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2009年2月27日

オバマ大統領の国防費削減がはらむ危険

現在、アメリカの保守派はオバマ大統領の経済支援策に深刻な懸念を表明している。オバマ氏は政府支出を増大させながら、国防予算は削減する方向である。アメリカと自由主義同盟諸国が安全保障上の新たな課題に直面している現状から、カーネギー国際平和財団のロバート・ケーガン上級研究員は大統領が提案する国防費削減によってアメリカの国益が損なわれると警告する(“No Time to Cut Defense”; Washington Post; February 3, 2009)。さらにハーバード大学のマーティン・フェルドスタイン教授の投稿を引用したケーガン氏は、国防費の削減は経済刺激策の根底にあるケインズ経済哲学とは矛盾すると批判している。我々はオバマ大統領が合衆国の帝国主義的な役割をどのように考えているのかという疑問を突きつける必要がある。国防予算だけが問題なのではない。以前の記事で私が述べたようなロバート・ゲーツ国防長官の警告にもかかわらず、オバマ大統領はアメリカが抱える古い核弾頭を新しくしようとは思っていないようである。いくつかの論説を参照しながら、この案件に関して問題のある点を検証したい。

ロバート・ケーガン氏は国防費の削減によってアメリカの同盟国は狼狽し、安全保障での協力を得ようという努力にも支障をきたすと警告する。直前の記事でデービッド・バーノ陸軍中将の発言を引用したように、アメリカは「心配ない、我々は撤退する」ではなく「心配ない、我々は留まる」と言うべきである。さらにイランのような敵対勢力は国防費の削減をアメリカが圧倒的優位を喪失したことの証と見なしてしまう。元イラク戦士のピート・ヘグセス退役陸軍大尉が述べているように「オバマ氏ではアメリカの敵になめられる」のである。

興味深いことに共和党議員の中には不必要な歳出は財政赤字を拡大させるだけなので、国防費よりも対外開発援助の支出を削減すべきだとの声も挙がっている。これも大統領が国防費削減を説得するうえで課題となる。

オバマ氏が国防費削減によって経済立て直しをはかっていることについては、マーティン・フェルドスタイン氏は論理的に破綻していると指摘する。

大幅な財政支出が必要だと言うなら、国防予算も増額すべきである。・・・・軍の備品調達を大きく伸ばすこともできる。・・・・国内の軍事基地への公共投資なら民間部門への公共投資より迅速に行なうことができる。軍事調達の圧倒的大部分はアメリカ製である。・・・・さらに軍の人員採用と訓練を拡大すれば雇用の増大に直接つながり、これが民間への熟練労働力の提供につながると同時に軍の予備役の人員も増加させられる。“An $800 Billion Mistake”; Washington Post; January 29, 2009

一体、オバマ大統領はアメリカを強くしようとしているのだろうか、それとも弱くしようとしているのだろうか?

歳出削減だけがオバマ氏の国防政策で疑問を呈すべき問題ではない。オバマ氏はロシアに相互の大幅な核削減を提案している。他方でゲーツ国防長官はアメリカが古い弾頭に代わる信頼性のある核弾頭を装備して現在の抑止力を維持すべきだと強調する。またゲーツ氏はオバマ氏が包括的核実験禁止条約を推進しようとしていることにも懸念を表明している(“Nuclear agenda draws scrutiny: Obama to seek large cuts in US, Russian warheads”; Boston Globe; February 22, 2009)。

ゲーツ長官は「現在、核保有を明言している国の中でアメリカだけが核兵器の近代化も行なわず新しい核弾頭の生産能力もない」と発言し、「率直に言って今ある核弾頭の実験を行なうか核兵器の近代化に着手しないと、信頼のできる抑止力の維持も核兵器の削減もできない」とまで言っている。

オバマ大統領は2月24日に行なった上下両院合同の議会演説では国防計画については多くを語らなかった。大統領は「友好国と同盟国とともにアフガニスタンとパキスタンでの戦略を全面的に見直し、アル・カイダの打倒と過激派との戦いに全力を挙げる。私はテロリストが地球の裏側にある巣窟からアメリカ国民を襲う陰謀をたくらむことを許さないからである」と言った。これは正しいが、オバマ氏は削減された国防費でアメリカがどのようにテロリストの陰謀を阻止するのかを語らなかった。さらに重要なことに、オバマ氏はイランと北朝鮮の脅威の増大にも、ロシアと中国の危険な挑戦にも言及しなかった(“Obama's Address to Congress”; NPR; February 24, 2009)。

私にはオバマ大統領は、安全保障の維持と民主主義連盟のリーダーとして国際公共財を提供するというアメリカの特別な役割には関心がないように思えてくる。オバマ大統領が自ら三顧の礼をもって政権に招いたほどの専門家であるゲーツ長官の意見を尊重しないことは奇妙である。また、大統領は全米経済調査審議会の名誉会長であるフェルドスタイン教授が指摘する論理的な矛盾も意に介していない。

正しいか間違っているかはともかく、オバマ大統領は経済には最善の努力で取り組んでいる。このことには疑いの余地はない。しかし国家と世界規模の安全保障に対するオバマ氏の取り組みには疑問を呈さざるを得ない。ロバート・ケーガン氏はきわめて重大な懸念を指摘している。

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コメント

国防予算を削減しながら、アフガン増派を行ないテロとの戦いでの勝利を目指す。ずいぶんアクロバティックな話のように思われます。
核弾頭近代化の問題でも理解に苦しむ対応です。核兵器の削減は、抑止力を維持しながら行うことが最重要であるのに。
アメリカが国際公共財として安全保障を提供しないと、世界の不安定さが増すに違いありません。

オバマ政権としてはイラクの兵力をアフガニスタンに差し向ける考えのようです。効果を疑問視される大規模な経済支援と国防力の削減をするような大統領の選出を後押ししたメディアの責任は重大です。

ただオバマが何者であろうともポストに敬礼だけはしないといけないのも・・・。

NATO・ロシア会議でも見られたようにオバマ政権は同盟国よりロシアと中国を重視しているのかという疑念を抱きます。

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