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2010年3月26日

イギリスの総選挙と外交政策の行方

イギリスでは近々総選挙があり、5月6日に実施される可能性が最も高い(“The most likely date for the next election is May 6th, 2010”; Spectator――Coffee House; 1 May 2009)。この選挙は非常な接戦が予想されるので、労働党と保守党の外交政策の比較は重要になってくる。

イギリスの外交政策と総選挙の見通しを語るために、3月3日に王立国際問題研究所で開催された「変貌する世界の中でのイギリスの役割」というパネル・ディスカッション、そして3月20日に東京のLSEフォーラムで行なわれた「EUへの理解と影響力の行使、またはEUの将来に対するイギリスの態度」という講演に言及したい。

王立国際問題研究所でのパネル・ディスカッションはロビン・ニブレット所長が司会を務め、現職と影の外相が参加した。参加者は労働党のデービッド・ミリバンド氏、保守党のウィリアム・ヘイグ氏、そして自由民主党のエドワード・デービー氏である。討論会を通じて、労働党のミリバンド氏がイギリスはヨーロッパ連合の中核であるべきだと説いたのに対し、保守党のヘイグ氏はイギリスの国家主権を説いて二国間関係の重要性を強調した。以下のビデオを参照して欲しい(テキストはこちらのリンク)。

現在、イギリスは特にアフガニスタン、イラン、イラクといった中東の脅威への対処に深く関わっている。またロシア、中国、インドといった国々でのナショナリズムの高まりと経済の急速な発展は、世界に新たな挑戦を突きつけている。国際政治の環境が変わる中で、イギリスはアメリカやヨーロッパ連合との関係を再構成する必要に迫られている。

ミリバンド氏はG2(アメリカと中国)ではなくG3(アメリカ、中国、EU)が主導する世界を構想し、イギリスはEUを通じて世界の政治経済で重要な役割を果たすと考えている。また、EU拡大によってロシア、インド、ブラジルとの関係に対処する能力とアフガニスタンでの対テロ作戦のような戦争を戦う能力も向上していると述べた。

他方でヘイグ氏はアメリカとの関係をより重視し、グアンタナモでの捕虜の待遇に関する問題などでアメリカが誤った行動に出たなら、イギリスが政策訂正の助言を行なうべきだと主張している。またEUにもボスニアのような危機管理で共同軍事行動の能力を向上させるべきだと述べた。

上記のような違いはあるものの、現職と影の両外相ともイギリスはNATO、英連邦、国連安全保障理事会、EUを通じて国際政治の交流の軸という特別な役割を果たせるとの見解で一致している。私はこの役割が帝国の歴史と多文化主義に深く根ざしていると見ている。イギリスの植民地になった歴史はないものの、日本人にとってイギリスはヨーロッパでは「最も近づきやすい」国である。

東京でのLSEフォーラムでは、国立行政研修学院アダム・スタインハウス、ヨーロッパ研究部長がEUの官僚機構とブリュッセルでのロビー活動に成功する方法を語った。また、EUと自国の国家主権で揺れるイギリス外交についても語った。

困惑すべきことに、EUにはヨーロッパ全体の政策を作成できるだけの充分な人員も資金もない。スタインハウス氏はブリュッセルの意思決定が局長クラスから「大臣」レベルへのボトム・アップでなされていると語った。またEU諸機関の縦割りもあって、最終的な責任の所在が誰にあるのかわかりにくくなっている。例えばEUにはヨーロッパ理事会ヨーロッパ連合理事会ヨーロッパ委員会ヨーロッパ議会に4人の「大統領」がいる。さらにスタインハウス氏はブリュッセル官僚機構の予算が各加盟国よりも少ないと述べた。

これらの点を考慮すれば、イギリスでも特に保守党がEUを通じたアプローチよりも二国間外交を好ましく思うことも理解できる。スタインハウス氏はイギリスにとってインドやパキスタンのような国々とは二国間関係の方が強いと指摘する。確かにイギリスはアフガン戦争や南アジアの安全保障に関してはEUの窓口を通さずに二国間外交で両国と話し合っている。

