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2010年9月29日

日本の対中「叩頭」外交が自由諸国に与える悪影響

尖閣諸島をめぐる中国と日本の領土紛争は、二国間の衝突にとどまらぬものがある。この紛争はグローバルな観点から理解されねばならない。この紛争は専制国家と民主国家の衝突で、日本政府は中国の圧力に屈して無法な漁船船長を釈放してしまった"China fishing boat captain to be freed by Japan. Will it ease tensions?"; Christian Science Monitor; September 24, 2010)。

今回の叩頭の理由の一つとして、中国がレアアースの対日輸出を禁止したことが挙げられている。この物質はハイブリッド・カー用の電池、携帯電話用の部品機器、その他のハイテク製品に使われる。現在、日本はレアアース資源需要の90%を中国からの輸入に依存している(中国のレアアース対日禁輸」;フジサンケイ・ビジネスアイ;2010年9月25日。中国による輸出規制は日本の製造業に深刻な被害を与えるであろう。この紛争によって、我々は自由諸国が専制国家の資源外交に脆弱であることを思い知らされた。尖閣紛争は2009年1月にロシアとウクライナの間で起きたガス紛争と酷似している。ロシアのウラジーミル・プーチン首相はガス・パイプラインの封鎖によってヨーロッパ諸国を恫喝し、ウクライナはロシアに屈服したのである。ウクライナは黒海艦隊の駐留期限延長の協定を結んでクレムリンに自国の主権を売り渡してしまった。

中国とロシアの資源外交は拡張主義的な野心とも重なり合っている。ロシアが東ヨーロッパと旧ソ連諸国を自分達の勢力圏と見なしているように、中国も東シナ海と南シナ海の島々を太平洋からインド洋への大々的な拡張主義のための「真珠の首飾り」と見なしている。中国が誇大妄想的な海軍拡張を行なっていることはあまりにもよく知られている。ロシアが欧米との地政学的競合で帝政時代とスターリン時代の本能に基づいて行動するように、中国も東アジアでの優越的な地位を主張する際には儒教的中華秩序を理念とする「冊封」本能に基づいて行動する。歴史的に見ると、アヘン戦争でビクトリア女王の砲艦に撃破されるまで、中国はいかなる外国も対等の相手と見なしたことはなかった。中国が自国の立場をごり押ししてくる際には、この歴史的な観点を決して忘れてはならない。

尖閣紛争は竹島紛争よりも深刻である。後者の場合、韓国民は歴史認識をめぐってしばしば反日運動を行なうものの、韓国には日本を支配下において見下ろそうという野心も実力もない。しかし中国には東アジア全土を支配しようという「冊封」の野心があり、ロシアがウクライナに強要したように日本を屈服させようと手段を尽くして迫っている。よって、専制国家の中国は民主国家の韓国よりもはるかに危険なのである。

旧冷戦では専制国家は我々の体制の外にあり、国際経済取引ではわずかな割合しか占めることはなかった。しかし新冷戦では専制諸国は我々のグローバル経済を利用して自分達の意志を他国に押し付けている。2010年3月12日に放映されたNHKテレビの「日本のこれから」という番組では日米同盟と日本の安全保障が議題となった。その中で保守派論客の櫻井よし子氏が中国の脅威に対処するためには、かつてのソ連に対して行なったように日米同盟を強化するように主張した。これに対して東京大学大学院の姜尚中教授は今日の中国はかつてのソ連よりもはるかにグローバル経済に組み込まれていると反論した。姜教授はそのように強固な相互依存の基盤があるので、中国は日本への脅威とならないと述べた。姜教授が専制国家の資源外交の恐ろしさを理解すれば、そうした考え方を変えるであろう。

ウクライナがロシアに屈従したように、日本も中国に同じことをするようになるのだろうか?この紛争に関する現在の議論では、ブルッキングス研究所のロバート・ケーガン上級研究員が「民主国家VS専制国家」(原題The Return of History and the End of Dreams)という著書で論じているようなグローバルな基本構造が全く念頭に置かれていない。日本がこれ以上の叩頭を続ければ、全世界の専制国家を勢いづかせてしまう。

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2010年9月22日

9・11コーラン焼き討ちの背景を探る

9・11テロ攻撃から9周年の記念日はコーラン焼き討ちの騒ぎにみまわれた。それはバラク・オバマ大統領がグランド・ゼロ付近にモスクの計画を許可したことへの抗議である。確かに9・11攻撃によってアメリカ国民の間での反イスラム感情が高まったので、国民全体が惨事のトラウマからいまだ覚めやらぬ時期に物議を醸すような許可を与えたことは、政治的な誤りだと私は考える。

