中国は世界を支配できるか?
中華龍は目覚しい経済成長の最中にあり、専門家の中には来年には日本のGDPを抜くと言うものもいる。それによってこの国はアメリカに次ぐ世界第2位の経済大国となるのである。また、近年の中国の軍備増強は急激である。中国当局はしばしば、アメリカもっと広くは欧米による世界秩序に異を唱えている。だが中国はどれほど強いのだろうか?
メディアとオピニオン・リーダー達はこの重大な疑問点を充分に考慮せずに中国が今世紀の国際政治経済に及ぼす影響を議論している。カーネギー国際平和財団のミンクィン・ペイ準上級研究員は、中国の力と国際舞台での指導的役割について疑問を呈している (“Why China Won't Rule the World”; News Week; December 8, 2009)。中国の力に関する同士の最近の論文を検証してみたい。
世界金融危機から先進資本主義国の経済が停滞する中で、西側の論客達は中国が危機を巧みに乗り越えたと賞賛している。新興経済諸国と途上国の指導者の中には民主主義と結びついた欧米型の自由市場経済に幻滅して中国の権威主義的な赤い資本主義に魅了される者まで現れている。
しかしペイ氏は過熱する中国経済の負の側面をいくつか指摘する。中国当局は民間銀行の過剰貸付と国営企業による不動産や株式市場への過剰投資を懸念している。中国でのテレビ、自動車、玩具の生産は増加しているが、自国の消費者はそれらの製品を買わない。途上国からの天然資源の供給を確保しようという中国の試みは、西側諸国政府、多国籍企業、現地社会の激しい反発を招いている。ペイ氏が言う通りなら、中国はメジャーが石油を支配しているようには世界の天然資源を支配できない。
中国経済では強い成長力と不確実性が表裏一体なので、中国の生産力と金融力に関しての議論は決着がつかない。私は最も重要な点は中国が世界を運営できるだけの構造的な力を得たかどうかだと考えている。言い換えれば、中国は西側と共に世界のシステムと枠組を作り上げるうえで影響力を行使できるのだろうか?
ロンドン・スクール・オブ・エコノミックスの故スーザン・ストレンジ名誉教授は国際政治経済で行使される力を関係的な力と構造的な力に分類した。「関係的な力とはBに対して本来ならやらなかったような何かをさせるAの力である」のに対し、「構造的な力とは事がどのようにして行なわれるかを決める力である」(States and Markets; p.24~29)。中国は工業生産の急成長で関係的な力を得たかも知れないが、構造的な力まで得たのだろうか?
ペイ氏は「中国がそれほど強いなら、世界規模の問題でもっと積極的にリーダーシップをとろうとしないのはなぜだろうか?」というきわめて重要な疑問を投げかけている。ペイ氏はG20ロンドン・サミットからCOP15コペンハーゲン会議にいたる国際会議で中国は自国の国益を守ることに精一杯であったと指摘する。
確かに中国はアメリカ中心の世界秩序に大きな挑戦を突きつけ、欧米主導の体制とイデオロギーへの反発を強めている。しかし、中国はグローバルな課題での問題設定と世界運営の意思決定で責任を分担するだけの準備もできていなければその能力もない。そうした事情から、中国がアメリカに代わって覇権国家となるように期待することは危険な発想である。中国の指導者達が自由主義を後押しして平和と安定という国際公共財を提供することは絶対にない。
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