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2010年7月30日

日印核協定は日本外交の歴史的転機か?

福田政権の時期に、私は米印核協定と国内の反核感情の狭間にある日本の立場についての記事を投稿した。ブッシュ政権は核エネルギーでインドとの協調関係の強化を模索していたが、当時の日本政府はNPT非加盟であるこの国との協力には消極的であった。しかし、よりリベラルだと見られている日本民主党政権になって方針が転換し、インドと核協定の締結を決定した。戦後の平和主義が根深いことを考慮すれば、これは日本の外交および安全保障政策の急激な変化である。不思議なことに、今年の7月11日に行なわれた参議院選挙では核協定が重要な争点とはならなかった。メディアは日本の核不拡散制作に関する国民的な議論を喚起するためにも、この協定にもっと注意を払うべきである。日印核協定は戦後の平和主義との決別と、国際舞台でのより積極的な関与を意味するものなのだろうか?

まず、この問題の全体像を述べたい。日本の岡田克也外相は、難しい決断を迫られたが、日本が世界の趨勢に逆らうことはできないと語った。インドのマンモハン・シン首相がアメリカのジョージ・W・ブッシュ大統領との間で核協定に調印して以来、フランス、ロシア、モンゴル、カザフスタン、アルゼンチン、ナミビアといった多くの国がこれに続いた。イギリスも核エネルギーの平和利用の共同声明に調印し、インドとの二国間条約に調印した。今年の6月末にはカナダも続いた。さらに韓国もインドとの核協定に向けて交渉を始めている(“Japan relents, to start Nuclear deal talks with India”; Pakistan Defence; June 25, 2010)。インドはNPTとCTBTに加盟していないが、世界各国の財界人がこの経済成長著しい市場に注目している。さらにブッシュ政権は世界最大の英語圏民主国家であるインドは対テロ戦争の新たなパートナーであるとしていた。岡田克也外相が、日本は世界の趨勢に逆らうことはできないと言うことは理解できる。

問題は、日本が戦後の平和主義を刷新する外交政策の動きを何ら見せず、アメリカとフランスの強い要望に対応しただけだということである。アメリカのジェネラル・エレクトリック社とフランスのアレーバ社は日本製の備品や部品を使って原子炉を建設している。また日立と東芝も有望なインド市場での競争に自分達が敗れるのではないかと懸念している(“U.S., France press for Japan-India nuclear deal – Nikkei”; Reuters; June 9, 2010)。

日本がインドの民間原子力計画に関与しようとしている理由は、市場開拓だけではない。現在、インドの電力生産の50%は石炭でまかなわれているので、温室効果がスの排出削減は至上命題である(「原発増設が不可欠なインド 商機狙ったダイナミックな動き」;日経ECO JAPAN2010年6月16日)。 ともかく、中道左派の菅政権がインドに関しては右旋回した。

大阪経済法科大学の吉田康彦教授は、日本はNPTにとらわれるべきではなく、拡大東アジア共同体の建設のためにもインドとの関係を深化させるべきだと主張する。また、吉田氏はパキスタンがカーン・ネットワークを通じて核拡散を行なったのに対し、インドは核兵器を拡散していないと指摘する(「日印原子力協力を推進せよ」;吉田康彦のホームページ;2007年7月1日)。

しかし日本の世論は吉田氏ほどインドに寛大ではない。「地球市民集会ナガサキ」という反核NGOは、インドが国際核不拡散体制に加盟していないという事情から岡田外相に講義の書簡を送った(「日印原子力協定:長崎のNGO、反対声明」;毎日新聞;2010年7月10日)。リベラルな朝日新聞も保守の読売新聞もダブル・スタンダードによってパキスタン、イラン、北朝鮮が自分達の核保有を正当化すると懸念している(「日印原子力協定 核軍縮へ戦略はあるのか」;朝日新聞;2010年6月28日および「日印原子力協定 核軍縮と不拡散も強く求めよ」;読売新聞;2010年6月30日)。

両国間交渉が始まったのは、昨年12月29日に鳩山由紀夫首相(当時)とマンモハン・シン首相との会談である。鳩山氏は民間用の原子力協力の開始に積極的ではなかったが、両国の外務次官と国防次官による2+2交渉によって核協定は進められていった(“Indo-Japan civil nuclear cooperation deal on”; Himalayan Times; July 6, 2010)。核協定が締結するのは、11月ないし12月に予定されているシン首相の東京訪問の時期で、テロおよび海賊対策といった他の問題についての協定も結ばれる(“India, Japan to fast-track n-deal”; India Vision; July 7, 2010)。

