとNATO同盟国への重大な挑戦である。よってレオン・アロン氏はアメリカの次期大統領が旧ソ連邦共和国へのロシアの野心に対抗する準備を欠かさぬよう強く提言している。

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図2(出典:“The Dangers of the Safe Route: Caucasian Pipelines”; Economist; August 14, 2008)

カーネギー国際平和財団のマーサ・ブリル・オルコット上級研究員はロシアの侵攻はカスピ海地域一帯にも影響を及ぼすと指摘する(”Beyond Georgia: The Ripple Effects of Russia's Attack”; Plank; August 11, 2008)。アゼルバイジャンはナゴルノ・カラバフをめぐるアルメニアとの領土紛争でロシアの支援を求めるようになるであろう。トルクメニスタンとカザフスタンはミケイル・サーカシュビリ氏が追放されれば親露政権との関係強化を模索するかも知れない。これは石油資源の豊富な中央アジアでの力の競合で多大な影響を及ぼすであろう。

さらに英エコノミスト誌はグルジアが欧米にロシアとイランを通らなくてもよいパイプラインを提供していると指摘する(“The Dangers of the Safe Route: Caucasian Pipelines”; Economist; August 14, 2008)。図2でこれが確認できる。

ロシアの野心はグルジアにとどまらない。また、問題は地政学、エネルギー資源、そして民主化にとどまらない。ロシアは自身を含めて地域の脅威とならない小さな民主主義国を恫喝している。アメリカとヨーロッパはイランと北朝鮮の核不拡散交渉でロシアの協力が不可欠だからといって、プーチン氏の帝政時代さながらの冒険を許容すべきでない。

より恐るべきことは、これまで以上に自己肯定的になってゆく中露同盟が我々の自由主義世界秩序に挑戦を突きつけてくることである。ロシアのグルジア侵攻は自由民主主義体制と権威的資本主義体制の抗争の幕開けとなるのだろうか?グルジア紛争は世界の安全保障に多くの課題をつきつけている。

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2008年8月13日

親米・自由帝国主義政治団体として法人設立

以前より何度か法人設立の方針について記してきましたが、去る8月7日に東京都法務局田無出張所にて手続を完了しました。正式名称は「無限責任中間法人ニュー・グローバル・アメリカ」(略称New GEAR)となります。

当初はNPO法人としての設立を考えていましたが、東京都庁の担当者から公益法人とはいっても政治的な主張を掲げるものは都のNPOの基準に適していないということで中間法人へ方針転換しました。

法人化されたとはいえ、資本も人員も何も充分ではありません。そうした中でアドボカシー(政治理念主張)活動をどのように充実させてゆくかは大きな課題です。また、中間法人の制度は来年に消滅します。新制度への移行期間に社団法人にステップ・アップしなければなりません。その時にはさらに申請要求を満たす必要があります。いずれにせよ、今回の中間法人登記を次への踏み台としたいと思っています。

ちなみにグローバル・アメリカン政論はブログ界の慣習に従ってハンドル・ネームとアバターを使用していますが、リンク先の通常ホームページでは実名と写真付きで略歴を記しています。すなわち、れっきとした実名ブログとして政治の発言を発信しています。

そうしたことからも、法人化によって資本や人員を充実させ、言論の質を向上させることを目指しています。

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2008年8月 9日

イラクの現状をキーン将軍とF・ケーガン氏が視察レポート

バラク・オバマ上院議員が中東とヨーロッパを歴訪中に、アメリカン・エンタープライズ研究所では7月24日にイラクに関するパネル・ディスカッションが行なわれた(The 2008 Iraq Debate: An Assessment from the Ground)。特にジャック・キーン陸軍大将とフレデリック・ケーガン氏の名はグローバル・アメリカン政論では馴染み深い。両氏は増派計画を立案し、バラク・オバマ氏のようなイラク戦争反対派でさえその成功を認めている。大統領選挙での対抗馬となるジョン・マケイン上院議員は、このことを盛んに指摘している。

そこで、このイベントを振り返ってみたい。司会はAEIのダニエル・プレトカ所長で、3人のパネリストが各人の専門分野による分析を述べた。私がこのサイトにあるビデオを観るよう薦めるのはパネリスト達の名声のためではなく、バラク・オバマ氏をはじめとする反戦派の無責任な発言に対して明快で論理的な反論がなされているからである。3人のパネリストはイラク国内を隈なく回った。そしてライアン・クロッカー大使、デービッド・ペトレイアス陸軍大将から前線指揮官にいたるアメリカ高官とも会見した。またイラクの指導者達ともイラクの将来とこの地域でのアメリカの役割について話し合った。

実際にジョン・マケイン上院議員は、バラク・オバマ上院議員が軽率にもイラクからの早期撤退を口にした際にペトレイアス大将と前線指揮官の言うことをよく聞くようにと批判した。このパネルは増派によってアメリカの作戦がどれほど成功を収め、バラク・オバマ氏の対テロ戦略がどれほど基礎の貧弱なものか理解するうえで重要である。

まず、ジャック・キーン退役陸軍大将がアメリカ主導の多国籍軍がイラクで勝利を収めており戦争目的を達成しつつあることを明言した。アメリカは民主的で独立したイラクの国家建設で、周辺諸国への脅威とならずアメリカの安全保障の長期的なパートナーとなってもらうことである。最も重要なのは、キーン氏がイラクをテロリストの巣窟にしないという至上命題を強調したことである。

キーン大将はイラクが内戦状態を脱したと述べた。イラク市民とアメリカ兵の死傷者は減少した。散発的な攻撃は続くであろうが、イラクのテロリストが現体制を脅かすほどの攻撃を持続できなくなっている。

