アメリカはカーター時代に逆戻りか?:孤立主義が高まる危険な事態
直前の記事で私はフォーリン・ポリシー誌が運営するブログに掲載された興味深い記事で、アメリカの孤立主義が最近40年の間で再考の水準にまで高まっていることに懸念が述べられていることに言及した。この記事は外交問題評議会とピュー研究センターの共同世論調査を基にしている(“U.S. isolationism at a 40-year high”; FP Passport; December 3, 2009)
その世論調査によると、アメリカは世界の問題よりも国内の問題を重視すべきだと考えるアメリカ国民の割合は急上昇している(図Ⅰ参照)。またアメリカが果たす指導的な役割の重要性が低下していると見るアメリカ国民は増えている(図Ⅱ参照)。非常に興味深いことに、アメリカの覇権に対して懐疑的な見方の国民の割合はここ数年の間に増加している。この図から見る限り、オバマ氏のアメリカはカーター氏のアメリカにそっくりである。両時期ともアメリカ国民はアメリカに自信を持てなくなっている。カーター化したアメリカなら、プラハとカイロの悪名高き謝罪演説を暖かく受け入れても何ら不思議はない。
アフガニスタンへの増派に関して、一般国民は外交問題評議会のメンバーより及び腰である(図Ⅲ参照)。このことは現地のテロリストの打倒によりアメリカと同盟国を守るには孤立主義の傾向が障害になることを示している。以前の記事で引用したように、日本の元ジャーナリストの日高義樹氏はアメリカの有権者がバラク・オバマ氏を選んだのは、アメリカは重大な脅威に直面しておらず、世界や自国の安全保障は大統領選挙の重要な争点ではないと見なしたからだと述べている。外交や安全保障が重要な争点と見ていれば、有権者はジョン・マケイン氏選んだであろうと日高氏は言う。
非常に危険なことに、そうした孤立主義は超党派の性格のようである。オバマ大統領の支持率は急落しているものの、保守派は殆ど内政問題を争点にしている。保守派はアメリカが世界の中でどのようなリーダーシップをとるべきかビジョンを示す必要がある。一般国民に広まる孤立主義の傾向に歯止めをかけようと、キープ・アメリカ・セーフや外交政策イニシアチブのような運動を立ち上げる論客達もいる。
中国もこの調査の重要な問題点の一つである。APEC首脳会議でのシンガポール演説でオバマ大統領はアメリカが中国の台頭を受け入れると宣言した。驚くべきことに外交問題評議会のメンバーの間では中国が将来のアメリカにとってイギリス、EU、日本よりも重要な同盟国になると見られている(図Ⅳ参照)。外交問題評議会のメンバーはパックス・ブリタニカから続く自由主義世界秩序を脅かしかねない国の台頭になぜ寛大なのだろうか覇権安定論によると、覇権国家が自由貿易と自由主義思想という国際公共財を提供すると世界の平和と安定が保たれる。イギリスが19世紀末から20世紀初頭にかけて民主主義国家アメリカか権威主義国家ドイツかの選択に迫られた時に、アメリカが選択されたことを忘れてはならない。イギリスからアメリカへの覇権の移行は比較的円滑であった。しかし中国は世界の平和と安定の基盤となる自由主義秩序を守る準備もできていなければ、その資格もない。
アメリカに対する重大な脅威に関しては、一般国民が中国、北朝鮮、ロシアを挙げたのに対して外交問題評議会では気候変動や金融危機といった国家の枠組を超えた問題を挙げる声が多かった(図Ⅴ参照)。このことは外交問題評議会がリベラルで覇権外交を好まず、イデオロギーを超えた国際協調主義であることを示す(“U.S. Seen as Less Important, China as More Powerful”; Pew Research Center Publication; December 3, 2009)。
問題は、外交問題評議会の専門家も一般国民も世界の中でのアメリカの帝国主義的使命を担うことに消極的なことである。オバマ政権だけでなく現在のアメリカの国民世論も危険なまでにカーター化している。
国際世論はブッシュ政権の高圧的な道徳志向の外交姿勢よりもオバマ政権の静かで融和的な外交姿勢を好むかも知れない。しかし政界の警察官の役割を分担しようとする大国は全くない(”The Quiet American”; Economist; November 26, 2009)。
オバマ氏のアメリカの時代にある国際政治経済はカーター時代に逆戻りしている。強いアメリカへの非難の代価は高くつく。ロシアと中国のような権威主義大国が自由主義世界秩序を脅かすための影響力を行使してくる。国際世論はならず者国家やテロリストに寛大になってしまう。プラハ、カイロ、シンガポールの演説に見られるように、オバマ大統領の下で自らに自信を持てないアメリカで世界を運営できるのだろうか?そうした事態は陰鬱である。
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