インドは重要な戦略的パートナーで、有望な市場、英語圏最大の民主国家なので、私は協定自体には反対しない。また、インドは中国への牽制になり得る国でもある。問題は、核協定によって南アジアのパワー・ゲームに拍車がかかることである。核なき世界を望んでやまないバラク・オバマ氏は、ジョージ・W・ブッシュ氏が調印した核協定によってインドの核大国への野望を支援するようなまねはしたくないと考えていた。インドとの関係と自らの崇高な夢を天秤にかけたオバマ氏は、パキスタンには支援を行なわないと決定した。そのためにパキスタンは原子炉建設で中国の支援を仰ぐようになった。これによって印パ間の勢力争いは激化することになる(“Pakistan, India and the anti-nuclear rules: Clouds of hypocrisy”; Economist; June 24, 2010)。このことは、中国はオバマ氏がプラハ演説で説いたような夢に何の敬意を払っていないことを意味している。

インドとの核協定と並行して、日本政府は他のNSG加盟国とともに南アジアでの新しい不拡散体制を模索し、印パ核競争に歯止めをかけねばならない。戦後平和主義と反核感情を考慮すれば、この協定は日本の外交政策の根本的なチェンジである。日本は広島・長崎のトラウマを克服するのだろうか?先の選挙ではどの候補もこれほど重要な政策課題を訴えなかった。この問題はインドとの関係だけにとどまらない。日本の国家アイデンティティーと国際舞台での立場に関わる問題なのである。

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2010年7月24日

オバマ外交で脆弱化する世界の安全保障

今年の11月に控えた中間選挙を考慮すれば、オバマ政権の外交政策をどのように評価するかは重要である。就任からほどなく、バラク・オバマ大統領はカイロとプラハで物議を醸すような演説を行ない、イスラム世界に対する寛容、過去の力の外交への謝罪、そして核なき世界に実現への決意を印象づけた。また、オバマ氏はロシアと中国との関係もリセットしようとしている。ブッシュ政権のカウボーイ外交を非難した勢力はプラハとカイロの演説には平伏礼賛であった。しかし私はオバマ氏がアメリカ外交を謝罪し権威主義国家の台頭を受容する態度をとることを批判し続けてきた。よってオバマ政権の外交政策の方向性を見定め、それがこれまでの政権のものとはどれほど違うかを検証することが重要に成ってくる。

オバマ政権下のアメリカ外交を理解するために、今年の1月14日にBBCラジオでキャスターを務めるロビン・ラスティグ氏がカーネギー国際平和財団で司会を行なった、以下のパネル・ディスカッションのビデオを参照して欲しい。このイベントではアメリカ外交で何が変わり、何が一貫して変わらないのかが検証された。リベラル派がオバマ政権による外交政策の変化を高く評価しているのは、ブッシュ政権下の「高圧的な単独行動主義」でアメリカの立場が悪化したと考えているからである。

リベラル派のアメリカ外交政策専門家であるカーネギー国際平和財団のジェシカ・マシューズ所長は、上記のような見解を述べた。マシューズ氏はブッシュ政権のイラク戦争にもレジーム・チェンジ政策にも批判的であった。また「民主化促進」という用語が軍事介入の恐怖感をかき立ててしまい、アメリカの理念の正当性を低下させたと嘆いた。マシューズ氏はオバマ政権の組閣で国務長官と国家安全保障担当補佐官の候補にも挙げられていただけに、オバマ外交を称賛しても何ら不思議ではない。実際にオバマ氏はブッシュ政権が残した全世界に広がるアメリカへの不信感を払拭しなければならないと主張する論文を記しているほどである。マシューズ氏はオバマ氏がプラハ演説とカイロ演説、イランへのノルーズ・メッセージによってアメリカのイメージを大きく改善したと述べている(“Solid and Promising”; American Interest; January-February 2010)。私はアメリカが課題が多様化し、多国間の取り組みが必要なことには同意する。しかしヘリテージ財団のナイル・ガーディナー氏が述べているように、オバマ氏は権威主義国家のナショナリストや世界各地の極左勢力を宥めるためにアメリカのやることなすことを謝罪すべきなのだろうか? マシューズ氏は世界各地でのアメリカのイメージに関する世論調査に言及しているが、国際世論調査には憎しみのイデオロギーを信奉するような勢力も含まれ、彼らは自由のイデオロギーを信ずる者達に対して本質的に相容れない敵対勢力である。

