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2010年5月23日

日米欧三極同盟の再強化を!

カーネギー国際平和財団のロバート・ケーガン上級研究員とファイナンシャル・タイムズのギデオン・ラッチマン主任外交論説員の討論が掲載されてからというもの、ロシアと中国に代表される非自由資本主義が西側の自由資本主義につきつける挑戦は、私の主要政策議論項目の一つになった。アメリカ、ヨーロッパ、日本は冷戦後の白昼夢から目覚め、主要先進民主主義国による三極同盟を再強化し、今世紀の世界規模の課題に対処してゆくべきである。

資本主義の衝突は特に目新しくない。冷戦終結からほどなくして、フランスの実業家ミシェル・アルベール氏は自らの著書Capitalisme contre Capitalismeライン資本主義とアングロ・サクソン資本主義の競合を主張した。これは経済政策、特に政府と産業界の関係に関する問題に過ぎない。しかしロシアと中国の権威主義的な資本主義は経済にとどまらず、西側に対する政治と安全保障での対立競合の問題である。ケーガン氏とラッチマン氏はロシアと中国で再び台頭してきた権威主義は、西側の民主主義に異議を唱え、第三世界では自分達の仲間となる圧制体制を支援して西側に対して地政学的な勢力争いで勝利を収めようとしている。

両人の警告に加えて、ユーラシア・グループという政治リスク・コンサルティング会社のイアン・ブレマー会長は、自らの著書” The End of The Free Market”で国家管理資本主義と自由市場資本主義の衝突について実業界の視点から詳細な分析を行なっている。ブレマー氏は「今はもはやグローバルな自由市場経済の時代ではない。現在の世界には二つの資本主義がある。一つは先進諸国を中心とした自由市場資本主義の体制である。もう一つは中国、ロシア、ペルシア湾岸諸国に見られるような国家資本主義の体制である。二つの資本主義はお互いに相容れない。」と述べている。中国では欧米の多国籍企業が現地の国策企業を相手に不公正な競争を強いられている。長期的には国家管理資本主義は官僚的な非効率に陥るであろうが、今後5年から10年の間は自由市場資本主義諸国が国家管理資本主義諸国から厳しい挑戦を突きつけられることになる。

国家管理資本主義が跋扈するのはどうしてだろうか?冷戦後の新自由主義経済の容赦ない競争の最中にあって、途上国の中には経済的安定と国内市場への政府の影響力の維持しようと努めてきた。世界金融危機は自由市場資本主義への信頼を低下させ、権威主義的な資本主義の勢力伸張に寄与することになった。ブレマー氏によると国家資本主義は社会主義の中央計画経済とは違う。それは権威主義的な官僚が自国の市民のためでなく、自分達の政治的生存のために市場を支配しようとする体制で、自由市場の企業とは政治的な紛争を抱え込む羽目に陥る("The Rise Of State-Controlled Capitalism"; NPR News; May 17, 2010)。

非自由資本主義の他に、労働力が安価なアシア諸国の製造業の台頭も先進国に難題を突きつけている。先進諸国は労働者達の雇用を奪われ、アジア新興経済諸国に対する経済的な優位も揺らぐことになる。

日米欧は上記のような権威主義的な資本主義と途上国の経済的台頭という挑戦に対処してゆくうえで、共通の強みを持っている。自由民主主義の資本主義諸国が件主義的な国家資本主義諸国よりはるかに魅力ある存在となれるのは、自由の価値観である。急成長するアジア新興経済諸国に関しては、主要先進諸国には知識と教育の分野で優位にあることが重要である。イギリスの先の総選挙を前に、BBCのスーザン・ワッツ科学編集員は科学政策の重要性を強調した(“Let's talk about science”; BBC Newsnight; 29 April 2010)。これは全ての先進国に共通する政策課題である。

日米欧の三極同盟の緊密化によって、「ザ・ベスト・アンド・ザ・ブライテスト・クラブ」のソフトパワーは増大するであろう。権威主義が再び台頭する国々と新興経済諸国は、自分達の意志を他国に押し付ける関係的な力を強めているかも知れない。しかしスーザン・ストレンジ・モデルの四つの分野(生産、金融、安全保障、知識)での体制のあり方を決める構造的な力について言えば、三極同盟の実力が図抜けている。三極同盟が共同でソフトパワーを向上させれば、主要先進民主主義諸国は挑戦相手に対抗するための構造的な力をさらに強化できるであろう。

