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2010年9月15日

ペトレイアス陸軍大将が語るアフガニスタンの行方

バラク・オバマ大統領は、イラクでの戦闘任務の終結宣言にともなってアメリカはアフガニスタンに集中して対テロ作戦を展開してゆくと述べた。そうした事情からデービッド・ペトレイアス大将の発言といくつかの論文を検証してアフガン戦争の理解を深め、戦略を模索してゆきたい。

まず、この戦争の概観に触れたい。イラクと同様に、オバマ政権は現地の治安部隊に権限を委譲してできるだけ早期に撤退しようと考えている。しかし、元現地司令官のデービッド・マッキナン陸軍大将と現司令官のデービッド・ペトレイアス陸軍大将は、アフガニスタン治安部隊への訓練が予定より遅れているために早期の権限委譲には反対している。アフガニスタンの軍と警察の能力向上を早めるために、多国籍軍は2009年12月に追加派兵を行なった。NATOアフガニスタン訓練部隊のウイリアム・B・カルドウェル陸軍中将は、「我々の任務はアフガニスタン側と協調して、この主権国家のために輝かしく希望に満ちた未来を築き上げることだ」と言った。

現在、アフガニスタンの治安部隊は陸軍、空軍、国家警察で編成されている。その中では陸軍が最も能力の優れた部隊である。アフガニスタン陸軍は2009年3月の83,000人から113,000人に増員されたが、それでもジョセフ・リーバーマン上院議員が要求する兵員倍増には程遠い。またアフガニスタン陸軍に自力でテロリストと戦えるだけの装備の供給は父として進んでいない。あるアフガニスタン軍将官は、「ソ連と戦った時の方が恵まれた装備だった」と語った。空軍は殆ど戦力が整っていないが、ペンタゴンはこの部隊にヘリコプターによる地上軍支援を行なう能力を持たせようと計画している。国家警察に関してはプロ意識の欠如が問題である。アフガニスタン警察は一般市民への職権乱用、薬物濫用、同僚同士での撃ち合いをしている有様である。

現在、イラクと同様にペトレイアス大将は多国籍軍とアフガニスタン軍の協力関係の強化を推進している。アメリカとNATOの部隊はアフガニスタン国防大学を通じて訓練プログラムを拡張している。政府官僚機構の改革も必要である。司法体制はまだ法の支配を確立できず、国防省も民族や政治派閥で分断されている(“Backgrounder: Afghanistan's National Security Forces”; Council on Foreign Relations; August 19, 2010)。

上記の概観から、識者の中には増派の議論を行なう際に、アフガニスタンとイラクの根本的な違いを指摘する者もいる。イラクのヌーリ・アル・マリキ首相は反乱分子の掃討に断固とした態度で臨んだが、アフガニスタンのハミド・カルザイ大統領はタリバンとある程度の妥協を模索している。また、イラク軍は緊急時には敵を撃破するために必要な行動をとるうえで、アフガニスタン軍より大きな自由裁量権が与えられていた。アフガニスタン国民が「タリバンの行為を必ずしも好むわけではないが、タリバンの支配も政府の支配も大差はないと考えているようだ」という状況なら由々しき事態である(“Realities, rules, relationships won't help surge succeed”; Iraq the Model; August 1, 2010)。

しかしワシントンのアフガニスタン大使館広報部長を歴任したジョシュア・グロス氏は、兵員増派と西側による国家建設への関与を力説している。グロス氏はリベラル派が9・11からアフガン戦争を熱心に支持してきたにもかかわらず、今になって早期撤退を言い出したと指摘する。グロス氏は革新派コーカス議員連盟に代表される反戦派に対し、戦争の究極目的を思い起こすべきだと訴え、オバマ大統領がアフガニスタンでの作戦任務を支持していると指摘する。そして、この戦争の勝利は不可能でアフガニスタンは統治不能な国だという革新派の主張には反論している。アフガニスタンが混乱に陥ったのは、ソ連赤軍への抵抗運動の終結とともに、アメリカがムジャヘディンへの支援を打ち切ったためである。

しかしグロス氏は19世紀末から1970年代初頭のアフガニスタンは相対的に平和であったと指摘する。そしてアフガニスタンの治安は改善し、経済再建も一歩一歩で進展している。そのためグロス氏は、アフガニスタンは統治可能な国だと主張する。さらに重要なことに、グロス氏はアメリカが時期尚早の撤退によってアフガニスタンの改革派の勢いを削いではならないと主張している(”Liberals stand with Afghanistan”; Politico; August 17, 2010)。

