イギリスの選挙が日米に与える教訓
先に行なわれたイギリスの総選挙はアメリカと日本という自由資本主義の二大経済に対し、いくつかの教訓を与えている。アメリカは今年の11月に中間選挙を控え、保守派の市民達はティー・パーティー運動に見られるように、「社会主義」のオバマ政権に対して辛辣な反撃を行なっている。日本では7月に参議院選挙が行なわれる。日本の有権者が鳩山政権の能力を問いかける課題は、経済では子供手当、安全保障では普天間基地問題、そして政治改革では小沢スキャンダルである。
非常に興味深いことに、先の選挙ではどの政党も下院議席の過半数に達しなかった。これはどの政党もイギリスの有権者の気持ちをつかめなかったことを意味する。アメリカと日本はこの選挙からどのような教訓を得るべきだろうか?
アメリカン・エンタープライズ研究所のマイケル・バロン常任フェローは、今年の11月に行なわれるアメリカの中間選挙に向けて数点の教訓を指摘している。最も重要なことは、政府が過大な財政支出をすれば有権者の支持を得られない。ブラウン首相の労働党政府はブレア政権の第三の道から離れて左傾化してしまった。また、自由民主党への国民の支持が投票日を前にして低下したのは、ニック・クレッグ氏が不法移民の合法化やユーロ加入によるポンド・スターリングの廃止のように非現実的な政策を主張したためである。
選挙の動向を左右したのは政策課題の主張だけではない。政治家への不信感が高まる時期には、古くからの政治手法は通用しないことがある。従来からの世論の政党支持の揺れ戻しのパターンに基づけば、デービッド・キャメロン氏の保守党はもっと多くの議席を獲得してもおかしくなかった。このことは、有権者とウエストミンスターのインサイダー達とは見解が食い違っていたことを示している(“In Britain, a Cautionary Tale for U.S. Parties”; Washington Examiner; May 10, 2010)。
バロン氏は上記の教訓の他に、イギリスとアメリカの政治的周期がレーガン・サッチャー関係やクリントン・ブレア関係のようなイデオロギー・コンビに見られるように相互関係があるとも記している。
バロン氏が最後に挙げた教訓は日本にとって非常に重要になってくる。自民党と民主党の優位の崩壊による急激な変化が予測されるにもかかわらず、古い政党も新しい政党も、古くからの手法によって来る選挙で有権者の関心を引きつけようとしている。殆どの政党がテレビ・タレントやスポーツ選手を候補として擁立し、彼らの人気を利用して票を得ようとしている。
日本指導者達が1980年代から政治改革を模索するうえでイギリスを憲政の模範としてきたことを考慮すれば、上記の点を理解していないことは皮肉としか言いようがない。
バロン氏が述べるような政治周期を考えれば、アメリカの有権者はイギリスの選挙の教訓を有効活用するであろう。しかし尊敬に値する候補者の発掘できる体制を確立してパンとサーカスの選挙戦術をやめない限り、日本の政治改革は絶望的に長い時間を要するであろう。
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