このイベントで私を驚かせたのはカーター政権で国家安全保障担当補佐官を務めたズビネフ・ブレジンスキー氏のオーディオ・コメントである。オバマ氏に魅了されてしまったブレジンスキー氏は、ブッシュ政権の外交政策によって傷つけられたアメリカのイメージを改善したというだけでもオバマ氏はノーベル平和賞に値すると言う。この発言はまるでドン・キホーテのようである。ワシントン・ポストのリベラル派コラムニストのルース・マーカス氏でさえ受賞のニュースに驚愕したほどだというのに(“A Nobel for a Good Two Weeks?”; Washington Post---Post Partisan; October 9, 2009)。普段のドン・キホーテは理性と熟慮の人物だが、騎士道精神に関わる事柄になると完全に夢想的な人格に変わってしまう。冷徹な理性の人であるブレジンスキー氏もオバマ氏に関することになると、このように人格が変わってしまう。

確かにオバマ大統領には全世界の人々を惹きつける独特の魅力があるとは言える。しかしそれはアメリカ外交にプラスとなるのだろうか?全世界の左翼が狂喜したのは、多くの人々が感じているようにオバマ氏に「非アメリカ的」な側面を見出しているからである。しかし今やオバマ大統領は合衆国大統領として振る舞わねばならない。大統領はアフガニスタンでのテロリストの打倒、イランと北朝鮮への核拡散の阻止、大国としての自己主張を強めるロシアと中国への対応で断固とした態度を示さねばならない。リベラル派の論客達はオバマ氏のチェンジを称賛しているが、カーネギー国際平和財団のロバート・ケーガン上級研究員は、ジョン・マケイン氏もグアンタナモ収容所の件に代表されるようにブッシュ政権の政策を一部変更しようとしていたと述べた。リベラル派は共和党批判にとらわれる余り、オバマ氏を過大評価している。よってオバマ外交に公正な評価を下す必要がある。

このイベントで議論された問題を個別に振り返りたい。このイベントの冒頭ではオバマ政権での外交政策の刷新が議論された。マシューズ氏とブレジンスキー氏はプラハ演説とカイロ演説に深く感銘を受けたようだが、ロバート・ケーガン氏はオバマ外交がアメリカ外交に見られる道徳主義と理想主義の伝統に従っていると述べた。問題として私が指摘したいことは、オバマ氏の理想主義がきわめてウィルソン・カーター的なことである。

このパネル・ディスカッションで最も重要な議題となったのは中東問題で、アフガニスタン、イラク、イラン、パレスチナがとりあげられた。アフガニスタンのアシュラフ・ガニ元財務相は軍事関係機関と社会経済関係機関の連携がうまくとれていないために反乱分子鎮圧作戦の進展が妨げられていると指摘する。ガニ氏は契約に基づいて開発事業の運営を行なうだけのUSAIDでは経済再建事業には充分に対応しきれないと語った。また、パキスタンにあるテロリストの根拠地も事態をさらに複雑にしている。マシューズ氏に代表されるリベラル派はオバマ氏に目標設定を下げて勝利の再定義を行なうように主張しているが、ケーガン氏に代表されるネオコンは正しい戦略によってこの戦争での勝利は可能だと主張する。ともかく、この戦争の成功はオバマ大統領の指導力にかかっている。このイベントはオバマ氏の最高司令官としての資質を厳しく問いかけたマクリスタル事件より前に開催された。

中東ではこの他にイランが大きくとりあげられた。昨年6月12日の民主化運動を考慮すれば、アメリカは核問題での対話の継続が有益かどうか再考する必要に迫られている。むしろイランの市民による新体制の対応を支援し、核問題についてより建設的な交渉を行なった方がよいかも知れない。

