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2009年2月21日

アフガニスタンでの新戦略とアメリカの対同盟国関係

アフガニスタンでの反乱分子の勢力が強まる現状に鑑みて、バラク・オバマ大統領は兵員の増強を表明した。新たに増強された兵力は南部と東部に配置され、タリバンが暖かい季節に仕掛ける攻撃を押し返すことになる。また、アフガニスタン陸軍への訓練と8月の国政選挙に向けた治安維持活動も担う。オバマ氏はNATO同盟諸国にもこの方針に協調するように要請する(“More Troops Headed to Afghanistan: Obama Boosting U.S. Force by Nearly 50% to Address 'Deteriorating Situation'”; Washington Post; February 18, 2009)。また、同盟国の中でも日本などはアメリカとNATO諸国のアフガニスタンでの作戦への貢献を要請されるであろう。これは驚くべきことではない。オバマ氏は対テロ戦争でアメリカがイラクから撤退してアフガニスタンに集中すべきだと主張していた。

オバマ大統領の表明の前にカーネギー国際平和財団ではアフガニスタンの新戦略が議論された。今年の1月に“Focus and Exit: An Alternative Strategy for the Afghan War”というレポートが刊行されたことを受けて、23日にはイベントが開催された(ビデオはこちら)。レポートの著者であるギーユ・ドロンソロ訪問研究員はアフガニスタンでの対テロ戦略の大幅な見直しを提言している。ドロンソロ氏は現在、フランス国立アナトリア研究所の準会員でもある。

このレポートでドロンソロ氏は、増派だけでアフガニスタンの事態改善は望めず、欧米の戦略目的は明確に絞られるべきだと主張する。欧米の作戦行動は麻薬撲滅のような本筋から外れた問題まで拡大すべきでないとも述べている。ドロンソロ氏はアフガニスタン政府がアメリカ軍とNATO軍の撤退後にも自立できるようにすることが主要目的だと主張する。さらにドロンソロ氏は欧米がパキスタンに圧力をかけても効果は期待できないとも述べている。またアフガニスタン近隣のインド、イラン、ロシアとの対話も提言している。ドロンソロ氏は最終的にこの戦争をアフガン化するよう主張している。

他方、カーネギー国際平和財団のアシュリー・テリス上級研究員と国防大学で近東・南アジア研究所長を務めるデービッド・バーノ退役陸軍中将は、ドロンソロ氏のアフガン化戦略に反論している。イベントの内容を振り返りたい。

最初にギーユ・ドロンソロ氏が自らの見解を述べた。ドロンソロ氏は欧米がタリバンの伝統的な勢力基盤である南部や東部ばかりかパキスタンのトライバル・エリアにまで戦線を拡大することはやめ、カブール地域の治安に集中すべきだと主張する。ドロンソロ氏は欧米が勝利を追及するにはもはや手遅れで、アメリカもNATO同盟諸国も反乱分子を根絶するだけの資金や人員を持ち合わせていないと言う。そのためドロンソロ氏は欧米多国籍軍が撤退する前にアフガニスタン政府が親の国民国家を建設できるよう支援すべきだと主張する。

他方でアシュリー・テリス氏はアメリカがこの戦争に勝たねばならないと主張する。同盟国が増派に貢献できないなら、アメリカはアフガニスタンのテロ掃討に単独でも行動しなければならないとも言う。テリス氏はアメリカのアフガニスタンでの兵力投入のあり方が間違っていると主張する。

テリス氏がタリバンを3つのグループに分け、それぞれに対して違った戦略をとるべきだと主張したことは注目に値する。第一のカテゴリーは正真正銘のタリバン兵である。第二は自分達の地域でのタリバンの活動を支援している部族長や村長達である。第三は日雇いの傭兵で、テリス氏はレンタ・タリバンと呼んでいる。 

テリス氏はアメリカがアフガニスタンをテロリストによる本土攻撃拠点として利用させてはならないと言う。きわめて重要なことに、テリス氏はテロリストが勢いを増したのはアメリカが2005年に多国籍軍とパキスタンへの権限委譲を表明してからだと指摘する。テリス氏によると、反乱分子がアメリカは戦争から手を引きたがっていると解釈したということである。私はテリス氏の議論とイラク論争にある種の共通点を見ている。増派以前にはリベラル派がイラクに関して似たような議論をしていたが、後にこれが誤りだと明らかになった。

デービッド・バーノ中将はアシュリー・テリス氏と意見が殆ど一致している。アフガニスタンで司令官を歴任したバーノ氏は、タリバンの勢力が強まったのはアフガニスタンの統治が混乱しているためで、外国軍の存在が理由ではないと指摘する。資金や人員に関しては、アフガニスタンでの作戦は経済支援策とイラクとも予算をめぐって競合関係にあるという。バーノ中将はアフガニスタンの戦争は国益のうえから死活的に重要であり、アメリカはイスラム過激派を妥当しなくてはならないと主張する。

デービッド・バーノ氏が述べた最も重要なことは以下の通りである。

撤退が究極の目的だなどと言えば、それを待つ敵が勢いを増すだけである。数ヶ月前にイラクに駐留した国際部隊の士官と夕食をともにしたが、その内の一人はアンバール州で作戦に従事したアメリカ陸軍の旅団長だった。その旅団長が言うには、アメリカが「心配ない、我々は撤退する」と言うことをやめて「心配ない、我々は留まる」と言うまでアンバール州での現地部族との作戦協力に関して進展はなかったという。我々の態度が変わってからは現地部族も協力的になり、我々の言うことも信頼されるようになった。

バーノ氏は効果的で適切に組織化された戦略によってアメリカがこの戦争に勝てると結論づけている。

三人のパネリストは重要な点について述べたが、私には軍事戦略に議論が集中しすぎているように思える。これは共産主義者の打倒にのみ精力を注いだ冷戦さながらのアプローチとも言える。対テロ戦争では市民の自立支援(エンパワーメント)も重要な課題で、統治の失敗がテロ活動を刺激していることを忘れてはならない。

ボイス・オブ・アメリカのアフガニスタン支局員であるサティファル・ハルシミ氏が市民の支援について質問した。ドロンソロ氏は多国籍軍が負けてしまった現状では欧米の援助はアフガニスタン政府を通じて行なわれるべきだと答えた。バーノ氏はこれに反論し、欧米軍は勝てると述べた。

パネリストの間での見解の相違は、原因と結果の評価の違いによる。私はイラクでの増派と戦略刷新が成功したことからバーノ中将の発言に最も説得力があると思える。また、9・11テロ攻撃の際にアフガニスタンには外国軍は全く存在していなかった。 

問題は、NATO同盟諸国はアフガニスタンへの関与の拡大に消極的なことである。2月18日から20日にかけてポーランドのクラカウで開催されたNATO国防相会議では、イギリスのジョン・ハットン国防相がタリバンとアル・カイダの打倒にヨーロッパ諸国が兵員増強をすべきだというアメリカのロバート・ゲーツ国防長官の主張を支持した(“Afghanistan, Georgia, Ukraine Top Agenda For NATO Defense Ministers”: Radio Free Europe, 19 February 2009)。イラクをめぐって見られたようなアメリカ(そしてイギリスも)という保安官とヨーロッパという酒場の主人の立場の違いは克服されていない。アフガン戦争によってこの食い違いが明らかになった。

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