日本民主党政権の混乱と安全保障政策の迷走
去る4月14日に日本国際フォーラムの主催で拓殖大学の遠藤浩一大学院教授を招き、「民主党の政治をどう見るか?」というパネル・ディスカッションが開かれた。
遠藤教授は現在の民主党政権を三つの論点から分析し、最後に来る参議院選挙の展望を述べた。
まず昨年の政権交代については、2005年9月の郵政民営化選挙で自民党を支持した無党派層の票が民主党に流れたことが原因だと遠藤氏は述べた。ただ、自民党優位体制が揺らぎだしたのは2003年に日本で初めてのマニフェスト選挙が行なわれてからだと言う。この選挙から民主党が直実に票を伸ばすようになったのは、左翼・リベラル勢力が伸張したためではなく、保守・中道層が自民党の一党支配に見切りをつけたからである。
こうして誕生した民主党政権について、遠藤氏は閣内での政策理念の対立が著しいばかりか、党務を取り仕切る小沢一郎幹事長が鳩山内閣を支配していると指摘する。この状態は旧ソ連や中国で共産党が政府に対して優位にある有様にそっくりだと言う。遠藤氏は混乱した民主党と終焉を迎えた自民党に代わる諸新党による政界再編への期待を述べている。
その民主党政権の混乱を顕著に示すのが、安全保障で現在の最大懸案事項となってしまった普天間基地問題である。遠藤氏に限らず、日本国内では鳩山首相が公約通りに5月末までの問題解決をなし得なければ辞任すべきだという声が根強い。そうした事情からか、4月12日から13日にワシントンで開催された核セキュリティー・サミットでは鳩山首相はオバマ大統領と10分間の非公式会談で普天間問題の打開をはかった。しかし、多国間交渉の場で議題を外れた問題を持ち出したのは、おそらく鳩山首相だけではなかろうか?このことだけでも、いかに現政権の安全保障政策が迷走しているかがわかる。
47ヶ国の首脳が集まった核セキュリティー・サミットでは、沖縄の米軍基地問題など「国内問題」に過ぎない。就任してからというもの医療保険法案の議会通過をはじめとする内政問題にかかりきりで、今度はやっと核問題に取り組み始めたオバマ大統領と普天間基地の交渉をしようにも、大統領自身は普天間に関して充分な予習をしていない時期である。鳩山首相の行為は、英語の試験を前に数学の話題を持ち出す、理科の試験の前に歴史の話題を持ち出すようなものである。
ある外交官が述べていたように、普天間問題の解決が長引けば在日米軍は現状維持で普天間基地を使用し続けるだけである。アメリカはほとんど困ることはない。
この会議では核なき世界を目指す長期目標が提唱されたが、緊急の問題はイランの核武装である。オバマ大統領は中国の胡錦濤国家主席と最も長く会談したのも、イランの制裁をめぐって欧米と中国の溝が埋まらないためである。この点は以前の記事(1および2)でも論じた通りである。多くのメディアは中国に比べて日本の存在感が低下したと報道していたが、それもこれも鳩山首相が会議の議題でない問題を持ち出すのだから仕方ない。
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