« 2009年11月 | トップページ | 2010年1月 »

2009年12月31日

中国は世界を支配できるか?

中華龍は目覚しい経済成長の最中にあり、専門家の中には来年には日本のGDPを抜くと言うものもいる。それによってこの国はアメリカに次ぐ世界第2位の経済大国となるのである。また、近年の中国の軍備増強は急激である。中国当局はしばしば、アメリカもっと広くは欧米による世界秩序に異を唱えている。だが中国はどれほど強いのだろうか?

メディアとオピニオン・リーダー達はこの重大な疑問点を充分に考慮せずに中国が今世紀の国際政治経済に及ぼす影響を議論している。カーネギー国際平和財団のミンクィン・ペイ準上級研究員は、中国の力と国際舞台での指導的役割について疑問を呈している (“Why China Won't Rule the World”; News Week; December 8, 2009)。中国の力に関する同士の最近の論文を検証してみたい。

世界金融危機から先進資本主義国の経済が停滞する中で、西側の論客達は中国が危機を巧みに乗り越えたと賞賛している。新興経済諸国と途上国の指導者の中には民主主義と結びついた欧米型の自由市場経済に幻滅して中国の権威主義的な赤い資本主義に魅了される者まで現れている。

しかしペイ氏は過熱する中国経済の負の側面をいくつか指摘する。中国当局は民間銀行の過剰貸付と国営企業による不動産や株式市場への過剰投資を懸念している。中国でのテレビ、自動車、玩具の生産は増加しているが、自国の消費者はそれらの製品を買わない。途上国からの天然資源の供給を確保しようという中国の試みは、西側諸国政府、多国籍企業、現地社会の激しい反発を招いている。ペイ氏が言う通りなら、中国はメジャーが石油を支配しているようには世界の天然資源を支配できない。

中国経済では強い成長力と不確実性が表裏一体なので、中国の生産力と金融力に関しての議論は決着がつかない。私は最も重要な点は中国が世界を運営できるだけの構造的な力を得たかどうかだと考えている。言い換えれば、中国は西側と共に世界のシステムと枠組を作り上げるうえで影響力を行使できるのだろうか?

ロンドン・スクール・オブ・エコノミックスの故スーザン・ストレンジ名誉教授は国際政治経済で行使される力を関係的な力と構造的な力に分類した。「関係的な力とはBに対して本来ならやらなかったような何かをさせるAの力である」のに対し、構造的な力とは事がどのようにして行なわれるかを決める力であるStates and Markets; p.24~29)。中国は工業生産の急成長で関係的な力を得たかも知れないが、構造的な力まで得たのだろうか?

ペイ氏は「中国がそれほど強いなら、世界規模の問題でもっと積極的にリーダーシップをとろうとしないのはなぜだろうか?というきわめて重要な疑問を投げかけている。ペイ氏はG20ロンドン・サミットからCOP15コペンハーゲン会議にいたる国際会議で中国は自国の国益を守ることに精一杯であったと指摘する。

確かに中国はアメリカ中心の世界秩序に大きな挑戦を突きつけ、欧米主導の体制とイデオロギーへの反発を強めている。しかし、中国はグローバルな課題での問題設定と世界運営の意思決定で責任を分担するだけの準備もできていなければその能力もない。そうした事情から、中国がアメリカに代わって覇権国家となるように期待することは危険な発想である。中国の指導者達が自由主義を後押しして平和と安定という国際公共財を提供することは絶対にない。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年12月24日

ウクライナ大統領選挙に注目!

今年の夏に私はウクライナで1月に行なわれる大統領選挙にロシアが圧力をかけていることを述べた。選挙は1月17日に行なわれ、最終結果が判明するのは1月27日の予定である。ウィキペディアではこの選挙について有益な入門情報が記されている。

数多くの候補者の中でもビクトル・ユーシェンコ大統領、ユリア・ティモシェンコ首相、親ロシアの野党党首ビクトル・ヤヌーコビッチしが注目の候補である。リサーチ&ブランディング・グループの世論調査によると、ヤヌーコビッチ氏とティモシェンコ氏が優勢で、ユーシェンコ氏は両候補に大きく出遅れている。ウクライナのジャーナリストのテティアナ・ビソツカ氏は自身のブログで各候補の簡単な人物像を紹介している(Who is who in Ukraine)。

