日米欧三極同盟の再強化を!
カーネギー国際平和財団のロバート・ケーガン上級研究員とファイナンシャル・タイムズのギデオン・ラッチマン主任外交論説員の討論が掲載されてからというもの、ロシアと中国に代表される非自由資本主義が西側の自由資本主義につきつける挑戦は、私の主要政策議論項目の一つになった。アメリカ、ヨーロッパ、日本は冷戦後の白昼夢から目覚め、主要先進民主主義国による三極同盟を再強化し、今世紀の世界規模の課題に対処してゆくべきである。
資本主義の衝突は特に目新しくない。冷戦終結からほどなくして、フランスの実業家ミシェル・アルベール氏は自らの著書“Capitalisme contre Capitalisme”でライン資本主義とアングロ・サクソン資本主義の競合を主張した。これは経済政策、特に政府と産業界の関係に関する問題に過ぎない。しかしロシアと中国の権威主義的な資本主義は経済にとどまらず、西側に対する政治と安全保障での対立競合の問題である。ケーガン氏とラッチマン氏はロシアと中国で再び台頭してきた権威主義は、西側の民主主義に異議を唱え、第三世界では自分達の仲間となる圧制体制を支援して西側に対して地政学的な勢力争いで勝利を収めようとしている。
両人の警告に加えて、ユーラシア・グループという政治リスク・コンサルティング会社のイアン・ブレマー会長は、自らの著書” The End of The Free Market”で国家管理資本主義と自由市場資本主義の衝突について実業界の視点から詳細な分析を行なっている。ブレマー氏は「今はもはやグローバルな自由市場経済の時代ではない。現在の世界には二つの資本主義がある。一つは先進諸国を中心とした自由市場資本主義の体制である。もう一つは中国、ロシア、ペルシア湾岸諸国に見られるような国家資本主義の体制である。二つの資本主義はお互いに相容れない。」と述べている。中国では欧米の多国籍企業が現地の国策企業を相手に不公正な競争を強いられている。長期的には国家管理資本主義は官僚的な非効率に陥るであろうが、今後5年から10年の間は自由市場資本主義諸国が国家管理資本主義諸国から厳しい挑戦を突きつけられることになる。
国家管理資本主義が跋扈するのはどうしてだろうか?冷戦後の新自由主義経済の容赦ない競争の最中にあって、途上国の中には経済的安定と国内市場への政府の影響力の維持しようと努めてきた。世界金融危機は自由市場資本主義への信頼を低下させ、権威主義的な資本主義の勢力伸張に寄与することになった。ブレマー氏によると国家資本主義は社会主義の中央計画経済とは違う。それは権威主義的な官僚が自国の市民のためでなく、自分達の政治的生存のために市場を支配しようとする体制で、自由市場の企業とは政治的な紛争を抱え込む羽目に陥る("The Rise Of State-Controlled Capitalism"; NPR News; May 17, 2010)。
非自由資本主義の他に、労働力が安価なアシア諸国の製造業の台頭も先進国に難題を突きつけている。先進諸国は労働者達の雇用を奪われ、アジア新興経済諸国に対する経済的な優位も揺らぐことになる。
日米欧は上記のような権威主義的な資本主義と途上国の経済的台頭という挑戦に対処してゆくうえで、共通の強みを持っている。自由民主主義の資本主義諸国が件主義的な国家資本主義諸国よりはるかに魅力ある存在となれるのは、自由の価値観である。急成長するアジア新興経済諸国に関しては、主要先進諸国には知識と教育の分野で優位にあることが重要である。イギリスの先の総選挙を前に、BBCのスーザン・ワッツ科学編集員は科学政策の重要性を強調した(“Let's talk about science”; BBC Newsnight; 29 April 2010)。これは全ての先進国に共通する政策課題である。
日米欧の三極同盟の緊密化によって、「ザ・ベスト・アンド・ザ・ブライテスト・クラブ」のソフトパワーは増大するであろう。権威主義が再び台頭する国々と新興経済諸国は、自分達の意志を他国に押し付ける関係的な力を強めているかも知れない。しかしスーザン・ストレンジ・モデルの四つの分野(生産、金融、安全保障、知識)での体制のあり方を決める構造的な力について言えば、三極同盟の実力が図抜けている。三極同盟が共同でソフトパワーを向上させれば、主要先進民主主義諸国は挑戦相手に対抗するための構造的な力をさらに強化できるであろう。
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