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2009年8月25日

日本衆議院総選挙と外交政策論争

日本では衆議院総選挙が8月30日に行なわれる。この選挙が注目を集めているのは、戦後のほとんどを通じて政権の座にあった自由民主党がその座を降りると見られているからである。経済の不況、社会経済的な格差の拡大、自民党と官僚の関係への国民の嫌悪感を背景に、民主党はチェンジの希望を高らかに訴えている。日本の民主党は55年体制による自民党一党支配を本当に終わらせるだろうか、それともかつての細川政権と同様の失敗をするのだろうか?

ともかく、選挙後の政権交代が語られる中で政策の選択がかつてないほど重要になってきている。メディアは今回の選挙をマニフェスト選挙と呼んでいる。選挙情報専門サイトには全ての政党のマニフェストが掲載され、主な争点は経済と社会福祉になっている。今回の選挙での外交政策の関する議論は充分に洗練されているとは言いがたい。

先の日曜日に私はNHKの「衆議院選挙特集」というテレビ番組を観た。この番組の最後に各党の代表達は日本外交の中核となる日米同盟について議論した。不幸なことに議論の内容はあまりにも二国間関係中心で地域の視点に片寄り過ぎた。アメリカとの関係についてグローバルで歴史的な大局的な視野から語ったパネリストは誰もいなかった。私がこのことを強調するのは、自由な諸国民よ、団結せよ!というスローガンを強く信じているからである。

テレビ討論を観たうえで、各党の代表からほとんど省みられることのなかった以下の点に言及したい。

1・現在の世界は親西欧リベラル国際主義と反西欧カルト・ナショナリズムに分かれている。ロシアと中国での権威主義的ナショナリズムの台頭は世界の安全保障に重大な脅威を与えている。これはクリントン政権期のネオ・リベラリズムの下で両国を欧米主導のグローバル経済に取り込むことに失敗した結果である。これはもはやネオコンだけが議論する政策課題ではなくなっている。中道左派のBBCさえも共産主義を脱却した両大国でのナショナリズムの再燃の危険性を報道している(“Russia and China 'approval down'”; BBC News; 6 February 2009)。過激イデオロギーの信奉者やならず者国家も反西欧カルト・ナショナリズムを掲げている。歴史は終焉せず、再び始まったのである!

2・基本的に日本は西側同盟の中心にあり、そのことによりこの国がアジアのどの国からも別格の存在となっている。アメリカのジョン・マケイン上院議員とジョセフ・リーバーマン上院議員はロシアのG8からの除名を主張したが、日本は設立時からこの最も善良で優秀な国々のクラブに欠くことのできないメンバーである。アメリカとヨーロッパの指導者でこのことに異議をはさむ者はまずいない。このことは日本の誇りと栄光である。

ヨーロッパ諸国にとって日本を自分達と同じ世界の重役に迎え入れることが重要な理由は、日本がアメリカの最も重要な同盟国の一つだからである。日米同盟の一層の強化が望まれるのはこうした理由からである。

あきれたことに各党の代表達はあまりに東洋志向で、中国との政治的競合関係に過剰にとらわれていた。しかし欧米の誰が中国を自分達の運営する世界管理の重役陣に迎え入れようと思うだろうか?この観点から、日本を西洋列強の一員と位置づけることは歴史的にも正しいのである。

3・北朝鮮に関しては全ての党がオバマ政権の宥和政策を批判する姿勢を見せなかった。ピョンヤンのならず者への制裁強化のために日本がサー・ウィンストン・チャーチルの役目を果たすべきだと主張する勇気のある者は誰もいなかった。ジョン・ボルトン氏はアメリカがキム・ジョンイルの悪行に見返りの利益を与えていると主張し続けている。

思い出すべきは、有名な鉄のカーテン演説の時にはアメリカ国民はヨシフ・スターリンの共産主義拡張政策の食い止めに乗り気ではなかったことである。しかし今ではアメリカの国民を挙げてチャーチルは偉大な英雄となっている。日本の民主党がそんなに日米同盟を対等なものにしたいというなら、チャーチルの役割を果たそうという気はないのだろうか?

4・しかしみんなの党の江田憲司氏が日本政府はジャパン・ロビーよりも現政権の中枢部への接近をもっと模索すべきだと述べたことには、私も賛成である。

さらに私は日本が党利党略を超えてワシントン政界の権力の中枢に接近すべきと主張したい。軍とネオコンはそうしたアクターで、彼らこそアメリカの中のアメリカである。ハドソン研究所の日高義樹氏によると、日本がアメリカの重要な同盟国という単純明快な理由から軍は常に親日だったということである(まさにアメリカの敵か、味方か!である)。 

歴史は再び始まり、このことは他の何にもまして重要である。選挙で誰が勝とうとも、狭い二国間主義と東洋志向では用を成さない。 

自由な諸国民よ、団結せよ!

残念なことに、各党の代表は日米同盟と日本の安全保障についてこの観点から語ってくれなかった。

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コメント

こんばんは。

先日は相互リンクをご承認戴きまして有難うございました。

日米同盟が現状で有効なのは、現場レベルでの交流の賜物かと思います。

>さらに私は日本が党利党略を超えてワシントン政界の権力の中枢に接近すべきと主張したい。軍とネオコンはそうしたアクターで、彼らこそアメリカの中のアメリカである。

仰るとおりですね。私も米軍との交流を進めたほうがいいと思います。政党は交代しますが、軍隊に交代はありませんから。

この江田発言について、私は我田引水の疑念も抱いています。彼の友人がオバマ政権にいると番組で言っていましたが、ブッシュ政権には江田氏は批判的言動を繰り返していたので。

やはりstateとstate(あるいはnationとnation)の関係なので、個人の友人関係や党利党略を超えて強く安定したものにしてゆかねばなりません。

私もその番組は見ていたのですが、各党余りのレベルの低い議論に、呆然とさせられました。

「対等な日米関係」という言葉は、まともな議論もされず、すっかり言葉遊びの対象に成り下がってしまったように思われます。

現在のようなポピュリズムに毒された世の中で、チャーチルのような矜持と見識のある政治家の登場は極めて困難だとは思いますが、やはり渇望せずにはいられません。

同盟に関して、「個人対個人の良好な関係に依存するのではなく構造的に強化しなければならない」という御説には全く賛成です。

今回の選挙がマニフェスト選挙と言っているのは。メディアだけではないかと思えてきます。本当にまず政権交代(どこかの党のテレビCMの標語か?)が注目の的で、これではまともな外交議論はできないでしょう。

私としては特定政党を圧勝させないように投票するしかなさそうです。

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