中国との関係は微妙である。米中双方とも金融危機以降の世界経済の運営での協調の強化を模索しているが、両国関係の改善には人権、チベット、台湾といった問題が依然として障害となっている。司会のラスティグ氏はオックスフォード大学のスティーブ・ツァン教授の発言を引用し、中国政府にとってオバマ氏の対中政策はブッシュ氏の政策より見通しを立てにくいと述べた。これに対してカーネギー国際平和財団のダグラス・パール副所長は、オバマ氏はブッシュ政権の対中政策を土台にすると決意したと応えた。しかしパール氏は中国がオバマ氏の姿勢をよくわかっていないことは憂慮していた。中国がアメリカを挑発してオバマ氏が弱いかどうかを試すことも考えられるので、パール氏の懸念は理解できる。カーネギー・BBC共催イベントではアメリカ外交の差し迫った課題を理解するうえで重要な視点および論点が展開されている。

核不拡散に関してオバマ大統領は4月12日から13日にかけてワシントンで第一回核セキュリティー・サミットを主催し、それはメディアと知識人から大いに注目された。中にはオバマ氏を核なき世界に向けた救世主だと称賛する者までいる。カーネギー国際平和財団のジョージ・パーコビッチ副所長は、保守派もリベラル派もプラハ演説の骨子を誤解していると指摘する(“The Obama Nuclear Agenda: One Year after Prague”; Carnegie Policy Outlook; March 31, 2010)。パーコビッチ氏は以下の三点が重要だと言う。それは核なき世界ははるかに安全である、それを実現することは難しい、そして核兵器が存在する限りアメリカは自国本土と同盟国を守るために核抑止力を維持するということである。

オバマ大統領はNGOや著名人を招待して「核兵器全廃」合意の署名を見せつけたが、核廃棄の実現性や多国間交渉のスケジュールに関しては言及していない。左翼はオバマ氏の呼びかけがアメリカの国益まで犠牲にした画期的なものだと理解している。他方でオバマ氏に批判的な勢力は一方的な核軍縮を警戒している。ジェームズ・シュレジンジャー元国防長官(“Why We Don’t Want a Nuclear-Free World: The Former Defense Secretary on the U.S. Deterrent and the Terrorist Threat”; Wall Street Journal; July 13, 2009)、ジョン・カイル上院議員、リチャード・パール氏(“Our Decaying Nuclear Deterrent. The Less Credible the U.S. Deterrent, the More Likely Other States Are to Seek Weapons”; Wall Street Journal; June 30, 2009))らはオバマ氏の呼びかけを夢想的だと批判する。実際にはオバマ氏は4月の核サミットに参加した47ヶ国を全て含めた新しい核不拡散体制を作ろうとしている。ジョージ・パーコビッチ氏はオバマ氏の主張を正しく理解しないと、諸外国の首脳達が新しい核不拡散体制に参加するうえで障害になるばかりか、どこかの国が核実験を行なう危険性も高まると結論づけている。他の問題と同様に、私は全世界の左翼に広がる救世主オバマという誤ったイメージによってアメリカと自由主義同盟諸国の安全保障が脅かされると強調したい。

アメリカの本土防衛も重要である。今年の2月にはディック・チェイニー前副大統領とコーリン・パウエル元国務長官の間でオバマ氏の国家安全保障政策をめぐって激しい議論があった。チェイニー氏はオバマ氏がグアンタナモ収容所を閉鎖し、デトロイトでクリスマス爆弾テロを計画したナイジェリア人のハリド・シーク・モハメドを一般犯罪者として起訴したことを非難した。チェイニー氏はオバマ外交によってアメリカの安全が脅かされていると言う(“Cheney criticizes Obama on national security policy, and Biden fires back”; Washington Post; February 15, 2010)。さらにチェイニー氏の娘のリズ・チェイニー氏はジョセフ・バイデン副大統領がディック・チェイニー氏を非難したことに厳しく反論した。リズ・チェイニー氏はオバマ政権がアル・カイダによる核および生物化学兵器の入手の脅威を軽く見ていると主張する(“Liz Cheney: Biden, Obama Administration Ignoring Al Qaeda Pursuit of WMD”; FOX News; February 15, 2010)。CBSのフェース・ザ・ネーションという番組に出演したコーリン・パウエル氏は、ブッシュ政権が設立した機関はオバマ政権でもよく機能し、アメリカの安全は脅かされていないと述べた(”Powell: We Are Not Less Safe under Obama”; CBS News; February 21, 2010)。いずれにせよパウエル氏はディック・チェイニー氏との論争でアメリカの安全保障は悪化していないと言っただけで、改善したとは言っていない。

