在日米軍司令官によるACCJ昼食会講演
11月5日に私は東京の有楽町にあるペニンシュラ・ホテルの昼食会でエドワード・ライス米空軍中将の講演を聴いた。ライス中将は2008年に在日米軍司令官に任命されている。
ライス中将は国際安全保障をめぐる環境の変化について講演を行ない、日米同盟が新しい課題に対処するために変化してゆくべきだと強調した。そうした課題はテロ、疫病、組織犯罪などのように主に国家の枠組を超えた性格のものである。さらにそうした脅威は国民国家同士の抗争というこれまでの脅威以上に重要になっていると述べた。中将は日本とアメリカが協力関係を深めてこうした地球規模の脅威に対処すべきだと語った。
ライス中将の講演はオバマ政権の外交政策観を反映しているように思える。確かに国家の枠組を超えた課題が突きつけられる時代には多国間の安全保障協力がこれまで以上に重要になる。しかしジョン・マケイン上院議員が現在の大統領職にあったなら、講演の内容もいく分違っていたかも知れない。自身の政治信条がどうであれ、ライス中将はオバマ政権の下で任務に当たっている。これはデービッド・ペトレイアス陸軍大将が共和党支持者の間で人気が高くてもオバマ政権の下で任務に当たっているのと同じである。ペニンシュラ・ホテルでの講演内容がオバマ色の強いものであっても何ら不思議はない。
講演後の質疑応答では参加者から日米関係と東アジアの安全保障に関して広い範囲の質問が寄せられた。そうした質問には北朝鮮、沖縄の普天間米軍基地、東アジア共同体、そして日本の一般市民の間での安全保障に対する関心といった問題が挙げられた。
東アジア共同体についてライス中将はそれが何者かを見極める必要があるので、参加者には性急な判断を下すべきはないと述べた。一般市民の間での安全保障の関心について、在日米軍司令官は必ずしもアメリカ人の方が日本人よりも安全保障に関する意識が高いとは言えないと述べた。
在日米軍司令官は非常に慎重で、以前の記事で引用したワシントン・ポスト掲載の「今や最も厄介なのは中国ではなく日本だ」といった匿名の発言のようなことは言わなかった。メディアとは違いライス中将は鳩山政権を何か刺激するような発言はしなかった。
私はライス中将に対してロシアと中国で過激なナショナリズムが台頭している中で国民国家の役割が小さくなっていると言えるのだろうかという質問をした。カーネギー国際平和財団のロバート・ケーガン氏とファイナンシャル・タイムズのギデオン・ラッチマン氏というアメリカとヨーロッパを代表する論客の討論を当ブログでとりあげて以来、非民主的な資本主義国となった両国の動向に注目してきた。私はロシアについてソ連の亡霊の復活、そして中国については平和的な台頭という語句を引用して、両国の挑戦にアメリカやヨーロッパや日本のような先進自由諸国はそのような政策で対処すべきかを問うた。
私の質問に対してライス中将は国家の枠組を超えた課題が重要性を増す中でも従来通りの国民国家間のパワー・ゲームは依然として重要だと答えた。またロシアと中国の挑戦に対処するには対話と封じ込めの組み合わせが必要だとも答えた。西側同盟が強硬手段だけに頼ればロシアと中国での過激ナショナリズムはさらに強まるとライス中将は言う。
私は参加者からのその質問にも丁寧に応じるライス中将の姿勢に感銘を受けた。在日米軍司令官は参加者の皆さんの関心を知るにはこのイベントが良い機会だとまで述べた。私にとってもゲスト・スピーカーと各界を代表する参加者との意見交換に参加できたことは良い機会だった。
注:当ブログ記事は投稿者の個人的な見解を反映するもので、ACCJとも在日米軍とも関係ありません。本文中の記述内容についての責任は全て投稿者に属します。
写真:在日米軍
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