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2010年5月17日

イギリスの選挙が日米に与える教訓

先に行なわれたイギリスの総選挙はアメリカと日本という自由資本主義の二大経済に対し、いくつかの教訓を与えている。アメリカは今年の11月に中間選挙を控え、保守派の市民達はティー・パーティー運動に見られるように、「社会主義」のオバマ政権に対して辛辣な反撃を行なっている。日本では7月に参議院選挙が行なわれる。日本の有権者が鳩山政権の能力を問いかける課題は、経済では子供手当、安全保障では普天間基地問題、そして政治改革では小沢スキャンダルである。

非常に興味深いことに、先の選挙ではどの政党も下院議席の過半数に達しなかった。これはどの政党もイギリスの有権者の気持ちをつかめなかったことを意味する。アメリカと日本はこの選挙からどのような教訓を得るべきだろうか?

アメリカン・エンタープライズ研究所のマイケル・バロン常任フェローは、今年の11月に行なわれるアメリカの中間選挙に向けて数点の教訓を指摘している。最も重要なことは、政府が過大な財政支出をすれば有権者の支持を得られない。ブラウン首相の労働党政府はブレア政権の第三の道から離れて左傾化してしまった。また、自由民主党への国民の支持が投票日を前にして低下したのは、ニック・クレッグ氏が不法移民の合法化やユーロ加入によるポンド・スターリングの廃止のように非現実的な政策を主張したためである。

選挙の動向を左右したのは政策課題の主張だけではない。政治家への不信感が高まる時期には、古くからの政治手法は通用しないことがある。従来からの世論の政党支持の揺れ戻しのパターンに基づけば、デービッド・キャメロン氏の保守党はもっと多くの議席を獲得してもおかしくなかった。このことは、有権者とウエストミンスターのインサイダー達とは見解が食い違っていたことを示している(“In Britain, a Cautionary Tale for U.S. Parties”; Washington Examiner; May 10, 2010)。

バロン氏は上記の教訓の他に、イギリスとアメリカの政治的周期がレーガン・サッチャー関係やクリントン・ブレア関係のようなイデオロギー・コンビに見られるように相互関係があるとも記している。

バロン氏が最後に挙げた教訓は日本にとって非常に重要になってくる。自民党と民主党の優位の崩壊による急激な変化が予測されるにもかかわらず、古い政党も新しい政党も、古くからの手法によって来る選挙で有権者の関心を引きつけようとしている。殆どの政党がテレビ・タレントやスポーツ選手を候補として擁立し、彼らの人気を利用して票を得ようとしている。

日本指導者達が1980年代から政治改革を模索するうえでイギリスを憲政の模範としてきたことを考慮すれば、上記の点を理解していないことは皮肉としか言いようがない。

バロン氏が述べるような政治周期を考えれば、アメリカの有権者はイギリスの選挙の教訓を有効活用するであろう。しかし尊敬に値する候補者の発掘できる体制を確立してパンとサーカスの選挙戦術をやめない限り、日本の政治改革は絶望的に長い時間を要するであろう。

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2010年5月13日

オバマ大統領は、なぜイランの民主化支援に躊躇するのか?

イランは核拡散の脅威、イラクとアフガニスタンの反乱分子への影響、パレスチナとレバノンのテロリストとの関係、地域安全保障への影響もあって、オバマ政権の最重要外交課題の一つである。しかしイランの市民が昨年6月の大統領選挙での不正に対して立ち上がった際に、バラク・オバマ大統領は彼らへの支援には非常に消極的であった。オバマ大統領は1953年のイギリス・イラン石油紛争にアメリカが介入してイランのモハマド・モサデグ首相を政権の座から引きずり降ろしたことを非難したように、アメリカに自信を持っていないのかも知れない。しかしスターリンが引き起こした1946年のイラン危機を考慮すれば、冷戦が最も深刻な時期にソ連カードを利用したモサデグこそ事態の責めを負うべきである。

