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2008年9月30日

第1回大統領選挙討論をふり返って

2008年大統領選挙の討論会はCNNの後援でジム・レーラー氏の司会のもとに926日にミシシッピ大学で行なわれた(テキストビデオを参照)。討論会を前にワシントン・ポストは最近の経済危機によってバラク・オバマ上院議員がジョン・マケイン上院議員より優位に立つと報じた(“Economic Fears Give Obama Clear Lead over McCain in Poll”; Washington Post; September 24, 2008)。以前の「マケイン氏かオバマ氏か、選挙の分岐点は?」という記事で述べたように、経済が主要課題になると有権者はオバマ氏を、外交が主要課題になるとマケイン氏を選択する傾向がある。討論会直後の世論調査によるとオバマ氏がマケイン氏をリードしている。テレビ討論での印象はどうあれ、バラク・オバマ氏は国家統治の準備ができていると有権者を説得することに成功したのだろうか?

重要なことに、きわめて多くの割合の有権者は態度を決めていない。BBCは両候補のせめぎ合いは強まっていると報道している「CBSの調査では39%がオバマ氏の勝利25%がマケイン氏の勝利、引き分けが36%となっている」ということである。テレビ討論会の直前にAPは両候補がクリントン候補支持層の取り込みで競争しており、18%の有権者は態度を保留している。どちらも相手に対して決定的に優位に立ってはいない。APは浮動票層の間で「マケイン氏はイラク、テロ、税制、腐敗、移民、そして銃規制も問題で優位にあり、オバマ氏は健康保険、同性愛結婚、ES細胞の研究、人種平等、そして教育で優位にある」と報じている(“Poll finds 18 percent of voters undecided”; AP; September 25, 2008)。

第1回テレビ討論ではこうした傾向が大きく変わったようには見えない。バラク・オバマ上院議員は有権者への印象でわずかに優位に立ったかも知れないが、BBCはオバマ氏もジョン・マケイン上院議員も経済に関して説得力のある案を示していないと述べている。逆にBBCは「マケイン氏が個々の問題では勝利を収めている」と報じている。これが注目すべきことなのは、BBCはフォークランド戦争、湾岸戦争、イラク戦争によって中道左派として余りにもよく知られているからである。

BBCのケビン・コノリー記者は「しかし中にはイラクのように民主党候補が独自の意見を戦わせた問題もあったものの、外交政策ではジョン・マケイン氏が明らかに勝利を収めていた。」と断言している。イランに関して、ジョン・マケイン氏は民主主義連盟によってならず者体制を封じ込めるという新しい案を示し、イスラエル防衛に断固とした態度を示した。バラク・オバマ氏はイランの脅威に対してこれほど強固な姿勢を印象付けられなかった。またオバマ氏はロシアの脅威に対して自身の考えを示せず、マケイン氏から帝政時代さながらの権威主義への傾倒を強めるロシアに対処するには余りにナイーブだと評されたほどである。

イラクでは何とかオバマ氏がマケイン氏との違いを見せることができた。しかし、オバマ氏はデービッド・ペトレイアス陸軍大将とイラクで会談して程なく、早期撤退の持論を修正したことを忘れてはならない。実際にイラクのホシュヤール・ゼバリ外相が国連を訪問した際にアメリカ主導の多国籍軍が経済危機を理由にイラクから急速に撤退しないよう要請した。さらにゼバリ外相はイラク政府が114日の大統領選挙より前にアメリカとの安全保障協定の調印を希望していると述べた。このことはイラクの指導者達がバラク・オバマ氏のイラク政策に不安を抱いていることを示す(“Iraq hopes economic crisis won't affect US troops”; International Herald Tribune; September 27, 2008)。以前の「イラクの現状をキーン将軍とF・ケーガン氏が視察レポート」という記事で述べたように、ジャック・キーン陸軍大将とアメリカン・エンタープライズ研究所のフレデリック・ケーガン氏がこのことを主張し続けている。

第1回のテレビ討論ではどちらの候補も相手をノックアウトできなかった。バラク・オバマ氏はブッシュ政権に嫌気がさした有権者層の気持ちはつかんだかも知れない。しかし外交政策でのオバマ氏の弱点は再確認された。オバマ氏は最高司令官としての準備ができていない。これを指摘したのが中道左派のBBCだということを忘れてはならない!