しかしオバマ政権は二国間外交よりもヨーロッパ統合を優先している。ヒラリー・ロッダム・クリントン国務長官は、選挙で親EUの労働党が二国間主義の保守党に勝つことが望ましいと口にしており、上記のビデオではエドワード・デービー氏がこの件に関してウィリアム・ヘイグ氏に問い質している。しかしそうした汎ヨーロッパ主義のアプローチでは、ヨーロッパ諸国が必要なら主権国家として行動してしまうので、大西洋同盟を弱体化させかねない。さらにスタインハウス氏はヨーロッパの政治家達が本音ではバラク・オバマ氏を「軽薄」としか見なしていないとも語った。大統領候補であったオバマ氏がヨーロッパを訪問した際には、メディアと若者達が狂喜したが、玄人の政策形成者達はそのような「ロック・スター」には良い印象を抱かなかった。

英米関係に関しては、大西洋同盟重視の保守党が選挙に勝つ可能性がかなり高いので、これが逆説的にヨーロッパ統合推進派のオバマ政権とぎくしゃくした関係になりかねない。

アメリカのオバマ大統領はイギリスとの関係を「特別」とは見なさず、むしろ共通の価値観と国益を有する同盟国よりもロシア、中国、イランといった挑戦国や敵対国との対話に熱心である。しかし対テロ戦争でイギリスほど多大な貢献をしている国はない。またEU加盟国は、ブリュッセルの官僚機構が自分達の必要性を充たせない時には自国の国益を優先させてしまう。

来る総選挙で親欧派の労働党が勝つか二国間主義の保守党が勝つかで大西洋と世界の安全保障はかなり変わってくる。同時に、誰が選挙に勝とうともイギリスが今後も国際政治での交流の軸の役割を果たすことを忘れてはならない。王立国際問題研究所の討論とアダム・スタインハウス博士の講演は、そうした脈絡から理解されるべきである。

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来るイギリス総選挙のさらに詳しい情報は、こちらのブログを参照。

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2010年3月17日

日本国際フォーラム会員登録

この度、日本国際フォーラム(JFIR)の正会員に登録した。会員資格は4月からになる。

JFIRは日本では数少ない独立系の外交政策シンクタンクである。イラク戦争の際にJFIRは日本が北朝鮮の脅威にさらされているので、小泉政権にアメリカ支持をするように提言した。

JFIRとの関係のきっかけは、スタッフより同研究所の政策掲示板「百花斉放」への投稿の招請を受けてからである。グローバル・アメリカン政論のブログ記事が目に留まったということである。

また、正会員としての入会の招請も受けた。私としても日本および国際政界との人脈拡大と自らのアドボカシー活動へのファンドレイジングにもプラスになると考え、入会を決断した。正規会員となったことで、さらにステップ・アップできればと願っている。

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2010年3月14日

イラン核保有の野望阻止に中国の壁

イギリスのデービッド・ミリバンド外相は3月14日日曜日より中国を訪問する。イランの核開発計画に対する制裁の強化が今回の訪中で最重要課題となる。ミリバンド外相は中国の楊潔篪外相そして温家宝首相と会談する。石油の輸入が死活的な国益と考える中国は、アメリカとEU3が主張する制裁強化には消極的である。そうした最中にアメリカのロバート・ゲーツ国防相は最近歴訪した湾岸諸国でイランへの制裁強化の支持を要請し、ロシアと中国の反対を乗り切ろうとしている(“Britain says China won't risk isolation over Iran”; Reuters; March 12, 2010)。

ミリバンド外相の訪中を前に、英国王立国際問題研究所のケリー・ブラウン上級フェローは、2月22日のインタビューで中国経済の中でイランの石油が果たす役割を語った。以下のビデオを参照して欲しい。ブラウン氏は、中国は石油の得意先としてイランを含めた中東諸国の全てと友好関係を保つという独特な地位にあると述べている。しかしイランをめぐってアメリカとヨーロッパの同盟諸国と対決することは中国の国益には適わないとも述べている。他方で中国は近年に入って自国の主張を声高に叫ぶようになり、欧米の国益と妥協をすることは難しくなってきている。

ブラウン氏は最近の論文で、エネルギー資源と核不拡散の間で揺れる中国の立場を論じている。現在の中国にとっては経済的繁栄が最重要課題で、継続的な高い経済成長を維持できなければ共産党の正当性は失われてしまう。ブラウン氏の論文でもこれは重要なポイントで、まさにそれこそ相手国がどれほど悪評であっても、中国がそれほど貪欲なまでに石油輸入協定を結びたがっている理由である。COPコペンハーゲン交渉でも見られた通り、中国は経済成長にとらわれて環境まで目を配る余裕がほとんどない。中国は欧米が自国のような新興経済国の成長の機会を否定していると非難している。ブラウン氏はアメリカ国務省のデータを引用し、カルフォルニアの大気汚染の4分の1は中国が発生源だと指摘する。