イギリスのサッチャー元首相の外交政策スタッフを歴任したナイル・ガーディナー氏は、カイロ演説に見られたような謝罪姿勢を批判している。ガーディナー氏は世界に必要なのはアメリカの強い指導力であって、カーター的な謙虚さではないと述べている(“Barack Obama should stop apologising for America”; Daily Telegraph; 3 June 2009)。

外交政策イニシアチブのジョン・ヌーナン政策顧問は、外交努力はイランの民主化を求める市民運動への支援と並行して行なわれるべきだと主張する。さもないと、イランは北朝鮮の二の舞になってしまうと警告している(”A PassiveAggressive Strategy for Toppling Tehran”; Weekly Standard Blog; May 6, 2010)。オバマ大統領は市民運動を活発化させずにイランの神権体制との合意形成を模索しているのかも知れない。しかしカーネギー国際平和財団のロバート・ケーガン上級研究員は「今日の圧政国家は、たとえ全ての圧政国家とまでゆかなくても自分達だけでも安全でもいられるような世界を模索した外交政策を追求している」と記している(“The Return of the History and the End of Dreams”; p. 61)。 よって、私は中国の楊潔篪外相が言うような「交渉は論理に基づくべきで、圧力を頼りにすべきではない。交渉と圧力が同時並行で行なわれるなら、こうした交渉には前進の余地がない」という考え方には同意しない。アメリカは自由を求めるイラン国民と緊密な協力の下に圧力を行使する必要がある。

実際にレザ・パーレビ元皇太子はイランの現体制こそが問題だと述べている。パーレビ氏はシーア派独裁体制への国民の怒りはかつてない水準にまで高まっていると語る(Pour les Iraniens, le nucléaire est secondaire”; Paris Match; 9 février 2010)。

オバマ大統領の政策に同意か否かは別にして、大統領がイラン核問題に真剣に取り組んでいることには疑いの余地はない。先の核セキュリティー・サミットで日本の鳩山由紀夫首相が普天間基地問題をオバマ大統領と話し合おうと10分の会談を行なったにもかかわらず、会談内容のほとんどはイランに関してであった。しかしロシアと中国を相手に技巧を凝らした外交も、イラン問題への対処の一部分に過ぎない。アメリカにとって自由の価値観を共有するイランの市民達を支援することは重要である。オバマ政権は合衆国の国家としての基本に立ち返り、ソフトパワーの強化に努める必要がある。イランは非常に重大なケースで、核不拡散だけが問題ではない。

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2010年5月 3日

イギリスの選挙と大局的国家観

イギリスは5月6日に総選挙を控えている。自由民主党の躍進によって、ラムゼー・マクドナルド政権が1924年に成立して以来続いてきた保守党と労働党の二大政党体制が変わるかも知れない。現在、この選挙の世論調査からは熾烈な競争が予想され、保守党が他の党より若干優位にある(“State of the Race for 30 April”; LSE Election Blog; 30 April 2010)。この選挙の全体像を述べた後に、外交及び国防政策を中心に語りたい。また、テレビ討論では各党党首が言及しなかった重要な政策案件も論じたい。

まずこの記事に掲載された英国エコノミスト誌4月30日のポド・キャストを聴いてみよう。4月29日の公開討論は殆ど経済に関するものであった。エコノミスト誌のアンディー・ミラー政治編集員は、ゴードン・ブラウン首相は全英のテレビ視聴者を印象付ける経済政策を示せなかったと述べている。

「チェンジ」が重要なテーマとなったので、首相は対立候補のデービッド・キャメロン氏と支持を拡大する自由民主党のニック・クレッグ氏の影にかすんでしまった(“Bagehot: The last days of Gordon Brown”; Economist; April 29, 2010)。

首相は有権者に印象を残せなかったかも知れないが、トニー・ブレア氏とゴードン・ブラウン氏が政権を担った労働党内閣の13年がどのようなものかを見極める必要がある。グローバル経済の中での情け容赦ない競争の下で、労働党政権は経済的平等と市場資本主義のバランスをとって社会的公正を追求した。保守党と実業界の批判はあったが、最低賃金法案によって貧困層が救われた。学校、病院、雇用センターといった非効率的な公共部門は、民間資金調達の導入で改善された。他方でブラウン政権下では政府債務の総額は急激に増大した(“Labour's record: Things could only get better”; Economist; April 29, 2010)。

イラク戦争は国民的な論争を呼び起こしたが、労働党政権であれ保守党政権であれ、イギリスがサダム・フセインを攻撃したことに変わりはない。それなら、なぜ今が政権交代の時期なのだろうか?

