日本外交は民主党政権でどうなるか
民主党が地滑り的な勝利を収めてからというもの、日本のメディアはアメリカと世界各地のリベラル・メディアがオバマ・フィーバーに沸きかえったように、チェンジを過熱報道している。就任からほどなくして鳩山由紀夫首相は国連総会とG20経済回避に出席するためにニューヨークとピッツバーグを訪問した。日本の世論が新しく民主党から選出された鳩山首相に対して “All Hail the Messiah”(先の大統領選挙でアメリカの保守派論客のグレン・ベック氏がロッキーⅣの場面で流れたソ連国家の替え歌でメディアの間でのオバマ氏の異常な人気を風刺したもの。反オバマ派の有権者の間で爆発的なヒットとなった。)のムードであったので、そのような賞賛の喧騒から離れるためにも日本民主党政権についての記事は投稿しなかった。
実際に西側の主要同盟諸国の関心は、鳩山氏のデビューと国連総会で首相自身が掲げた二酸化炭素排出量25%削減という大々的な目標よりもイランとアフガニスタンに向けられていた。
しかしそろそろ鳩山氏の下で日本の外交がどうなるかを議論してもよい時期である。首相の訪米を前に、カーネギー国際平和財団のダグラス・パール副所長は9月16日にインタビューに応じ、その様子が以下のビデオで観られる。パール氏はレーガン政権とブッシュ・シニア政権で東アジアの専門家として国家安全保障委員会に籍を置いた。
パール氏は基本的に民主党政権下でも日本の外交政策に大きな変化はないと見ている。また新政権の登場を自民党の一党支配から真の二大政党民主主義への第一歩だとして肯定的に論評している。しかし鳩山氏が政策形成過程を官僚主導から内閣主導に向けて大胆に改革しようとしているので、官僚との間の意思疎通では難題に直面するだろうと述べている。
新しい政策形成過程に関しては9月29日に行なわれたACCJのフォーラムでもアメリカのロビイスト達が同様のことを述べていた。ダグラス・パール氏とは違って、在京のロビイスト達が日本の民主主義については言及しなかった。これは下手に日本の内政に口を出してアメリカのビジネス権益に対する反感を刺激したくないという理由もあるのかも知れない。以前の記事(1および2を参照)でも述べたように、ワシントンのシンクタンクの研究者達はしがらみにとらわれずに大胆な発言ができる立場にある。
それではインタビューを振り返りたい。経済に関してパール氏は民主党が小泉改革の下での郵政民営化を逆転させることはあり得ないと指摘する。まさにその通りで、というのも日本の指導者も一般市民もその改革が何物かを理解していないように私には思えるからである。
鳩山氏の親アジア的な態度はアジア近隣諸国に肯定的に受け止められているが、パール氏は日本と近隣諸国の関係に基本的な変化はないと見ている。領土問題、東シナ海、歴史認識といった双方が合意に達するには難しい課題を抱えているためである。私はさらに、日本と中国がアジア共通の家に共存するなど、ロシアがEUやNATOのような西側民主主義クラブに加入することと同じくらいに考えられないことを強調したい。
日米関係は日本がパックス・アメリカーナの下でポスト・モダンの平和を喜んで受け入れている現状では大きな変化はないだろう。しかしパール氏は民主党の政治家達は自分達が経験不足であっても官僚の助言に従おうとしていないのは、新内閣が官僚支配の打破を掲げているからだと述べている。アメリカ側は政策のやりとりのうえでどこに接触を試みればよいか探り当てることが難しくなるだろう。きわめて重要なことに、パール氏はオバマ政権は日本にアフガニスタンでの作戦のための給油継続を強要することはないと述べている。むしろ、オバマ氏は日本がアフガニスタンの市民生活への支援などの代替策を出せば受け入れるだろうとも言う。
上記の分析に加えて、ダグラス・パール氏は日本に対して死活的に重要な助言をしている。日本のメディアは鳩山氏に注目しすぎているが、オバマ氏も日米関係に重要な鍵を握る一人である。バラク・オバマ氏は冷静沈着でビジネスライクなので、指導者同士の人間関係が重要な役割を果たすことは考えにくい。またオバマ氏が世界を「アメリカの敵か味方か」という観点から見ることはない。
パール氏の提言は正しいと思われる。ポーランドとチェコからのミサイル防衛システムの撤退に見られるように、オバマ大統領はアメリカに対する忠誠を重視していない。よって鳩山首相は多国籍軍への給油に代わる案を出す必要がある。また、首相が本気で官僚と政治家の関係を再構築しようと言うなら、政策形成の道筋を明快でわかりやすいものに再建する必要がある。そうしないとアメリカの交渉者達は自分達の案件を日本の誰に持ち込むべきかがわからず、悩まされることになる。冷静沈着でビジネスライクな大統領はそんな日本を辛抱してくれないかも知れない。鳩山首相、このことに留意して下さい。
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