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2010年6月21日

スエズからパールハーバーまでの日米同盟

普天間基地問題によって日本では新世紀の日米同盟のあり方が国民的な論争の対象になった。鳩山由紀夫氏が首相を辞任した現在、両国の関係は平常に戻りつつあるように見受けられる。全世界の安全保障での日米同盟の重要性を考慮すれば、鳩山政権は小さな国内問題に膨大な時間と労力を無駄に費やしてしまった。

日本国民が注目する必要があるのは沖縄の米軍基地問題よりも、ペルシア湾とインド洋での憲兵の喪失によって日米同盟が二国間と地域レベルにとどまらずグローバルになったことである。イギリスで当時の労働党政権のハロルド・ウィルソン首相は、1968年にスエズ以東よりの撤兵を決断した。その後、親欧米のパーレビ王政下のイランがペルシア湾の憲兵としてイギリス撤退後の力の真空を埋めた。しかしシャー体制のイランは1979年のイスラム革命によって崩壊した。現在、在日米軍はスエズからパールハーバーまでの広大な範囲をカバーする必要がある。よって先の記事では日米の安全保障協力は世界規模であるべきだと述べた。

そのように世界規模での国家間の力の競合が動いているにもかかわらず、日本国民は1991年の湾岸戦争までパラダイス鎖国の白昼夢の真っ只中にあった。西側多国籍軍がクウェートに侵攻するサダム・フセインと戦う中で当時の海部俊樹首相がただ乗り外交を非難された件を機に、日本国民は日米同盟がグローバルなものだと初めて気づいたのである。戦後を通じて日本外交を支配したのは吉田ドクトリンで、日本政府は経済成長と生活水準の向上を追求する一方で国防はアメリカの安全保障の傘に委ねた。ソ連、中国、北朝鮮のような共産主義国の脅威に対して日本は自国の防衛をアメリカ軍に任せておくだけでよかった。1950年代から60年代にかけての日米同盟は完全に二国間と地域レベルのものであった。

そうした安全保障環境はイギリスがスエズ以東よりの撤兵を決断してから一変した。当時のイギリスは経済的な苦境にあり、ウィルソン政権は国防費を削減する必要に迫られていた。また、北大西洋でのソ連潜水艦の脅威もあり、イギリス政府はヨーロッパ前線でのNATO軍指揮系統に兵力を集中する方向に国防戦略を転換した。それまでイギリス軍はスエズからシンガポールまでの地域で憲兵の役割を担っていた。ロイヤル・ネービーはインド洋全域の警備に当たっていた。1961年にバース党政権のイラクがクウェート侵攻を企てた際にもイギリスはその野望を挫いた。1960年にはイギリス主導の多国籍軍がマレーシアの共産ゲリラを破った

イギリスの撤退後はニクソン・ドクトリンの支持を受けたシャーのイランがペルシア湾の憲兵の役割を担った。シャーがアメリカのトップ・ガンであったF14戦闘機を購入した時には、イラン帝国空軍はアケメネス朝ペルシア帝国の領域であったエジプトからインドまでの空域を制圧できると豪語した。イランの親欧米政権が健在であれば、サダム・フセインが自分をナセルになぞらえるような誇大妄想を抱いてクウェートに侵攻することはなかったであろう。またソ連による1979年のアフガニスタン侵攻の影響もそれほど深刻にはならなかったであろう。イラン人はインド・ヨーロッパ系の古代アーリア人の子孫なので、パーレビ政権はアラブ・イスラエル紛争では中立であった。さらにキュロス大王はユダヤ人をバビロニアの圧政から解放している。そのため、イランは湾岸地域でアメリカの憲兵役を担うにはうってつけだった。

シャーの体制が1979年に崩壊すると、中東とインド洋でのアメリカの関与は急激に高まった。湾岸戦争よりもはるかに前に日米同盟は世界規模の安全保障体制に進化していたのである。現在、第7艦隊を含めた太平洋地域のアメリカ軍はスエズ以東の広大な力の真空を埋めている。インドなどの地域大国が、かつてのイギリスやパーレビ・イランの役割を担う意志や実力を備えることは考えにくい。

不幸にも日本の政治家と論客達は依然としてこの点を見落としている。例えば沖縄の米軍が他の場所に移転しようものなら、スエズからパールハーバーに至る広大な地域で力の真空が生じるのである。グアム島でもテニアン島でもディエゴ・ガルシア島でも日本にある米軍基地の代わりにはならない。新世紀での日米同盟の深化と発展のためには、日本国民が世界全体の安全保障を理解し、ヨーロッパにも中東にも他の地域にも目を配らねばならない。高校の世界史では歴史を縦糸と横糸、すなわち年代を追った因果関係とある地域の出来事が同時代の他地域に与えた影響を併せて理解せよと言われる。鳩山由紀夫前首相が高校の世界史の基本的な原則さえ理解していなかったことは残念である。よって日本の指導者達は今世紀の日米安全保障体制の再建には二国間関係、東アジア情勢、ワシントン政治を超えて世界全体に目を配るべきである。両国の同盟は湾岸戦争よりはるか以前からグローバルなのである!

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