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2008年8月 9日

イラクの現状をキーン将軍とF・ケーガン氏が視察レポート

バラク・オバマ上院議員が中東とヨーロッパを歴訪中に、アメリカン・エンタープライズ研究所では7月24日にイラクに関するパネル・ディスカッションが行なわれた(The 2008 Iraq Debate: An Assessment from the Ground)。特にジャック・キーン陸軍大将とフレデリック・ケーガン氏の名はグローバル・アメリカン政論では馴染み深い。両氏は増派計画を立案し、バラク・オバマ氏のようなイラク戦争反対派でさえその成功を認めている。大統領選挙での対抗馬となるジョン・マケイン上院議員は、このことを盛んに指摘している。

そこで、このイベントを振り返ってみたい。司会はAEIのダニエル・プレトカ所長で、3人のパネリストが各人の専門分野による分析を述べた。私がこのサイトにあるビデオを観るよう薦めるのはパネリスト達の名声のためではなく、バラク・オバマ氏をはじめとする反戦派の無責任な発言に対して明快で論理的な反論がなされているからである。3人のパネリストはイラク国内を隈なく回った。そしてライアン・クロッカー大使、デービッド・ペトレイアス陸軍大将から前線指揮官にいたるアメリカ高官とも会見した。またイラクの指導者達ともイラクの将来とこの地域でのアメリカの役割について話し合った。

実際にジョン・マケイン上院議員は、バラク・オバマ上院議員が軽率にもイラクからの早期撤退を口にした際にペトレイアス大将と前線指揮官の言うことをよく聞くようにと批判した。このパネルは増派によってアメリカの作戦がどれほど成功を収め、バラク・オバマ氏の対テロ戦略がどれほど基礎の貧弱なものか理解するうえで重要である。

まず、ジャック・キーン退役陸軍大将がアメリカ主導の多国籍軍がイラクで勝利を収めており戦争目的を達成しつつあることを明言した。アメリカは民主的で独立したイラクの国家建設で、周辺諸国への脅威とならずアメリカの安全保障の長期的なパートナーとなってもらうことである。最も重要なのは、キーン氏がイラクをテロリストの巣窟にしないという至上命題を強調したことである。

キーン大将はイラクが内戦状態を脱したと述べた。イラク市民とアメリカ兵の死傷者は減少した。散発的な攻撃は続くであろうが、イラクのテロリストが現体制を脅かすほどの攻撃を持続できなくなっている。

きわめて重要なことに、キーン大将は暴徒の乱行が目に余ると感じ始めたイラク国民はアメリカ軍との相互協力を強めていると指摘する。スンニ派はアル・カイダと戦い、シーア派はイランの影響力を排除しようとしている。またイラク軍は質的にも量的にも能力が向上し、国内の治安兵力から対外防衛兵力へと変貌を遂げようとしている。これはアメリカとイラクの関係の将来を語るうえで死活的である。

最後に、ジャック・キーン氏は増派が成功した理由を述べた。増派以前にはブッシュ政権はイラク軍の訓練に重きを置いていたが、それが反乱分子を制圧できる兵力にはなっていなかった。そこでアメリカは追加の反撃兵力の派遣を決定し、デービッド・ペトレイアス大将とライアン・クロッカー大使のもとで指導部も刷新した。

キーン将軍がイラクでの戦略的成功を概括したのを受けて、軍事問題研究所のキンバリー・ケーガン所長が政治過程の進展についての分析を述べた。キーン氏がこの講演で述べたように、かつての民族・宗派的な反乱分子は自分達の権益を訴えるうえで政治参加に方針転換を図っている。キンバリー・ケーガン氏は増派によって反乱分子は相当しても政治的な進展はないままだという広く行き渡っている誤解を批判している。そのような見解とは裏腹に、増派によって政治的進展が見られたと同氏は主張する。

