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2009年4月30日

ペトレイアス大将、印パ関係不安定化が与えるアフガン戦争への悪影響を懸念

デービッド・ペトレイアス陸軍大将は、4月24日に開かれた下院での公聴会でパキスタン政府が国防での優先課題をアフガニスタンの反乱分子でなくインドとの戦略的な競合関係としていることに懸念を表明した(“Petraeus: Taliban, not India, top Pakistan issue”; AP; April 25, 2009)。ペトレイアス氏はパキスタン国内のアル・カイダとタリバンが「パキスタンの国家としての生存にかつてない深刻な脅威を与えている」と警告する。ペトレイアス氏はパキスタンの軍と情報機関には反乱分子対策に充分な訓練が必要だと強調し、アメリカ議会にはパキスタンでの対テロ対策への資金援助を要請した(“Petraeus Calls on Pakistan to Redirect Military Focus”; Washington Post; April 25, 2009)。

大英帝国からの独立以来、パキスタンとインドの関係は緊張し続けた。両国が核実験を行なった1990年代末にはインド亜大陸の緊張は劇的に強まった。クリントン政権は両国の緊張緩和に努めたが、インドとパキスタンの信頼を醸成することはできなかった。

ブッシュ政権はアメリカが世界的なテロとの戦いとアフガニスタンでのイスラム過激派討伐の多国籍軍を主導するに当たって、インドとパキスタンの関係の大幅な改善に貢献したように見える。しかしインド・パキスタン関係は昨年11月26日のムンバイ・テロ攻撃によって冷却化した。インドは事件に関わったテロリストとパキスタン政府の関係に疑念を抱き、それを批判している。

パキスタンとインドの関係の不安定化を象徴するかのように、インドとパキスタン両国の新聞ではペトレイアス大将がオバマ政権のパキスタン及びアフガニスタン問題特命大使を務めるリチャード・ホルブルック氏の肩書きにインドも加えるように言ったと報じている(“Holbrooke’s Af-Pak portfolio includes India: Gen Petraeus”; Indian Express; April 26, 2009 及び“Is India a concern for US Af-Pak envoy?”; Daily Times; April 27, 2009)。

アメリカン・エンタープライズ研究所のアプールバ・シャー助手はインドが懸念しているのはパキスタンの不充分なテロ対策だけではないと主張する。ムンバイ・テロ攻撃によって多文化主義で民主的な国民国家というインドの基本方針に暗雲がかかった。インド政府は自国の統一と安定を揺るがしかねない国内の脅威に直面している(“The ‘Idea of India’ after Mumbai”; AEI Asian Outlook; May 2009)。インドがパキスタンに激しい反応を示した理由は理解できる。しかしインド亜大陸でのブッシュ政権の正の遺産は無駄にしてはならない。

アフガン戦争はオバマ政権にとって優先度の高い課題であり、南アジアの安全保障はかつてないほど重要になっている。印パ関係は今や目の離せない問題であり、リチャード・ホルブルック特命大使はアフガニスタンの平和と安定、対テロ戦争、域内での核不拡散といいた課題に取り組みながら、そのような死命を制する重要課題に直面しているのである。

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2009年4月26日

キーパーソン:NATOにかつてない活動性をもたらした英国歴史学者による60周年講義

Sshea08ジェイミー・パトリック・シェイ(Jamie Patrick Shea

NATO事務局長付き政策企画室長、イギリス

学歴:サリー大学卒、オックスフォード大学博士号取得

今年の4月にNATOはストラスブールとケールで60周年記念首脳会議を開催した。この歴史の節目を前にフランスはNATO軍事機構に復帰した。ジェイミー・シェイ氏はオックスフォード大学で博士号を取得してからずっとNATOでキャリアを積んできた。現在はヤープ・デ・フープシェファー事務局長(オランダ)と最も緊密な政策顧問である。