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2008年9月22日

クリケットと平和と印パ関係の安定

インドとパキスタンの国境地帯の平和と安定は核不拡散と対テロ戦争できわめて重要である。この9月には米印核協定が正式に施行され、パキスタンの大統領選挙ではアシフ・ザルダリ氏が勝利した。

最近のインド亜大陸での政治的な進展を考慮すれば、印パ関係の安定はアメリカ主導の対テロ戦争の鍵を握る要因の一つとなっているが、それはアメリカがイラクとアフガニスタンの双方への関与を深めてゆく必要があるからである。デービッド・ペトレイアス大将は9月12日のBBCとのインタビューでイラクとアフガニスタンでの米欧の軍事作戦は相互関連が強まっていると強調している。パキスタンとインド両国にとってもアメリカと西側同盟諸国と同様にアフガニスタンで過激派を打倒して民主化を定着させることは国益にかなう。

最近になって設立されたプロのクリケット・リーグによってインドとパキスタンの友好ムードが育まれ、印パ関係の発展につながるかも知れない。

インドでは、インド・クリケット・リーグ(ICL:Indian Cricket Leagueインド・プレミア・リーグ(IPL:Indian Premier Leagueという二つのプロのクリケット・リーグがある。アメリカのメジャー・リーグがカナダにもチームを置いているように、ICLにもパキスタン(そしてバングラディッシュにも)にチームがある。

ICLはインドのクリケットがワールド・カップで勝てるレベルに引き上げるために2007年に設立された。現在は以下9チームがある。

ムンバイ・チャンプス

チェンナイ・スーパースターズ

チャンディガル・ライオンズ

ハイデラバード・ヒーローズ

コルカタ・ベンガルタイガーズ

デリー・ジャイアンツ

アーメダバード・ロケッツ

パキスタンに

ラホール・バッドシャーズ

バングラディッシュに

ダッカ・ウォリアーズ

ICLの各チームのメンバーにはアングロ・アイリッシュ系の名前も見られる。これは日本のプロ野球に似ている。インドのクリケット・チームはオーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、イギリス、そしてアイルランドから選手を呼んでおり、日本の野球チームはアメリカ人の選手と契約している。そうしたことから、私はインドにある種の親近感を抱く。

ICLのチームの中で、ラホール・バッドシャーズはパキスタン代表チーム出身のパキスタン人だけの純血主義でチームを構成するという独特の方針を貫いている。これは日本のあるチームと似ている。東京の読売ジャイアンツは、1960年代半ばから1970年代初頭の黄金時代にはアングロ・アイリッシュ系の選手など自分達には必要ないと豪語していた。ジャイアンツのメンバーは最高レベルの日本人で構成されていたからである。

クリケットはインドとパキスタンの平和に寄与するのだろうか?国際メディアは核とテロにばかり目を向けがちだが、グラスルーツの交流はこれらに劣らず重要である。両国関係の安定はアフガニスタンでの戦争の行方にも重要である。パキスタン国民がICLのクリケットを楽しめるほど政情が安定している限り、アメリカ主導の多国籍軍はイラクに充分な兵力を維持できる。

イラクとアフガニスタンの作戦の相互関連は強まる一方である。だからこそ、インド亜大陸の安定はこれまで以上に重要になってくる。インドとパキスタンの関係を主要国際メディアとは違った観点から眺めることは価値のあることである。

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2008年9月 6日

世論調査.netの調査の作成

Leoregulus_croman_big この9月より世論調査.netというサイトでの調査の作成を始めました。このサイトでは政治や時事ばかりでなく社会生活や趣味などに関する世論調査を市民の視点から作っています。この調査には誰もが参加できます。

私のページはこのリンクです。そこで記されているように、専門的な話題からソフトな話題まで、幅広く調査問題を作っています。

単に選択肢を選んで答えるだけでなく、調査問題にコメントを寄せて議論に参加もできます。是非とも調査に参加して、皆様の普段からの考えを披露して多いに楽しんでください。

写真:獅子座のレグルス
自由と文明の光をburning bright, in the forest of night!

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2008年9月 2日

パキスタンのムシャラフ政権後はどうなるか?

パキスタンの混乱についてはベネジール・ブット氏の暗殺からほどない時期に投稿している。その後の事態の推移を記すことはきわめて重要である。パルベズ・ムシャラフ大統領への厳しい批判にもかかわらず、アメリカは対テロ戦争の重要な同盟国であるムシャラフ政権への対応でジレンマを抱えていた。外交問題評議会のピーター・バイナート研究員は、パキスタン情勢への対応を誤れば第二のイランにしてしまうと警告した。カーネギー国際平和財団のロバート・ケーガン上級研究員はパキスタンには他にも親米派の指導者がいるのでアメリカがムシャラフ氏に固執せぬようにと述べた。

