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2010年7月 1日

マクリスタル問題:オバマ大統領でアフガン戦争を指揮できるのか?

バラク・オバマ大統領がスタンリー・マクリスタル陸軍大将の罷免を決断したことは、アフガニスタンでの対テロ戦争を強く意識している市民達に衝撃を与えた。2008年の大統領選挙の直後、私は軍部では国家安全保障に関して経験不足のバラク・オバマ氏よりもジョン・マケイン氏の方が人気は高かったと述べた。日本のジャーナリストで現在はハドソン研究所の訪問研究員である日高義樹氏は自らの著書「不幸を選択したアメリカ」で、オバマ氏はアメリカの政治家の中でも最高司令官としての能力が最も劣ると言ってもよいという点で、歴史上でも例外的な大統領だと述べている。マクリスタル大将がローリング・ストーン誌でオバマ政権を批判したことは、こうした根深い背景と関わっているものと思われる。よって、この事件がアフガン戦争とアメリカの国家安全保障全体に与える影響を検証することは重要である。

まず、マクリスタル大将がアフガン戦争の司令官を罷免される契機となった問題の記事を振り返りたい。昨年9月、私はマクリスタル氏が要求する増派に対するオバマ氏の態度について3本の記事を投稿した(を参照)。さらに、イギリスのボブ・エインスワース国防相(当時)がヘルマンド州とカンダハル州のイギリス軍への支援に優柔不断なオバマ氏に不満を抱えていたことにも言及した。オバマ大統領のアフガン戦争での指揮官として能力は当初から大きな疑問が投げかけられていた。

マイケル・ヘースティングス記者とのインタビューでマクリスタル大将はオバマ政権とは当初からこうした亀裂があったと述べた。マクリスタル氏はアフガニスタンのハミド・カルザイ大統領と最も良好な関係に基づいて反乱分子鎮圧作戦のためにも同政権の信頼性を高められるのは自分であり、カール・アイケンベリー大使でもリチャード・ホルブルック特使でもないと強調した。また、国防総省が今夏の反乱分子鎮圧作戦に向けた派兵を遅らせたことも批判した(“The Runaway General”; Rolling Stone; June 22, 2010)。

スタンリー・マクリスタル大将の罷免からほどなくして、ロバート・ゲーツ国防長官とマイケル・ミューレン統合参謀本部長(海軍大将)は以下のビデオに見られるように国民の間のショックを和らげるための記者会見を開いた。ゲーツ長官もミューレン大将もローリング・ストーン事件によってアフガニスタンでの戦略が変更されることはないと強調した。しかし、メディアは陸軍大将ともあろう人物が文民の行政府最高責任者をあれほど軽率に批判した事態から、オバマ大統領に戦争の指揮が執れるのかという疑問を呈した。

アフガニスタンのメディアはこのショックがアメリカ軍とNATO軍の任務に与える悪影響を懸念する一方で、パキスタンのメディアはアメリカ主導の多国籍軍への信頼の低下を憂慮している(“McChrystal fired: Reaction from Afghanistan and beyond”; BBC News; 25 June 2010)。

オリバー・ノース米海兵隊退役大佐は、オバマ氏が自らの支持基盤である左翼にアピールしようとして「私が最高責任者だ」と見せつけるような態度をとったことを批判している。またノース氏は新任のデービッド・ペトレイアス陸軍大将もオバマ政権への対処に苦慮することになると指摘する。それは「バグダッドではライアン・クロッカー大使、諸外国軍首脳、一致団結して支援してくれるホワイトハウス、超党派で支持をしてくれる議会との緊密な協力が得られた。カブールではこのように恵まれた状況ではなく、Oチーム(オバマ政権)は高官同士のライバル関係や自己主張で支離滅裂になっている」からであると言う(“General Madness”; FOX News; June 25, 2010)。

しかし問題は誰が作戦指揮をとるかではなく、勝利をどのように定義づけるかである。反乱分子掃討作戦の強化は必要ではあるが、カルザイ政権が統治の改善で欧米の期待に応えられない現状からアメリカ政府はタリバンとある程度の妥協を模索している(”Obama's Afghan Problem: Not a General, But a War Strategy”; Time; June 25, 2010)。

問題は戦争の性質ではなく、現政権内部の指揮系統である。アメリカン・エンタープライズ研究所のトマス・ドネリー常任研究員は、「政権内部の主導権争い」がこの戦争でのISAFの努力を無駄にしていると指摘する。ジョセフ・バイデン副大統領はマクリスタル戦略の二大項目となる反乱分子鎮圧への長期的な関与と追加派兵を却下した(“Is Obama Committed to Victory in Afghanistan?”; AOL News; June 23, 2010)。「主導権争い」に関して、AEIのダニエル・プレトカ副所長は現地の国際部隊と緊密な協調関係を築くどころかマクリスタル大将を貶めるような言動をとったリチャード・ホルブルック特使とカール・アイケンベリー大使にも辞任を求めている(“The Effects of the Change in Command”: Washington Post; June 28, 2010)。

タイム誌が報道するような悲観的な見通しとは逆に、AEIのフレデリック・ケーガン常任研究員と軍事問題研究所のキンバリー・ケーガン所長はスタンリー・マクリスタル大将の下でISAFはかなりの成果を挙げたと述べている。両者ともたとえ必ずしも欧米が期待するほどの統治の改善が見られなくても、現地勢力との緊密な協調関係は必要不可欠だと主張する。そして「ISAFはあらゆる相手に対する取り組みを見直し、敵対勢力に対して排除か自立支援かという二者択一的な態度からイラクで成功を収めたような相手の事情に合わせた対応をする必要があるだろう」と述べている(“A Winnable War”; Weekly Standard; July 5, 2010)。

この戦争は容易くはないが、勝利への戦略はある。イラクで見られたようにデービッド・ペトレイアス大将は反乱分子の鎮圧作戦をどのように行なうかを理解している。問題となるのはオバマ大統領の指導力である。大統領が政権首脳を掌握しきれなかったことがスタンリー・マクリスタル大将を失望させ、ローリング・ストーン誌に批判記事が掲載されることになった。オバマ氏にこの戦争の指揮がとれるのだろうか?それが問題である。

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