しかし、事態は反イスラム感情を超えてオバマ政権への不信感に根ざしていると私は考える。ティー・パーティー運動に見られるように、グラスルーツの保守派はオバマ氏の経済および健康保険政策によって市民生活への政府の介入が「過剰」になると批判している。保守派の勢いは、ティー・パーティーがなくても強まっている。USAトゥデーとギャラップが最近行なった世論調査によれば、「民主党員の59%、共和党員の55%、無党派層の50%がオバマ政権の成立によって共和党が保守化したと答えた」ということである(Poll: GOP more conservative but not because of the 'tea party'; Los Angels Times; September 17, 2010)。人種やイデオロギーの壁を超えた国民の団結を訴えた有名な演説を行なったオバマ氏が大統領に就任したことで、アメリカの分裂が深まるとはなんとも皮肉である。コーラン焼き討ちとティー・パーティー運動は「オバマ・ディバイド」の氷山の一角に過ぎない。

ヨーロッパの福祉国家と違い、アメリカはジョン・ミクルスウェイト氏とエイドリアン・ウールドリッジ氏が共著で記しているように“Right Nation” である。アメリカでは保守派の運動は根強いものがある。両著者はイギリス人としての立場からアメリカとヨーロッパの保守派の政治基盤を比較し、アメリカの保守派はグラスルーツのネットワークでも権威のあるシンクタンクでもはるかに強い基盤を築いていると述べている。バラク・オバマ氏はそうしたRight Nationとは水と油のような存在なのである。

オバマ・ディバイドは外交政策でも強まっている。メディアの中にはオバマ氏のプラハ演説とカイロ演説をブッシュ氏のカウボーイ外交からの決別として歓迎する者もあるが、保守派の論客達はアメリカの指導的地位を謝罪するかのようだとして両演説を批判している。APECシンガポール首脳会議で、オバマ氏はアメリカが中国の台頭を歓迎するとまで述べた。オバマ氏はイラクでの米軍戦闘任務終結演説で見られたように、自らのリベラル思想と大統領の職責をうまく整合させようとしているが、保守派と中道派が大統領の「非アメリカ性」に向ける疑念を宥めることは容易ではない。コーラン焼き討ちによって、国民の間に深く根ざしている感情が表面化することになった。

焼き討ちの背後にある現実を理解するには、オバマ大統領のバックグラウンドを検証する必要がある。大統領が保守派にも受け入れられる選挙基盤から出ていれば、過激派キリスト教徒もコーラン焼き討ちを止めていたであろう。ハドソン研究所の日高義樹訪問研究員は、自らの著書「不幸を選択したアメリカ」でオバマ氏と過激左翼の間の「暗黒の人脈」について記している。ニューヨーカーは表紙にオバマ夫妻がタリバンの衣装を着た有名な挿絵で物議を醸したが、それはアメリカ国民が心底でオバマ氏に抱く疑念をまざまざと見せつけた。実際に、ブッシュ政権期には焼き討ちのような野蛮な行為は起きなかった。

私はこのような中世さながらの非文明的な暴虐を決して支持しない。アフガン戦争でもイラク戦争でも対テロ作戦の重要な同盟国の指導者達の中でも、イギリスのトニー・ブレア元首相とNATOのアナス・フォー・ラスムッセン事務局長がコーラン焼き討ちを非難した。ブレア政権のイギリスはアメリカ主導の対テロ戦争では最大の貢献をしている。ラスムッセン氏はデンマーク首相在任時にイラク戦争を積極的に支持した。さらに、現在アフガニスタンで戦争指揮に当たっているデービッド・ペトレイアス陸軍大将も焼き討ちを非難した。しかし特定宗教への狂信的な嫌悪感の背景を探るうえで、私はオバマ・ディバイドへの注目を訴えたい。

AFL-CIOの調査によれば、オバマ氏はかつて最もリベラルな上院議員であった。「過激左派」のオバマ氏がRight Nation を統治できるのだろうか?中間選挙はオバマ・ディバイドに評価を下す重要な機会である。アメリカは誤った大統領を選んでしまったのだろうか?それが重要問題だ

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2010年9月15日

ペトレイアス陸軍大将が語るアフガニスタンの行方

バラク・オバマ大統領は、イラクでの戦闘任務の終結宣言にともなってアメリカはアフガニスタンに集中して対テロ作戦を展開してゆくと述べた。そうした事情からデービッド・ペトレイアス大将の発言といくつかの論文を検証してアフガン戦争の理解を深め、戦略を模索してゆきたい。

