第1回大統領選挙討論をふり返って
2008年大統領選挙の討論会はCNNの後援でジム・レーラー氏の司会のもとに9月26日にミシシッピ大学で行なわれた(テキストとビデオを参照)。討論会を前にワシントン・ポストは最近の経済危機によってバラク・オバマ上院議員がジョン・マケイン上院議員より優位に立つと報じた(“Economic Fears Give Obama Clear Lead over McCain in Poll”; Washington Post; September 24, 2008)。以前の「マケイン氏かオバマ氏か、選挙の分岐点は?」という記事で述べたように、経済が主要課題になると有権者はオバマ氏を、外交が主要課題になるとマケイン氏を選択する傾向がある。討論会直後の世論調査によるとオバマ氏がマケイン氏をリードしている。テレビ討論での印象はどうあれ、バラク・オバマ氏は国家統治の準備ができていると有権者を説得することに成功したのだろうか?
重要なことに、きわめて多くの割合の有権者は態度を決めていない。BBCは両候補のせめぎ合いは強まっていると報道している。「CBSの調査では39%がオバマ氏の勝利25%がマケイン氏の勝利、引き分けが36%となっている」ということである。テレビ討論会の直前にAPは両候補がクリントン候補支持層の取り込みで競争しており、18%の有権者は態度を保留している。どちらも相手に対して決定的に優位に立ってはいない。APは浮動票層の間で「マケイン氏はイラク、テロ、税制、腐敗、移民、そして銃規制も問題で優位にあり、オバマ氏は健康保険、同性愛結婚、ES細胞の研究、人種平等、そして教育で優位にある」と報じている(“Poll finds 18 percent of voters undecided”; AP; September 25, 2008)。
第1回テレビ討論ではこうした傾向が大きく変わったようには見えない。バラク・オバマ上院議員は有権者への印象でわずかに優位に立ったかも知れないが、BBCはオバマ氏もジョン・マケイン上院議員も経済に関して説得力のある案を示していないと述べている。逆にBBCは「マケイン氏が個々の問題では勝利を収めている」と報じている。これが注目すべきことなのは、BBCはフォークランド戦争、湾岸戦争、イラク戦争によって中道左派として余りにもよく知られているからである。
BBCのケビン・コノリー記者は「しかし中にはイラクのように民主党候補が独自の意見を戦わせた問題もあったものの、外交政策ではジョン・マケイン氏が明らかに勝利を収めていた。」と断言している。イランに関して、ジョン・マケイン氏は民主主義連盟によってならず者体制を封じ込めるという新しい案を示し、イスラエル防衛に断固とした態度を示した。バラク・オバマ氏はイランの脅威に対してこれほど強固な姿勢を印象付けられなかった。またオバマ氏はロシアの脅威に対して自身の考えを示せず、マケイン氏から帝政時代さながらの権威主義への傾倒を強めるロシアに対処するには余りにナイーブだと評されたほどである。
イラクでは何とかオバマ氏がマケイン氏との違いを見せることができた。しかし、オバマ氏はデービッド・ペトレイアス陸軍大将とイラクで会談して程なく、早期撤退の持論を修正したことを忘れてはならない。実際にイラクのホシュヤール・ゼバリ外相が国連を訪問した際にアメリカ主導の多国籍軍が経済危機を理由にイラクから急速に撤退しないよう要請した。さらにゼバリ外相はイラク政府が11月4日の大統領選挙より前にアメリカとの安全保障協定の調印を希望していると述べた。このことはイラクの指導者達がバラク・オバマ氏のイラク政策に不安を抱いていることを示す(“Iraq hopes economic crisis won't affect US troops”; International Herald Tribune; September 27, 2008)。以前の「イラクの現状をキーン将軍とF・ケーガン氏が視察レポート」という記事で述べたように、ジャック・キーン陸軍大将とアメリカン・エンタープライズ研究所のフレデリック・ケーガン氏がこのことを主張し続けている。
第1回のテレビ討論ではどちらの候補も相手をノックアウトできなかった。バラク・オバマ氏はブッシュ政権に嫌気がさした有権者層の気持ちはつかんだかも知れない。しかし外交政策でのオバマ氏の弱点は再確認された。オバマ氏は最高司令官としての準備ができていない。これを指摘したのが中道左派のBBCだということを忘れてはならない!
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FOXの調査ではマケインさんが圧勝でしたね。
オバマさんはヒラリーよりはマシと思うけどなんとなく頼りないな。
投稿: アラメイン伯 | 2008年10月 1日 20:58
オバマは経済危機や反ブッシュ感情に乗っかっているだけです。興味深いことにオバマ派はなぜ彼の方が好ましいのか理由が言えないようです。
困ったものですね。「好きになるのに理由がない」などまるで三文恋愛小説並みです。
マケイン派はきちんと理由を述べられる人が多いです。
投稿: Shah亜歴 | 2008年10月 4日 17:20