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2009年8月17日

ウクライナをめぐるロシアと欧米のせめぎ合い

ロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領はキエフ駐在の新任ロシア大使の赴任を延期し、ウクライナのビクトル・ユシュチェンコ大統領がロシアと戦火を交えるグルジアへの武器供与やNATOへの加盟の模索といった反露政策をとっていると非難した。これは2010年1月に行なわれるウクライナの大統領選挙に向けての圧力行使である。カーネギー国際平和財団モスクワ・センターのリリア・シェフツォワ上級研究員によると「我々の要求を受け入れなければ、誰が選ばれても相手にしないというメッセージである」とのことである(Medvedev issues ultimatum to Ukraine leadership”; Financial Times; August 12, 2009)。

ロシア・トゥデーが8月10日に放映したテレビ演説で、メドベージェフ大統領はウクライナにこれほど厳しいメッセージを送りつけた理由を語った。メドベージェフ氏はロシアとウクライナの間の共通の文化的伝統や歴史を強調した。しかしウクライナの国防政策については、南オセチアをめぐる戦争でのグルジアへの武器供与を非難した。文化教育政策ではウクライナ政府が学校や公共機関でのロシア語を排除していると非難した。経済ではメドベージェフ氏はウクライナがロシア企業の事業に制約を課していると非難した。歴史ではウクライナが大祖国戦争を独裁者同士の戦いだとしたことにメドベージェフ氏は異議を唱えた。現在のロシアでのスターリンへの熱烈な敬慕からすれば、ユシュチェンコ政権はロシアの逆鱗に触れてしまった。以下のビデオを観て欲しい。

実際にロシア側は7月6から8日にかけてモスクワで開催されたバラク・オバマ大統領とドミトリー・メドベージェフ大統領の首脳会談からほどなくして、アメリカのジョセフ・バイデン副大統領がウクライナとグルジアを訪問したことに神経を尖らせている。ロシア・トゥデーは7月20日に独立研究所のイワン・エランド研究員にインタビューを行なった。エランド氏はアメリカのメッセージには相反する政治目的があると言う。オバマ氏が述べたようにアメリカはロシアとの関係改善を求めているが、NATOの拡大も支援している。インタビューの中でエランド氏はロシア国民がアメリカの二重行動に抱く不安を宥め、ロシアには大統領が来たがウクライナとグルジアに来たのはせいぜい副大統領に過ぎないと強調している。よってアメリカがウクライナとグルジアのためにロシアとの関係を犠牲にすることはないと述べている。以下のビデオを観て欲しい。

両方のビデオはロシアの政策形成者達が旧ソ連諸国への自由なヨーロッパの拡大をどのように見ているかをよく示している。言い換えれば、ロシアの指導者達はソビエト型の地政学観を抱き続けている。

リリア・シェフツォワ氏がファイナンシャル・タイムズに語ったように、メドベージェフ大統領は新しい指導者が現在のユシュチェンコ大統領にとって代らない限りウクライナとの関係正常化はないと述べた(“Medvedev: No Normal Ties with Ukraine Under Current Leaders”; VOA News; 14 August 2009)。

ヨーロッパ改革センターのトマス・バラセク外交防衛部長は2008年12月に“Why Ukraine matters to Europe”というレポートを出し、ロシアと欧米のせめぎ合いを理解するうえで有意義な分析を行なっている。バラセク氏はウクライナがEUとロシアの間で人口でも面積でも最大の国なので、その動向は非常に大きな意味を持つと指摘する。東ヨーロッパのEU加盟国はロシアに対して強く安定した防壁となる国を求めている。ウクライナがEUに加盟すれば、EUに近いベラルーシやモルダビアからカフカス諸国にまで大きな影響が及ぶ。

非常に重要なことに、バラセク氏はウクライナが政治的に透明で信用のできる市場経済を発達させてしまえば、プーチン氏が推し進める国家資本主義の魅力は一気に弱まってしまうと指摘する。そのため、ロシアが旧ソ連諸国のヨーロッパ化を遅らせたいのは地政学的な観点からだけではない。

最も重要なことに、バラセク氏はウクライナが腐敗した新興資本家に支配される劣悪な統治に置かれていることが、EUとNATOへの加盟の障害だと主張する。また、こうした状況がウラジーミル・プーチン氏がジョージ・W・ブッシュ氏に「ジョージ、ウクライナは国家の体なしていないんだ」と言ったようなロシアの介入を招きかねない。

欧米でもロシアでもメディアは地政学的な競合に注目しがちだが、ウクライナの改革も重要である。トマス・バラセク氏はウクライナがEUとNATOに加盟するうえで重要な点を指摘しているので、詳細はレポートを参照して欲しい。欧米はウクライナの統治の改善を支援して、大西洋社会へ加入する資格を充足させてとソ連の過去から脱却させる必要がある。ウクライナのヨーロッパ化が成功すれば、西側と中露枢軸の間の新冷戦は我々に有利になるであろう。

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