ヌーリ・アル・マリキ首相はイギリス型の議院内閣制によってリーダーシップを発揮しようとしていたが、絶え間ない暴動によって憲法に基づく政治過程が阻まれていた。増派によってシーア派過激勢力を代表するムクタダ・アル・サドル師の影響力は低下した。またアル・カイダはもはやイラク政府を脅かして政治過程を妨害することはできなくなった。

キンバリー・ケーガン氏は上記の成功を要約し、増派の好影響を強調している。その結果、立法手続は前進したのである。現在、イラク国民は多用な権益とイデオロギーに基づいた真の議会制民主主義を実現しようとしている。ある程度の進展はあるが、議会制民主主義が完全には定着していない現状では来る地方選挙によって民族宗派的なグループの競合が奔走に発展する可能性もある。そのため、キンバリー・ケーガン氏はイラクでのアメリカ軍の兵員を現状で維持すべきだと主張する。

最後にフレデリック・ケーガン氏がイラクでのアメリカの作戦行動を世界の安全保障と態テロ戦争の観点から語った。同氏はイラク論争ではこの戦争が世界の中でどのような意味を持つのかが見過ごされがちだと指摘する。フレデリック・ケーガン氏はイラク戦争の目的は中東で周りから切り離された民主主義のショー・ケースを作るためではなく、アメリカの国益を強化するためであると強調している。

フレデリック・ケーガン氏がアメリカの国益を明確にしたことは、メディアと世論がしばしばこの重要な前提条件を見過ごしてアメリカはこの「非道徳的な」(もちろん、彼らの言うことだが)戦争を止めるべきだという感情的な平和主義に陥りがちなことから死活的に重要な意味を持つ。リベラル派の間で広まっているイラク戦争は対テロ戦争の本分を外れているという批判に対し、ケーガン氏は第二次大戦でフランクリン・ローズベルト大統領がパール・ハーバー攻撃にもかかわらずナチス・ドイツ打倒を第一目的にしたことに言及している。フレデリック・ケーガン氏はイラクでのアメリカ軍の駐留継続を主張するジョン・マケイン上院議員の見解を正しいとし、イラク撤退によりアフガニスタンへの兵力集中を主張するバラク・オバマ上院議員の見解を誤りと断言している。

ケーガン氏は地域戦略を巨視的にとらえたうえで、イラクをイランの拡張主義への防波堤とするよう主張している。同氏はイランがレバノンのヘズボラ、パレスチナのハマス、シリア、イラクのシーア派民兵、そしてアフガニスタンのタリバンといったテロリスト達を支援していると言う。イランとの核交渉に関して、フレデリック・ケーガン氏は屈服から対話を開始することは非常に危険だと述べている。アメリカ軍が撤退してしまえば、イランによるイラクでの影響力の拡大に障害がなくなり、それによって核交渉でのイランの立場が強まるだけである。

フレデリック・ケーガン氏はイラクのヌーリ・アル・マリキ首相もモワファク・アル・ルバイ国家安全保障担当補佐官もアメリカとの戦略協定を模索しているが、アメリカの民主党がこれに反対していると付け加えた。イラクは地政学的に中東の中央に位置し、しかもオサマ・ビン・ラディン氏とアイマン・アル・ザワヒリ氏がイラクこそ欧米と戦う最前線だと見なしていることから、ケーガン氏は民主党の近視眼的な態度を批判している。歴史的に見ればケーガン氏の言うことは的を射ていると私は思う。8世紀にイスラム帝国のアッバース朝が首都をダマスカスからバグダッドに遷したのは、こうした地政学的な配慮が重要だったからである。

メディアはマリキ首相とオバマ氏が合意したとの誤報を流した。フレデリック・ケーガン氏はマリキ氏もルバイ氏もバラク・オバマ氏のようにアメリカ軍の撤退日時を固定することには同意していないと指摘する。このことはイラクの将来を考察するうえで重要である。

私がこのイベントのビデオを観るよう強く薦めるのは、3人の専門家が一般に広く信じられているイラクへの理解がどれほど根拠薄弱かを明快に述べているからである。アメリカは勝利を収めており、イラクの新体制との戦略的協調関係も進んでいる。

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