オバマ政権の外交政策をどのように評価すべきだろうか?ロバート・ケーガン氏はリベラル派の間でのオバマ外交への過大評価に対して注意深く論評している。オバマ氏は冷戦後の政策から離れてしまうという致命的な誤りを犯した。バラク・オバマ氏はラーム・エマニュエル大統領首席補佐官がブッシュ・シニア氏になぞらえているように、「実利的なリアリスト」かも知れない。問題は、オバマ氏が権威主義体制との協調によってアメリカの国益が達成されると信じていることである(“George H.W. Obama?”; Foreign Policy Interview; April 14, 2010)。オバマ政権は「アメリカ後」の世界を何のためらいもなく受け入れ、危険な風潮を跳ね返そうという気は余りないことである(“Obama's Year One”; World Affairs; January/February 2010)。オバマ氏は自由主義世界秩序に対抗しようという勢力と「互恵的」な関係を模索しようとしているが、相手は「ゼロ・サム」の原則で応じてくる。旧ソ連地域でのロシア、アジア太平洋地域での中国といった大国が地政学的な挑戦を突きつけてくるのは典型的な例である(“The Perils of Wishful Thinking”; American Interest; January/February 2010)。覇権安定論の観点からすると、オバマ氏の平和主義は世界の安全を損なっている。オバマ氏はパックス・アメリカーナが自由主義世界秩序を強化してゆくための公共財であることを理解する必要がある。

ロシア・スパイ事件はオバマ外交を再考するための警鐘の一つである。この事件がG8およびG20サミット期間中に行なわれたオバマ・メドベージェフ会談でリセット機運が高まる最中に起きたことは皮肉である。外交政策の専門家達は米露の雪解けは再考される必要があるとの見解で一致している(“What the Russian Spy Case Reveals”; Council on Foreign Relations; July 12, 2010)。ロシアとの互恵的な関係構築が可能と信じるオバマ政権は、イラン核問題への対処での協調関係の強化をロシアに呼びかけている。しかしロシアはイランの核保有に対して言葉のうえでの非難はしたものの、テヘラン神権体制への全面的な武器禁輸には同意しなかった。ロシアはイランにS300地対空ミサイルを売却している。またオバマ氏の宥和路線によって東ヨーロッパと旧ソ連諸国がクレムリンの再拡張主義に脆弱な状態でさらされることになった(“A Hollow 'Reset' With Russia”; Washington Post; May 25, 2010)。

外交政策全般については批判すべき点は多々あるものの、ロバート・ケーガン氏はオバマ政権が挙げたいくつかの成果は高く評価している。イランに関してロシアと中国を相手に手緩い譲歩はしたものの、両国の取り込みによってトルコとブラジルが行なおうとした仲介の意義はなくなった。さらに日本の鳩山由紀夫首相は普天間基地問題をめぐってオバマ氏の強い圧力を受けて辞任し、新任の菅直人首相は日米同盟が日本とアジア太平洋地域の安全保障の中核であると再確認した(“Obama's 5 Foreign-Policy Victories”; Washington Post; June 29, 2010)。

今回の記事ではアメリカ外交に関する問題を広範囲にわたって述べてきた。最も重要な点は、オバマ大統領が合衆国大統領として行動するのだろうかということである。一方でオバマ氏は生温い実利主義者ではあっても、全世界の左翼が称賛するような救世主ではない。他方でオバマ氏はウィルソン・カーター的な理想主義者ではあるが、アメリカの力と理念に対して余りにも自己批判的である。来る中間選挙はオバマ大統領が外交でも内政でも「アメリカ的なもの」を本当に信奉しているのかを問いかける絶好の機会である。

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2010年7月 7日

巨大化し過ぎたサミットへの疑問

2008年の洞爺湖サミットの直後に、私はサミットがバレリー・ジスカールデスタン氏による設立理念よりかけ離れてしまったのではないかという疑問を呈した。本来のサミットは主要先進民主主義国の首脳が官僚の介入を抜きに自由な討論を行なう会議であった。現在ではサミットは巨大化し過ぎてしまい、会議の準備と治安に膨大な金額と人員が費やされている。全世界の左翼からの厳しい批判のよってサミットはG8からG20に拡大し、アジア、アフリカ、ラテン・アメリカの新興諸国も参加するようになった。しかし私は拡大したサミットでは拘束力のある共通の合意に達することがこれまで以上に難しくなるのではと懸念している。また、大規模な国際会議は開催都市に大きな負担を強いることになる。現在のサミットには南の国々も参加するようになったが、それでも左翼の暴虐行為は止まず、開催都市の住民は暴力の脅威にさらされている。よってサミットをより一貫性があり、より効率的で、小規模なものにする必要がある。

