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2010年8月13日

「核なき世界」への障害

今年は国際安全保障が「核なき世界」に向けて動き出したのだろうか?プラハ演説に基づいて、バラク・オバマ大統領は4月12日から13日にかけてワシントンで核セキュリティー・サミットを開催した。また、ジョン・ルース大使が8月6日の広島の原爆記念式典に、史上初のアメリカ代表として参加した。こうした行動は印象的だが、この目標を達成するには長い道程を要する。それは冷戦後に古い地政学が復活し、「ならず者国家」が核開発計画を追求しているからである。

まず「核なき世界」の構想に関して基本的な点について述べたい。これはバラク・オバマ氏のオリジナルではない。「核なき世界」の構想に理論的な基礎を与えたのは、2007年にウォールストリート・ジャーナルに共同で投稿したヘンリー・キッシンジャー元国務長官、ジョージ・シュルツ元国務長官、ウィリアム・ペリー元国防長官、そしてサム・ナン元上院議員らアメリカの長老政治家達である。超党派の投稿論文では、政策形成者達にMADという冷戦思考では、イランや北朝鮮に代表される「ならず者国家」の挑戦とテロリスト集団のような非国家アクターの出現により、核抑止力も信頼性が低下している現状に対処できないと主張されている。四人の政治家達はリアリストの視点から主張を掲げただけで、プラハ演説で注目された「核兵器を使った唯一の国として、アメリカには行動すべき道徳的責任がある」といったような物議を醸すようなことは何も述べてはいない。

この一節に関してカーネギー国際平和財団のジョージ・パーコビッチ副所長は、オバマ氏は核の脅威が存在する限りはアメリカと同盟国を守るために核抑止力を維持すると明言したと指摘する(“The Obama Nuclear Agenda: One Year after Prague”; Carnegie Policy Outlook; March 31, 2010)。

「核なき世界」に最も大きな障害となるのがロシアと中国が突きつけてくる古い地政学の復活である。ロシアは東ヨーロッパと旧ソ連諸国を事故の勢力圏として維持したがっている。中国に関してはゴードン・チャン氏が「北京の冷徹で実利本位の指導者達は我々が人権問題で強く出なかったことは弱さの象徴だと受け止めている。我々が弱いと思われてしまえば、彼らが協調する理由はなくなる。よって、人権の普及はアメリカの安全保障につながる」と述べている。

オバマ政権はロシアとの互恵的な取り決めを模索しているが、保守派はクレムリンがアメリカとの核均衡を求めているだけだとの理由から新STARTに懸念を抱いている。ジョン・ボルトン元国連大使は軍縮の目的ばかりを優先するオバマ政権を批判し、「アメリカとロシアの立場は同じではなく、核弾頭数の均衡にこだわればモスクワよりワシントンの方が国益を損ねてしまう」と言う。私は、アメリカは世界各地の同盟国を守らねばならないがロシアにはその必要がないというボルトン氏の見解に同意する。

きわめて重要なことに、ロシアも中国も「ならず者国家」やテロ集団への核拡散についての懸念を西側とは共有していない。ロシアはS300地対空ミサイルをイランへ売却した。さらに、クレムリンはブシェールにあるイラン発の原子炉へのウランの供給を決定したが、アメリカはイランがこれを自らの核の野望に対する寛容を示唆するものと解釈することを懸念している(“Russian nuclear agency says Iran's first nuclear plant will start getting fuel next week”; FOX News; August 13, 2010中国は核拡散よりもピョンヤン独裁体制の崩壊に伴う混乱を恐れるという理由だけで、北朝鮮の圧政体制を支持している。大きな食い違いが見られるのは、核テロに関してである。リズ・チェイニー氏が今年2月のコーリン・パウエル元国務長官との論争で述べたように、アメリカの政策形成者達は保守からリベラルに至るまで、テロリストによる大量破壊兵器の入手に神経を尖らせている。ロシアと中国はそれぞれがチェチェンやウイグルのイスラム過激派からさらに攻撃を受けなければ、核テロに関してアメリカと共通の理解には至らないのかも知れない。

また、中国がオバマ氏の呼びかけに敬意を払っていないことが明らかになった。6月に中国はインドとの核軍拡競争の懸念も意に介さずにパキスタンに原子炉の売却を持ちかけた。北京の共産党政府は「アメリカがインドのためにルールを曲げられるなら、中国もパキスタンのためにルールを曲げられる」と考えている(“Nuclear proliferation in South Asia: The power of nightmares”; Economist; June 24, 2010)。理論上はそうした地政学的競合はあり得る。しかしブッシュ政権期には中国はアメリカを刺激しないようにもっと注意深く振る舞っていた。「自由のための退役軍人の会」を設立した元イラク戦士のピート・ヘグセス大尉の一節を摘要すれば「中国はオバマ氏をなめている」のである。

大量破壊兵器不拡散教育センターのヘンリー・ソコルスキー所長は、アメリカが途上国と理想的な原子力協定を結んだとしても、他の原子力供給国がそうした取り組みを水泡に帰すような行動に出てしまうと指摘する。オバマ政権が昨年にアラブ首長国連邦と締結した核協力協定に関して、ソコルスキー氏はアメリカより低価格で核不拡散の要求基準が緩い韓国の施設がUAEに入札されたと述べている(Nuclear Nonproliferation Games”; National Review Online; August 5, 2010)。いわば、オバマ政権はUAEに拘束力のある協定を実施できず、ビジネス・チャンスを失っただけである。核不拡散の取り組みに大きな影響を与えるのは、バラク・オバマ氏が提唱したような崇高な理念ではなく商業上の利害である。

オバマ大統領は「核なき世界」に向けて印象的な行動に出たかも知れないが、それが主要核保有国と潜在的な核拡散国からは敬意を払われていない。こうした国々がアメリカを弱いと見なすようなら、核廃絶の取り組みは何一つ進展しないであろう。特に専制国家は自国の指導者達の利権を求めても世界平和を求めたりはしない。確かに「核なき世界」は今よりはるかに安全である。この目的を達成するために、アメリカは強さを印象づけねばならず、オバマ氏がプラハ演説で述べたような道徳的な後ろめたさをほのめかせばよいというものではない。

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