一般市民の間でのNATOに対する理解を深めようと、シェイ氏は「ジェイミーの歴史教室」と題するビデオを通じてNATOの歴史に関する講義を行なっている。第一回講義のビデオでシェイ氏が述べているように、我々が歴史を学ぶのは将来を見通すためである。NATOは転換期にある。世界規模のテロ、非国家アクター、核拡散、そしてロシアと中国の挑戦といった新たな脅威も現れている。脅威が地球規模になる中で、NATOの作戦行動もヨーロッパ大西洋域外に拡大している。またNATOは共産主義への抑止の機構から行動と戦闘の機構へと変貌を遂げている。シェイ氏はコソボへのNATOの介入を推し進めた。

そのような転換期での政策形成に関わる将来を暗示するかのように、シェイ氏は1953年の911にロンドンで生まれた。サリー大学とオックスフォード大学で近代史の学位を取得したシェイ氏はNATOの広報と政策形成に関わり続けてきた。

“1949: NATO’s Anxious Birth”と題する講義では今日の大西洋と世界の安全保障への教訓も述べている。ジェイミー・シェイ氏が述べる通り、歴史は未来を語る鏡である。

NATO設立時から、ヨーロッパ大西洋域外までを防衛範囲に含めようとする加盟国もあった。フランスはアフリカの植民地を含めようとした。実際にアルジェリアは1962年の独立までNATOの安全保障の傘の下にあった。オランダはインドネシアを、ベルギーはコンゴを、ポルトガルはモザンビークとアンゴラをNATOの防衛範囲に含めようとした。こうした過去の議論は現在のNATOのグローバル化の議論と共通するものがある。

また、ヨーロッパ諸国民はスターリンの赤軍が突きつける脅威に対してアメリカが対峙し続けるよう手をつくした。現在のミサイル防衛でも同様である。ポーランドとチェコの国民はナショナリズムが高まるロシアの脅威に対処するためにアメリカの勢力を近くに置いておこうとしている。

軍事に限定するか社会・人道問題も含めて対処するかというNATOの役割も現在の重要課題である。イギリスとフランスは軍事的な役割にとどめようとしていたが、カナダは現行の憲章第2条に記されているような人道的な役割も含めるように主張した。

大西洋の安全保障への関与について、シェイ氏はアメリカ国内の孤立主義と国際主義の相克について語っている。

ジェイミー・シェイ氏はこの講義で、議会と軍部は戦後の初期にはヨーロッパに自力での再軍備を望んでいたと述べている。シェイ氏は議会と軍がそれほどまで孤立主義だったのはアメリカの宣戦布告の権利を多国間機関から独立したままにしておきたかったからである。考えてみれば、サー・ウィンストン・チャーチルの鉄のカーテン演説に対するアメリカ国民の当初の反応は冷ややかであった。

他方で国務省はソ連の膨張主義を抑止するために多国間安全保障機関を設立することに熱心であった。シェイ氏は共和党のアーサー・バンデンバーグ上院議員によるバンデンバーグ決議によって、アメリカは多国間の軍事指揮系統に加入するに当たっての憲法上の制約を克服できたと指摘する。

こうして関与を決断したアメリカは、大西洋地域の安全保障の範囲をヨーロッパ諸国より広く考えた。WEUと異なり、アメリカはノルウェー、アイスランド、イタリア、ポルトガルといった周辺諸国までNATOに含めた。NATOの設立目的は共産主義の抑止で、必ずしも民主主義の拡大ではなかった。シェイ氏はフランコ将軍のスペインの加盟さえ検討されたと指摘する。

大西洋世界でのイギリスの立場も重要な点である。第二次世界大戦直後のイギリスはヨーロッパによる共同防衛に積極的であった。イギリスはWEUの設立も主導した。サー・ウィンストン・チャーチルは戦争で疲弊したヨーロッパの再建に向けた地域統合を推し進めようとした。しかしNATOが発足するにおよんでイギリスはヨーロッパ統合よりもアメリカとの特別関係の方を重視するようになった。シェイ氏はこれをイギリス外交の失われた機会だと述べている。