まず、この戦争の概観に触れたい。イラクと同様に、オバマ政権は現地の治安部隊に権限を委譲してできるだけ早期に撤退しようと考えている。しかし、元現地司令官のデービッド・マッキナン陸軍大将と現司令官のデービッド・ペトレイアス陸軍大将は、アフガニスタン治安部隊への訓練が予定より遅れているために早期の権限委譲には反対している。アフガニスタンの軍と警察の能力向上を早めるために、多国籍軍は2009年12月に追加派兵を行なった。NATOアフガニスタン訓練部隊のウイリアム・B・カルドウェル陸軍中将は、「我々の任務はアフガニスタン側と協調して、この主権国家のために輝かしく希望に満ちた未来を築き上げることだ」と言った。

現在、アフガニスタンの治安部隊は陸軍、空軍、国家警察で編成されている。その中では陸軍が最も能力の優れた部隊である。アフガニスタン陸軍は2009年3月の83,000人から113,000人に増員されたが、それでもジョセフ・リーバーマン上院議員が要求する兵員倍増には程遠い。またアフガニスタン陸軍に自力でテロリストと戦えるだけの装備の供給は父として進んでいない。あるアフガニスタン軍将官は、「ソ連と戦った時の方が恵まれた装備だった」と語った。空軍は殆ど戦力が整っていないが、ペンタゴンはこの部隊にヘリコプターによる地上軍支援を行なう能力を持たせようと計画している。国家警察に関してはプロ意識の欠如が問題である。アフガニスタン警察は一般市民への職権乱用、薬物濫用、同僚同士での撃ち合いをしている有様である。

現在、イラクと同様にペトレイアス大将は多国籍軍とアフガニスタン軍の協力関係の強化を推進している。アメリカとNATOの部隊はアフガニスタン国防大学を通じて訓練プログラムを拡張している。政府官僚機構の改革も必要である。司法体制はまだ法の支配を確立できず、国防省も民族や政治派閥で分断されている(“Backgrounder: Afghanistan's National Security Forces”; Council on Foreign Relations; August 19, 2010)。

上記の概観から、識者の中には増派の議論を行なう際に、アフガニスタンとイラクの根本的な違いを指摘する者もいる。イラクのヌーリ・アル・マリキ首相は反乱分子の掃討に断固とした態度で臨んだが、アフガニスタンのハミド・カルザイ大統領はタリバンとある程度の妥協を模索している。また、イラク軍は緊急時には敵を撃破するために必要な行動をとるうえで、アフガニスタン軍より大きな自由裁量権が与えられていた。アフガニスタン国民が「タリバンの行為を必ずしも好むわけではないが、タリバンの支配も政府の支配も大差はないと考えているようだ」という状況なら由々しき事態である(“Realities, rules, relationships won't help surge succeed”; Iraq the Model; August 1, 2010)。

しかしワシントンのアフガニスタン大使館広報部長を歴任したジョシュア・グロス氏は、兵員増派と西側による国家建設への関与を力説している。グロス氏はリベラル派が9・11からアフガン戦争を熱心に支持してきたにもかかわらず、今になって早期撤退を言い出したと指摘する。グロス氏は革新派コーカス議員連盟に代表される反戦派に対し、戦争の究極目的を思い起こすべきだと訴え、オバマ大統領がアフガニスタンでの作戦任務を支持していると指摘する。そして、この戦争の勝利は不可能でアフガニスタンは統治不能な国だという革新派の主張には反論している。アフガニスタンが混乱に陥ったのは、ソ連赤軍への抵抗運動の終結とともに、アメリカがムジャヘディンへの支援を打ち切ったためである。

しかしグロス氏は19世紀末から1970年代初頭のアフガニスタンは相対的に平和であったと指摘する。そしてアフガニスタンの治安は改善し、経済再建も一歩一歩で進展している。そのためグロス氏は、アフガニスタンは統治可能な国だと主張する。さらに重要なことに、グロス氏はアメリカが時期尚早の撤退によってアフガニスタンの改革派の勢いを削いではならないと主張している(”Liberals stand with Afghanistan”; Politico; August 17, 2010)。