以下のビデオではペトレイアス大将がアフガニスタンでの任務への懐疑論に反論し、ヘルマンド州中央部をはじめとする主要地域でNATO軍がタリバンの優勢を覆したと述べている。また、この戦争が国境を超えた過激派の攻撃から自由諸国民を守るために必要だと強調した。さらに、これがタリバンによる中世さながらの圧政からアフガニスタン国民を救う戦争でもあると語っている(NATO Channel; August 31, 2010)。

オバマ大統領はアフガン戦争への積極関与を明言しているが、大統領が示した2011年7月の撤退期限には政策形成者と軍事戦略家の間では懸念を抱かれている。ジョン・マケイン上院議員は「敵にこれから撤退すると言いながら勝利を期待するのは虫がよすぎる」と述べている(FOX News Sunday; September 5, 2010)。海兵隊司令官のジェームズ・コンウェイ大将は、オバマ大統領が示した撤退期限によってタリバンの士気が高揚すると警告し、任務の完了まで海兵隊が駐留し続けるものと考えている(“Obama's Afghanistan deadline gives Taliban sustenance, US general warns”; Guardian; 25 August 2010)。そうした懸念を和らげるため、ペトレイアス大将はデービッド・グレゴリー氏とのインタビューで、ホワイトハウスは不測の事態が起こりうるという戦争の性質をよく理解していると述べた(Meet the Press”; NBC News; August 13, 2010)。

アフガニスタンの任務を成功させるために、多国籍軍は軍事面でも非軍事面でも新たなアプローチをとろうとしている。ペトレイアス大将は特殊作戦部隊による反乱分子掃討を強化し、敵の指揮官235人を殺害あるいは捕縛した。同時に、特殊作戦部隊による現地部族指導者との対話や医療行為が地域社会建設にも寄与したと述べている。社会経済状況の改善によってテロリストが該当地域を自分達の根拠地または聖域と主張できなくなる(“Petraeus Explains Afghanistan Strategy”; Small Wars Journal; September 3, 2010)。地域社会への理解は死活的に重要である。しかしペトレイアス大将は、アメリカはアフガニスタンの部族と族長達を充分に理解していないので、地域社会建設の協調深化がイラクの場合ほど進んでいないと指摘する(“Petraeus: U.S. Lacks Afghan Tribal Knowledge”; Wall Street Journal; September 2, 2010)。国外からの脅威も重要である。アフガニスタンのハミド・カルザイ大統領とランギン・ダドファール・スパンタ国家安全保障担当補佐官は、アメリカはパキスタンからアフガニスタンのテロリストに出されるリモート・コントロールにもっと留意すべきだと主張する。ペトレイアス氏は両氏の懸念を正当なものだと述べている(“Petraeus: Karzai concerns about Pakistan 'legitimate'”; Hill—Blog Briefing Room; August 31, 2010)。

外交問題評議会のマックス・ブート上級フェローはジョン・ヌーナン氏とのインタビューで、アメリカ軍と現地大使館の関係もさることながら、関係諸国、国連、NGOとの協調も成功への重要な鍵となると答えている(”FPI Policy Advisor John Noonan interviews CFR Senior Fellow Max Boot”; Foreign Policy Initiative; September 8, 2010)。

アフガン戦争での勝利は可能で、この国も統治可能である。今年の11月19日から20日にかけてアフガニスタンへの権限委譲を議論するためにリスボンで開催されるNATO首脳会議を前に、ペトレイアス大将はアフガニスタン治安部隊の訓練の目的で2,000人の追加派兵を要請した(“Gen Petraeus requests 2,000 more troops for Afghanistan”; daily Telegraph; 6 September 2010)。アフガン戦争の勝利にはアメリカ政府と国際機関、現地政府と部族、その他の関係を調整するという高度な技能が求められる。ペトレイアス大将はイラクでこうした微妙な政治的駆け引きに対処する能力を示した。最も重要なポイントはバラク・オバマ大統領の指導力である。カイロ、プラハ、シンガポールでの演説に見られるように、大統領はアメリカの優位を思い切って押し通すことに及び腰である。これも、大統領自身が早期撤退と経済重視を示唆する理由の一つかも知れない。そのような考え方では危険な誘惑に陥ってしまう。

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