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2008年12月21日

国歌から見るロシアの歴史

外交政策の議論にはその国の歴史を理解することが重要である。国歌は何百冊もの文献以上にその国について語っている。ブルース・リーの言葉を借りれば、その国について「考えるな、感じろ」である。ロシアが帝政、共産主義、資本主義と移り変わったほど急激なレジーム・チェンジを経験してきた国は殆どない。オックスフォード大学のアンドレイ・ゾーリン教授が述べるように、現在の資本主義ロシアさえ急激な変化の最中にある。

ロシアを感じるために、国歌を年代順に並べて振り返りたい。

最初に1830年に作曲された帝政ロシアの国歌を紹介したい。以下のビデオを観て感じてみよう。

これは非常に美しい歌である。とても国歌とは思えない。まるでキリスト教会の聖歌のようである。帝政時代の国歌の題名は“God Save the Czar”で、イギリス国歌の“God Save the Queen (or King)”に極めて似ている。しかしイギリスの国歌はここまで宗教を感じさせない。明らかにそれは近代的な政教分離の立憲君主政の国民国家の国歌である。しかし帝政ロシアの国家には宗教色が強くにじんでいる。

この国歌の宗教色が強いのは不思議ではない。キエフ公国の大公ウラジーミル1世が988年にキリスト教に改宗してからというもの、ロシアは歴史的にビザンチン正教会と強い関係があった。ビザンチン帝国が崩壊するとモスクワ公国の大公イワン3世は最後のビザンチン皇帝コンスタンチヌス11世の姪ソフィア皇女と結婚した。それ以来、ロシア皇帝が正教会の首長の地位を引き継いだ。

私はこの美しい音楽に深く感動を覚えるが、他方で帝政ロシアの封建的な後進性も感じる。歴史はそうした見方を証明している。アレクサンドル2世が農奴を解放したのは何と1861年である。1905年にはロシアは急速に近代化する日本に負けている。第一次世界大戦でツァーの軍隊はカイゼル・ドイツに歯が立たなかった。

2番目のビデオは英語の字幕つきの共産主義体制下の国歌である。これは力強く印象の強い歌である。ソ連時代にはレーニン主義の国歌が流れる中で、多くのアスリート達がオリンピックのメダル授与式で誇らしく表彰台に立った。

この国歌の歌詞を読むと、モスクワ共産党のプロパガンダに染まっていることがわかる。私は“Sing to the Motherland, home of the free”という歌詞に驚いた。共産主義が自由なのだろうか?それは違う!断じて違う!

しかしソ連邦の15の共和国の諸民族はこの歌で謳い上げられた理念を信じ込んでいた。また、ソビエト体制では愛国心と共産主義への傾倒は同一のものだったということを思い出すべきである。

ソ連国歌の英語版にはアメリカ人歌手ポール・ロブソンがナチス・ドイツへの勝利を記念して歌った別のものもある。以下のビデオを観てみよう。

これはヨセフ・スターリンへの媚びへつらい以外の何物でもない。“Long live our people, united and free”とはよくも言ったものだ。スターリンは歴史上でも最も恐ろしい独裁者の一人である。ソ連人でさえその名を聞いて震え上がった。

ついに1991年にソ連は崩壊し、それに従って国歌も変更された。

この国歌はロマノフ朝時代のものの美しさもなければ、ソビエト時代のものの力強さもない。エリツィン時代のロシアの地位の低下を象徴するかのように、ただの平凡な音楽にしか聞こえない。

ウラジーミル・プーチン氏が2000年に大統領に就任すると、ソビエト時代の国歌を復活させたが歌詞は変えている。以下のビデオには英語とロシア語の歌詞がついている。

観てわかるように、共産党のプロパガンダは削除されている。ロシアは資本主義国になったが、国民はソ連時代の強さを懐かしんでいる。不思議なことにロシア国民は帝政時代の伝統とソビエト時代の強さの両方に誇りを持っている。

上のビデオは2005年6月12日のロシアの日にモスクワの赤の広場で開催されたコンサートである。当時のプーチン大統領は「露流」のポップ・スター達と一緒に国歌を歌っている。ビデオではロマノフ朝の紋章である双頭の鷲がステージをおおうアーチの上の辺りにある。イデオロギーから言えば、ソビエト時代のメロディーとロマノフの紋章は相容れない。こうした不釣合いな組み合わせが今日のロシアのナショナリズムを象徴している。

私はこの記事がウラジーミル・プーチン氏の指導下にあるロシアのナショナリズムを感じるうえで一役かえればと望んでいる。また。ロシアの歴史を感じるためにも一役かえればと望んでいる。考えるな、感じるんだ!

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