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2009年9月 9日

中国の「平和的な台頭」に異論

グローバル経済を無邪気に信じる人達の中には中国の「平和的な台頭」を歓迎する者もいる。アメリカとヨーロッパでそうした主張を無邪気に信じ込む人達は中国が世界の経済成長に貢献すると主張し、中国が「責任ある当事者」になることを何の疑いもなく受け入れている。さらに日本の次期首相と目される鳩山由紀夫氏はニューヨーク・タイムズ8月27日版への寄稿で物議を醸した“A Path for New Japan”という論文で、日本と中国が緊密に協力して東アジア共同体を設立すべきだとのたまった。

しかし当ブログでも述べているように、中国はロシアとともに西側による自由主義の世界経済秩序に厳しい挑戦を突きつけている。非常に重要なことに、市場経済は東ヨーロッパでは民主主義と並行して進んでいったが、中国とロシアでは共産主義よりも危険なカルト・ナショナリズムの台頭につながってしまった。実際に、中国指導者層の野望は彼らが言うほど「平和的」ではない。中国首脳陣は人民元をドルに代わる準備通貨にしようと画策し、最終的には今年のエカテリンブルグ首脳会議に関する記事でも述べたようにブレトン・ウッズ体制を崩壊させようとしている。中国当局は欧米に対してますます高圧的な態度をとるようになっている。

この問題について、ヨーロッパ改革センターのチャールズ・グラント所長は今年の7月に“Liberalism Retreats in China” という論文を出している。中国は市場経済を導入したものの、政治的には共産党による締め付けが厳しく、国民には思想的な制約が科されている。中国の経済的ナショナリズムと欧米への強硬な態度に関するグラント氏の論文を振り返りたい。

中国の経済的ナショナリズムは世界経済危機を契機に急激に強まった。政府は重化学、エネルギー、航空宇宙、そしてハイテク産業といった戦略産業に対する外国企業からの直接投資を制限し、厳しい国家統制の下に置いている。貿易では中国は人民元の対ドル為替レートを人為的に低く抑えて世界市場での中国の輸出品の競争力を高めようとしている。私は中国が西側主導の自由主義経済にただ乗りをしながら、国際的な行動規範を侵害していると強調したい。

さらに問題となるのは自己主張を強める一方の外交政策である。中国はミャンマー、スーダン、北朝鮮といった圧政国家を支援している。北京当局は南シナ海と東シナ海で軍事力を誇示している。チベット、天安門、新疆といった人権問題は中国と欧米の関係を揺るがしている。非常に興味深いことに、中国はヨーロッパに対してはアメリカに対するよりも強硬な態度に出ている。これはアメリカは超大国で中国に大きな打撃を及ぼすことができるのに対してヨーロッパはそうでないからである。さらに中国のメディアはアメリカの指導者による中国批判を報道したがらないが、ヨーロッパの指導者がそうすれば即座に叩きにくる。

例えばヒラリー・ロッダム・クリントン国務長官が今年の天安門事件20周年式典で流血の惨事を非難した際に、中国政府はこの演説を報道しなかった。中国国民にはアメリカの指導者が厳しい態度をとったことが知らされないままである。他方でヨーロッパの指導者がチベットでの暴虐行為を非難すると中国のメディアはこれを大々的に報道した。

これは日本にとっても貴重な教訓である。相手が強いと中国は下手に出る。他方で相手が弱いと中国は高圧的になる。鳩山次期首相、肝に銘じて下さい!中国と「アジア共通の家」に共存することは日本国民にとって何の利益にもならない。

中国当局は日本大使館襲撃事件の際のように国民のナショナリズム感情を巧妙に駆り立てる(“Youth Attack Japan's Embassy in China” Washington Post; April 10, 2005)ものの、チベットとウイグルの場合に見られたように一般国民の感情によって政府が欧米に強硬な態度に出ることもよくある。ロンドン・スクール・オブ・エコノミックスのマーティン・ジャック訪問フェローは、自らの新刊“When China rules the world: the rise of the Middle Kingdom and the end of the Western world”で中国の国民は欧米による少数民族支援を自分達の国の統一を乱そうとする陰謀と見なしていると指摘する。政府の経済統制が特に世界経済危機を契機に強まったことは西側との経済関係に障害となり、長期的には中国の対外関係を悪化させるであろう。

グラント氏は核不拡散と経済協力のような共通の利益に代表される楽観的側面にも言及している。しかし中国の政治と経済は自由からほど遠くなる一方である。外交政策は政府主導か国民の自発的なものかを問わずカルト・ナショナリズムに支配されるようになっている。経済での国家統制は強まっている。中国と欧米の衝突はこれまで以上に深刻化するであろう。鳩山次期首相、9月16日の就任時にはこのことを肝に銘じてください。

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コメント

日本だけでなく欧米諸国でも一般の人々は政治外交には関心が少ないのでしょうか、中国はそれほど悪くないとみているのでしょうか。私も単なる素人ですが、それでも、鳩山民主党政権が中国に接近する態度はいかにも無防備で大きな危険をはらんでいるように思えます。中国は共産主義と資本主義の悪いところばかりを取りまとめたような国だと素人考えしていましたが、このブログで「中国とロシアでは共産主義よりも危険なカルト・ナショナリズムの台頭につながってしまった。」とおっしゃっているのを読んでなるほどと納得しました。日本共産党も庶民の味方とかいっていますが、万が一政権につけば必ず独裁政治を実現さすでしょう。日本共産党の党内そのものの状況が独裁的だそうですから。なんとしても自由を掲げる政治でなければなりません。このブログに心より賛同します。

賛同していただいて、どうもありがとうございます。建国60周年式典に見られたように、経済発展のために資本主義的なシステムをうまく活用していますが、やはり中国は共産党独裁の体制です。

>>中国は共産主義と資本主義の悪いところばかりを取りまとめたような国

決して素人考えではないです。素晴らしい表現です。

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