その後、ムシャラフ氏は半年以上も権力の座を何とか維持し続けたものの、退陣を余儀なくされた。暗殺事件による混乱の直後、アメリカとイギリスは野党指導者のアシフ・ザルダリ氏とナワズ・シャリフ氏に対してパルベズ・ムシャラフ氏と協調してパキスタンの政治を安定させるよう促した(“Coming to Terms”; Economist; February 28, 2008)。

しかしムシャラフ氏の強権支配はザルダリ氏とシャリフ氏による大統領弾劾を呼び起こした。ムシャラフ氏は自身が10月の選挙で軍人の身分のまま大統領に就任したことを無効だとしたイフティカル・ムハマンド・チョードリー最高裁判事を罷免した。ザルダリ氏とシャリフ氏は憲法などものともしないこうした態度を非難し、大統領の辞任を要求した。

英エコノミスト誌は「パルベズ・ムシャラフ氏の退陣は西側同盟諸国にとって、つまずきではなく大きなチャンスだ」と主張している(“Another Bushman down”; Economist; August 21, 2008)。ムシャラフ氏がリベラルでも政教分離でもないのは、9・11以前にはタリバンを支持していたことからわかる。さらに重要なことに、ムシャラフ氏が選挙を経ずに大統領に就任したことは民主的な正当性で問題があり、パキスタンとアフガニスタンでの対テロ戦争での障害となっている。実際にブット氏の暗殺直後に国際危機グループはムシャラフ氏の辞任とパキスタンで憲法の支配の復活を勧告している(“After Bhutto's Murder: A Way Forward for Pakistan”; Asia Briefing; 2 Jamuary, 2008)。

ムシャラフ大統領の後継選挙は9月6日に行なわれ、主として故ベネジール・ブット首相の夫であるアシフ・ザルダリ氏とムシャラフ氏による1999年のクーデターで首相の座を追われたナワズ・シャリフ氏の間で争われる。次期大統領候補達はテロリストが跋扈する国を救えるのだろうか?

選挙について語る前に、パキスタンの政党について簡単に言及したい。外交問題評議会のジェイシュリー・バジョリア記者の記事が基本事項の解に役立つ(Pakistan's Institutions and Civil Society”; Backgrounder; August 25, 2008)。

パキスタン人民党(Pakistani People’s PartyPPP

アシフ・ザルダリ党首。ベネジール・ブット氏の父であるズルフィカル・アリ・ブット首相が1967年に設立した中道左派政党。社会主義インターナショナルに加盟

パキスタン・ムスリム連盟ナワズ派(Pakistan's Muslim League-NawazPML-N

ナワズ・シャリフ党首。イギリス統治下でパキスタン建国の父モハマド・アリ・ジンナーにより設立されたムスリム連盟を起源とする。1999年に当時のナワズ・シャリフ首相が追放されると、PMLはナワズ派と親ムシャラフ政権のカイド・エ・アザム派(PML-Q)に分裂。

ムシャラフ政権後のパキスタンの動向を見据えるために、パキスタンの政治学者がウルドゥー語とペルシア語で「国の友」を意味するワタンドストと題したブログに言及したい。このブログはハーバード大学ケネディー行政大学院のハッサン・アッバース研究員が運営している。アッバース氏は民主的な指導者のベネジール・ブット氏と軍事独裁者のパルベズ・ムシャラフ氏の両政権で公務に従事した経歴の持ち主である。

インターナショナル・ヘラルド・トリビューンへの投稿で、最近のザルダリ・シャリフ連合の崩壊にもかかわらずパキスタンはムシャラフ政権後の混乱を乗り越えるとアッバース氏は述べている。パキスタンは民主的制度によって独裁政治よりもうまく国政を運営できるであろうし、アッバース氏は欧米が民主化の動きを辛抱強く支持するよう主張している。

考えてみれば、冷戦期のアメリカは権威主義的あるいは腐敗した独裁政権に寛容であった。対テロ戦争ではアメリカの理念の普及が重要な課題である。パキスタンはそうした政策変更の典型的な事例である。

他方でパキスタン国民も忘れてはならないのは、過去に軍事クーデターをしばしば招いたのは議会政治家が無能であったからである。ドイツのワイマール民主主義と日本の大正デモクラシーが崩壊したのも同様な理由からである。ムシャラフ政権後の指導者は同じ誤りを繰り返してはならない。さもないとパキスタンはアル・カイダやタリバンのような過激派の手に落ちてしまう。

パキスタンの次期政権は対テロ戦略と国民の自立支援(エンパワーメント)で欧米と緊密に協力しなければならない。

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