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2008年12月31日

本当にチェンジしたのはアメリカでなくオバマ氏である

バラク・オバマ次期大統領は彼の政権の人事配置を殆ど完了している。これは尋常ならぬ早いペースである。民主党でも最左翼の上院議員が中道派政権の大統領に変貌しつつあることは注目に値する。オバマ氏はなぜこれほどまでに急激なチェンジをしたのだろか?

選挙の直後にはオバマ氏の当選に保守派が激怒したのは明らかであった。以下のビデオはジョン・マケイン氏によるオバマ氏への当選祝辞演説である。マケイン氏はリベラル過激派の次期大統領選出に怒りをあらわにする自分の支持者を宥めている。

彼らの怒りがオバマ氏に通じたのかも知れない。次期大統領は人種とイデオロギーのバランスを考慮して閣僚人事を行なっている。以下の表に示すように、政権移行のペースはかつて例がないほど早い。

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また、オバマ政権の閣僚についてはこちらのリンクより参照願いたい。

ウォールストリート・ジャーナルはオバマ政権の性格について何点かを指摘している。ブッシュ政権はアルミ、鉄道、金融といった企業のトップを入閣させたが、オバマ政権には実業界の大物は少ない。また、オバマ氏は重要閣僚ポストをあまり親しくない人物に与えている。

これは国家安全保障に関するポストで顕著である。国務長官に任命したヒラリー・ロッダム・クリントン氏は大統領選挙での民主党指名をめぐって争った。国防長官となるロバート・ゲーツ氏はブッシュ政権の閣僚である。ゲーツ氏はジョージ・W・ブッシュ氏の他にも共和党の大統領の下で働いている。ジェームズ・ジョーンズ国家安全保障担当補佐官はかつてマケイン氏の下で働いており、今もマケイン氏と深い関係にある。いわば、オバマ政権にジョン・マケイン氏が入閣するのも同然の人事なのである。

他方でオバマ氏に忠実なリベラル派が重要ポストから外されている。同性愛擁護、労働、環境といった問題の活動家達は、内務長官、労働長官、環境長官から外された。

民主党の支持者は表向き、オバマ政権の人事に不満を漏らしてはいない。しかしオバマ氏を救世主と仰ぎ平伏して礼賛(bow down and praise)した者が裏切られているのは明らかである(“Obama Sets Fast Pace for Transition”; Wall Street Journal; December 22, 2008)。

英国エコノミスト誌はバラク・オバマ氏の閣僚人事がバランスのとれたものだと好評価している。しかし「大物入閣が多いと閣僚同士の競争をオバマ氏がどのように仲介できるかが問題である」とも述べている(“Barack Obama: A well-stocked cabinet”; Economist; December 22, 2008)。

選挙直後にジョン・ボルトン元国連大使も同様なことを述べている。ボルトン氏はオバマ氏に以下のように提言している(“Letter to the President-Elect”; AEI Online; November 13, 2008 & also, in Daily Telegraph; November 5, 2008)。

ジョージ・W・ブッシュ大統領はこのことに留意していたが、政権の1期目では国家安全保障に関して見解の相違を克服するのに苦労した。的確な決断はなされず、閣僚の間の意見の対立も解消されず、政策は一貫性も方向性もなく揺れ動いた。

皮肉にもブッシュ政権の2期目は反対の過ちを犯し、重要な局面で意見が一つにまとまるまで大統領には助言できなかった。貴方はどちらの誤りも避け、問題を素早く把握しなければならない。貴方は様々な進言を調整はしても自らの立場がぶれてはならない。一度決断を下したなら、その論理を徹底しなければならない。

産経新聞ワシントン支局長の古森義久氏はAFL-CIOが上院時代のオバマ氏を最もリベラルな議員だと認定したと指摘する(「次期アメリカ大統領の本来の過激リベラル志向――バラク・フセイン・オバマの光と影(7)」;ステージ風発;2008年12月20日)。

オバマ氏はどのようにして中道派に変貌を遂げたのだろうか?ワシントンでの経験の豊富な古森氏もこの問題の鍵を見出せない(「オバマ新政権をどう読むか」;ステージ風発;2008年12月11日)。古森氏の困惑は私も理解できる。オバマ氏の主要課題は経済で、この分野での閣僚選択はクリントン人脈に大きく頼っている。古森氏はオバマ氏がクリントン人脈や共和党系の閣僚を入閣させた理由を問うている。オバマ氏は共和党系やクリントン人脈の助けを借りる必要があっても自らの過激左派思想を貫ける自信があるのだろうか?これも理由ではあるだろう。しかし上院で3年の経験しかないオバマ氏には政治信条を超えた協力をとりつける必要に迫られていると私は考える。このことはワシントン政界でのオバマ氏の人脈が弱いことを示す。

オバマ氏の政権移行作業は一見すると円滑であるが、それでも任命に手間取っているポストもある。CIA長官は対テロ戦争の重要ポストである。しかしCIA官僚機構とブッシュ政権のグアンタナモ捕虜処遇を非難するリベラル派の狭間で(“Obama Faces CIA Appointment Dilemma”; Washington Independent; Decenber 12, 2008)、オバマ氏のCIA長官人事は難航している(“No One Wants to Be CIA Director Thanks To Bush”; Washington Independent; December 30, 2008)。

本当にチェンジしたのはアメリカではなくオバマ氏である。ジョン・マケイン氏が選挙期間中にオバマ氏が当選しても心配することはないと言って自分の支持者を宥めたことは正しかった。今や3年生の坊やは合衆国大統領の何たるかを学んでいる。これはまさにOJTである。ジョセフ・バイデン次期大統領が述べたように世界は6ヶ月以内にオバマ氏を試すのだろうか?その時にオバマ坊やの家庭教師となるのはバイデン氏自身である。

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