まず、財政赤字がGDP116%という恐るべき水準に達してしまった。ブラウン氏は公共サービスでのブレア氏の改革を逆行させてしまった。世論調査で驚異的な支持率の伸びを示した自由民主党だが、政策については労働党よりも左寄りである。国防では自由民主党はイギリスが持つ唯一の核抑止力であるトライデント・ミサイルの廃棄を主張している。経済ではキャピタル・ゲインへの課税を50%まで引き上げるという労働党以上の税率を掲げている(“The British election: Who should govern Britain?” Economist; April 29, 2010)。

英国エコノミスト誌が三人の中でデービッド・キャメロン氏を選ぶのは理解できる。問題は、選挙での議論が短期的で身近な課題で占められたことである。しかし首相を選ぶ選挙ともなれば、長期的で大局的国家観を問う課題もこれに劣らず重要になってくる。

現在、イギリスは対テロ戦争、核兵器の拡散、アジア諸国の製造業の成長など、世界から新たな課題を突きつけられている。よって、外交政策についても掘り下げた議論が必要不可欠である。ロンドン・スクール・オブ・エコノミックスの教授陣は三人の候補者の外交政策について手短に論評している。EUに関しては、EU政治が専門のサラ・ヘイジュマン講師がヨーロッパ統合懐疑派のキャメロン氏に対して統合推進派のブラウン氏とクレッグ氏の間の見解の相違に言及している。ヘイジュマン氏はキャメロン氏が抱くブリュッセル官僚機構への不信感は有権者も共有していると言う。他方でクリス・ブラウン教授とレアンドロ・カレーラ研究員は、ハト派のクレッグ氏に対して実利的な視点を持つブラウン氏とキャメロン氏の間では基本的な政策での食い違いがあると語る。自由民主党のニック・クレッグ氏はトライデント・ミサイルの廃棄と国防費の大幅な削減を主張している(“Second Debate – International Affairs: What our Experts said”; LSE Election Blog; April 23, 2010)。

アフガニスタンは緊急の国防問題である。クリストファー・コーカー教授はアメリカ主導の多国籍軍がタリバンの追放とネーション・ビルディングの支援に成功したと言う。しかし最終段階の「政情安定の可能化」についてはNATO内部でも見解が一致しないと言う。イギリスはソマリアやイエメンでも対テロ戦争に参加すると思われるので、コーカー氏は戦争目的をもっと明確化する必要があると言う。いずれにせよ、テロリストに自らの力を見せつけて自国の安全を保つことは、イギリスの国益に重要である(“The Conflict in Afghanistan”; LSE Election Blog; April 20, 2010)。大西洋同盟はこの点から理解される必要がある。

イギリスの大局的国家観を考えるうえで、外交と国防だけが唯一の問題ではない。BBCのスーザン・ワッツ科学編集員はどの候補者も討論では科学政策について述べなかったと指摘する。ワッツ氏は王立化学協会のリチャード・パイク会長の発言を引用し、科学は一国の経済成長にも保健や環境水準の向上にも重要だと述べている(“Let's talk about science”; BBC――Newsnight; 29 April 2010)。

私はワッツ氏の主張に賛成で、先進国が急成長するアジア新興諸国に対して圧倒的に優位にあるのは科学であることを強調したい。また、イギリスやアメリカ、日本などは国際公益のためにも科学で指導力を発揮することが望まれる。

デービッド・キャメロン氏は次期首相の最有力候補だが、イギリスという国の運営で大局的国家観を持っているのだろうか?公開討論では議論されなかった重要な政策課題もある。イギリスの次期首相に注目しよう。

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