最後に、シェイ氏はNATO設立で真の勝者はドイツとイタリアだという重要な点に言及している。私がこれに強く同意するのは、戦後の日本が集団安全保障から距離を置いたために比較的孤立した状態に陥ったからである。

NATOの歴史は大西洋地域の安全保障ばかりかアメリカ、イギリス、ヨーロッパ大陸諸国の外交政策に対しても示唆に富んでいる。さらにドイツとイタリアの経験は日本に貴重な教訓を与えている。

「ジェイミーの歴史教室」は大西洋情勢にとどまらず、西側自由民主主義諸国の同盟の過去と将来を理解するうえでも多いに役立つ。さらに重要なことに、シェイ氏はNATOをかつてなく活動性あるものにした。だからこそ、国際情勢に高い問題意識を持つ者にこのビデオを推奨したい。

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2009年4月21日

NATOに賞賛される日本の貢献

以前に当ブログで「NATOと太平洋諸国の戦略提携:日米同盟のグローバル化と多国間同盟への発展」という記事が掲載された。日本の左翼とナショナリスト達の批判とは裏腹に、日本が世界の信頼を得ているのはアメリカの緊密な同盟国だからである。その記事で述べたように、ヨーロッパ諸国民は世界の運営で日本のさらなる加担を期待している。

現在、アフガニスタンとパキスタンでの対テロ戦争はNATOと日本の間で最も重要な共通課題である。NATOチャンネルTVは3月31日にアフガニスタン復興に対する日本の貢献について放送した。ヨーロッパ人からこれほどまで熱い注目を浴びたアジア太平洋の国はない。

日本の安全保障についてアジア太平洋の観点からしか語られないことが多い。これは間違っている。歴史的に見て日本はヨーロッパと深いつながりがある。明治の近代化では日本はヨーロッパを教師として多くを学んだ。第一次世界大戦後の日本はヨーロッパと共に世界で指導的な役割を任じた。日本と中東の歴史的なつながりもこれに劣らず重要である。明治の近代化がトルコのケマル・アタチュルクとイランのレザ・シャーを啓発したことはあまりにもよく知られている。

強固な日米同盟は、ヨーロッパと中東の古くからの友人達との関係を強化するうえで日本にとって貴重な財産である。

ニュースの中でレポーターは日本がアフガニスタンの文化、インフラ、公衆衛生に援助を行なっていると報道している。日本の考古学者達はUNESCOと共同でバーミアンの仏像の修復に向けて研究を行なっている。仏教の専門知識は日本の強みである。日本の佐藤英夫駐アフガニスタン大使は、アフガニスタンは対テロ戦争の最前線で、日本は平和と安定の構築に向けて各国と現地住民と手を携えねばならないと述べた。日本は結核診療所を建設した。また日本の援助によってカブールの空港で新しいターミナルが建設された。佐藤大使は新しいターミナルが世界と次の時代への扉となるだろうと述べている。

アメリカ国内の党利党略にかかわらず、強固な日米同盟によって日本は自由な同盟国や友好国との関係を強化できる。古代の仏像を修復するための仏教の専門知識とった日本の強みも、もっと効果的に活用できるのである。

忘れてはならないのはドイツが国際社会の良き市民と認められたのはNATOとEUを通じてである。他方で日本は一国中心平和主義をとってきたために、ある程度は世界から孤立することになった。だからこそ、私は日本が日米同盟を通じて多国間の安全保障体制に入るべきだと主張する。ヨーロッパの同盟諸国は日本を歓迎している!

