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2009年8月 9日

アフガニスタンでの英軍の任務に関する議論

イギリスはアフガニスタンでのタリバンとアル・カイダのゲリラを打倒するために増派を考慮している。戦後を通じてイギリスは「自らの体重以上のパンチを繰り出す」という政策によって影響力のある大国の地位を維持しながら、軍事予算と人員の不足を克服しようとしてきた。アフガニスタンではイギリスの地上軍は空からの支援が不充分なため、対テロ作戦の遂行でアメリカ軍よりはるかに不利な立場にある。ゴードン・ブラウン首相はイラクから撤退した兵力をアフガニスタンに振り向けて反乱分子を打倒することを決断した。この戦略はブレア政権期から考慮されており、現在はイラクの治安が改善したのに対してアフガニスタンの事態は深刻化している。

イギリス兵の死傷者の増加を踏まえて、サー・リチャード・ダナット陸軍大将はアフガニスタンへの兵員と装備の増加を要請した(“Troops need more, says Army head”; BBC News; 17 July 2009)。ウェストミンスター議会ではデービッド・キャメロン保守党党首がゴードン・ブラウン首相に対して、アフガニスタンでの戦争目的を明確に示して国民の戦争への理解を維持すべきだと訴えた。またキャメロン氏はヘリコプター不足に深刻な懸念を表明し、ブラウン内閣の国防政策を批判した(“PM challenged over Afghanistan”; BBC News; 16 July 2009)。

アフガニスタンでの任務に関する論争は国民の間でも激しくなっている。保守党はアフガニスタンの軍と警察の訓練を迅速に進めるためにもイギリス軍の派兵を増加すべきだと訴えた(“Conservatives to increase British troop levels in Afghanistan, David Cameron hints”; Daily Telegraph; 3 August 2009)。デービッド・ミリバンド外相とヒラリー・ロッダム・クリントン国務長官の会談を受けて、アメリカのスタンレー・マクリスタル陸軍大将はイギリスが2,000人の兵力を追加派遣するであろうと語った(“Britain to send 2,000 extra troops to help train Afghans”; Times; 2 August 2009)。

イギリスは装備と人員の問題の解決を迫られる一方で世界規模での軍事作戦行動能力を維持しなければならない。以下の表に示された通り、イギリスはアフガニスタンの任務で他の国々とは比較にならないほどの負担を背負っている。

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出典:Economist

現在、イギリス国民がアフガニスタンの任務に理解を示しているのも軍事的な成功がイギリスの誇りとなっているからである。しかしタカ派の保守党もハト派の自由民主党も現政権の戦略上の困難には批判的である。特にヘリコプター不足は深刻な問題で、近く退任するダナット英国陸軍大将はアメリカのヘリコプターを使っているほどである。新たに着任するサー・デービッド・リチャーズ陸軍大将はイギリスの国防政策で相反する見解があることに言及している。イギリス陸軍の将官達はホワイトホールの政策形成者達が戦略核兵器や戦闘艦艇のような大型兵器ばかりを優遇し、反乱分子に対する地上戦に充分な考慮を払っていないという不満を述べている (“British forces in Afghanistan: And the soldier home from the hill”; Economist; 16 July 2009)。労働党のマイク・ゲープス下院議員は外交個別問題員会の報告書をとりまとめ、イギリス軍の死傷率の高さと国防省、外務英連邦省、国際開発局といった省庁間のセクショナリズムを批判した。さらに影の内閣のウィリアム・ヘイグ外相は現内閣の誰が戦争を取り仕切っているのか疑問を投げかけた(“Tell us why we're in Afghanistan, MPs say”; Times; 3 August 2009)。

サー・マイク・ジャクソン陸軍大将はゲープス氏がまとめた下院の報告書に従って戦略目標を絞り込むためには国防省の構造改革が必要だと述べた。現在の作戦には反乱分子との戦闘ばかりでなく麻薬撲滅運動も含まれている(“UK troops 'given too many tasks'”; BBC News; 2 August 2009)。多国籍軍が目標を絞り込むには、アフガニスタンの治安部隊の訓練を早く進める必要がある。

アフガニスタンの問題は全世界でのイギリスの外交安全保障政策と強く関わってくる。フォークランド戦争の前にイギリス海軍の提督たちはトライデントSLBMのために空母が犠牲にされることに反対した。戦争を経て、当時のマーガレット・サッチャー首相は空母機動部隊の維持を決定した。今回もイギリスは人員や装備の問題に対処しながら世界規模での軍事行動を維持してゆくというジレンマに直面している。

王立国際問題研究所のポール・コーニッシュ国際安全保障部長とアンドリュー・ドーマン準研究員はイギリスの国防政策のあり方を模索している。1998年に政府が発行した「戦略国防概略」(SDR)ではイギリスの国防政策の目的を定めている。それはヨーロッパへの関与、アメリカとの協調関係、イギリスの経済的権益の防衛、そしてイギリスの自由の守護である。そうした目的を満たすためには、「結局、戦略の審査を注意深く行なえばイギリスにとって空母も超音速攻撃用の航空機も地上の戦闘要員も必要になる」のである。コーニッシュ氏とドーマン氏はドイツからの兵員撤退と戦闘機種の絞り込みによる最大効率化によって、人員と装備をもっと効果的で費用効果の高いものに改変できると提言している(”National Defence in the Age of Austerity”; International Affairs; April 2009)。

最後に英国学士院院長でオックスフォード大学教授のサー・アダム・ロバーツがアフガニスタンに関して述べた論文に言及したい。国際戦略研究所の定期ジャーナルで、サー・アダムはイギリスとアメリカには過去の対テロ作戦から学ぶべき教訓が多くあり、外国軍は永続的な占領者として振る舞うべきではないと述べている(“Doctrine and Reality in Afghanistan”; Survival; February 2009)。

