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2010年7月30日

日印核協定は日本外交の歴史的転機か?

福田政権の時期に、私は米印核協定と国内の反核感情の狭間にある日本の立場についての記事を投稿した。ブッシュ政権は核エネルギーでインドとの協調関係の強化を模索していたが、当時の日本政府はNPT非加盟であるこの国との協力には消極的であった。しかし、よりリベラルだと見られている日本民主党政権になって方針が転換し、インドと核協定の締結を決定した。戦後の平和主義が根深いことを考慮すれば、これは日本の外交および安全保障政策の急激な変化である。不思議なことに、今年の7月11日に行なわれた参議院選挙では核協定が重要な争点とはならなかった。メディアは日本の核不拡散制作に関する国民的な議論を喚起するためにも、この協定にもっと注意を払うべきである。日印核協定は戦後の平和主義との決別と、国際舞台でのより積極的な関与を意味するものなのだろうか?

まず、この問題の全体像を述べたい。日本の岡田克也外相は、難しい決断を迫られたが、日本が世界の趨勢に逆らうことはできないと語った。インドのマンモハン・シン首相がアメリカのジョージ・W・ブッシュ大統領との間で核協定に調印して以来、フランス、ロシア、モンゴル、カザフスタン、アルゼンチン、ナミビアといった多くの国がこれに続いた。イギリスも核エネルギーの平和利用の共同声明に調印し、インドとの二国間条約に調印した。今年の6月末にはカナダも続いた。さらに韓国もインドとの核協定に向けて交渉を始めている(“Japan relents, to start Nuclear deal talks with India”; Pakistan Defence; June 25, 2010)。インドはNPTとCTBTに加盟していないが、世界各国の財界人がこの経済成長著しい市場に注目している。さらにブッシュ政権は世界最大の英語圏民主国家であるインドは対テロ戦争の新たなパートナーであるとしていた。岡田克也外相が、日本は世界の趨勢に逆らうことはできないと言うことは理解できる。

問題は、日本が戦後の平和主義を刷新する外交政策の動きを何ら見せず、アメリカとフランスの強い要望に対応しただけだということである。アメリカのジェネラル・エレクトリック社とフランスのアレーバ社は日本製の備品や部品を使って原子炉を建設している。また日立と東芝も有望なインド市場での競争に自分達が敗れるのではないかと懸念している(“U.S., France press for Japan-India nuclear deal – Nikkei”; Reuters; June 9, 2010)。

日本がインドの民間原子力計画に関与しようとしている理由は、市場開拓だけではない。現在、インドの電力生産の50%は石炭でまかなわれているので、温室効果がスの排出削減は至上命題である(「原発増設が不可欠なインド 商機狙ったダイナミックな動き」;日経ECO JAPAN2010年6月16日)。 ともかく、中道左派の菅政権がインドに関しては右旋回した。

大阪経済法科大学の吉田康彦教授は、日本はNPTにとらわれるべきではなく、拡大東アジア共同体の建設のためにもインドとの関係を深化させるべきだと主張する。また、吉田氏はパキスタンがカーン・ネットワークを通じて核拡散を行なったのに対し、インドは核兵器を拡散していないと指摘する(「日印原子力協力を推進せよ」;吉田康彦のホームページ;2007年7月1日)。

しかし日本の世論は吉田氏ほどインドに寛大ではない。「地球市民集会ナガサキ」という反核NGOは、インドが国際核不拡散体制に加盟していないという事情から岡田外相に講義の書簡を送った(「日印原子力協定:長崎のNGO、反対声明」;毎日新聞;2010年7月10日)。リベラルな朝日新聞も保守の読売新聞もダブル・スタンダードによってパキスタン、イラン、北朝鮮が自分達の核保有を正当化すると懸念している(「日印原子力協定 核軍縮へ戦略はあるのか」;朝日新聞;2010年6月28日および「日印原子力協定 核軍縮と不拡散も強く求めよ」;読売新聞;2010年6月30日)。

両国間交渉が始まったのは、昨年12月29日に鳩山由紀夫首相(当時)とマンモハン・シン首相との会談である。鳩山氏は民間用の原子力協力の開始に積極的ではなかったが、両国の外務次官と国防次官による2+2交渉によって核協定は進められていった(“Indo-Japan civil nuclear cooperation deal on”; Himalayan Times; July 6, 2010)。核協定が締結するのは、11月ないし12月に予定されているシン首相の東京訪問の時期で、テロおよび海賊対策といった他の問題についての協定も結ばれる(“India, Japan to fast-track n-deal”; India Vision; July 7, 2010)。

インドは重要な戦略的パートナーで、有望な市場、英語圏最大の民主国家なので、私は協定自体には反対しない。また、インドは中国への牽制になり得る国でもある。問題は、核協定によって南アジアのパワー・ゲームに拍車がかかることである。核なき世界を望んでやまないバラク・オバマ氏は、ジョージ・W・ブッシュ氏が調印した核協定によってインドの核大国への野望を支援するようなまねはしたくないと考えていた。インドとの関係と自らの崇高な夢を天秤にかけたオバマ氏は、パキスタンには支援を行なわないと決定した。そのためにパキスタンは原子炉建設で中国の支援を仰ぐようになった。これによって印パ間の勢力争いは激化することになる(“Pakistan, India and the anti-nuclear rules: Clouds of hypocrisy”; Economist; June 24, 2010)。このことは、中国はオバマ氏がプラハ演説で説いたような夢に何の敬意を払っていないことを意味している。

インドとの核協定と並行して、日本政府は他のNSG加盟国とともに南アジアでの新しい不拡散体制を模索し、印パ核競争に歯止めをかけねばならない。戦後平和主義と反核感情を考慮すれば、この協定は日本の外交政策の根本的なチェンジである。日本は広島・長崎のトラウマを克服するのだろうか?先の選挙ではどの候補もこれほど重要な政策課題を訴えなかった。この問題はインドとの関係だけにとどまらない。日本の国家アイデンティティーと国際舞台での立場に関わる問題なのである。

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