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2009年5月 9日

インド総選挙と米印関係への影響

インドの総選挙は現在集計中で、結果がわかるのは5月16日である。インドは世界最大の民主主義国なので票の集計には時間がかかる。まずいくつかの報道を見てみたい。

この選挙では与党国民会議派とナショナリストの野党BJPに代表される既存政党に不満を抱くインドの有権者は自分達のチェンジへの希望を見出そうとしている。インドの庶民の間ではムンバイのモナ・シャー氏のような政界エスタブリッシュメントの腐敗を非難する独立系の候補が注目されている(“Independent Candidates Rising in India Politics”; VOA News; 30 April 2009)。昨年11月のムンバイ・テロ攻撃によりカシミールでのイスラム分離派の動向から目が離せなくなっている(“Indians Vote in Third Round of Staggered General Election”; VOA News; 30 April 2009)。

国民会議派とBJPは人口の多い州で多数を勝ち取ろうと熾烈な競争をしている(“Congress, BJP may spring surprises in Uttar Pradesh”; Hindustan Times; May 5, 2009)。インドの市場アナリストと外国人投資家は「現在の連立政権を率いる与党の国民会議派や野党第一勢力のBJPの影響力が後退し、組閣人事で階級政党や地域政党の影響力が対強まるのではないかと警戒している」という(“Poll worries to moderate brisk”; Express Buzz; 4 May 2009)。この選挙はイスラム過激派の危険を警戒して厳重な警備が敷かれている。与党の国民会議派も野党第一党のBJPも自分達だけで過半数を勝ち取れる見通しはなく、選挙後の組閣では小さな政党の動向が鍵を握る(“Delhi's turn in Indian election”; BBC News; 7 May 2009)。

米印核協定に関してはパキスタンの新聞が米印核協定の背後にはインドがユダヤ・ロビーを通じてアメリカの抵当にとられてしまったという事情がある。国民会議派はイスラム教徒への嫌悪感を表には出さないが、BJPはパレスチナを占領しているシオニズム体制との親密な関係を堂々とさらしていると報じている(“India is mortgaged to Uncle Sam”; Pakistan Daily News; 4 May 2009)。左翼からのそうした批判にさらされたBJPは、オバマ政権に対してアメリカとの戦略協定の実行にはインドの外注企業への課税優遇措置を維持するように要求している(“BJP to link N-deal execution to US outsourcing move”; Times of India; 6 May 2009)。

専門家は選挙と核協定をどのように見ているのだろうか?ヘリテージ財団は“Indian Elections and Beyond: Refocusing U.S.-India Engagement”と題するイベントを5月4日に開催した。このイベントのビデオは当記事の上の部分に表示されている。以下のパネリストがこのイベントに参加した。

講演者:

モハン・グルスワミ

代替政策センター(インド)設立者兼会長

ウォルター・アンダーセン

ジョンズ・ホプキンス大学ポール・H・ニッツ高等国際研究学院上級助教授(南アジア研究)

ダニエル・トワイニング

独米マーシャル基金上級フェロー(アジア研究)

司会:

リサ・カーティス

ヘリテージ財団アジア研究センター上級研究フェロー

インドとの戦略提携はブッシュ政権が残した重要な正の遺産であることに疑問の余地はない(ニコラス・バーンズ氏の講演の記事を参照)。しかしインドの政府高官達はオバマ政権がインドをあまり重視せずにアフガニスタンとパキスタンにばかり気をとられるのではないかの懸念を抱いている。そうした懸念にもかかわらず、リチャード・ホルブルック特別大使はインドとの関係強化に前向きな姿勢を示している。

最初にモハン・グルスワミ氏がインドの政党と選挙政治の概略を述べた。マンモハン・シン現首相は国内と国際機関での官僚としてのキャリアとケンブリッジ大学の博士号を持っているが、グラスルーツの人気は今一つだという。ガンジー家には国民に深く根付いたカリスマがある。

インドは宗教、民族、カースト、地域の利権といった観点から多様な社会なので、グルスワミ氏は連立政権は避けられないと述べた。またアメリカとの関係は今後停滞すると見ているが、それは親米的なシン政権に野党が批判的だからである。スターリン主義の共産党はアメリカとの同盟による中国包囲に反対している。イスラム系の政党は反イスラエルである。野党第一党のBJPは米印核協定によってインドの主権が侵害されたとしてこれに強く反対している。

ウォルター・アンダーセン教授は独立以来のインドの政党史をについて講演した。独立初期のインド政治はイギリスで教育を受けた都市部のエリートに支配され、強力な官僚機構に統治されていた。さらに首相の大多数はブラマン階級出身であった。

そうしたエリート主義で権威主義的な政治情勢は1980年代末を境に変化し、社会から疎外されてきた人々の台頭によってインドの民主化が進んだ。貧困層はインドの有権者の大多数を占め、富裕層よりも投票率は高い。今日では下層カーストのヒンズー教徒と少数派宗教の信者を取り込まなければ大政党の組閣はおぼつかない。

それでもなお選挙運動への政府の管理は厳重である。バナー、ポスターどころか出口調査さえ許可されていない。このため、選挙の結果はきわめて予測しにくい。

最後にダニエル・トワイニング氏がインドとアメリカ、パキスタン、中国の外交関係の概略を述べた。

トワイニング氏はインドの台頭と国際社会への関与の強化にはアメリカとの関係の発展が重要だという政治的なコンセンサスができていると述べている。トワイニング氏はアメリカとインドの関係は、気候変動や貿易といったグローバルな課題に対処するためにより広範な枠組を発展させねばならないと主張する。米印協調の枠組は中国とアメリカの間の枠組に追いつかねばならない。

印パ関係はムンバイ・テロ事件によってインド国内のイスラム過激派の動きが活発化したために、現在は不安定になっている。

中国に関して、現在の両国関係は冷たい平和と呼ばれている。両国の貿易は拡大しているが、中国は米印核協定と戦略提携によって自国が包囲されたと感じている。

このイベントで専門家達が述べた多くの課題の中で、私は二つがきわめて重要だと見なしている。影響力を増すスラム過激派は打ち破られねばならずアフガニスタンとパキスタンの政治改革にインドが有益な役割を果たせるであろう。アメリカとの関係強化によって国際社会での地位を高めようというインドの希望をどのように受け入れてゆくかは、今世紀の平和と安全保障、そして世界経済の繁栄に重要である。

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