2004年のオレンジ革命以来、ウクライナはユーシェンコ政権の下で西欧型民主主義のショー・ウィンドーであった。市民の力と法の支配によって不正な選挙が是正され、親露派のヤヌーコビッチ氏の代わりにユーシェンコ氏が大統領に就任した。それはこの革命で民主化運動を支援したブッシュ政権にとって目覚しい勝利であった。親欧米のユーシェンコ政権はNATOとEUへの加盟も模索し始めた。

しかし経済の低迷と閣僚人事をめぐる対立からユーシェンコ大統領とティモシェンコ首相の不和が表面化するようになった。キエフでITのアウトソーシング会社を経営するアメリカ人のビジネスマンは自らのブログで政権内の不和を簡潔に述べている(“Yushchenko, Tymoshenko Rivalry Emerges onto Public Stage”; Kiev Ukraine News Blog; February 16, 2008)。さらに、以前にヨーロッパ改革センターのトマス・バラセク外交防衛部長の論文を引用したように、ウクライナはソ連崩壊から続く国内の腐敗を解決しておらず、資本主義と民主政治への移行で困難に直面している。

独米マーシャル基金のデービッド・クレーマー上級大西洋同盟フェローによると、この選挙では今年のウクライナのGDPが15%も落ち込む見通しという事情もあって経済が主要な争点となっている。ヤヌーコビッチ氏とティモシェンコ氏が優勢とは言うものの、過半数を得票できる候補者はないと見られるので2月7日の第二次投票まで選挙は持ち越されるであろう。ヤヌーコビッチ氏はロシアの支援を得ようと働きかけているが、クレムリンは両候補のバランスをとろうと注意深く振舞っている(“Ukraine’s Presidential Election: A Primer”; Focus on Ukraine; December 18, 2009)。

2004年の不正があまりにもよく知られているので、公正な選挙が重要な課題である。この選挙の結果はロシアと欧米の関係とヨーロッパ大西洋地位の安全保障に重大な意味を持つ。さらに、来る選挙の結果は旧ソ連の民主化の行方に死命を制する影響を及ぼす。いわば、ベルリンの壁崩壊後の世界が試されるのである。

新年は波乱に飛んだ幕開けになる。この選挙から目が離せない。最後にウクライナのトップ歌手であるルスラナによる同国国歌斉唱を聴いてみよう。ルスラナは2004年にユーロビジョン歌謡コンテストで優勝し、オレンジ革命も支持した。ではビデオを観よう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年12月17日

アメリカはカーター時代に逆戻りか?:孤立主義が高まる危険な事態

直前の記事で私はフォーリン・ポリシー誌が運営するブログに掲載された興味深い記事で、アメリカの孤立主義が最近40年の間で再考の水準にまで高まっていることに懸念が述べられていることに言及した。この記事は外交問題評議会とピュー研究センターの共同世論調査を基にしている(“U.S. isolationism at a 40-year high”; FP Passport; December 3, 2009)

その世論調査によると、アメリカは世界の問題よりも国内の問題を重視すべきだと考えるアメリカ国民の割合は急上昇している(図Ⅰ参照)。またアメリカが果たす指導的な役割の重要性が低下していると見るアメリカ国民は増えている(図Ⅱ参照)。非常に興味深いことに、アメリカの覇権に対して懐疑的な見方の国民の割合はここ数年の間に増加している。この図から見る限り、オバマ氏のアメリカはカーター氏のアメリカにそっくりである。両時期ともアメリカ国民はアメリカに自信を持てなくなっている。カーター化したアメリカなら、プラハとカイロの悪名高き謝罪演説を暖かく受け入れても何ら不思議はない

14284

14286

アフガニスタンへの増派に関して、一般国民は外交問題評議会のメンバーより及び腰である(図Ⅲ参照)。このことは現地のテロリストの打倒によりアメリカと同盟国を守るには孤立主義の傾向が障害になることを示している。以前の記事で引用したように、日本の元ジャーナリストの日高義樹氏はアメリカの有権者がバラク・オバマ氏を選んだのは、アメリカは重大な脅威に直面しておらず、世界や自国の安全保障は大統領選挙の重要な争点ではないと見なしたからだと述べている。外交や安全保障が重要な争点と見ていれば、有権者はジョン・マケイン氏選んだであろうと日高氏は言う。