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2009年4月13日

当ブログ記事、シンクタンクのオンライン・ジャーナルに再び掲載

当ブログの「今こそアメリカは世界に関与せよ:新シンクタンクの設立」という記事が3月31日に日本国際フォーラムのオンライン・ジャーナルの「百花斉放」掲載されました。今回で2度目です。こちらのリンクも参照して下さい。

グローバル・アメリカン政論の記事が再び掲載されたことは名誉なことです。

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2009年4月 9日

北朝鮮問題:ミサイル危機、中露枢軸への対処、後継者

イラク・ギャップは北朝鮮危機でも解決されなかった。中国とロシアはこのならず者体制に拘束力のある宣言を行なうことに消極的である。イラク戦争の最中、国際メディアはブッシュ政権の一国中心主義を厳しく批判し、国連による平和強制を強く求めた。オバマ政権は西側に対して挑戦的な相手に融和的な態度を示した。ロンドンで開催されたG20サミットを前に、バラク・オバマ大統領はロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領と核兵器の削減について会談し、両首脳はアメリカとロシアの間に冷戦の再来はないという共通の認識にいたった。

イラクとは異なり、北朝鮮でアメリカは中国とロシアの関与を必要としている。ピョンヤンとの二国間協議はどのようなものであれ、アメリカが北朝鮮を新たな核保有国と認めたと解釈されてしまう。さらに中国とロシアは冷戦初期から北朝鮮に強い影響力を持ち続けている。ヘンリー・キッシンジャー氏の国家安全保障政策スタッフも歴任したK・T・マクファーランド元国防次官補はFOXニュースとのインタビューに応じ、食料とエネルギーの供給国である中国だけが北朝鮮を説得できると述べている。きわめて重要なことに。マクファーランド氏は軍拡競争が激化する中東でイラン、サウジアラビア、シリア、エジプトへの核拡散に非常に危機感を抱いている。北朝鮮によるアラスカへの核攻撃についてあまり懸念はしていない(”China Key to North Korean Missile Test?”; FOX News; April 3, 2009)。

日米韓の反北朝鮮同盟は重大なジレンマに直面している。ピョンヤンの独裁者が危険な冒険主義に走ることを防ぐには中国とロシアの関与は必要ではあるが、両国の介在は北朝鮮への効果的な圧力への障害でもある。北朝鮮危機に関する限り、オバマ大統領は以下の課題で試されている。それは核不拡散、世界規模と地政学での中国とロシアという非民主的な大国との対抗関係、そして対テロ戦争への影響である。

関係諸国の政府はこの危機のエスカレーションを避けたがっているが、アメリカ国民の57%は北朝鮮のミサイル施設に対して軍事攻撃すべきだと考えている(“57% Want Military Response to North Korea Missile Launch”; Rasmussen Report; April 5, 2009)。実際に、イスラエルがイラン・イラク戦争の最中にイラクでフランスによって建設されていた原子力発電所を爆撃し、サダム・フセインの危険な野望を挫いた。危機に直面したアメリカ国民はバラク・オバマ氏とジミー・カーター氏のアプローチよりも一期目のジョージ・W・ブッシュ氏とジョン・マケイン氏のアプローチが望ましいと考えるようになっている。もちろん、危機のエスカレーションは避けられた方が好ましいと私は思う。しかし国連はイラク・ギャップを克服できていない。また、中国もピョンヤンの独裁者を管理できなかった。そのため、この世論調査結果は理解できる。

最後にアメリカン・エンタープライズ研究所のニコラス・エバースタッド常任研究員の論文にも言及したい。エバースタッド氏はこのミサイル実験が全体主義体制の弱体化と重なるというタイミングに注目すべきだと指摘する。ロケットが発射されたのは病弱なキム・ジョンイル氏の後継者が決定される最高人民会議の直前である。結論としてエバースタッド氏は「老い先短い君主が治める一党独裁体制は今や音を立てて崩れようとしている。この問題の方が日曜日のミサイル発射よりも北朝鮮の行く末に大きな影を投げかけている」と述べている(“Kim's Crumbling Dynasty”; Wall Street Journal; April 6, 2009)。

この危機は核不拡散を超えたものである。日米韓三国の同盟は朝鮮半島での中国とロシアを相手にした地政学的な競合にも準備を怠ってはならない。これはオバマ大統領に対して長い時間をかけて科される試験である。

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