ホーマッツ国務次官、早稲田大学で講演
シンガポールでのAPEC首脳会議が終了してほどなく、ロバート・ホーマッツ国務次官(経済、エネルギー、農業担当)が「新たなグローバル経済における日米のリーダーシップ」と題する講演を早稲田大学で行なった。このイベントが開催されたのは早稲田大学の歴史的な遺産とも言える大隈講堂である。
この講演はAPEC首脳会議の直後であることを反映してか、内容はグローバルというよりは地域的なものであった(講演のテキスト文書はこちらを参照。)。極めて象徴的なことに、ホーマッツ次官は冒頭で1972年の米中国交正常化に触れた。当時の日本の政策形成者達はこれによって東アジアでの日米同盟の重要性が低下するのではと思って狼狽した。しかし、ホーマッツ氏は米中関係正常化にもかかわらず日本はアジア太平洋地域で最も重要な同盟国であり続けたと述べた。ホーマッツ氏は日本国民に中国との間で地域での主導権争いや歴史認識といった問題にとらわれぬようほのめかしている。シンガポールAPEC首脳会議ではバラク・オバマ大統領が中国の「平和的な台頭」を歓迎する旨を表明し、自国の保守派から厳しく批判されている。
ホーマッツ次官の中国に対する態度は地政学的な観点を超えたものである。ホーマッツ氏は気候変動、代替エネルギー、開発援助、世界経済といった一国を超えた課題に対処するには多国間のアプローチが必要だと強調した。講演の中でもG7やG8ではなくG20について何度も言及していた。ホーマッツ氏の外交政策の視点は冷戦終結時にストローブ・タルボット元国務副長官が国家アクターと非国家アクターが入り混じっての政策調整を行なうように説いた論文を思い起こさせる(“Globalization and Diplomacy: A Practitioner's Perspective”; Foreign Policy; Fall 1997)。オバマ政権はイデオロギーと地政学をめぐる抗争が終焉し、地球市民が体制の違いを乗り越えた友愛という素晴らしい夢を追求するクリントン政権期のような世界を思い描いているのだろうか?
ロシアと中国に対する態度に見られるように、オバマ政権は両権威主義国家に欧米流の自由主義を普及させることには消極的である。その代わりに体制と政治的な価値観を超えて両国との対話を強めようとしている。
ホーマッツ次官は日本とアメリカが緊密な協力でこのような世界、特にアフガン戦争、環境、開発援助といった問題に対処すべきだと語った。
質疑応答の場で、私は「オバマ政権には批判的な質問で恐縮ですがよろしくお願いいたします(Please forgive me to ask a critical question to the Obama administration)」と言ってオバマ大統領がアメリカは中国の台頭を受け入れると述べたシンガポール演説への懸念を訴えた。私は日中間の主導権争いにとらわれているのではなく、The Return of Historyの視点から中国の台頭に多いに懸念を抱いている。彼らの権威主義的な資本主義が世界を席巻するようになると、アメリカや日本やヨーロッパのような自由諸国には脅威になると私は考えている。さらに、欧米の専門家やメディアは中国での過激ナショナリズムの高まりを警戒している("China's rising nationalism troubles West"; BBC News; 17 November 2009)。 シンガポール演説はプラハとカイロでの有名な謝罪自虐演説のように私には思える。
私の質問に対してホーマッツ次官は民主主義なのでどのようなご質問もどうぞと言われた。ホーマッツ氏は中国との間には政治的価値観や国益の食い違いは多くあるものの、G20やその他の多国間の枠組でアメリカと自由主義同盟国にとっても重要なパートナーであると強調した。
この講演はオバマ政権の外交政策上の視点を理解するうえで良い機会であった。私は早稲田の学生達が環境、開発、二国間および世界規模の諸問題についてなげかける質問を楽しんだ。今は私の頃よりも多くの学生が国際協力に関わるようなっているので、ホーマッツ次官と学生のやりとりは非常に刺激と活気に満ちたものであった。
写真:アメリカ国務省
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