今年の6月に開催されたムスコカG8サミットトロントG20サミットの最中に、カナダのジャーナリストのジェームズ・トラバース氏はG20が単なる国際経済協調のための会議を超えて世界の安全保障を主導してゆくべきだと述べている。トラバース氏が述べているように「テロ、気候変動、貧困、金融危機といった21世紀の問題にはより多くの国が参加する国際協調が必要である」のは確かである。そのことはG20の方がG8よりも世界経済の運営で正当性を訴えやすいという意味になる。しかし、それはまたサミットの拡大が必ずしも質の向上につながらないことも意味する(“Will bigger club make for better planet?”; Toronto Star; June 26, 2010)。

ロシア・トゥデーが6月25日に放映した以下のビデオでは、トロント大学G8リサーチ・センターのエラ・ココティス氏がG8とG20の間には役割分担があると述べている。G8は北朝鮮やイランでの核拡散のような政治的安全保障、アフリカ開発、気候変動の議論の場だという。他方でG20は世界経済のあり方を模索する場だという。

金融危機以来の世界経済の運営には新興諸国の参加も必要かも知れない。問題は新興諸国には自分達の要求を他国に受け入れさせる関係的な力はあっても多様化し複雑化するグローバルな問題に対処する構造的な力はないことである。新興国には世界政治の体制作りに自分達の影響力を行使できない。拡大したサミットは毎年行なわれるこの行事をサミットのためのサミットにしかねない。サミットをより一貫性があり、より効率的で、小規模なものにするためには、毎年開催されるサミットはG7ないしG8にとどめ(ジョン・マケイン上院議員とジョセフ・リーバーマン上院議員が主張するように、ロシアのG8加盟資格には疑問の余地がある)、G20は必要に応じて(アド・ホックに)開催されればよいと思われる。これによって開催都市の負担と会議への官僚の介入は減らされるだろう。参加国を拡大しても限定しても左翼の不満分子が不満を訴えることに変わりはない。

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2010年7月 1日

マクリスタル問題:オバマ大統領でアフガン戦争を指揮できるのか?

バラク・オバマ大統領がスタンリー・マクリスタル陸軍大将の罷免を決断したことは、アフガニスタンでの対テロ戦争を強く意識している市民達に衝撃を与えた。2008年の大統領選挙の直後、私は軍部では国家安全保障に関して経験不足のバラク・オバマ氏よりもジョン・マケイン氏の方が人気は高かったと述べた。日本のジャーナリストで現在はハドソン研究所の訪問研究員である日高義樹氏は自らの著書「不幸を選択したアメリカ」で、オバマ氏はアメリカの政治家の中でも最高司令官としての能力が最も劣ると言ってもよいという点で、歴史上でも例外的な大統領だと述べている。マクリスタル大将がローリング・ストーン誌でオバマ政権を批判したことは、こうした根深い背景と関わっているものと思われる。よって、この事件がアフガン戦争とアメリカの国家安全保障全体に与える影響を検証することは重要である。

まず、マクリスタル大将がアフガン戦争の司令官を罷免される契機となった問題の記事を振り返りたい。昨年9月、私はマクリスタル氏が要求する増派に対するオバマ氏の態度について3本の記事を投稿した(を参照)。さらに、イギリスのボブ・エインスワース国防相(当時)がヘルマンド州とカンダハル州のイギリス軍への支援に優柔不断なオバマ氏に不満を抱えていたことにも言及した。オバマ大統領のアフガン戦争での指揮官として能力は当初から大きな疑問が投げかけられていた。

マイケル・ヘースティングス記者とのインタビューでマクリスタル大将はオバマ政権とは当初からこうした亀裂があったと述べた。マクリスタル氏はアフガニスタンのハミド・カルザイ大統領と最も良好な関係に基づいて反乱分子鎮圧作戦のためにも同政権の信頼性を高められるのは自分であり、カール・アイケンベリー大使でもリチャード・ホルブルック特使でもないと強調した。また、国防総省が今夏の反乱分子鎮圧作戦に向けた派兵を遅らせたことも批判した(“The Runaway General”; Rolling Stone; June 22, 2010)。

