ウォルフォビッツ氏、アメリカの帝国主義的使命を主張
長びく戦争への厭戦気運と世界不況のため、アフガニスタンに関するABC=ワシントン・ポスト世論調査で示されたようにアメリカ国民は世界への介入に批判的になっている。ポール・ウォルフォビッツ元国防副長官はそうした孤立主義を批判し、アメリカが世界各地の民主化にもっと積極的に乗り出すべきだと述べている。フォーリン・ポリシー誌に寄稿されたウォルフォビッツ氏の論文を振り返りたい。
この論文でウォルフォビッツ氏は、ブッシュ政権は好戦的で民主主義というアメリカの理念をイラクに力で押し付けるほどだというリアリストの見解を批判している。逆にウォルフォビッツ氏は戦争の目的はアメリカと世界の安全保障に対する脅威の除去だったと主張する。他の独裁者を擁立するかアメリカの占領を長引かせるより、ジョージ・W・ブッシュ大統領は民主主義体制を作り上げることを決断した。アメリカ主導の多国籍軍がアフガニスタンで戦っているのでも同様な理由からである。
きわめて重要なことに、ウォルフォビッツ氏はアメリカが望ましからざる体制とも交渉を進めながら改革を要求してゆけると述べている。ウォルフォビッツ氏はレーガン外交ではソ連という悪の帝国との話し合いを通じて「ペレストロイカ」に導いていったと述べている。さらにリビアが核兵器開発計画を断念したのはアメリカの意図を恐れてのことで、ブッシュ政権が悪名高き独裁者ムアマル・カダフィ氏に甘い態度を示したからではないと指摘する。たとえここまで強硬ではなくても、ウォルフォビッツ氏は中国と中東諸国での改革を継続的に要求してゆくように主張している。
上記の観点に基づき、ウォルフォビッツ氏はアメリカが眉唾な独裁者が謳い上げるアジアの価値観やイスラムの価値観と妥協しないようにと主張している。同氏はアラブ諸国民達はアメリカが民主主義を高らかに主張することを歓迎していると指摘し、リアリスト達がこの点を見落としていると批判している。
私はウォルフォビッツ氏に同意する。「イスラムと民主主義」と「イスラム過激派に関する5つの問題点」で私が述べたことを思い出して欲しい。イスラム諸国民は過激派イスラム教徒でさえ欧米の自由を称賛している。
民主化の促進による政情不安定化を懸念するリアリストも中にはいるが、ウォルフォビッツ氏はこれがそこまで危険ではないと主張する。むしろフィリピンでのフェルディナンド・マルコス氏の失脚と最近のイランでのマフムード・アフマディネジャド氏への反対運動に見られるように、同氏はそれを変化への刺激材料だと見なしている(“Think Again: Realism”; Foreign Policy; August 2009)。
広く信じられている間違った理解とは逆に、ポール・ウォルフォビッツ氏の論文はネオコンとは実際的な思想で好戦的な理想主義集団ではないことを明らかににしている。リアリストの外交政策が必ずしもアメリカと世界の安全保障につながらないのである。
さらに、ポール・ウォルフォビッツ氏は今年の9月5日にNPRの「ウィークエンド・オール・シングス・コンシダード」に出演した。ラジオ番組の司会を務めるガイ・ラズ氏は「イラクのような理念主義的な戦争では政策形成者が脅威を必要以上に煽り、情報操作をするのが常である。ウォルフォビッツ氏はこうした技術に長けている」というハーバード大学のスティーブン・ウォルト教授の発言を引用した。これに対してウォルフォビッツ氏はアラブ世界の民主化の全面的な支持を表明した。
きわめて重要なことに、ウォルフォビッツ氏は他国の国内の問題に関わることはアメリカの国益に重要だと述べ、オバマ政権の外交政策もリアリストよりはネオコンに近いと主張している。アメリカの歴代大統領と同様に、バラク・オバマ氏は他国の国内問題を見過ごさず、アフガニスタンのように改革の促進に意欲的である(“Wolfowitz on U.S. Role in Other Nations' Affairs”; NPR; September 5, 2009)。
ポール・ウォルフォビッツ氏は安全保障に新たな課題が突きつけられる時代に重要な分析と議論を行なっている。そうした課題には中東でのイスラム過激派、イランと北朝鮮などならず者国家への核拡散、ロシアと中国でのカルト・ナショナリズムの台頭がある。アメリカの国際介入の基本的な考え方を長期的な観点から理解する必要がある。ここに取り上げた論文とインタビューはこの目的に大いに役立つであろう(オーディオ1および2も参照)。
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