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2010年2月21日

普天間米軍基地問題で揺れる日本の防衛

先日、長尾秀美氏から普天間基地問題についてブログ記事を書いて欲しいと言う要望があった。長尾氏は日米関係の悪化と中国や北朝鮮に脅威の増大に重大な懸念を抱いている。以前に当ブログでは長尾氏の著書「日米永久同盟」を紹介したことがある。

私は日本の住民として、基地紛争が日本の外交と安全保障政策に与える影響の大きさを充分に認識してはいた。しかし当ブログの主要テーマはアメリカ外交と世界秩序である。そのため大西洋、ユーラシア、中東に目が向いていた私は日米基地問題に充分な注意を向けられなかった。非常に象徴的なことに、バラク・オバマ大統領がこの問題に殆ど関与していないのに対し、日本では政治家から一般国民まで国を挙げての議論になっている。

普天間問題の基本的理解のために、こちらのリンクを参照して欲しい。登場した頃の鳩山政権は基地問題の取り決めを覆し、アメリカ軍を日本国外のグアムとサイパンに移転させようとしていた。閣僚達はそれが難しいとわかったのだが、福島瑞穂氏をはじめとする閣内左派は依然として普天間の兵力を沖縄県外に移転しようとしている。

親米ナショナリストの論客である櫻井よしこ氏は日本の中産階級ビジネスマンの間で広く読まれている保守派のジャーナルで、基地問題の暗黒の側面について論評している。櫻井氏は1月24日の沖縄県名護市の市長選挙で左翼の稲嶺進氏が当選したことで、鳩山政権は難しい対応を迫られると警告している。稲嶺氏は普天間から名護へのアメリカ海兵隊基地の移設という現行計画は延期し、移設予定の米軍施設は沖縄県外に行くべきだと主張している。櫻井氏は稲嶺氏が大濱長照石垣市長と左翼同士で結びついて日米交渉を妨害すると懸念している。極左の政治家と活動家達は米軍艦船の沖縄寄港に対して大規模なデモを行なっている。他方で2004年11月10日に中国の潜水艦が日本の領海を侵犯した事件に見られるように、この地域での中国の脅威は増大している。櫻井氏は彼ら左翼が日本の国家安全保障に害を及ぼしていると批判している。さらに鳩山由紀夫首相は「友愛」のスローガンにとらわれて左翼の抵抗運動に宥和し、日米の沖縄基地合意の実施を遅らせているとまで非難している(「日本ルネサンスNo. 397」;週刊新潮;2010年2月4日)。ちなみに大濱市長は2月28日に選挙を控えている。

長尾秀美氏によると、宮古島市の下地空港は台湾に非常に近く、日米双方が名護を選定する前には普天間の米軍の移設先の候補地の一つであった。さらに日本の航空自衛隊も米軍とともに下地に基地を建設すべきだと長尾氏は言う。

元陸上自衛隊東北方面軍総監の森野安弘退役陸将は、米中紛争や中台紛争が起きれば日本の安全保障がどれほど損なわれるかを検証している。森野氏は現在、森野軍事研究所という自らのシンクタンクを運営している。同氏は沖縄南部をアメリカ、中国、台湾の抗争の最前線だと主張し、東京の政策形成者達は東シナ海地域での中国の脅威の増大にもっと深刻な注意を払うべきだと訴えている(「中台紛争で九州・沖縄が危機に!?:自衛隊幹部OBがシミュレーション」;サンデー毎日;2000年6月11日)。

中国だけが北東アジアの問題ではない。タフツ大学フレッチャー外交法律学院のスンユーン・リー準助教授は、病状悪化するキム・ジョンイルの死後には北朝鮮が混乱に陥ると警告している。リー氏はこうした事態に中国が軍事介入すれば極東一帯に緊張が広がるが、オバマ政権はこのきわめて起こる可能性が高い危機に対して準備ができていないとも述べている("Life After Kim"; Foreign Policy; February 2010)。

これら安全保障上の課題を考慮すれば、鳩山政権は左翼と地元の反対派にあまりに融和的である。沖縄県民は在日米軍の75%が沖縄に集中していることを負担と感じるかも知れない。しかし他の地域の住民も地域の特性に合わせた負担を背負っている。これは日本を安全で繁栄した国にするための役割分担である。東京都民はラッシュアワーの負担を受け入れ、福井県民は原子力発電所の負担を受け入れている。 

非常に興味深いことに、東京駐在のあるアメリカ外交官は、普天間であれ名護であれ、さらには下地であれアメリカ軍が沖縄に残れると考えているので普天間問題を重く受け止めていないようであった。私はアメリカ側がそこまで楽観的なのは現行の合意が長い交渉の末にたどり着いたものなので、日本の指導者が誰であれこれを覆すことはできないと考えているからだと見ている。日本では与野党の指導者達がこの問題で右往左往していながら、アメリカが送ってくるのは国務省の高官であってバラク・オバマ大統領もジョセフ・バイデン副大統領も普天間交渉には出てこないというのは、両国関係の非対称性を示している。

他方で私は先の日本・黒海地域対話でヨーロッパからの参加者達がこの問題に高い関心を寄せていることに印象づけられた。NATO諸国は日本と同じような米軍基地問題を抱えている。この件はアジア太平洋を超えてグローバルな問題なのである。

最後に、日本の政策形成者達と一般国民は、左翼と地元反対派への生温い宥和によってアジア太平洋地域での日本の安全保障は脅かされ、欧米先進民主主義国の間での日本の信頼も低下することを忘れないで欲しい。そうしたことから、アメリカ軍は沖縄に留まるべきなのである。

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