スタンリー・マクリスタル大将の罷免からほどなくして、ロバート・ゲーツ国防長官とマイケル・ミューレン統合参謀本部長(海軍大将)は以下のビデオに見られるように国民の間のショックを和らげるための記者会見を開いた。ゲーツ長官もミューレン大将もローリング・ストーン事件によってアフガニスタンでの戦略が変更されることはないと強調した。しかし、メディアは陸軍大将ともあろう人物が文民の行政府最高責任者をあれほど軽率に批判した事態から、オバマ大統領に戦争の指揮が執れるのかという疑問を呈した。

アフガニスタンのメディアはこのショックがアメリカ軍とNATO軍の任務に与える悪影響を懸念する一方で、パキスタンのメディアはアメリカ主導の多国籍軍への信頼の低下を憂慮している(“McChrystal fired: Reaction from Afghanistan and beyond”; BBC News; 25 June 2010)。

オリバー・ノース米海兵隊退役大佐は、オバマ氏が自らの支持基盤である左翼にアピールしようとして「私が最高責任者だ」と見せつけるような態度をとったことを批判している。またノース氏は新任のデービッド・ペトレイアス陸軍大将もオバマ政権への対処に苦慮することになると指摘する。それは「バグダッドではライアン・クロッカー大使、諸外国軍首脳、一致団結して支援してくれるホワイトハウス、超党派で支持をしてくれる議会との緊密な協力が得られた。カブールではこのように恵まれた状況ではなく、Oチーム(オバマ政権)は高官同士のライバル関係や自己主張で支離滅裂になっている」からであると言う(“General Madness”; FOX News; June 25, 2010)。

しかし問題は誰が作戦指揮をとるかではなく、勝利をどのように定義づけるかである。反乱分子掃討作戦の強化は必要ではあるが、カルザイ政権が統治の改善で欧米の期待に応えられない現状からアメリカ政府はタリバンとある程度の妥協を模索している(”Obama's Afghan Problem: Not a General, But a War Strategy”; Time; June 25, 2010)。

問題は戦争の性質ではなく、現政権内部の指揮系統である。アメリカン・エンタープライズ研究所のトマス・ドネリー常任研究員は、「政権内部の主導権争い」がこの戦争でのISAFの努力を無駄にしていると指摘する。ジョセフ・バイデン副大統領はマクリスタル戦略の二大項目となる反乱分子鎮圧への長期的な関与と追加派兵を却下した(“Is Obama Committed to Victory in Afghanistan?”; AOL News; June 23, 2010)。「主導権争い」に関して、AEIのダニエル・プレトカ副所長は現地の国際部隊と緊密な協調関係を築くどころかマクリスタル大将を貶めるような言動をとったリチャード・ホルブルック特使とカール・アイケンベリー大使にも辞任を求めている(“The Effects of the Change in Command”: Washington Post; June 28, 2010)。

タイム誌が報道するような悲観的な見通しとは逆に、AEIのフレデリック・ケーガン常任研究員と軍事問題研究所のキンバリー・ケーガン所長はスタンリー・マクリスタル大将の下でISAFはかなりの成果を挙げたと述べている。両者ともたとえ必ずしも欧米が期待するほどの統治の改善が見られなくても、現地勢力との緊密な協調関係は必要不可欠だと主張する。そして「ISAFはあらゆる相手に対する取り組みを見直し、敵対勢力に対して排除か自立支援かという二者択一的な態度からイラクで成功を収めたような相手の事情に合わせた対応をする必要があるだろう」と述べている(“A Winnable War”; Weekly Standard; July 5, 2010)。

この戦争は容易くはないが、勝利への戦略はある。イラクで見られたようにデービッド・ペトレイアス大将は反乱分子の鎮圧作戦をどのように行なうかを理解している。問題となるのはオバマ大統領の指導力である。大統領が政権首脳を掌握しきれなかったことがスタンリー・マクリスタル大将を失望させ、ローリング・ストーン誌に批判記事が掲載されることになった。オバマ氏にこの戦争の指揮がとれるのだろうか?それが問題である。

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