核不拡散の取り組みの障壁となるのは、これらの無責任な行動ばかりではない。中国とアメリカの関係は、台湾への武器輸出とダライ・ラマのワシントン訪問をめぐって対立している。現在の米中関係は冷え込んでいる。

石油需要の高まりと対米関係の冷却化をよそに、中国にとって核不拡散は死活的な国益である。消極的であろうとも、中国は制裁強化を支持するであろうとブラウン氏は言う。しかしケリー・ブラウン氏は「そして最も重大な懸念は、イランのような国がアメリカと対決に当たって、中国に経済的な支援だけでなく政治的な支援まで求めるようになるのはいつだろうか?」と文末で問いかけている(”China, Iran and the United States”; World Today; March 2010)。近年になって中国で自国至上のナショナリズムが高揚しているので、欧米に対して利害を度外視した対決姿勢をとりかねない。権威主義の中国と神権政治のイランの間で、自由主義世界秩序のアウトサイダーの枢軸が形成される可能性があり、そうなると自由諸国にとってかなりの脅威となる。

イランのケースは中国が世界運営の責任を持って参画できるかを試す死活的に重要なテストである。バラク・オバマ大統領はAPECシンガポール首脳会議で、中国の台頭を歓迎すると言い放った。これはあまりに性急である。中国が考えていることは、現在の共産党支配下での圧政体制の維持と自国の狭い国益の押し付けだけであって、国際公益など眼中にはない。

ロシアとともに国際社会に難題を突きつける中国は、冷戦後には国家間の衝突はなくなったと考えるクリントン時代の夢の産物である。今回訪中のミリバンド外相が対イラン制裁で有意義な合意に至らなければ、“The Return of History and the End of Dreams”という国家対決の再来について考えてゆかねばならない。中国とロシアでのナショナリズムの高まりは、両国をますます危険な存在にしている。

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2010年3月10日

オバマ政権下での「ほろ苦い」英米関係

バラク・オバマ大統領は就任してからというもの、ヨーロッパ諸国民からイラク戦争による大西洋関係の亀裂を癒すことを期待され、人気は高い。しかしイギリスは例外である。ブッシュ政権期から、イラク戦争とアフガン戦争でのイギリスの貢献は他の追随を許さない。さらに、エリザベス女王とゴードン・ブラウン首相に対する昨春のオバマ氏の不注意な振る舞いは、イギリス国民の怒りをかった(“Why Won't Obama Honor Our Queen?”; Politics Daily; April 4, 2009)。また商工相のピーター・マンデルソン卿はバイ・アメリカン条項を批判した。さらにボブ・エインスワース国防相はオバマ氏がアフガニスタンへの増派になかなか踏み切れないと不満を述べていた。

オバマ政権は英米特別関係を重要と考えていないかも知れない。しかしバラク・オバマ氏は大統領選挙から、アフガニスタンでの戦争は対テロ戦争とアメリカの国家安全保障の中できわめて優先度の高い案件だと主張し続けており、この戦争でのイギリスの貢献度はアメリカの同盟国の中でも群を抜いている。よって、イギリスのメディアや専門家の視点に言及することは非常に重要である。

まずイギリスの視点からオバマ氏がどのように評価されているかを述べたい。王立国際問題研究所のロビン・ニブレット所長は、タイムズ紙のブロンウェン・マドックス主任外交論説員が司会を行なったパネル・ディスカッションでオバマ政権下でのアメリカ政治を語った。ニブレット氏はオバマ氏に10点満点で8点の評価を与えたが、政策の実施は始まったばかりで何の成果も挙げていないとしている。現在のオバマ氏は健康保険法案の議会通過と失業率の抑制といった内政問題にかかりきりである。よってニブレット氏は中東和平のような国際問題に取り掛かれるのは中間選挙以後になると述べている。

