環境のための政府の介入は資本主義か社会主義か?:英国製スーパー・バイクよりの考察
現在、私は日米商工会議所のグリーン・マーケット・フォーラムの交通チームに参加している。環境意識の高まりを反映して、世界市場での自国の経済競争力の強化のために市場に介入しようとする政府も現れている。アメリカのバラク・オバマ大統領はブッシュ政権の政策を大幅に変更しようとグリーン・ニュー・ディールを打ち出している。日本の麻生太郎首相はアメリカとヨーロッパの環境意識の高まりに遅れをとるまいとしている。しかしこれは資本主義なのだろうか、社会主義なのだろうか?
イギリスの電気スーパー・バイクの事例はこの問いに対する鍵となるであろう。イギリスは政府機関のUKTI(貿易投資促進局)と専門職団体のIET(技術工学研究会)を通じてTTX01というレーシング・バイクを開発した。この画期的な技術によって電気による乗り物は一気に多様化できるようになる。電気による乗り物はイギリスの交通部門での二酸化炭素排出量の削減に大きく寄与するものと見られている。現在では交通部門の排出量はイギリス全体の1/4にものぼる(“World's fastest all-electric motorbike unveiled at show”; Guardian; 27 November 2008)。さらに、このモーターバイクは同サイズの通常型より軽く(“Look Out for the TTX01 Electric GP Motorbike”; Electric Bikee; 7 February 2009)、騒音を殆ど出さない(“125mph electric bike ready to burn rubber”; Guardian; 28 November 2008)。
UKTIとIETが共同で運営するTTXGPによると、このバイクは今年の6月12日にマン島で開催されるレースに参加する。
UKTIはブレア政権の下で1997年に設立された。その目的はイギリス企業の競争力を海外との貿易と投資を通じて向上させ、継続的で質の高い対外直接投資を誘致することである。トニー・ブレア氏は中道主義者で、市場経済を信じているがレッセ・フェールの資本主義を信じてはいない。このスーパー・バイクのプロジェクトはブレア色の強い経済政策と環境政策の賜物である。
アメリカで徹頭徹尾の保守派は、このようなプロジェクトを社会主義的だと見るかも知れない。だが政府は研究開発を支援してもレース自体には入り込んでいないので、これは完全に社会主義ではない。
思い出して欲しい!かつてのソ連のスポーツ選手達は全てイワン・ドラゴのように赤い政府から至れり尽くせりの支援と特権を与えられたエリートであった。しかし、このレースにはイワン・ドラゴのようなモンスターはいない。
TTXGPプロジェクトは環境意識が高まり、新自由主義への反感が強まる時代の資本主義の時代にあって政策的に多いに示唆に富んでいる。トニー・ブレア氏は首相の座にあった時期に第三の道を模索し、ゴードン・ブラウン氏によってこれが引き継がれている。バラク・オバマ氏はこのプロジェクトのような政府介入を模索するかも知れない。オバマ氏はアメリカを社会主義化するのだろうか、それとも政府と企業の協力関係のモデルを示せるのだろうか?
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