日本の対中「叩頭」外交が自由諸国に与える悪影響
尖閣諸島をめぐる中国と日本の領土紛争は、二国間の衝突にとどまらぬものがある。この紛争はグローバルな観点から理解されねばならない。この紛争は専制国家と民主国家の衝突で、日本政府は中国の圧力に屈して無法な漁船船長を釈放してしまった("China fishing boat captain to be freed by Japan. Will it ease tensions?"; Christian Science Monitor; September 24, 2010)。
今回の叩頭の理由の一つとして、中国がレアアースの対日輸出を禁止したことが挙げられている。この物質はハイブリッド・カー用の電池、携帯電話用の部品機器、その他のハイテク製品に使われる。現在、日本はレアアース資源需要の90%を中国からの輸入に依存している(「中国のレアアース対日禁輸」;フジサンケイ・ビジネスアイ;2010年9月25日)。中国による輸出規制は日本の製造業に深刻な被害を与えるであろう。この紛争によって、我々は自由諸国が専制国家の資源外交に脆弱であることを思い知らされた。尖閣紛争は2009年1月にロシアとウクライナの間で起きたガス紛争と酷似している。ロシアのウラジーミル・プーチン首相はガス・パイプラインの封鎖によってヨーロッパ諸国を恫喝し、ウクライナはロシアに屈服したのである。ウクライナは黒海艦隊の駐留期限延長の協定を結んでクレムリンに自国の主権を売り渡してしまった。
中国とロシアの資源外交は拡張主義的な野心とも重なり合っている。ロシアが東ヨーロッパと旧ソ連諸国を自分達の勢力圏と見なしているように、中国も東シナ海と南シナ海の島々を太平洋からインド洋への大々的な拡張主義のための「真珠の首飾り」と見なしている。中国が誇大妄想的な海軍拡張を行なっていることはあまりにもよく知られている。ロシアが欧米との地政学的競合で帝政時代とスターリン時代の本能に基づいて行動するように、中国も東アジアでの優越的な地位を主張する際には儒教的中華秩序を理念とする「冊封」本能に基づいて行動する。歴史的に見ると、アヘン戦争でビクトリア女王の砲艦に撃破されるまで、中国はいかなる外国も対等の相手と見なしたことはなかった。中国が自国の立場をごり押ししてくる際には、この歴史的な観点を決して忘れてはならない。
尖閣紛争は竹島紛争よりも深刻である。後者の場合、韓国民は歴史認識をめぐってしばしば反日運動を行なうものの、韓国には日本を支配下において見下ろそうという野心も実力もない。しかし中国には東アジア全土を支配しようという「冊封」の野心があり、ロシアがウクライナに強要したように日本を屈服させようと手段を尽くして迫っている。よって、専制国家の中国は民主国家の韓国よりもはるかに危険なのである。
旧冷戦では専制国家は我々の体制の外にあり、国際経済取引ではわずかな割合しか占めることはなかった。しかし新冷戦では専制諸国は我々のグローバル経済を利用して自分達の意志を他国に押し付けている。2010年3月12日に放映されたNHKテレビの「日本のこれから」という番組では日米同盟と日本の安全保障が議題となった。その中で保守派論客の櫻井よし子氏が中国の脅威に対処するためには、かつてのソ連に対して行なったように日米同盟を強化するように主張した。これに対して東京大学大学院の姜尚中教授は今日の中国はかつてのソ連よりもはるかにグローバル経済に組み込まれていると反論した。姜教授はそのように強固な相互依存の基盤があるので、中国は日本への脅威とならないと述べた。姜教授が専制国家の資源外交の恐ろしさを理解すれば、そうした考え方を変えるであろう。
ウクライナがロシアに屈従したように、日本も中国に同じことをするようになるのだろうか?この紛争に関する現在の議論では、ブルッキングス研究所のロバート・ケーガン上級研究員が「民主国家VS専制国家」(原題The Return of History and the End of Dreams)という著書で論じているようなグローバルな基本構造が全く念頭に置かれていない。日本がこれ以上の叩頭を続ければ、全世界の専制国家を勢いづかせてしまう。
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