ポーランドとチェコへのアメリカのミサイル防衛配備中止で勢いづくロシアのタカ派
オバマ政権はポーランドとチェコへの弾道ミサイル迎撃システムを配備するミサイル防衛計画の廃止を決定した。その計画ではイランの核ミサイルからアメリカの同盟国を守ることが意図されていた。ロシアはブッシュ政権期からこの計画に反対してきた。
オバマ大統領の決定はジョン・マケイン上院議員やジョン・ボルトン元国連大使をはじめとする共和党陣営からの厳しい批判を呼び起こした。代替案として、ロバート・ゲーツ国防長官はアメリカはイージス艦によってイランのミサイル迎撃をすると述べた(“U.S. replaces Bush plan for Europe missile shield”; Reuters; September 17, 2009)。
ロシアはこの決定をアメリカに対する勝利と見るであろう。他方でポーランドとチェコはオバマ政権がロシアに宥和政策をとっているのではないかと懸念を示している (“U.S. to Shelve Nuclear-Missile Shield”; Wall Street Journal; September 17, 2009)。
ヨーロッパ改革センターのトマス・バラセク外交防衛政策部長は、オバマ氏がロシアとの核軍縮を進めることは正しいが、アメリカは東ヨーロッパに関与することも保証しておかねばならないと述べている。また、ロシアはセロ・サム思考から抜け出せず、アメリカの利益はロシアの損失で逆もまた真なりと考えている(“Missile strategy must not be seen as a retreat”; Financial Times; 9 September 2009)。
しかし事はきわめて厄介である。私は共産主義体制崩壊後のロシアでカルト・ナショナリズムが広がっていることについての記事をいくつか投稿してきた。こうした事態を踏まえて、共和党のジョン・カイル上院議員はオバマ大統領を以下のように非難している。
ポーランドとチェコ共和国がイラクとアフガニスタンに派兵してアメリカ軍に貢献したのにもかかわらず、現政権はこうした同盟国の信頼を裏切っている。・・・・・現政権が送るメッセージからアメリカが同盟国を支援するよりもロシアとの関係をリセットする方が重要だと考えていることが明らかである。これは間違っている!(“Kyl Blasts Obama Missile Defense Surrender”; Weekly Standard Blog; September 17, 2009)
アメリカン・エンタープライズ研究所のゲーリー・シュミット上級戦略研究部長は「我々はロシアとの関係リセットのボタンを押しただけでなく、中央ヨーロッパの同盟国ともリセットをしている。今回に限っては我が国を頼りにする同盟国に『まとわりつくな』とでも言わんばかりの態度である」と述べている(“Are We Dropping Missile Defense in Europe?”; The Enterprise Blog; September 16, 2009)。
さらに重要なことに、これを聞いたタカ派が右傾化を強めるロシアで勢いを増している。私はロシアでヨシフ・スターリンの人気が日増しに高まり、メドベージェフ・プーチン政権がこの愛国的情熱を自分達の権威主義政治に利用しているという記事を投稿してきた。
ロシアの外交はゼロ・サム思考に基づいており、モスクワの外交政策形成者達はオバマ氏が思い描くような「互恵」関係など理解していない。強硬派の台頭はウクライナ、グルジア、カフカス地域にも悪影響を与えるであろう(“Demise of U.S. shield may embolden Russia hawks”; Reuters; September 17, 2009)。
私はオバマ政権は相手の体制の性質を理解する必要があることを強く訴えたい。 プラハ演説とカイロ演説に見られたように、バラク・オバマ氏はアメリカの力と理念を積極的に訴えようとしない。イギリスのサッチャー元首相の元外交政策スタッフであったナイル・ガーディナー氏は極端な謝罪外交だったと論評している。甘く優しいアメリカなど世界には必要ない。オバマ大統領、西側との強い絆にこそ真のホープを見出すポーランドとチェコの国民を失望させないで下さい。
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