以下のビデオではペトレイアス大将がアフガニスタンでの任務への懐疑論に反論し、ヘルマンド州中央部をはじめとする主要地域でNATO軍がタリバンの優勢を覆したと述べている。また、この戦争が国境を超えた過激派の攻撃から自由諸国民を守るために必要だと強調した。さらに、これがタリバンによる中世さながらの圧政からアフガニスタン国民を救う戦争でもあると語っている(NATO Channel; August 31, 2010)。

オバマ大統領はアフガン戦争への積極関与を明言しているが、大統領が示した2011年7月の撤退期限には政策形成者と軍事戦略家の間では懸念を抱かれている。ジョン・マケイン上院議員は「敵にこれから撤退すると言いながら勝利を期待するのは虫がよすぎる」と述べている(FOX News Sunday; September 5, 2010)。海兵隊司令官のジェームズ・コンウェイ大将は、オバマ大統領が示した撤退期限によってタリバンの士気が高揚すると警告し、任務の完了まで海兵隊が駐留し続けるものと考えている(“Obama's Afghanistan deadline gives Taliban sustenance, US general warns”; Guardian; 25 August 2010)。そうした懸念を和らげるため、ペトレイアス大将はデービッド・グレゴリー氏とのインタビューで、ホワイトハウスは不測の事態が起こりうるという戦争の性質をよく理解していると述べた(Meet the Press”; NBC News; August 13, 2010)。

アフガニスタンの任務を成功させるために、多国籍軍は軍事面でも非軍事面でも新たなアプローチをとろうとしている。ペトレイアス大将は特殊作戦部隊による反乱分子掃討を強化し、敵の指揮官235人を殺害あるいは捕縛した。同時に、特殊作戦部隊による現地部族指導者との対話や医療行為が地域社会建設にも寄与したと述べている。社会経済状況の改善によってテロリストが該当地域を自分達の根拠地または聖域と主張できなくなる(“Petraeus Explains Afghanistan Strategy”; Small Wars Journal; September 3, 2010)。地域社会への理解は死活的に重要である。しかしペトレイアス大将は、アメリカはアフガニスタンの部族と族長達を充分に理解していないので、地域社会建設の協調深化がイラクの場合ほど進んでいないと指摘する(“Petraeus: U.S. Lacks Afghan Tribal Knowledge”; Wall Street Journal; September 2, 2010)。国外からの脅威も重要である。アフガニスタンのハミド・カルザイ大統領とランギン・ダドファール・スパンタ国家安全保障担当補佐官は、アメリカはパキスタンからアフガニスタンのテロリストに出されるリモート・コントロールにもっと留意すべきだと主張する。ペトレイアス氏は両氏の懸念を正当なものだと述べている(“Petraeus: Karzai concerns about Pakistan 'legitimate'”; Hill—Blog Briefing Room; August 31, 2010)。

外交問題評議会のマックス・ブート上級フェローはジョン・ヌーナン氏とのインタビューで、アメリカ軍と現地大使館の関係もさることながら、関係諸国、国連、NGOとの協調も成功への重要な鍵となると答えている(”FPI Policy Advisor John Noonan interviews CFR Senior Fellow Max Boot”; Foreign Policy Initiative; September 8, 2010)。

アフガン戦争での勝利は可能で、この国も統治可能である。今年の11月19日から20日にかけてアフガニスタンへの権限委譲を議論するためにリスボンで開催されるNATO首脳会議を前に、ペトレイアス大将はアフガニスタン治安部隊の訓練の目的で2,000人の追加派兵を要請した(“Gen Petraeus requests 2,000 more troops for Afghanistan”; daily Telegraph; 6 September 2010)。アフガン戦争の勝利にはアメリカ政府と国際機関、現地政府と部族、その他の関係を調整するという高度な技能が求められる。ペトレイアス大将はイラクでこうした微妙な政治的駆け引きに対処する能力を示した。最も重要なポイントはバラク・オバマ大統領の指導力である。カイロ、プラハ、シンガポールでの演説に見られるように、大統領はアメリカの優位を思い切って押し通すことに及び腰である。これも、大統領自身が早期撤退と経済重視を示唆する理由の一つかも知れない。そのような考え方では危険な誘惑に陥ってしまう。

