オバマ外交の後始末役を果たすバイデン副大統領
ジョセフ・バイデン副大統領はオバマ政権の外交政策で特別な役割を担っているように見受けられる。バラク・オバマ大統領はロシア、中国、イラン、ベネズエラなどアメリカに対する敵対国や挑戦国との関係改善をはかるという新しい外交を展開している。そうした宥和姿勢に懸念を訴えるアメリカの同盟国もある。バイデン副大統領は7月のウクライナとグルジアへの訪問と10月のポーランドとチェコへの訪問でそうした懸念を宥めようとしている。ジョセフ・バイデン氏はバラク・オバマ氏の足りないところを補う役割をしているのだろうか?
以前の記事で私が述べたように、ロシア・トゥデーはバイデン氏がウクライナとグルジアを歴訪中にアメリカが両国のためにロシアとの関係を犠牲にはしないだろうと論評していた。彼らは序列という単語を用いてオバマ大統領のロシア訪問はバイデン副大統領のウクライナとグルジア訪問より重要性が高いと強調した。
ロシアがアメリカを弱いと見ていることを示すかのように、ドミトリー・メドベージェフ大統領は親欧米のユーシェンコ政権を非難して圧力をかけた。オバマ氏は世界各地のハト派に人気が高いかも知れないが、ロシアや中国のように巨大な敵対国の脅威にさらされている忠実な同盟国にとっては柔和な姿勢とアメリカの覇権に対する自虐主義は死活的な懸念材料である。ポーランドやチェコのような同盟国にとって、狡知に長けた挑戦国に対処するにはバラク・オバマ氏はあまりにナイーブで経験不足に見えてしまう。よってジョセフ・バイデン氏がこうした国々の不安を宥めることが期待されている。
バイデン氏が10月に東ヨーロッパを訪問する前に、ヨーロッパ政策分析センターのエワ・ブラスジンスカヤ研究員はワルシャワ・ビジネス・ジャーナルのブログで、ポーランド政府に対してこの機を利用してアフガニスタンでのNATO軍へのポーランドの貢献を再確認し、バイデン氏にミサイル防衛問題での再考を促すように主張している(“Vice President Biden’s Poland visit more than just damage control”; CEE Policy Watch; 20 October 2009)。
ミサイル防衛は縮小したものの、オバマ政権は新しいヨーロッパへの積極的な関与の継続を示した。ジョセフ・バイデン副大統領はポーランドのレフ・カチンスキー大統領とドナルド・トゥスク首相と予定より長く会談して彼らの懸念を宥めた。それアメリカがポーランドとチェコからミサイル防衛システムを撤退させるというはオバマ大統領の無用心な発言に対する事後処理であった。しかし野党は代替案実施の日時も決まっていないようでは、こんなものはまやかしだと批判している(“Biden does damage control”; Warsaw Business Journal; 26 October 2009)。
バイデン氏はチェコのヤン・フィッシャー首相との会談でも同様な事後処理外交を行なった。アフガン戦争でのチェコの貢献は称賛されたが、両者とも新計画を二国間で行なうかNATO中心で行なうかについて合意に達しなかった(“Biden reassures ČR of defense role”; Prague Post; October 28 2009)。さらにチェコのバクラフ・ハーベル元大統領はバイデン氏の説明が「合理的」だと認めながらもオバマ氏がダライ・ラマとの会見を拒否したことを批判した(“Havel: US foreign policy aware of threats”; Prague Daily Monitor; 26 October 2009)。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミックスでフェローのアルテミー・カリノフスキー氏は中央ヨーロッパの同盟国を宥めるためにジョセフ・バイデン氏を経検したことは最善の選択だと述べている。バイデン氏は1990年代にNATO東方拡大の後押しで輝かしい経歴を持ち、この地域での人脈も豊富である。しかしポーランドもチェコもバイデン氏が期待に応えられないようだと失望してしまう。カリノフスキー氏が述べているように「結局のところ、オバマ政権は内政でもそうだったように誰とでも友好関係を築くのは不可能だと悟るであろう」ということである(“The Man for the Job in 'New Europe'?”; National Journal; October 20, 2009)。
オバマ氏が敵対国や挑戦国との関係緩和の希望を最も微妙な時期に口にしたことは時期尚早であり、忠実な同盟国に深刻な懸念を抱かせてしまった。ワルシャワ・ビジネス・ジャーナルもプラハ・ポストもオバマ大統領が独ソ軍ポーランド侵攻70周年式典でロシアのプーチン首相が挑発的な発言をしたことに充分な考慮を払わなかったと指摘する。プーチン氏の親スターリン的な演説は中央ヨーロッパと東ヨーロッパ諸国民の背筋を凍らせた。またバイデン氏は代替ミサイルのSM3について詳細な情報を伝えていない。ジョセフ・バイデン氏は事後処理の任務を完了して新しいヨーロッパの同盟国の信頼を回復するためにはもっと多くのことをやる必要がある。
オバマ氏はすべての当事者を癒すことはできない。プラハ演説とカイロ演説は称賛を受けたが、大統領は国際政治での力の論理の生々しい現実に直面しなければならない。副大統領はカスタマー・サービス・センターの室長のようにアメリカの同盟国の懸念の面倒を見るために、重要な役割を果たすであろう。いずれにせよ、ジョセフ・バイデン氏がオバマ政権の外交政策で果たす役割は新しいヨーロッパと旧ソ連諸国にとどまらない。バイデン副大統領はアメリカが超大国の役割を果たすうえでオバマ政権の中でかなり重要な役割を担うであろう。
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