14281

非常に危険なことに、そうした孤立主義は超党派の性格のようである。オバマ大統領の支持率は急落しているものの、保守派は殆ど内政問題を争点にしている。保守派はアメリカが世界の中でどのようなリーダーシップをとるべきかビジョンを示す必要がある。一般国民に広まる孤立主義の傾向に歯止めをかけようと、キープ・アメリカ・セーフや外交政策イニシアチブのような運動を立ち上げる論客達もいる。

中国もこの調査の重要な問題点の一つである。APEC首脳会議でのシンガポール演説でオバマ大統領はアメリカが中国の台頭を受け入れると宣言した。驚くべきことに外交問題評議会のメンバーの間では中国が将来のアメリカにとってイギリス、EU、日本よりも重要な同盟国になると見られている(図Ⅳ参照)。外交問題評議会のメンバーはパックス・ブリタニカから続く自由主義世界秩序を脅かしかねない国の台頭になぜ寛大なのだろうか覇権安定論によると、覇権国家が自由貿易と自由主義思想という国際公共財を提供すると世界の平和と安定が保たれる。イギリスが19世紀末から20世紀初頭にかけて民主主義国家アメリカか権威主義国家ドイツかの選択に迫られた時に、アメリカが選択されたことを忘れてはならない。イギリスからアメリカへの覇権の移行は比較的円滑であった。しかし中国は世界の平和と安定の基盤となる自由主義秩序を守る準備もできていなければ、その資格もない。

14283

アメリカに対する重大な脅威に関しては、一般国民が中国、北朝鮮、ロシアを挙げたのに対して外交問題評議会では気候変動や金融危機といった国家の枠組を超えた問題を挙げる声が多かった(図Ⅴ参照)。このことは外交問題評議会がリベラルで覇権外交を好まず、イデオロギーを超えた国際協調主義であることを示す(“U.S. Seen as Less Important, China as More Powerful”; Pew Research Center Publication; December 3, 2009)。

14289

問題は、外交問題評議会の専門家も一般国民も世界の中でのアメリカの帝国主義的使命を担うことに消極的なことである。オバマ政権だけでなく現在のアメリカの国民世論も危険なまでにカーター化している。

国際世論はブッシュ政権の高圧的な道徳志向の外交姿勢よりもオバマ政権の静かで融和的な外交姿勢を好むかも知れない。しかし政界の警察官の役割を分担しようとする大国は全くない(”The Quiet American”; Economist; November 26, 2009)。

オバマ氏のアメリカの時代にある国際政治経済はカーター時代に逆戻りしている。強いアメリカへの非難の代価は高くつく。ロシアと中国のような権威主義大国が自由主義世界秩序を脅かすための影響力を行使してくる。国際世論はならず者国家やテロリストに寛大になってしまう。プラハ、カイロ、シンガポールの演説に見られるように、オバマ大統領の下で自らに自信を持てないアメリカで世界を運営できるのだろうか?そうした事態は陰鬱である。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2009年12月 8日

アフガニスタン向け兵員増派の最終決断

バラク・オバマ大統領はアフガニスタンでのタリバンとアル・カイダの打倒のための兵員増派という決断をついに下した。以前の記事で私はバラク・オバマ大統領がスタンレー・マクリスタル陸軍大将による戦略アセスメントの受け入れに慎重であると述べた。統合参謀本部長のマイケル・ミューレン海軍大将、中央軍司令官のデービッド・ペトレイアス陸軍大将、NATO軍最高司令官のジェームズ・スタブリデス海軍大将ら軍部の首脳達はマクリスタル大将と会談し、オバマ大統領に戦略アセスメントの受諾を要求した。オバマ氏は同盟国からも圧力を受けた。イギリスのボブ・エインスワース国防相はオバマ氏が増派を渋っているためにイギリス兵の死傷者が増えると批判した。イギリスの閣僚がアメリカの大統領を公然と批判するのは例のないことである(Daily Telegraph; “Bob Ainsworth criticises Barack Obama over Afghanistan”; 25 November 2009)。また、ジョン・マケイン上院議員を中心とする共和党陣営は大統領にアフガニスタンの治安改善に重要な行動をとるように要求し続けていた(The decider”; Economist; November 26, 2009)。

