ロシアの野望はグルジアにとどまらず
図1 (出典: "Situation Report, Russo-Georgian Conflict", Institute for the Study of War)
ロシア・グルジア紛争はユーラシア一帯にさらなる影響を及ぼすであろう。これは南オセティアをめぐる小競り合いでは収まらず、地政学、民主化促進、エネルギー資源をめぐるロシアと欧米の対決へと発展するであろう。
英国エコノミスト誌は西側がロシアの拡張主義と権威主義を受け容れないと明確に訴えるようにと主張している(“The War in Georgia: Russia Resurgent”; Economist; August 14, 2008)。スウェーデンのカール・ビルト外相は自国民保護のためというロシアの主張をヒトラーによるナチスの侵略正当化と同様だと非難している。英エコノミスト誌は南オセティア紛争を引き起こしたのはロシアに他ならないと記している。イラクとは異なり、グルジアのミケイル・サーカシュビリ大統領が地域の脅威と見なされたことは全くなかった。
そうした容認されざる行為に対し、西側はOECD、WTO、G8といった国際機関へのロシアの接触を制限してロシアに圧力をかけよと言う。さらに重要なことに、英エコノミスト誌はグルジアとウクライナのNATO加盟を遅らせるべきでないと主張している。私は冷戦後の東ヨーロッパでの民主化拡大にこの点は重要だと言いたい。
この観点から、アメリカン・エンタープライズ研究所でロシア研究部長のレオン・アロン氏はロシアの拡大志向の脅威について述べている(“What Russia's War Reveals”; USA Today; August 13, 2008)。アロン氏は最近までのロシアはプーチン氏の下で権威主語的な傾向を強めていたにも関わらず、バルト三国、ウクライナ、グルジアの親欧米政権への懲罰には慎重であったと指摘する。しかしクレムリンは一線を越えてしまい、グルジアへの攻撃は旧ソ連諸国に大きな影響を及ぼすことになる。
アロン氏はウクライナがロシアの次の攻撃目標だと警告する。同氏はプーチン氏が今年の4月に開催されたブカレスト首脳会議で「ジョージ(ブッシュ米大統領)、ウクライナは国家の体をなしていないんだ!」と言ったことに言及している。このことはプーチン首相がウクライナの主権を尊重する気が毛頭もないことを意味している。グルジアのバラ革命とウクライナのオレンジ革命は欧米による民主化の成功例なので、これはアメリカとNATO同盟国への重大な挑戦である。よってレオン・アロン氏はアメリカの次期大統領が旧ソ連邦共和国へのロシアの野心に対抗する準備を欠かさぬよう強く提言している。
図2(出典:“The Dangers of the Safe Route: Caucasian Pipelines”; Economist; August 14, 2008)
カーネギー国際平和財団のマーサ・ブリル・オルコット上級研究員はロシアの侵攻はカスピ海地域一帯にも影響を及ぼすと指摘する(”Beyond Georgia: The Ripple Effects of Russia's Attack”; Plank; August 11, 2008)。アゼルバイジャンはナゴルノ・カラバフをめぐるアルメニアとの領土紛争でロシアの支援を求めるようになるであろう。トルクメニスタンとカザフスタンはミケイル・サーカシュビリ氏が追放されれば親露政権との関係強化を模索するかも知れない。これは石油資源の豊富な中央アジアでの力の競合で多大な影響を及ぼすであろう。
さらに英エコノミスト誌はグルジアが欧米にロシアとイランを通らなくてもよいパイプラインを提供していると指摘する(“The Dangers of the Safe Route: Caucasian Pipelines”; Economist; August 14, 2008)。図2でこれが確認できる。
ロシアの野心はグルジアにとどまらない。また、問題は地政学、エネルギー資源、そして民主化にとどまらない。ロシアは自身を含めて地域の脅威とならない小さな民主主義国を恫喝している。アメリカとヨーロッパはイランと北朝鮮の核不拡散交渉でロシアの協力が不可欠だからといって、プーチン氏の帝政時代さながらの冒険を許容すべきでない。
より恐るべきことは、これまで以上に自己肯定的になってゆく中露同盟が我々の自由主義世界秩序に挑戦を突きつけてくることである。ロシアのグルジア侵攻は自由民主主義体制と権威的資本主義体制の抗争の幕開けとなるのだろうか?グルジア紛争は世界の安全保障に多くの課題をつきつけている。
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