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2008年12月12日

ロシアで燃え上がるナショナリズムの背景

自由世界は共産主義を破ったかも知れないが、我々は本当に冷戦に勝ったのだろうか?最近はロシアの再台頭が口にされるが、考えてみればこの国は今もアメリカとほぼ同等の巨大な核戦力を持つ大国である。また、ロシアはアメリカに次ぐ世界第2位の武器輸出国でもある

ソ連崩壊後のロシアではアメリカ人やイギリス人の経済学者が資本主義と市場経済の伝道師となったかも知れない。しかしロシアに西側の軍隊が駐留して赤軍の武装を解除したわけではない。いわば、ソ連崩壊後のロシアは第二次世界大戦に敗れた日本とドイツとは事情が異なるのである。実際に私は自由世界の多くの人達と同様に最近までこの点を見過ごしてきた。

英国エコノミスト誌はロシアの特集を掲載している。このレポートはエコノミスト誌モスクワ特派員のアルカディ・オストロフスキー氏が執筆し、プーチン政権とメドベージェフ政権の下でのロシアの外交と内政について広い範囲にわたって有益な分析がなされている。非常に興味深いことに、オストロフスキー氏はロシアで反米感情が広まっているのは旧態依然の共産主義者の間でなく、経済的に成功を収めた西欧化した財界人の間であると指摘している。それではこの特集を振り返りたい。

オストロフスキー氏は現状を以下のように要約している(“RUSSIA: Enigma variations”; Economist; November 27, 2008)。ロシアは自国の政府が言うような自由で民主的な国とはなっていない。また、ウラディミール・プーチン氏とドミトリー・メドベージェフ氏はグルジアへの侵攻、アメリカのミサイル防衛システムに対抗してカリングラードへの短距離ミサイルの配備といったような欧米に対する強硬な態度をとっている。さらにクレムリンはブラーバという新しい潜水艦発射ミサイルの生産を決定した(“Russia starts production of new ballistic missiles”; Reuters; December 1, 2008)。以前にグローバル・アメリカン政論ではアメリカが核兵器の生産を長年にわたって行なっていないというロバート・ゲーツ国防長官の発言を引用した。アメリカは重大な挑戦を突きつけられている

ソ連崩壊後のロシアの有力財界人は欧米と強固なつながりがあるが、これがプーチン氏のナショナリスト政策を阻むことはない。プーチン氏は自らをソ連崩壊後の混乱による恥辱から立ち上がったロシア愛国主義の象徴と位置づけている。

非常に興味深いことに、オストロフスキー氏はロシアがアメリカと愛憎相半ばする関係にあると指摘する。同氏はロシアの西欧化したエリート達の間での反米感情は、ロシアがアメリカと政治的にも経済的にも違わない国だとの信条からであると言う。そうしたエリート達は欧米が説く自由民主主義を偽善と受け止めている。しかしロシアの新興エリート達も欧米に負けず劣らず偽善的である。オストロフスキー氏はカーネギー国際平和財団モスクワ・センターのリリア・シェブツォバ上級研究員の発言を引用し、ロシアのエリート達は西欧的な生活スタイルを満喫しながら、欧米の民主的な統治形態を拒絶していると主張する。シェブツォバ氏は「アメリカと西欧諸国に対する敵対感情によって権威主義的で腐敗した不労所得を貪るエリート達がのさばり、彼らの狭い企業利益が国益にされてしまう」と言う。オストロフスキー氏は「アメリカに対する模倣と反発を同時に抱えながら、ロシアは自国に相容れない民主主義や法の支配といった価値観を排除しようとしている」と明言する。

オックスフォード大学のアンドレイ・ゾーリン教授はロシアは国民国家になりきっていないが、その形成過程では醜いナショナリズムがはびこるであろう」と述べている。オストロフスキー氏は、第一次世界大戦後のドイツで連合国に対する怒りが広まったように冷戦後のアメリカの勝ち誇った態度はロシアのナショナリズムを刺激しているというロシアのリベラル派の見方を紹介している(“RUSSIA: Handle with care”; Economist; November 27, 2008)。同氏は東ヨーロッパへのミサイル防衛システムの配備、NATOへのウクライナとグルジアの加盟の議論によってロシアのタカ派が勢いづいていると主張する。後者は122日から3日にかけてブリュッセルで開催されたNATO外相会議で重要な議題となった。

同時に、ロシアでナショナリズムを台頭させているのは内政であると指摘している。アメリカは間接要因である。オストロフスキー氏は現在のロシアは冷戦期のソ連より危険だと指摘する。

この特集はロシアの新興エリートと国民全体の心理について貴重な分析を行なっている。イギリス人やアメリカ人の記者がオストロフスキー氏ほど深く踏み込んだ分析をすることは難しい。しかし特集の内容にはロシア人の視点に立ち過ぎたと思われる箇所もある。ミサイル防衛からNATO拡大に至るまで、新しいヨーロッパを取り込むことはヨーロッパ大西洋地域の安全保障の再構築に重要な課題である。この記事は注意深く読む必要がある。

オストロフスキー氏はさらにこの特集でロシアの内政と経済についても詳細に分析している。最後に、同氏の発言のオーディオをこちらのリンクより聴いて欲しい。全体的にはこの特集はロシアを理解するために欧米とロシアの視点をバランス良く取り上げている。そうしたことから、私はこの特集を推薦する。

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