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2010年9月 5日

英国ブレア元首相の新刊よりイラク戦争と対テロ戦争を検証する

Cover3d イギリスのトニー・ブレア元首相は、バラク・オバマ大統領がイラク戦争の終結を宣言したその日に“A Journey”と題する新書を刊行した。これは偶然だろうか?そうではないにせよ、オバマ氏がページをめくると宣言したのと同じ時期に新刊が店頭に並んだ(“Was Obama's speech 'Mission Accomplished'?”; Washington Post; September 1, 2010)。大統領選挙には反戦候補として登場したオバマ氏だが、FPIのウィリアム・クリストル所長はオバマ氏の演説は兵士に敬意を払ったものだったと述べている(“A Note to My Fellow Hawks: It wasn't a bad speech”; Weekly Standard Blog; August 31, 2010)。ともかく、オバマ氏は自らのリベラル思想と大統領の職責との微妙なバランスをとろうと心がけていた。最高司令官がイラクでの作戦任務を正しかったと信じきってはいないので、この新刊からトニー・ブレア氏がジョージ・W・ブッシュ氏と共にイラク戦争を戦った理由を模索することが重要である。また、ブレア氏の他の論文も参照して、主要先進国が対テロ戦争で国際社会をどのように導いてゆくべきかも模索したい。

首相在任時のブレア氏はイラクとアフガニスタンは安全保障と軍事を超えた、価値観の観点から対テロ戦争に勝利するための出発点だと主張した。過激派は安定した民主主義を破滅させ、イスラム世界を半封建的な宗教的圧政支配に戻すことを求めている。またブレア氏は大量破壊兵器が見つからなかったとはいえ、イラクは国際安全保障に重大な脅威だったと明言した。イラクはクウェートとイランに侵攻し、化学兵器でクルド人を虐殺した。国際連合はバース党政権に14回もの決議案を出した(“A Battle for Global Values”; Foreign Affairs; January/February 2007)。

ブレア氏は新刊でイラク戦争に先立つ大量破壊兵器の情報について記している。メディアと反戦活動家達は情報の誤りを非難したが、ブレア氏は大量破壊兵器が発見されていれば彼らも戦争を容認したであろうと述べている。さらにブレア氏は、なぜサダムが核兵器を隠蔽しているかのような行動に出た疑問を述べている。しかしブレア氏は今でも正しい決断を下したと信じている。サダムには厳しい制裁が科され、経済救済が至上課題となっていたが、イラクは中東での支配的地位を求めていた。核保有は、イラクがイランとイスラエルに対して優位に立とうという野望の実現には必要不可欠であった。私は米英両国の攻撃が正しかったかどうか評価を下すうえで、これが重要な点だと信ずる。サダムが国連査察官を愚弄したのは、そのような誇大妄想にとりつかれた欲望を捨てられなかったからである。現在、核開発の野望を抱くイランや北朝鮮に対処する際には、このことを忘れてはならない。

問題はバース党政権のイラクの脅威だけではない。トニー・ブレア氏はサダム・フセインに殺されたイラク国民の人数を以下に示している。

・イラン・イラク戦争、19801988年:両国で死者60万~110万人

(Anthony Cordesman, The Lessons of Modern War, Vol. II, p. 3)

・クルド人へのアンファル作戦、1988年:クルド人死者10万人、負傷者と住居喪失者はこれ以上

(Human Rights Watch, Genocide in Iraq, 2003)

1991年クウェート侵攻および湾岸戦争: 死者75,000

(Milton Leitenberg, Deaths in Wars and Conflicts in the 20th Century, Cornell University, Peace Studies Program)

1991年作戦および対シーア派反攻:死者5万人

(Leitenberg)

・その他政治的な虐殺:10万人以上

(Human Rights Watch, Justice Needed for Iraqi Government Crimes, December 2002)

さらにブレア氏は国際的な制裁によってイラク国民の保健衛生には大打撃が及んだ。

イラク戦争は過激派と専制政治に対する戦いの一例に過ぎない。ブレア氏はグローバル化によってならず者国家に対する軍事介入の必要性はこれまで以上に高まっていると主張する。こうした国家の中ではイランが最重要課題である。ブレア氏は「イランはアメリカよりも近隣アラブ諸国にとってもっと差し迫った脅威である。・・・だからこそイランが問題になる。イランが核兵器を保有すれば、中東地域で他の国も核保有に走るようになる。そうなると中東地域とイスラム世界での力のバランスが崩れてしまう」と言う。そして「イランの核保有を許すというリスクを犯そうとは思わない」と結論づけている(Tony Blair: military intervention in rogue regimes 'more necessary than ever'”; Guardian; 1 September 2010)。

バラク・オバマ氏がイラクからアメリカの戦闘部隊を撤退させたこの時期こそ、イラク戦争の何が正しく何が間違っていたのかを模索し、テロリスト、過激派、ならず者国家の野望を打ち砕くための教訓を得るべきである。トニー・ブレア氏は我々に貴重な提言を行なっている。

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