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2009年3月10日

英米特別関係もまたチェンジか?

イギリスのゴードン・ブラウン首相はアメリカのバラク・オバマ大統領との会談と議会での演説のために3月3日から4日にかけてワシントンを訪問した。メディアはオバマ大統領がブラウン首相をどのようにもてなすかに注目したが、事の推移はNATO会議も含めた大臣会談ともセットで見守るべきである。

大西洋の両側でオピニオン・リーダー達はバラク・オバマ氏の大統領就任演説でイギリスへの言及が少なかったことを特別関係のチェンジだと解釈している。メディアの論調に言及してみたい。デイリー・テレグラフ紙はホワイト・ハウスのロバート・ギブス報道官が特別関係とは言わずに「アメリカとイギリスは互いに特別なパートナーシップにある」と言ったことに注目している。ニュー・アメリカ財団のステーブン・クレモンス上級フェローは、現政権はイギリスが目覚しい貢献をしない限り特別関係など認めないだろうと言う。他方でデービッド・ミリバンド外相とサー・ナイジェル・シャインウォルド駐米大使はイギリスがグローバル経済、アフガニスタン、パキスタン、イランといった課題で大きく貢献していると強調するWill Barack Obama end Britain's special relationship with America?”; Daily Telegraph; 29 February, 2009)。

ニューズ・ウィークは特別関係にもっと懐疑的である。唯一の超大国ならドイツ、フランス、日本、中国、サウジアラビアというようにどんな国とでも特別関係を築き上げることができる。ニューズ・ウィークはイギリスにグローバルな場面でアメリカと共に行動することで「自らの体重以上のパンチを繰り出す」という考え方をやめるようにと主張している。むしろイギリスは自らのソフトパワーに自信を持ってアメリカと距離を置くべきだと記者は主張している。イギリスにはトップ・クラスの大学もあり、議会政治の母国としての役割とともにシティーという金融インフラも備えている(“An Island, Lost At Sea”; News Week; February 14, 2009)。

イングランドにあるダラム大学のジョン・ダンブレル教授は英米特別関係が防衛と諜報の分野で確かに存在するが、両国の関係の互恵性には問題もあると言う。ダンブレル氏は安全保障での英米協調の重要課題がトニー・ブレア政権期の軍事介入から、ゴードン・ブラウン政権では2008年4月にボストンのケネディ図書館での演説に見られるようなソフトパワーの普及に移っていると指摘する。イギリスは対テロ戦争でアメリカへの最大の貢献国であるが、ワシントンの政策過程ではイギリス側の意見が必ずしも反映されていない。グアンタナモでのイギリス国籍の囚人の処遇は典型的な例である。こうした不均衡はアメリカが世界の覇権を握る立場であるという事情とともに、政治過程に統一性がないためである。ホワイト・ハウスと議会、連邦政府と州政府、省庁間の対立といった事柄がその原因である(“The US–UK Special Relationship: Taking the 21st-Century Temperature”; British Journal of Politics and International Relations; Vol. 11, Issue 1, 2009)。

オバマ大統領は非常に「現実的」なので、アングロ・サクソンの兄弟関係を重視しないというのは事実である。ニューズ・ウィークがオバマ氏は黒人初の大統領であることに言及したことは的を射ている。実際にオバマ氏は自分に忠実な何人かのリベラル派の入閣を拒絶するほど「冷血」でもある。この観点からすると、英米関係はよりビジネス・ライクなものにチェンジするであろう。

ブラウン首相がホワイト・ハウスと議会を訪問する前に、イギリスとアメリカは大臣級の会談を重ねてきた。デービッド・ミリバンド外相は2月3日にヒラリー・ロッダム・クリントン国務長官と会談し、2月19日から20日にポーランドのクラカウで開催されたNATO国防相会議でも両国の大臣が顔を合わせた。米英首脳会談の後にクリントン長官は3月5日にブリュッセルで開催されたNATO・ロシア会議に出席した。上記の会議では重要な安全保障問題が議論された。二国間の外相会談で英米両国はアフガニスタンとパキスタンへの関与を強めることを確認した(“Press Conference with Secretary of State Hillary Rodham Clinton”; UK Foreign & Commonwealth Office Newsroom; 3 February 2009)。NATO会議ではアフガニスタン、ウクライナ、グルジアといった課題が議論の的となった。その中でもイギリスはアフガニスタンではアメリカ支持の態度を最も鮮明に示した(“Hutton calls on NATO partners to do more in Afghanistan”; UK Ministry of DefenceDefence News; 19 February 2009 及び NATO Foreign Ministers”; UK Foreign & Commonwealth Office Newsroom; 5 March 2009)。

ブラウン首相のワシントン訪問では42日のG20ロンドン・サミットを控えている事情から両国首脳の会談は経済が中心であった。オバマ大統領との共同記者会見と上下両院での演説で、首相は金融危機、保護主義、グローバル経済といった経済問題について多くを語った。また、首相は議会での演説でイギリスとアメリカが共通の政治的価値観を有していることを強調した(Speech to US Congress”; UK Prime Minister’s Office News; 4 March 2009[ビデオはこちら]及び“Press conference with President Obama”; UK Prime Minister’s Office News; 3 March 2009[ビデオはこちら)。

ゴードン・ブラウン氏は日本の麻生太郎首相に次いで二番目にホワイト・ハウスを訪問したが、会談の内容はよりグローバルで広く大西洋同盟全般に関するものであった。イギリスはロンドンでのG20サミットストラスブール・ケールでのNATO首脳会議で重要な役割を果たすであろう。麻生太郎氏は経済危機もアフガニスタンも話し合ったかも知れないが、会談内容はより二国間関係中心であった。明らかに、アメリカとの会談の議題と特別関係を決定するのは問題解決能力である。

イギリスはアメリカの最重要同盟国であり続けるであろうが、不均衡な関係は懸念される。問題は、オバマ政権が民主的な同盟国の頭越しにロシアと中国との提携関係を強めようとしていることである。初のアジア歴訪の最中にヒラリー・クリントン国務長官は世界規模の安全保障への対処に中国と閣僚級のホットラインを敷設すべきだとの合意に達した。それどころか中国がアメリカの国債を買い付けていることに感謝の意を示した。これでは中国がアメリカをなめてかかるのではとの懸念が生ずる。今月のNATO・ロシア会議でクリントン長官は従来からのヨーロッパ同盟諸国よりもロシアとの話し合いに熱心であった。

英米関係からは学ぶべき教訓が多くある。そうした教訓はフランス、ドイツ、日本といった他のアメリカの主要同盟国にも重要である。ニューズ・ウィークが同盟諸国に対し、自らのグローバル問題対処能力を向上させよと言ったことは正しい。これはアメリカとの関係を自国の国益に役立てるためにきわめて重要なことである。

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