オバマ大統領はついにアフガニスタンへの追加派兵を決断した。他方でオバマ氏はこの長引く戦争への厭戦気運にある国内世論とのバランスもとっている。ウエスト・ポイントで12月1日に行なった演説でオバマ氏はアメリカ軍が18ヶ月以内に撤退を始めると述べた。きわめて興味深いことに、これはオバマ氏の大統領再選挙より前になる。国内のハト派を宥める一方で、オバマ氏はアメリカ国民に9・11テロ攻撃とパキスタンの核兵器がテロの手に渡る恐怖を忘れぬようにと訴えた(“Obama’s War”; Economist; December 2, 2009)。

ホワイトハウスのホームページ上のビデオで、オバマ大統領は反乱分子を掃討して彼らにアメリカと同盟国を攻撃するための根拠地を建設させないようにするために三つの点を明確にしている。それはアフガニスタンの治安部隊の強化、市民生活への支援、そしてパキスタンとの連携である。大統領はアメリカ主導の多国籍軍が「18ヶ月」以内にタリバンとアル・カイダ掃討の任務を成功させてアフガニスタン政府と治安部隊に権限を移譲すると明言した(“President Obama’s Afghanistan Plan in 4 Minutes”; December 1, 2009)。

大統領選挙とは逆にオバマ氏はアフガン戦争に関してはハト派よりタカ派の支持を受けている。外交政策イニシアチブのウィリアム・クリストル所長とアメリカン・エンタープライズ研究所のフレデリック・ケーガン常任研究員はアフガニスタンへの増派の決断を称賛している。オバマ大統領による3万人の増派は4万人というマクリスタル大将の要請には満たないうえに撤退期限の設定は不適切であっても、マクリスタル大将が反乱分子を相当するには充分な兵力になったと両人は主張する。ヘルマンドとカンダハルのイギリス軍とカナダ軍にとっても増派は歓迎である。また、経済援助は貧困を対象としており反乱分子の掃討を対象としていないとも述べている。よってウィリアム・クリストル氏とフレデリック・ケーガン氏はアフガニスタンでの任務への国民的な支援を呼びかけ、イラン、ロシア、中国、国防予算をめぐるオバマ政権との見解の不一致を乗り越えるべきだと主張している “Support the President”; Weekly Standard; December 14, 2009)。

NATO同盟諸国は増派を歓迎し、ヒラリー・ロッダム・クリントン国務長官はブリュッセルでの外相会議でヨーロッパ諸国も7千人の増派を行なうということで勇気づけられた(“NATO allies pledge 7,000 more troops for Afghanistan mission”; Washington Post; December 5, 2009)。イギリス、イタリア、ポーランド、グルジアが追加派兵を行う一方で、フランスとドイツは増派を拒否した(“Allies Help McChrystal Reach Troop Goal”; Wall Street Journal; December 7, 2009)。

オバマ大統領の決断は歓迎すべきだが、問題点もある。ウエスト・ポイント演説でオバマ氏は撤退の予定に関して口にした。しかしアフガニスタンでのマクリスタル大将はインドでのマウントバッテン卿とは違う。多国籍軍はまだ強力な敵と向かい合っている。以前の記事ではAEIで行なわれたフレデリック・ケーガン氏とジャック・キーン氏のパネル・デレイスカッションをとりあげた。キーン大将はイラクの増派が成功したのはアメリカ軍が留まるという確固たる意志を明確にしたためだと述べた。さらにアメリカでは孤立主義が高まっている(“U.S. isolationism at a 40-year high”; FP Passport; December 3, 2009)。

こうした問題はアフガニスタンの戦争に制約を与えかねない。

イラクの増派は成功した。ハーバード大学のニール・ファーガソン教授がしばしば述べるように、鍵を握るのは心理的なスタミナである。アメリカ国民は9・11のテロリスト達がアフガニスタンの根拠地からやって来たことを忘れてはならない。これは勝たねばならない必要な戦争である。

ホワイトハウスのFact Sheet: The Way Forward in Afghanistan”も参照

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2009年11月 | トップページ | 2010年1月 »