イギリスのアフガニスタン関与をめぐる政策議論は、他のアメリカの同盟諸国にも大いに参考になる。限られた人員と装備の中で、自由な国々はグローバルな安全保障に最大限の貢献を行い、自国の権益を守り通す必要がある。同盟国の中でも日本のように国際政治での存在感を増しながらアメリカとの同盟関係を強化しようという国にとってイギリスの経験から学ぶべきことは多い。

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コメント

うさぎの耳と申します。

先日はコメント並びにTBを戴きましてありがとうございました。

アフガン駐留英軍の惨状については目に余るものがあります。

軍を派遣した以上は勝利を得ないといけないと思うので、装備品や人員などの増強が求められますね。

これからも宜しくお願い申し上げます。

追伸

当方で貴ブログへのリンクを貼らせて戴きました。ご迷惑でしたら仰ってください。

また、よろしかったら相互リンクをお願い申し上げます。

投稿: うさぎの耳 | 2009年8月12日 10:34

舎さん、どうも。アカデミックに帰っております。ブログも細々とやってます。(挨拶、遅れました)

舎さんのブログいいですね。ヴィジュアルもあり、色使いで強弱もあり、私は好きです。

舎さんも大変、ご活躍、ご多忙のようですね。

そうですね、同じ海洋国家としてイギリスから学ぶことは、山ほどありますね。

オバマ政権にしても、イギリスにしても、アフガンの治安を何が何でも安定化させないとダメですね。死傷者の数や残酷な映像に国内世論がどこまで耐えれるかですが、両国ともに、はるかに国民もその点は成熟しているので、強度は高いでしょう。

日本も出来る限りで貢献しないとダメですね。本来は、法改正により、もっとすべきだと考えますが・・・。

投稿: forrestal | 2009年8月13日 18:15

うさぎの耳さん、

イギリス軍の装備に関しては文中にリンクしたBBCラジオ(7月16日)でのブラウン首相とキャメロン党首のやりとりが凄いです。イラクの撤退文を振り向ける前に、本国にあるではないかとキャメロン党首が詰め寄っています。

投稿: Shah亜歴 | 2009年8月14日 03:11

forrestalさん、

ブログ復活は喜ばしいです。大学院での勉学は有意義になるよう願っています。

アフガニスタンは20日に選挙だけに、今が正念場です。イラクでは治安が最悪の時期に選挙を成功させたことは事態の改善に大きく寄与しました。

ヘリコプター不足は現政権の不手際とも言えなくはないのですが、こうした国々に日本が支援できればと願わずにはいられません。サマワでの経験をこれからどのように日本の防衛政策に当たる人達は活かしてゆくのでしょうか?

投稿: Shah亜歴 | 2009年8月14日 03:31

舎さん、ありがとうございます。

このような欧米諸国が困ってる時にこそ、アシスタントすることで、日本のプレゼンスとインパクトを与え、外交カードを増やすことができます。

自民になるにせよ、民主になるにせよ、アフガンにはコミットする方向性ですから、短期的には、集団的自衛権を行使可能にしてロジスティックにあたるべきですし、民主党の言ってる、民生支援もいいでしょう。どちらか一方ということでなく、ダブルトラックで行えばいいのでしょう。

安全保障基本法(仮)制定にしてもこれは必要ですが、時間的に急ぐ必要があります。もちろん、中身は重要です。

短期的に準備が出来るというのは、この辺でしょうね。改憲は、まだまだ無理みたいですから。

P.S メアドを変えました。何かあればこちらにどうぞ。

投稿: forrestal | 2009年8月14日 09:34

民生支援も大いに歓迎です。しかし国家間の関係はやはり政府でないとできないことが多いです。

こんな「わかりきった」ことを言うのは、開発や貧困支援に従事するNGOや個人から「民生支援ならNGOの方が政府よりノウ・ハウがある!」怒りをぶちまけられることが多いからです。彼らの多くがニューレフトないしリベラルなので軍事介入は何でも反対なのは仕方ありませんが、武力による治安回復が必要な時、国家間で何かをしなければいけない時、そこは政府の出番です。

歴代日本政府のお題目の「国際貢献」がいかなるものか、こうした観点から決めていって欲しいです。さもないとヒステリックな極左NGOなどに怒鳴られるだけです

投稿: Shah亜歴 | 2009年8月15日 12:50

舎さん、NGOSは自分たちで動けばいいのです。自衛隊がまず、民生支援にあたるのです。

韓国軍の主オペレーションは民生支援でした。

何事もスッテプをふまいないといけません。そして、それがまだできる(許される)環境にあると思いますよ。

あと、特にリベラルを称する人たちには、現状のアフガンの状況を鑑みて、人権・人道がきちんと、少なからず、それなりに守られているのかもっと苦悩すべきですね。それは、自省するということであって、他国や自国の命をかけてミッションについている人たちを非難することとはまったく違います。

投稿: forrestal | 2009年8月16日 21:05

日本のリベラル達は憲法9条オタクが多いので、自衛隊が出兵しないことで「平和外交の国」日本の信頼が高まり、テロの攻撃対象にならなくなると言っています。テロリストはそんなことお構いなしに自分達の味方以外は誰でも襲うという実態を見ずに。

日本がこれから現地の治安にも関わるとなると、イギリスと同様に限られた予算と人員で防衛戦力のバランスを考える必要が出てきます。

投稿: Shah亜歴 | 2009年8月18日 23:13

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