イラン核問題で中国は本当に信用できるのか?
以前の記事で、私はイランに関する英中協議に言及した。中国が対イラン制裁の実施に消極的な理由は、経済成長の継続を目論む北京政府が膨大な石油需要をまかなわねばならないからだとも述べた。英中協議からほどなくして、中国政府は欧米主要国と共に核燃料濃縮計画から手を引かないイランへの非難を決断した。しかし中国がイランの核開発阻止にどこまで取り組むかはきわめて疑わしい。最近のニュースを手短に振り返りたい。
中国は長年とってきたイランへの懲罰に消極的な姿勢を一転し、国連安全保障理事会での対イラン制裁協議に加わることを決断した。ホワイトハウスのビル・バートン報道官は、それを真の事態打開への良い兆候だと受け止めている(“Beijing agrees to talks on sanctions for Iran”; Financial Times, April 1, 2010)。アメリカのスーザン・ライス国連大使は、ロシアと中国がアメリカ、フランス、ドイツと共にイランへの制裁強化で協力を緊密にしてゆくと語った。そうした事態を受けて、イランは核問題交渉役のサイード・ジャリリ氏を北京へ派遣し、国際的な圧力の緩和をはかった。制裁実施の交渉は数ヶ月を要すると見られるが、それはロシアと中国は欧米が主張するものより弱い制裁を主張しているからである(“Iran envoy in China as sanctions push builds”; Washington Post; April 1, 2010)。
欧米からの要請に応えて、中国外務省の秦剛報道官は「中国はイランの核保有には反対だが、同時にイランが主権国家として原子力エネルギーの平和利用の開発をすすめる権利があると信ずる」と述べた(“World powers discuss sanctions on Iran, no consensus yet”; 新華社; March 31, 2010)
バラク・オバマ大統領は対イラン圧力行使での一致結束の重要性を強調したが、中国は依然として制裁強化に消極的である。中国の楊潔篪外相は「交渉は論理に基づくべきで、圧力を頼りにすべきではない。交渉と圧力が同時並行で行なわれるなら、こうした交渉には前進の余地がない」と言った(“Obama urges China to back Iran nuclear sanctions”; Guardian; 2 April 2010)。オバマ大統領は4月12日と13日に核安全保障首脳会議を開催し、中国の胡耀邦主席とこの問題を協議する(“China Visit Suggests Thaw Over Iran, Yuan”; Wall Street Journal; April 2, 2010)。
中国とロシアは、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツが要求するようなできるだけ早期の制裁実施には消極的であるが、オバマ氏はイランへの圧力行使に向けて広く国際的な合意が得られると自信を持っている(“Obama confident of securing broad support for more U.N. sanctions against Iran”; Washington Post; April 3, 2010)。
イランに対して影響力のある制裁はできないのだろうか?イスラエルのある新聞では国連安保理による圧力の共同行使に疑問が投げかけられている。中国とロシアが制裁の強化に消極的なので、イランの海外資産、輸送業者、石油・天然ガス輸出には影響が及ばぬままである(“International push for Iran sanctions is too little, too late”; Haaretz; April 2, 2010)。
ヘリテージ財団のジェームズ・フィリップス上級研究員は、中国とロシアが足を引っ張る現状で安全保障理事会が対イラン制裁を可決する可能性は低いと言う。フィリップス氏はロシアと中国に受け入れられるような中途半端な対策ではテヘランの神権政治体制には殆ど効果がないと述べている。よってフィリップス氏はヨーロッパ同盟諸国と共にイランの石油輸出禁止のような強硬手段を採用すべきだと主張している。フィリップス氏はフランスのニコラ・サルコジ大統領がオバマ大統領とワシントンで会談した際に、ロシアと中国の承諾を得ずともイギリスのゴードン・ブラウン首相とドイツのアンゲラ・メルケル首相と共に制裁強化に乗り出す考えだと示唆したと指摘している(“Iran Economic Sanctions at the U.N. Security Council: The Incredible Shrinking Resolution”; Heritage Web Memo; April 2, 2010)。
いずれにせよ、私は中国とロシアの承諾を待つために交渉を長引かせるのは得策とは信じていない。特に中国はCOPコペンハーゲン会議で見られたように、国際公益のために自国の経済成長を犠牲にする気などさらさらない。イランの現体制はパレスチナ、レバノン、イラク、アフガニスタンのテロリストと関わっており、そのような体制が核開発に乗り出そうとしているのである、オバマ大統領は対話路線を再考すべきであり、イランはまさにそれが当てはまるケースである。
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投稿: 智太郎 | 2010年4月 6日 15:13
非常に興味深いリンクでした。またよろしくお願いします。
投稿: Shah亜歴 | 2010年7月 9日 20:24