参加者の一人から、オバマ氏はブッシュ政権下で傷ついたアメリカの評価をどのように修復するのかという質問があった。ニブレット氏はオバマ氏が就任以来、敵対勢力(イラン)、反対勢力(シリア)、競合勢力(ロシア、中国)、同盟国(ヨーロッパ、トルコなど)との関係再構築を行なってきたと答えた。イギリスのメディアはオバマ氏を激しく批判したが、ニブレット氏はアフガニスタンでの軍事作戦と昨年4月のG20ロンドン・サミットをめぐって英米関係は強まったと述べた(“Bronwen Maddox live: the Obama presidency one year on”; Times; January 19, 2010)。

全てのオピニオン・リーダーがロビン・ニブレット氏ほどバラク・オバマ氏に対して好意的なわけではない。英国エコノミスト誌は、オバマ氏は最高司令官の責任を真剣に全うしようとしておらず、テロ収容者、アフガニスタン、イラク、イランといった課題でアメリカが何をすべきか明確に方針を示していないと記している。さらにオバマ氏はアメリカと同盟国への充分な見返りもなしに、ロシアと中国に宥和姿勢をとっている(“Is Barack Obama tough enough?”; Economist; February 25, 2010)。

イギリスのメディアと専門家は二国間関係に関してはバラク・オバマに対してもっと厳しい。前任者のジョージ・W・ブッシュ氏とは違い、オバマ氏はアメリカの敵か味方かというアプローチはとらない。またジョン・マケイン上院議員が考えるような民主主義連盟による世界運営も信じていない。

ケニア人を父親に持つオバマ大統領は、イギリスの過去の植民地主義に批判的で、大統領執務室にあったチャーチルの胸像をイギリスに送り返した。さらに重要なことに、ミシェル・フローノイ政策担当国防次官とフィリップ・H・ゴードン欧州ユーラシア担当国務次官に代表されるオバマ氏の政策ブレーンはヨーロッパ統合を支持している。しかしEU加盟国はブリュッセルの官僚機構と利害が一致しない時には自国の国益を優先する。最も頼れる同盟国を軽視すれば代価は計り知れない(“Obama Gives Britain the Cold Shoulder”; Wall Street Journal; December 13, 2009)。

アメリカのルイス・サスマン駐英大使はそうした不安を宥めようとして、特別関係はかつてないほど強まっていると述べた。サスマン大使はオバマ大統領はゴードン・ブラウン首相の指導力を高く評価し、イギリスに倣って銀行経営陣の収入への課税を行なおうとしていると語ったSpecial relationship with UK stronger than ever, says US ambassador”; Guardian; 1 January, 2010)。

しかしバラク・オバマ氏はイギリスとアルゼンチンの間で2月に起きたフォークランド紛争で中立の立場をとり、またもイギリス国民の怒りをかった。サッチャー元首相の外交政策スタッフを歴任したヘリテージ財団マーガレット・サッチャー自由センターのナイル・ガーディナー所長は、オバマ氏はアフガン戦争でのイギリスの貢献に敬意を払っていないと非難した(“The Special Relationship is under fire: Barack Obama’s refusal to back Britain over the Falklands is a disgrace”; Daily Telegraph; February 25, 2010)。エストニアのバルト国防大学のジェームズ・コーラム学長は、オバマ氏がアルゼンチンのカルクナー政権のようなラテン・アメリカの左派政権に宥和姿勢を見せても、相手が地域の問題児とあっては全くの間違いだと指摘する。バラク・オバマ氏はアメリカにとって最も頼りになる同盟国との関係を悪化させているだけである(“American neutrality on the Falklands is a symptom of US foreign policy drift”; Daily Telegraph; February 26, 2010)。

アメリカ側からも批判が挙がっている。保守派の影響力あるブログは、オバマ外交では挑戦相手には宥和をすすめながら同盟国に敬意を払わないという懸念を述べている(“The British Aren’t So Special to Obama”; Big Government; February 28, 2010 および“The Special Relationship is under fire: Barack Obama’s refusal to back Britain over the Falklands is a disgrace”; Blogmocracy; February 25, 2010)。

オバマ大統領は挑戦相手国と敵対諸国との対話をすすめてブッシュ外交を覆して国際舞台でのアメリカの評価を回復しようとしている。しかしその見返りに同盟国との関係が悪化すれば世界の中でのアメリカの立場が悪くなるだけである。アフガン戦争は優先度の高い問題なので、現在の英米特別関係は再検討が必要ある。バラク・オバマ氏が世界各地の左翼の間で人気が高い現状は、カーター時代の再来以外の何物でもない。

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