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2010年9月 5日

英国ブレア元首相の新刊よりイラク戦争と対テロ戦争を検証する

Cover3d イギリスのトニー・ブレア元首相は、バラク・オバマ大統領がイラク戦争の終結を宣言したその日に“A Journey”と題する新書を刊行した。これは偶然だろうか?そうではないにせよ、オバマ氏がページをめくると宣言したのと同じ時期に新刊が店頭に並んだ(“Was Obama's speech 'Mission Accomplished'?”; Washington Post; September 1, 2010)。大統領選挙には反戦候補として登場したオバマ氏だが、FPIのウィリアム・クリストル所長はオバマ氏の演説は兵士に敬意を払ったものだったと述べている(“A Note to My Fellow Hawks: It wasn't a bad speech”; Weekly Standard Blog; August 31, 2010)。ともかく、オバマ氏は自らのリベラル思想と大統領の職責との微妙なバランスをとろうと心がけていた。最高司令官がイラクでの作戦任務を正しかったと信じきってはいないので、この新刊からトニー・ブレア氏がジョージ・W・ブッシュ氏と共にイラク戦争を戦った理由を模索することが重要である。また、ブレア氏の他の論文も参照して、主要先進国が対テロ戦争で国際社会をどのように導いてゆくべきかも模索したい。

首相在任時のブレア氏はイラクとアフガニスタンは安全保障と軍事を超えた、価値観の観点から対テロ戦争に勝利するための出発点だと主張した。過激派は安定した民主主義を破滅させ、イスラム世界を半封建的な宗教的圧政支配に戻すことを求めている。またブレア氏は大量破壊兵器が見つからなかったとはいえ、イラクは国際安全保障に重大な脅威だったと明言した。イラクはクウェートとイランに侵攻し、化学兵器でクルド人を虐殺した。国際連合はバース党政権に14回もの決議案を出した(“A Battle for Global Values”; Foreign Affairs; January/February 2007)。

ブレア氏は新刊でイラク戦争に先立つ大量破壊兵器の情報について記している。メディアと反戦活動家達は情報の誤りを非難したが、ブレア氏は大量破壊兵器が発見されていれば彼らも戦争を容認したであろうと述べている。さらにブレア氏は、なぜサダムが核兵器を隠蔽しているかのような行動に出た疑問を述べている。しかしブレア氏は今でも正しい決断を下したと信じている。サダムには厳しい制裁が科され、経済救済が至上課題となっていたが、イラクは中東での支配的地位を求めていた。核保有は、イラクがイランとイスラエルに対して優位に立とうという野望の実現には必要不可欠であった。私は米英両国の攻撃が正しかったかどうか評価を下すうえで、これが重要な点だと信ずる。サダムが国連査察官を愚弄したのは、そのような誇大妄想にとりつかれた欲望を捨てられなかったからである。現在、核開発の野望を抱くイランや北朝鮮に対処する際には、このことを忘れてはならない。

問題はバース党政権のイラクの脅威だけではない。トニー・ブレア氏はサダム・フセインに殺されたイラク国民の人数を以下に示している。

・イラン・イラク戦争、19801988年:両国で死者60万~110万人

(Anthony Cordesman, The Lessons of Modern War, Vol. II, p. 3)

・クルド人へのアンファル作戦、1988年:クルド人死者10万人、負傷者と住居喪失者はこれ以上

(Human Rights Watch, Genocide in Iraq, 2003)

1991年クウェート侵攻および湾岸戦争: 死者75,000

(Milton Leitenberg, Deaths in Wars and Conflicts in the 20th Century, Cornell University, Peace Studies Program)

1991年作戦および対シーア派反攻:死者5万人

(Leitenberg)

・その他政治的な虐殺:10万人以上

(Human Rights Watch, Justice Needed for Iraqi Government Crimes, December 2002)

さらにブレア氏は国際的な制裁によってイラク国民の保健衛生には大打撃が及んだ。

イラク戦争は過激派と専制政治に対する戦いの一例に過ぎない。ブレア氏はグローバル化によってならず者国家に対する軍事介入の必要性はこれまで以上に高まっていると主張する。こうした国家の中ではイランが最重要課題である。ブレア氏は「イランはアメリカよりも近隣アラブ諸国にとってもっと差し迫った脅威である。・・・だからこそイランが問題になる。イランが核兵器を保有すれば、中東地域で他の国も核保有に走るようになる。そうなると中東地域とイスラム世界での力のバランスが崩れてしまう」と言う。そして「イランの核保有を許すというリスクを犯そうとは思わない」と結論づけている(Tony Blair: military intervention in rogue regimes 'more necessary than ever'”; Guardian; 1 September 2010)。

バラク・オバマ氏がイラクからアメリカの戦闘部隊を撤退させたこの時期こそ、イラク戦争の何が正しく何が間違っていたのかを模索し、テロリスト、過激派、ならず者国家の野望を打ち砕くための教訓を得るべきである。トニー・ブレア氏は我々に貴重な提言を行なっている。

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投稿: ななし | 2011年9月13日 05:43

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