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2009年7月13日

ロシアとの関係リセットを急ぐべきか?

先のヨーロッパと中東への訪問とは異なり、獰猛なロシア熊はバラク・オバマ大統領の魅力的な笑顔と心地よいお言葉だけで馴らせるものではなかった。メディアは戦略兵器削減交渉に目を奪われているが、人権や民主化もこれに劣らず重要である。何と言っても直前の記事で述べたように、著名な外交政策の専門家達がオバマ大統領に公開書簡を送ったほどだからである。また、オバマ大統領とウラジーミル・スターリン・プーチン首相の会見も初めてであった。ロシアのメディアはオバマ氏の言うリセットに慎重な反応である (“Obama visit gets lukewarm welcome from Russian media”; Reuters; July 7, 2009)。

首脳会談前の論評をいくつか見てみたい。英国エコノミスト誌はオバマ氏にロシア市民の民主化運動の支援を強力に進めるべきだと主張する。ロシアのエリート達は自分達が欧米との緊密な関係を持ちながら、反米感情を煽っている。また、オバマ氏がグルジアとウクライナをロシアの拡張主義から守るべきだとも述べている。しかし米露両国は戦略景気の削減という共通の国益を有している(“Welcome to Moscow”; Economist; July 2, 2009)。 他方でタカ派はSTARTの更新によって自由の拡大とロシアの周辺諸国が犠牲にされてはならないと主張する(“Obama and Putin's Russia”; Wall Street Journal; July 6, 2009)。ミサイル防衛とNATOの拡大に関してマイケル・マクフォール大統領特別顧問は自国の国益を明確にするのがアメリカの立場で、何かの交渉成果を期待しているわけではないと述べた(“Russia Presents Test for Obama”; Washington Post; July 5, 2009)。

非情に興味深いことに、あるジャーナリストはクレムリンの反米感情について「過去8年間、自分達が嫌っているのはジョージ・W・ブッシュ氏であると自らに言い聞かせてきた。今、新しいアメリカ大統領は世界各地で人気が高いという事実に直面している。それがクレムリンの権力者達はそれに恐怖感を抱くものの、自分達はどうすべきかをはかりかねている」と述べている(“Obama seeks thaw in US-Russia ties”; BBC News; 4 July 2009)。ロシア・プロファイルのアンドレイ・ゾロトフ編集局長は、一次産品に依存するロシア経済がアメリカにとって魅力がないので米露の経済関係は発展していないと指摘する。よって米露関係は地政学や国家の威信が重要なってしまう。また、現在の米露関係の停滞はクリントン政権期の外交に根ざしているので、オバマ効果による両国関係の急激な改善はあまり期待できないとも言う(“Russian Expert: Pressing 'Reset' May Not Suffice” NPR; July 5, 2009)。

首脳会談で最も重要な課題は安全保障で、特に戦略兵器の削減である。STARTの更新の他にアフガニスタンでの戦争、イランと北朝鮮への核不拡散も議論された。ロシア・トゥデーが7月7日に放送した以下のビデオでは、政治アナリストのビクトル・リニック氏が今回の首脳会談の開催はタイミングが良いと述べている。

戦略兵器交渉ではリセットが始まったが、ミサイル防衛に関する立場の違いは埋まらぬままである。ロシア・トゥデーが放送した以下のビデオを参照して欲しい。

7月8日に放送されたロシア・トゥデーのスポットライトでは、コメンテーター達がアメリカのミサイル防衛システムが「存在しない」イランの核ミサイルに対してポーランドとチェコに配備されることに懸念を述べた。私の目には彼らの発言が公正とは思えないが、それは現時点では核爆弾の開発に至っていないとはいえイランのマフムード・アフマディネジャド大統領が核保有の野望を公言しているからである。他方でアメリカン大学モスクワ校のエドワード・ロザンスキー総長とロシア・プロファイルのアンドレイ・ゾロトフ編集局長は、オバマ大統領が新経済学院での演説でゼロサムの力の競合ではなく相互共存の繁栄を強調したことに強く印象づけられた。以下のビデオを参照して欲しい。

BBCもこの演説が米露関係のリセットにつながるささやかな希望をこめて報じている (“Obama urges shift in Russia ties”; BBC News; 7 July 2009)。

他方でフォーリン・ポリシーのインターネット版のジョシュア・キーティング編集員はアフガニスタンに関するロシアとの協力協定を批判し、アメリカはキルギスタンやウズベキスタンのような信頼できる国を選ぶこともできるとしている(“Did Obama accomplish anything in Moscow?”; FP Passport; July 7, 2009)。

オバマ大統領とプーチン首相の初会見は米露外交の一大行事である。 オバマ氏にとってロシアで最も影響力のある政治家との会談はやや儀礼的なもので、プーチン氏は米露の国益の衝突にもかかわらずジョージ・W・ブッシュ氏との良好な個人関係を語った(“Putin praises Bush hospitality during Obama visit”; Reuters; July 7, 2009)。

人権と民主主義は安全保障に劣らぬ重要な課題で、直前の記事で述べたように公開書簡が公表されたともあれば見過ごすことはできない。リベラル派は人権問題を強硬に押すと対テロ戦争でのアメリカとロシアの協調を台無しにしてしまうとして、こうした動きを批判している(“The Latest Neocon Attack on Obama”; Huffington Post; July 2, 2009)。 オバマ大統領はロシアへの直接批判を注意深く避けたが、それはアフガニスタンのテロリスト攻撃のためにアメリカ軍のロシア領内通過の了承を求めたからである(“Obama, in Russia, praises democracy, blasts graft”; Reuters; July 7, 2009)。控え目ではあったが、バラク・オバマ氏はノバヤ・ガゼタ紙や市民社会の代表といった政府に批判的なオピニオン・リーダー達を招いてアメリカの関与を謳い上げた(“President Obama Reaches Out to Russian Opposition”; VOA News; 8 July 2009)。オバマ氏との会見で親欧米の連帯党のボリス・ネストフ党首は「プーチン氏とメドベージェフ氏は政治を動かせるのは自分達だけだという認識を改めざるを得なくなるだろう。我が党は自由な政党政治を要求する」と言った。ロシアの市民社会では、民主主義及び人権発展センターのユーリー・ドジブラーゼ所長と新ユーラシア財団のアンドレイ・コルチュノフ代表がオバマ氏への高い期待を述べた(“Obama talks spur rights call by Russian activists”; Reuters; July 8, 2009)。

戦略兵器削減がメディアと世論の注目を集めたが、ロシアの民主化は安全保障と同様に重要な課題である。先のヨーロッパと中東への訪問とは違ってバラク・オバマ大統領はこれまでのアメリカ外交に謝罪を繰り返したりしなかった。それでもオバマ氏はアメリカの理念を訴えることに臆病なほど注意深いように見える。私はオバマ大統領がイギリスのサッチャー元首相の顧問を務めたナイル・ガーディナー氏の論文を読んだかどうかは知らない。ロシアからウクライナ、グルジア、イラン、そして他の国でも自由を求める人々はアメリカが強いリーダーシップを発揮することを望んでいる。私はガーディナー氏に同意しており、オバマ大統領はこうした国々でのアメリカの盟友達をもっと積極的に支援すべきである。

さらにこちらのリンクも参照。

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