きわめて重要なことに、キーン大将は暴徒の乱行が目に余ると感じ始めたイラク国民はアメリカ軍との相互協力を強めていると指摘する。スンニ派はアル・カイダと戦い、シーア派はイランの影響力を排除しようとしている。またイラク軍は質的にも量的にも能力が向上し、国内の治安兵力から対外防衛兵力へと変貌を遂げようとしている。これはアメリカとイラクの関係の将来を語るうえで死活的である。

最後に、ジャック・キーン氏は増派が成功した理由を述べた。増派以前にはブッシュ政権はイラク軍の訓練に重きを置いていたが、それが反乱分子を制圧できる兵力にはなっていなかった。そこでアメリカは追加の反撃兵力の派遣を決定し、デービッド・ペトレイアス大将とライアン・クロッカー大使のもとで指導部も刷新した。

キーン将軍がイラクでの戦略的成功を概括したのを受けて、軍事問題研究所のキンバリー・ケーガン所長が政治過程の進展についての分析を述べた。キーン氏がこの講演で述べたように、かつての民族・宗派的な反乱分子は自分達の権益を訴えるうえで政治参加に方針転換を図っている。キンバリー・ケーガン氏は増派によって反乱分子は相当しても政治的な進展はないままだという広く行き渡っている誤解を批判している。そのような見解とは裏腹に、増派によって政治的進展が見られたと同氏は主張する。

ヌーリ・アル・マリキ首相はイギリス型の議院内閣制によってリーダーシップを発揮しようとしていたが、絶え間ない暴動によって憲法に基づく政治過程が阻まれていた。増派によってシーア派過激勢力を代表するムクタダ・アル・サドル師の影響力は低下した。またアル・カイダはもはやイラク政府を脅かして政治過程を妨害することはできなくなった。

キンバリー・ケーガン氏は上記の成功を要約し、増派の好影響を強調している。その結果、立法手続は前進したのである。現在、イラク国民は多用な権益とイデオロギーに基づいた真の議会制民主主義を実現しようとしている。ある程度の進展はあるが、議会制民主主義が完全には定着していない現状では来る地方選挙によって民族宗派的なグループの競合が奔走に発展する可能性もある。そのため、キンバリー・ケーガン氏はイラクでのアメリカ軍の兵員を現状で維持すべきだと主張する。

最後にフレデリック・ケーガン氏がイラクでのアメリカの作戦行動を世界の安全保障と態テロ戦争の観点から語った。同氏はイラク論争ではこの戦争が世界の中でどのような意味を持つのかが見過ごされがちだと指摘する。フレデリック・ケーガン氏はイラク戦争の目的は中東で周りから切り離された民主主義のショー・ケースを作るためではなく、アメリカの国益を強化するためであると強調している。

フレデリック・ケーガン氏がアメリカの国益を明確にしたことは、メディアと世論がしばしばこの重要な前提条件を見過ごしてアメリカはこの「非道徳的な」(もちろん、彼らの言うことだが)戦争を止めるべきだという感情的な平和主義に陥りがちなことから死活的に重要な意味を持つ。リベラル派の間で広まっているイラク戦争は対テロ戦争の本分を外れているという批判に対し、ケーガン氏は第二次大戦でフランクリン・ローズベルト大統領がパール・ハーバー攻撃にもかかわらずナチス・ドイツ打倒を第一目的にしたことに言及している。フレデリック・ケーガン氏はイラクでのアメリカ軍の駐留継続を主張するジョン・マケイン上院議員の見解を正しいとし、イラク撤退によりアフガニスタンへの兵力集中を主張するバラク・オバマ上院議員の見解を誤りと断言している。

ケーガン氏は地域戦略を巨視的にとらえたうえで、イラクをイランの拡張主義への防波堤とするよう主張している。同氏はイランがレバノンのヘズボラ、パレスチナのハマス、シリア、イラクのシーア派民兵、そしてアフガニスタンのタリバンといったテロリスト達を支援していると言う。イランとの核交渉に関して、フレデリック・ケーガン氏は屈服から対話を開始することは非常に危険だと述べている。アメリカ軍が撤退してしまえば、イランによるイラクでの影響力の拡大に障害がなくなり、それによって核交渉でのイランの立場が強まるだけである。

フレデリック・ケーガン氏はイラクのヌーリ・アル・マリキ首相もモワファク・アル・ルバイ国家安全保障担当補佐官もアメリカとの戦略協定を模索しているが、アメリカの民主党がこれに反対していると付け加えた。イラクは地政学的に中東の中央に位置し、しかもオサマ・ビン・ラディン氏とアイマン・アル・ザワヒリ氏がイラクこそ欧米と戦う最前線だと見なしていることから、ケーガン氏は民主党の近視眼的な態度を批判している。歴史的に見ればケーガン氏の言うことは的を射ていると私は思う。8世紀にイスラム帝国のアッバース朝が首都をダマスカスからバグダッドに遷したのは、こうした地政学的な配慮が重要だったからである。

メディアはマリキ首相とオバマ氏が合意したとの誤報を流した。フレデリック・ケーガン氏はマリキ氏もルバイ氏もバラク・オバマ氏のようにアメリカ軍の撤退日時を固定することには同意していないと指摘する。このことはイラクの将来を考察するうえで重要である。

私がこのイベントのビデオを観るよう強く薦めるのは、3人の専門家が一般に広く信じられているイラクへの理解がどれほど根拠薄弱かを明快に述べているからである。アメリカは勝利を収めており、イラクの新体制との戦略的協調関係も進んでいる。

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